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堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 終章 ~終焉(しゅうえん)~
男性2 女性5  上演時間:90分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ

〇台本上演の利用規約について

 下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。

 https://call-of-ruitaka.fanbox.cc/posts/1761504

牡丹 (♀)(25歳)

 

若山随一の大見世、華屋のお職であり椿の姐女郎。華やかな色気と優しさと雅さで道中を歩けば大輪の花の様だと男達を沸かせる。しなやかな色気の反面気風の良さを併せ持っており、自身の見世に害が及ぶと怒鳴り込む事もある。正義感が強く心根も優しいので汚濁したものを見ると非常に驚き、気分を害するところもある。

 

椿 (♀)(19歳)

 

大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。

 

蓮太郎 (♂) (19歳)

 

華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。

 

鞍馬 (♂)(26歳:外見年齢)

 

元々鞍馬天狗だったが、何代か前の桃夭姫(とうようき)と恋慕を絡めた為強大な能力を身に着け、大天狗を凌駕する能力を持っている。だがしかし、妖の者としての矜持を持ち人間を妖怪達に蹂躙を許さない為、神格位に近い虬や五位鷺と協力して人界を守っている。今回は桃夭姫(とうようき)の存在にて妖怪達の世界が荒れているので戦っている。蓮太郎に紋章を通じて能力を与えた。

 

オティス (♀) (23歳)

 

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。

 

アニ (♀) (12歳)

 

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。

 

鬼狽羅 (♀)(22歳)

 

かつて鬼灯島に棲んでいた鬼一族の首魁。原典の勇者オティスとは300年前からの因縁がある。毒を使う事に長けており、医学にも精通する。ヴァンハーフに協力して九尾狐の威津那を殺生石の封印から解放するのに協力し、威津那の力により若山遊郭へ時空間移動させられた。言葉遣いは京弁。倭の国に鬼灯島の面影を重ねて珠酊院の事などを思い出し郷愁の思いがある。

 

ベニオット 26歳 (♂)

 

王国軍にわずか三人しかいない竜騎士の一人。真に守るべきもののために戦う事を誓った。真面目な性格であり、騎士としての自分に誇りを持っている。オティスとは同盟関係にある。パートナーのワイバーンの名は「アホ毛」。友人命名であり、結構気に入ってる。

 

ヴラドニア 22歳 (♀)

 

『血染めのヴラドニア』の俗称で知られる勇者特権者。悪を憎み正義を成す、正義の執行人を志している。

二挺拳銃「フレック」「アルヴィド」と特殊な戦艦「ゴールデン・ヴェニソン号」を保有しており、その攻撃力は計り知れない。元王女であり、兄の死の真相を追っている。悪しき勇者との戦争を勝利に導いた正義の旗頭として祭り上げられた。

 

イフォニ 年齢不詳 (♂)

 

その筋では有名な情報屋。対価さえ積めば有用な情報を明かしてくれる。童顔で小柄であるうえ、身分を全く明かしておらず謎が多い人物。今はただの人間である。背が小さいことをかなり気にしており、馬鹿にすると怒る。かつて愛した女性がいた。

 

ハルセル (♀)(22歳)

仮面を被った謎の女性。これから原典のパーティが向かう予定地に住んでいる。ヴァンハーフと何らかの関係があるようだが目的や詳細は不明。

 

若衆 (♂)

花魁道中の始まりの掛け声をかける

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【配役表】

椿/ヴラドニア (♀):

蓮太郎/イフォニ(♂):

牡丹/ハルセル (♀):

オティス    (♀):

アニ      (♀):

キバイラ    (♀):

鞍馬/若衆/ベニオット(♂):


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蓮太郎「遥か昔、平安の時代絵巻の物語から生れ出たような不思議な事件は町にも人にも大きな爪痕を遺した。沢山の人が亡くなり犠牲者は数え切れない程だった。男女が偽りの恋を綴るこの町で、恋物語でなく妖怪異聞録が紡がれた。それでも若山遊郭は何事もなかったように人を招き入れ、傷跡を見ないようにして今日も妓達は男の袖を引く。この事件もいつしか忘れ去られるのだろう。けれど俺はきっと忘れる事は出来ない。左手の手の甲にはまだ薄く鞍馬天狗の残した紋章が残っているのだ。それは幾度洗い流しても消える事はない。この心に残った不安と同じようにーーー。」

 

 

鞍馬   「我に聞きたいことがあるか、人の子よ」

蓮太郎  「・・・っ、真清田神社でしばらく待つ覚悟でしたが、先に来ているとは思いませんでした」

鞍馬   「事の終息が着いた故、人では計り知れぬ物事も沢山あろう。そなたならば必ず来ると思っておった」

椿    「あなたが・・・、鞍馬さん」

鞍馬   「・・・っ?! ・・・、これは・・・桃夭姫(とうようき)、か」

椿    「随分驚いていらっしゃるんですね。私の存在はご存じだったんでしょう?」

鞍馬   「無論、存じておった・・・、が。久し振りの桃夭姫(とうようき)の妖力の濃さに少々驚いた。成るほど、下級の物の怪共が騒ぐ筈だ」

蓮太郎  「やっぱり、九尾や絡新婦だけではなかったんですね」

鞍馬   「妖怪などあげればキリがない。有象無象が桃夭姫(とうようき)の血の香りにざわついて、虬(みづち)や五位鷺(ごいさぎ)と協力して制裁を加えておったのでな。あの九尾と絡新婦(じょろうぐも)はそなたに任せるしかなかった」

椿    「あの・・・、桃夭姫(とうようき)の能力というのは十七~十八歳までの二年間だと聞きました」

鞍馬   「数え年であろう? 困惑したのだな」

椿    「キバイラさんに聞いたので納得しました」

鞍馬   「ならば何が気になるか」

椿    「その・・・、十七という事は私はまだ桃夭姫(とうようき)として覚醒したばかりという事になりませんか?」

鞍馬   「いかにもまだ半年だ、それ故残りの一年と半年はまだ桃夭姫(とうようき)の能力が色濃く出るだろう」

蓮太郎  「だから、紋章が残ったままなんですか?」

鞍馬   「その通りだ。我ら三種族で抑えられる物の怪は抑えよう。しかし、我らの目の届かぬ所で物の怪が漏れ出した場合、桃夭姫(とうようき)に害が及ぶ。それを助けられるのは人としてそなた以外にはおらぬ」

蓮太郎  「そういう事ですか・・・。判りました」

鞍馬   「余程大丈夫かとは思うが、可能ならば大小拵えの打ち刀は持っておれ」

蓮太郎  「交渉してみます」

椿    「あの・・・、一年と半年後、桃夭姫(とうようき)はどうなるんですか?」

鞍馬   「能力が消えるだけぞ。命に支障はない、精々普通の人間並みに怪我の治癒が遅くなる程度だ」

椿    「・・・ホッとしました」

鞍馬   「・・・、遊郭のしきたりを守っている故我が改めて言う必要もなかろうが、その少年と契るでないぞ」

蓮太郎  「それは、余程大丈夫ですが、何故でしょうか」

鞍馬   「そなたには今天狗の力が流れておる。雌雄として交合い強力な力を得た場合、人に戻れなくなるぞ」

椿    「・・・天狗になるんですか?」

鞍馬   「そうなるだろう、そして桃夭姫(とうようき)は力を吸い尽くされて儚くなる」

椿    「・・・っ?! 無尽蔵・・・、って聞きました」

鞍馬   「雌雄の交合いは次元が違う、命ごと相手に全ての力を与えると考えて問題ない」

蓮太郎  「どうして・・・、そんな事をご存じなんですか」

鞍馬   「我が犯した過ちに他ならぬからよ」

蓮太郎  「っ・・・!」

鞍馬   「愛しさが勝り、己の欲望を堪えられなかった。己の愛を伝えたかった、桃夭姫(とうようき)の愛が欲しかった。互いの想いを絡ませたかった」

椿    「桃夭姫(とうようき)は・・・?」

鞍馬   「我に笑顔を遺して息絶えた。人の子よ、同じ轍を踏むまいぞ」

オティス 「あ、蓮太郎! 椿ちゃん居た居た~!」

鞍馬   「・・・っ、あれが、今回の異国人か」

椿    「そうです、・・・、あの姿を隠さなくてもいいんですか?」

鞍馬   「構わぬ。礼を申さねばなるまい」

オティス 「あの人は?」

アニ   「うわっ! 肩から翼が生えてるよ?!」

オティス 「魔物か! 簡易版! 『七天穿つ極座の蠍(セブンフィール・アンタレス)』!!」

椿    「・・・っ?! オティスさん違う!! ダメ!!」

鞍馬   「『壱旋風(いっせんぷう)・無限ノ刃閃々飛天(むげんのやいばせんせんひてん)』」

アニ   「嘘?! 顔色も変えずにお姉ちゃんの必殺技を相殺した?!」

鞍馬   「そう血気に逸るでない。私の名は鞍馬。この少年に力を与えた者だ」

オティス 「鞍馬・・・って、蓮太郎の紋章の?」

鞍馬   「少年を助けて良く戦い倒し切る最後までここに留まってくれた。礼を言う」

アニ   「そっか・・・。じゃあ味方なんだね、良かった」

鞍馬   「先だって、九尾の生き残り王叉貴(おさき)という者が我に挨拶をしに来た」

アニ   「え?! 王叉貴って、あの少年の狐さん?」

鞍馬   「そもそも我らは人を守らんとしここに在る。その使命をよく理解し、未熟ながら共に人界の歯車を乱さぬよう協力したいと申しておったぞ」

オティス 「そっか・・・、あの言葉に嘘はなかったんだな」

鞍馬   「眷属を増やすにあたって、切り取った威津那の尻尾は我等で穢れた妖気を浄化し、これからの成長を待つそうだ」

アニ   「じゃあ、本当に脅威は去ったって考えてもいいんだよね?」

鞍馬   「天狗である我と、虬(みづち)の長と五位鷺(ごいさぎ)の皇(すめらぎ)、狐の王叉貴とで倭の国を守る事となった。安心して帰ると良い」

オティス 「そうか・・・、これだけ強い、ならなんでもっと協力してくれなかったんだ!?」

鞍馬   「それは鬼にも言ったが、聞いていないのか」

オティス 「キバイラのいう事なんて聞くか」

鞍馬   「それは・・・、我のせいではないぞ」

アニ   「うん・・・、でも本当にどうして助けてくれなかったの?」

鞍馬   「桃夭姫(とうようき)の出現はいつも我らの予想が追いつかぬ。下衆で低俗で堪え性のない低能な物の怪共がその血や肉体を欲して騒ぐのだ。」

オティス 「今凄く苛立ちをつらつらと語ったよね」

鞍馬   「その物の怪を諫めるのに奔走していたのだ。中には強靭な力を持つ者、集合体となって結成し軍隊を組むものまでさまざまだったので少々骨が折れた」

アニ   「忙しかったんだね。それじゃ仕方ないか」

鞍馬   「しかし、少年が良く戦ってくれたので五位鷺(ごいさぎ)などは手放しで褒めておった」

オティス 「で、それも落ち着いた、と」

鞍馬   「ひとまずは。だがどこから零れ物の怪が出るか判らぬのでな、少年の紋章は桃夭姫(とうようき)の力が消えるまで置いておくこととした」

アニ   「そっか・・・、蓮太郎さん一人で大丈夫かな?」

鞍馬   「一人ではない、我等も共にある。そろそろ対策を練るのに、虬(みづち)や五位鷺(ごいさぎ)を待たせておるので我はこれにて失礼する」

オティス 「あぁ、うん・・・。逢えて良かったよ」

鞍馬   「さらばだ」

 

 

 

牡丹   「お母さんは町の修復や番所への連絡、見世の切り盛りで奔走しておりんすから。ご挨拶が出来ず申し訳ないとっておりんした」

オティス 「これだけの爪痕を遺した魔物退治なんて私達の世界でも稀だからね、仕方ないと思うよ」

牡丹   「ひとまず、アニさんの・・・、なんでありんしたか? えーと『高性能超硬質防御壁』? とか言いしゃんしたか? それで町全体の崩壊は避けられんしたが、要所要所の修復が必要だとか」

オティス 「あー・・・、女将さんから聞いてるかな? ここに来て最初に私、魔法で色々壊したのも含めて多分借金が多いと思うんだよね」

牡丹   「借金・・・? あぁ、そう言えば椿からも聞いておりんす。随分派手に詰め所を壊したとか」

オティス 「済みません。その、帰る為の経路が見付かったから出来ればなるべく早く帰りたいんですけど。その、残金がいくら程で、何日くらい働いたら、返せるかって、牡丹さん判る?」

牡丹   「聞いてはおりんすが、町を救ってくれた恩人に金を要求する程恩知らずではないと」

オティス 「え? いやそうじゃなくて、救済内容とは全く違うけど?」

牡丹   「そんじゃあ、多分その救済に対する謝礼金で相殺にはなりんしょ?」

オティス 「え、マジで? いや、それでいいの?」

牡丹   「あれ程の化け物を見た後では、町の者皆感謝しかありんせんよ」

オティス 「それじゃ」

牡丹   「金は要りんせん。それと恩返しだとか。何か欲しい物があったら持って行ってくれて構わないと言っておりんした」

オティス 「欲しい物かー、うーん・・・、じゃあ・・・短刀を1本。切れ味いいから便利そうなんだよね。アニちゃんは何かある?」

牡丹   「アニさんは、台所で働いて頂いた分で随分稼いでおりんしたから、割といいものが買えると思いんすよ?」

アニ   「そうだなぁ・・・。何にしようかな?」

牡丹   「・・・あ、着物とか帯とかでもよろしんすよ?」

アニ   「それも考えたんだけど、やっぱり向こうじゃ動きにくいから結局タンスの肥やしになっちゃうよ」

牡丹   「そうでありんすか・・・」

アニ   「そうだ!! あたしはね、あたしはねお味噌とお醤油! あとは梅干し!」

牡丹   「梅干し・・・?」

オティス 「え、梅って?! 私は要らないよ、あんなの悪魔の実と称してもいいくらいの食べ物だよ! 酢っぱすぎる!」

牡丹   「か・・・、変わったものを欲しがりんすな・・・。それでいいんでありんすか?」

アニ   「うん! お姉ちゃん、梅干しはそのまま食べるからだよ。えとね、蓮太郎さんに教えて貰ったの、煎り酒っていうドレッシング!多分オリーブオイルとも相性がいいと思うんだ!だから作りたいの!」

牡丹   「煎り酒は作る人のお人柄が出て来るといいんす。アニさんが作った煎り酒はとても優しい味がしんしたな」

オティス 「ふぅん・・・、なんかちょっとほっとした。梅と昆布と鮭のおにぎりは貰った時ロシアンルーレットかなって思ったからね」

アニ   「そんなに?!」

オティス 「そんなに。びっくりしすぎてしゃっくり出そうになったから!」

アニ   「勇者でもしゃっくり出るんだ!」

オティス 「出ますよ!勇者でも!」

牡丹   「ひとまずささやかではありんすが・・・、宴会の準備をしておりんす、最後になりんすから、しっかり楽しんで行ってくんなんし」

オティス 「はい、ではお言葉に甘えて」

アニ   「やったぁ! パーティーだぁ!」

牡丹   「さて、どの様に楽しんでいただきんしょか。腕がなりんす」

 

 

 

蓮太郎  「椿、どうした?わざわざ隠し部屋で話がしたい、って」

椿    「ん・・・、ごめんね。宴会の準備で忙しかったでしょう?」

蓮太郎  「ってぇ?! ちょっっと、待て、・・・、いや、待て、椿。・・・なんで帯を解いてるんだ」

椿    「見て、欲しいの」

蓮太郎  「見る、て、その、いや、あ・・・、う、うん・・・」

椿    「ここ、左胸の上の部分、痣が出来てるの」

蓮太郎  「・・・っ! ・・・? これは? 元々こんな痣、あった・・・、のか?」

椿    「ううん? 痣なんて無かった。あたしは、肌の綺麗さで売っていたから、痣もないし、ほくろも多分自分で見える所にはない、筈だったの」

蓮太郎  「いつ、気付いたんだ?」

椿    「今朝、お湯を使って湯殿の鏡で見て、気付いた」

蓮太郎  「朱い、痣・・・。この形は」

椿    「焔の様にも、あの狐の九本の尻尾の様にも見える。触ってみて」

蓮太郎  「・・・っ」

椿    「触って」

蓮太郎  「・・・ん」

椿    「明らかにあたしの鼓動とは違う感じで脈打ってる」

蓮太郎  「少し、熱も帯びてるな。体のどこかおかしいとかはないのか?」

椿    「無いよ。アニさんの回復のせいかな。あんな事があったっていうのにまるで何もなかったみたいに元気だよ。もしかしたら桃夭姫(とうようき)の力のせいかもしれないけど」

キバイラ 「呪詛やね」

蓮太郎  「キバイラさん?!ど、どこから入って来たんですか?!」

キバイラ 「そこの引き戸からよ?大丈夫、誰にも見られてへんし、戸も閉めた」

蓮太郎  「どうしてこの部屋の事が判ったんですか」

キバイラ 「部屋、ちゅうより呪詛の波動やね。原典らは判れへん種類のもんやから広められる心配はあれへんけど、厄介やな。解呪すると椿ちゃんの命削るわ」

蓮太郎  「・・・命を、削る・・・? 他に解く方法は、無いんですか」

キバイラ 「あれへんな。けど、痣があるからちゅうてなんや害を及す訳やないな。なんやろ、判れへんわ」

椿    「害は、無いんでありんすか?」

キバイラ 「あれへんよ。安心し? なんが為にこないなもん遺したか判れへん。不気味やけど、敵はもう死んではる。この手の呪詛を解くんは聖遺物が必要やけどそうまでして解呪するべきか言われたら必要ない」

蓮太郎  「気持ちが、悪いですね」

椿    「・・・っ」

キバイラ 「あらー、蓮太郎君今のは椿ちゃん傷付けたわ」

蓮太郎  「え?!」

キバイラ 「どないな状況にあっても惚れた男に気持ち悪い言われるんは傷付くで?」

蓮太郎  「あ、いや、その気持ち悪いじゃなくて!違うんだ椿、討伐した筈なのにきちんと事後処理が出来てないっていうか。その綺麗に解決できてないのがこう、なんていうか」

椿    「そ、だよね・・・。こんな、痣が残ってたら、やっぱり思い出すし、気味が、悪い、よね、うん、大丈夫だよ」

蓮太郎  「あー・・・、そうじゃないんだ。違う」

キバイラ 「面白。それにしても椿ちゃん綺麗な肌してはるね。滑らかで白くて雪花石膏みたいな肌ちゅうんはこういうのをいうんやね、あーむ、ぺろ」

椿    「うひゃああ!」

蓮太郎  「何!してんですか!!」

キバイラ 「あ痛ぁ・・・。突き飛ばす事あらへんやろ」

蓮太郎  「妖力が足りなくて血がいるなら俺でいいでしょう、椿を、・・・な、舐め、る、とか・・・」

キバイラ 「蓮太郎君も舐めたいやろ?な?ほら、お裾分け。きめ細やかで絹みたいな肌よ?」

椿    「ひゃああ!?」

蓮太郎  「なんで! 脱がしてんですか!」

キバイラ 「純潔の美少年と傾城の花魁、どっちにしよか悩むわ」

蓮太郎  「悩まなくて結構です。用が済んだら牡丹花魁の所にでも行ってて下さい」

キバイラ 「つれへんな。けど・・・、そうさせて貰うわ。蓮太郎君、有耶無耶にせんと誤解はきちん解かなあかんよ? 本人おらへんようなったら言い訳もでけへんのやから」

蓮太郎  「そんな縁起でもない事を言わないで下さい」

キバイラ 「明日がある、なんて誰が確証持って言えるんや?」

蓮太郎  「・・・っ」

キバイラ 「あんじょうやりや」

椿    「な、何しに来たんだろ、キバイラさん」

蓮太郎  「この痣から、何か感じ取ったんじゃないか?」

椿    「・・・っ!」

蓮太郎  「何してんだ椿!」

椿    「やだ、こんな痣!気持ち悪い!いや!」

蓮太郎  「ちょ、柳生を返せ!脇差なんかで削ぎ落とす積もりか?!」

椿    「だって、・・・だって、こんなの、こんな、今何もなくたってこれから何かあるかもしれない! あたしは! この痣を見る度に今回の事件を思い出す! 思い出したくもないのに」

蓮太郎  「この痣は、俺がりんを守れなかった断罪の証だ。あの狐を舐めてかかってむざむざと目の前から連れ去られるのを止める事が出来なかった俺への呵責の印だ!」

椿    「蓮太郎の呵責だとか狐の怨恨だとか、そんなのどうでもいいよ! この痣は消えないし何か災厄が訪れるかもしれない!」

蓮太郎  「その時は今度こそちゃんと守る」

椿    「・・・っ」

蓮太郎  「二度とあんな目に合わせたりしない。命に替えてでも必ず守る・・・、ん」(痣に接吻け)

椿    「・・・っ、蓮太郎・・・?」

蓮太郎  「俺が、守る」(再度接吻け)

椿    「れ・・・れ、れ・・・、ちょ、な、あの・・・」

蓮太郎  「ん?」

椿    「む、・・・胸に接吻けとか、あの、すごく、その、恥ずかしい、んです、けど」

蓮太郎  「っ?! うわ!! ごめん!!」

椿    「え?! 何?! 無意識?! 嘘!! 信じらんない!!」

 

 

 

オティス 「はー、この若衆の服も着納めかぁ。ぼろぼろにしちゃったけど返していいのかな?怒られそうだけど・・・っと」

アニ   「結構似合ってたよね――っ!?お姉ちゃん!それ何!?」

オティス 「へ?なんかある?」

アニ   「うん、ほら胸元!」

オティス 「・・・あるね?なんだろうこれ、勇者の紋章みたいだ。氷の結晶・・・というより、蜘蛛?」

アニ   「ちっちゃいけど・・・なんか不吉だね」

オティス 「ヴァンハーフに紐付いた魔物・・・ま、何とかなるでしょ」

アニ   「軽い!? もう、手遅れになったらどうするの!」

オティス 「だって、私にはアニちゃんがいるし。帰ったらみんながいる。頼らせてね?」

アニ   「それは嬉しいけど・・・でも放置して悪化させるのはどうかと思う! あっち戻ったら色々試すからね!」

オティス 「それはよろしくお願いします。しかし、この町も見納めだね・・・。色々あったけど、この町結構好きかも」

アニ   「物好きだね」

オティス 「えっなんで」

アニ   「こんなに散々な目に遭ったのに」

牡丹   「ほんに、色々ありんしたね・・・。わっちは・・・、妹を沢山亡くして・・・」

オティス 「まあ・・・いろいろ辛かったことはあったよ。それでも、それを含めてというか。椿ちゃんたちと出会えた、知らなかった世界をたくさん知れた。それが楽しかったんだ」

牡丹   「わっちらも大切な思い出を沢山頂きんした。アニさん、人は前を見なければ歩けんせん。とてもしっかりしたお方だから心配はいらんと思いんすが、心を強く持って大地を踏みしめて生きて行ってくんなんし」

アニ   「うん、そうだね! 本当に・・・、もう、帰るんだね」

牡丹   「ふふっ、アニさんが残ってくれるなら、わっちの元で大切に育てんすよ」

オティス 「ダメ! 牡丹さんには悪いけどアニちゃんにここの仕事はさせたくない! ・・・アニちゃん・・・、さみしい?」

アニ   「うん・・・蓮太郎さんにも、会えなくなっちゃうんだ」

オティス 「まず思い浮かべるのが蓮太郎なんだ?」

牡丹   「ほんに・・・、蓮太郎も、罪作りな男でありんすな」

オティス 「どういうこと?」

牡丹   「いずれわかると思いんすよ・・・、ところでオティスさん、その」

アニ   「キバイラなら、蓮太郎さんたちのほうに行ったよ」

牡丹   「そ、そうでありんすか? わっちをほっぽって、蓮太郎と椿でありんすか」

アニ   「あたしだって・・・あいさつしたいのに。どこにいるのかな」

オティス 「出てる出てる。なんだか黒いオーラが出てる出てる。一体どうしちゃったの? アニちゃん」

牡丹   「お世話になりんした、オティスさんにアニさん。其方らが居らんかったら、この町はどうなっていたかわかりんせん。心より感謝いたしんす」

オティス 「・・・こちらこそ。元気でやってね」

 

 

 

オティス 「蓮太郎」

蓮太郎  「オティスさん、キバイラさんも。本当にお世話になりました」

キバイラ 「椿ちゃんもいてはるね」

椿    「え? あたしも?」

オティス 「キバイラからこの若山遊郭のしきたりは全部聞いた。その、桃夭姫(とうようき)の話もあるから」

蓮太郎  「・・・、なんの、話でしょうか」

キバイラ 「蓮太郎君と椿ちゃんな・・・、うちらと一緒にこっちの世界に来いへん?」

椿    「・・・へ? なんで?」

キバイラ 「足抜けするとなると追手の事もあるし、あんさんらは抜けたりせぇへんやろ。けど、こっちの世界なら自由に恋愛できる」

オティス 「実際、蓮太郎の武力があれば勇者特権なんか簡単に取れるだろうから、正直私達には心強い武力になる」

キバイラ 「なんであんさんの味方になる話になってんの? うちん付いて来るほうがええで?」

オティス 「こちらにもヴァンハーフがいる。助けてくれないかな」

蓮太郎  「・・・、椿と、そっちの世界で・・・、暮らす?」

椿    「蓮太郎と、一緒にそっちの世界? え・・・、でもあたしはこの町からすら出た事はほとんどなくて。正直何も出来ない、から・・・、蓮太郎はきっとオティスさんが言うように役に立つけど。あたし・・・、はきっと足手纏いにしかならない」

キバイラ 「戸惑うよな・・・、判るよ。椿ちゃんの頭の良さ、機転の早さはきっと兵法の助けになる。それに自堕落(じだらく)な国王やから椿ちゃんが色目使こたら一発で勇者特権くれるわ」

オティス 「余裕でありそうだな。そうしたら椿ちゃんは後衛陣として立派な戦力になる、多分回復やバフデバフの補助魔法かな」

蓮太郎  「二人で・・・」

キバイラ 「こっちかて決して安全な世界やない。けど世界が違う。追手の心配は一切ないんや。椿ちゃんとそないに惚れ合ってるのに苦しいやろ」

オティス 「今を逃したらこんなチャンス二度とない」

蓮太郎  「・・・、待って下さい。考えた事も無くて、その・・・」

オティス 「蓮太郎、あのさ実際の所椿ちゃんの仕事だって辞めさせられるんだ。本心で言ってみろ、椿ちゃんを仕事から解放してあげたくないか」

蓮太郎  「ほんの少しでいいんです、考えたい。俺は・・・、確かに椿の仕事を辞めさせたいし、二人で過ごせるなら」

オティス 「なら、椿ちゃんは? 今の仕事を辞めてこっちに来る決断はできない?」

椿    「辞め・・・、たいです。・・・私は、おきちゃを取らずに済むって言うなら取りたくない。でも、でも・・・、あたし・・・、牡丹姐さんを裏切ってしまうのが心残りですぐに決断は出来ません。・・・。・・・、キバイラさん、牡丹姐さんにはその話をしたんですか?」

キバイラ 「牡丹は聞かんでも判る。妹も頂点としての矜持も持ってはるんをこっから逃げる筈あらへんやろ。牡丹は花魁としてこそ輝くおなごや」

オティス 「完全な憶測だけど、牡丹さんは二人の幸せを願っていると思うよ。この世界で逃げ出せば罪になるから止めるだろうけど、別の世界というならきっと笑顔で見送ると思う」

蓮太郎  「椿、俺がもし・・・、もしも共に行くと言ったらついて来るか?」

オティス 「蓮太郎・・・」

椿    「・・・、付いて行く」

オティス 「・・・っ! 椿ちゃん危ない!! ん・・・? 矢が・・・、壁に突き刺さってる」

蓮太郎  「・・・っ! 赤い・・・、文・・・」

キバイラ 「なんや、手紙が結ばれてはる。なんやろ」

蓮太郎  「触るな・・・っ!」

キバイラ 「っ?! 済まへん・・・、いや、蓮太郎君の心当たりがあるならええよ」

椿    「・・・、そ・・・、だよね・・・。そんなに簡単な話じゃ、ないよね」

オティス 「何? 手紙? なんて? 蓮太郎・・・、どうした? そんな驚いた顔して」

蓮太郎  「一緒に行きたいです。椿を連れて逃げ出したい。そう思う事は何度もありました。ですが、俺のこの戦う力はこの手紙の為に鍛え上げられた物なんです。この使命を放棄すればもっと沢山の犠牲者が出る」

キバイラ 「あんさん・・・、使命があらはるんやな」

椿    「・・・っ、オティスさん達の世界に行ってみたかった。蓮太郎と二人で暮らせる場所なら・・・、幸せだったと思います。けど赦される筈はないんです。因果をあたしも蓮太郎も成し遂げてはいない」

オティス 「そんな、喉から絞り出したような声で、溢れそうになる涙堪えてどうして耐える?」

椿    「蓮太郎と二人で逃げ出したいよ・・・っ! でも、きっと、そうしたら罰が下る!」

オティス 「そんなの思い込みだ」

蓮太郎  「オティスさん。あなたは目の前の危険に晒されている人を投げ出せないとそう言いました。けど・・・、俺は椿の為なら投げ出せる、そう思っていました」

キバイラ 「投げ出せへんのやね・・・」

蓮太郎  「この手紙は、仲間が殉死(じゅんし)した報せです」

オティス 「・・・っ、仲間・・・? 亡くなったのか?」

キバイラ 「・・・判った。行くで、原典。これ以上は二人の心を傷付けるだけや」

オティス 「私は、ギリギリまで待つ。蓮太郎、お前の気持ち一つで椿ちゃんを助け出せる。この世界から消えるその瞬間まで私は手を伸ばす。気が変わったら私の手を掴め」

蓮太郎  「お誘い、ありがとうございます。束の間でも幸せな夢を見られた。それで充分です」

 

 

 

キバイラ 「なんや牡丹、あんさん、涙目になってはるよ」

牡丹   「悪いでありんすか?」

キバイラ 「や、悪い悪ない言うてるんやなくて、なんで涙目になっとるんか聞いてんねやけど」

牡丹   「止めても帰ってしまうんでありんしょ?」

キバイラ 「そらな・・・、うちかてあっちの世界で遣り残した事もあるし本懐遂げる為には帰らなあかん」

牡丹   「せっかく、生き抜く強さを持ったお方に逢えたというのに、相手は生きる世界の違う異国の方。皮肉でありんすな」

キバイラ 「牡丹と逢えてうちは良かったよ。愛し愛される心も知った。沢山愛情貰ろてな・・・、人を守ろうとした珠酊院(しゅていいん)の心が、ちぃと判った。なぁ、牡丹。うちと逢えた事を悲しみにはせんといてや」

牡丹   「簡単に言いんすな。心の支えになりんした。それを失って悲しむなというんは無理がありんす」

キバイラ 「失うんかいな? うちが離れたら心の支えはうちやなくなる言うんなら薄情者はどっちやろな?」

牡丹   「その言い方は卑怯でありんす」

キバイラ 「けどな、逢えんから寂しい、逢えんから支えやなくなる、逢えんから出会わん方が良かった。愛さん方が良かった、愛されん方が良かった、そないな風に考えられたくないんや」

牡丹   「わっちはキバイラ様と出会えた事は幸せだと思っておりんす。幸せでありんした」

キバイラ 「ほなら、その気持ちのまま互いの成すべきを成さんとな」

牡丹   「また、逢える時がありんすか?」

キバイラ 「せやな・・・、こん均衡世界の存在は知った。せやから往来は可能ちゅう事や。うちが本懐遂げたらこっちに来る方法構築してみるわ。せやから待っとって?」

牡丹   「それなら、お待ち申し上げんす。きっとこの町でずっとお待ち申し上げんす」

キバイラ 「それでこそ牡丹や」

牡丹   「キバイラ様に渡したい物がございんす」

キバイラ 「ん?」

牡丹   「これを・・・、わっちの簪と櫛でありんす。初見世の時、付けてたものでありんす」

キバイラ 「初見世て・・・」

牡丹   「わっちがまだ生娘だった頃の簪と櫛」

キバイラ 「・・・大事なものとちゃうんか」

牡丹   「だからこそでありんす。これを託すことの意味、わかりんすか」

キバイラ 「未練たらたらやないの」

牡丹   「大きなお世話でありんす・・・約束、してくれんすか」

キバイラ 「何を?」

牡丹   「生きて、欲しいんでありんす」

キバイラ 「そんなもん、当たり前や。うちが簡単に死ぬと思う?」

牡丹   「もう、誰にも死んでほしくないのでありんす! だから・・・」

キバイラ 「牡丹・・・、ん、ぁ・・・む、ん」(接吻け)

牡丹   「ん・・・、ん、ぁ・・・、は・・・んっ・・・、生きて・・・、またきっと」

キバイラ 「ほなら、これを交換や」

牡丹   「これは・・・?」

キバイラ 「おそらくな・・・、珠酊院が使こてた煙管や」

牡丹   「綺麗な華翁格子」

キバイラ 「あんさんに持ってて欲しい」

牡丹   「あい・・・、大事にしんす」

キバイラ 「牡丹」

牡丹   「何でありんしょ」

キバイラ 「最後までいう事聞かへんかったな。体に悪い・・・。煙草、程々にしぃや」

 

 

 

アニ   「あの、蓮太郎さん」

蓮太郎  「あぁ、アニさん、丁度今ご挨拶にお伺いしようと思っていました」

アニ   「え? そうなの?」

蓮太郎  「お渡ししたい物があったので」

アニ   「え、で、でも色々沢山貰っちゃったし、正直大風呂敷でもぎりぎり収まるかってくらいの物を貰ったのにこれ以上はちょっと」

蓮太郎  「じゃあ、大風呂敷はオティスさんに背負って貰ってアニさんはこちらを抱きかかえて貰えればと思いますが」

アニ   「これは? 四角い箱・・・、五段になってる」

蓮太郎  「おせち料理です。本来は年の始まりに食べる物ですが、最後ですのでこちらの食文化を持って帰っていただければと思いまして」

アニ   「おせち・・・、沢山教えて貰ったお料理、覚えてる限りだけど向こうでも沢山作るね」

蓮太郎  「おせちは基本的に長持ちする様に作りますのでゆっくり食べて下さい」

アニ   「あ・・・、あり・・・、が・・・、・・・っ、う・・・」

蓮太郎  「え、泣く程? どうされました?? 何かまずい事言いましたか?」

アニ   「あたし、あたし・・・、蓮太郎さんのお料理する姿、とっても好きでした」

蓮太郎  「あ、ありがとうございます・・・?」

アニ   「いっぱい、お話出来て嬉しかった。元気で!」

蓮太郎  「はい、アニさんも。お達者で」

 

 

 

キバイラ 「言えた? アニちゃん」

アニ   「言える訳ないよ、困らせるだけだもん。判ってるもん、椿さんにはどうやったって敵わない。絆の深さが違うもん」

キバイラ 「せやな」

アニ   「けど・・・、けど・・・、大好きだった!!」

キバイラ 「うんうん、よく頑張らはったね、いい子いい子」

アニ   「ふ・・・、ぅわぁあぁああぁああああああああん!!」

 

 

 

牡丹   「椿、支度は出来んしたか?」

椿    「待って牡丹姐さん。しばらく振りで化粧が上手くいかないの」

牡丹   「急がねばならんのに、貸しや」

椿    「頬紅、ちょっと濃いかな?」

牡丹   「少し顔色が悪い・・・。何かありんしたか?」

椿    「・・・、牡丹姐さんに・・・、裏切りを考えてしまいんした」

牡丹   「やっぱり・・・。向こうに一緒に行こうと・・・、誘われたんでありんすな?」

椿    「でも、行けない・・・、わっちは、・・・、わっちも、蓮太郎も、ここで成さねばならん事がある! わっちは」

牡丹   「よう、踏み留まりんしたな。蓮太郎も短慮で動かずによう頑張った。二人ともよう我慢しんした」

椿    「行きたかった! わっちは、姐さんに仇成したとしても、裏切りだと判っていても・・・。こんなんじゃ・・・、もう、牡丹姐さんの妹を名乗れやせん!」

牡丹   「考えた末にきちんと正しい答えを出した。揺らぐ心を抑える理性、それは今後も守るべきもの。大切にせんとなりんせん」

椿    「今だって・・・、揺れてる・・・、わっちは・・・、わっちは・・・」

牡丹   「ひと時の甘言に乗らぬ強さ。椿はわっちの大切な妹でありんす」

椿    「ふ・・・、ぅ、ふぐ・・・、ぅう・・・」

牡丹   「辛いのは蓮太郎も同じでありんす」

椿    「ぅわぁああぁああぁああぁああぁあん!」

牡丹   「いい子でありんすな、椿。目張りを入れる前にしっかり泣きなんし」

 

 

 

オティス 「さて、全員準備はいいかな?」

アニ   「うん、大丈夫だよ。座標間違えたりしたくないから全員手を結んで離れない様にした」

キバイラ 「向こうに帰るまでや。ええな」

オティス 「というか・・・、寂しいな、やっぱり」

アニ   「名残惜しいけど向こうは向こうで放ってはおけないもん」

キバイラ 「牡丹も、椿ちゃんも見送りにすら来てくれないのはちょい薄情やな。蓮太郎君も」

 

若衆   「華屋お職牡丹花魁、次代お職椿花魁のおなーりー! 華屋豪華絢爛そろい踏み花魁道中、道ゆく方々、そしてこの町をお救いの方々、とくとご覧あれ!」

 

オティス 「え? え? 牡丹さん・・・、それに椿ちゃん、蓮太郎君も」

アニ   「うわぁ、うわあうわあ・・・、凄い綺麗! 何あれ、何あれ」

キバイラ 「花魁道中・・・。そうか・・・、そうか・・・。あんがとさん。みんな達者でな」

オティス 「どういう事?」

キバイラ 「牡丹達が出来る最大限のお礼よ・・・。見送りの為に道中を踏んでくらはったんよ」

アニ   「紙吹雪がまって・・・、綺麗だね」

オティス 「瞼の裏にしっかり焼き付けていくね。さようなら」

 

 

 

ベニオット「お?随分と長いお使いだったな。目当てのものは見つかったか?」

ヴラドニア「オティスさん! 良かった・・・、アニさんもご無事で!」

イフォニ 「良かったじゃないよ、一体どれだけ心配したと思ってんのさ」

オティス 「ベニオット! ヴラドニア! ・・・、ここは」

アニ   「ヴラドニアさんが最初に座標を示してくれた社だね」

ベニオット「さすがに丸二日間痕跡もないと、心配するぞ」

オティス 「へ・・・? 二日? って、二日?!」

イフォニ 「音沙汰がなくなって二日。ヴラドニアは慌てふためくし、ベニオットは落ち着いてる風で内心焦ってるし、めちゃめちゃ大変だったんだから」

ベニオット「俺はすこぶる冷静だったぞ」

イフォニ 「焦りすぎて剣と長ネギ間違えて魔物に立ち向かったやつが何言ってんの?」

アニ   「うっそ! 向こうではゆうに1ヶ月以上経ってたよ?! それが二日?! なの??」

ヴラドニア「心配しました。でもご無事ならもう何も」

キバイラ 「次元超えてるんやから当然時間軸のずれも発生するやろ。100年単位のずれでなかったことに感謝するんやね」

ヴラドニア「な、キバイラ?!」

キバイラ 「はぁん・・・、なるほどね、ここに納刀されてたんをあんさんが迂闊に障って飛ばされたちゅう事やね」

ベニオット「色々疑問が残るが、ひとまず船に戻ろう」

キバイラ 「うちもちょい、お邪魔するわ」

ヴラドニア「乗せる義理はありません」

キバイラ 「うちは誰の命令も聞かへん、逆らうなら殺すで」

アニ   「わ、わ、・・・みんな落ち着いて、今はまだキバイラもそんな暴れたりしないから」

キバイラ 「あんさんらが牙剥いたら判らへんよ。下手な約束はせぇへん」

ベニオット「とにかく、船だ。色々聞かなきゃならんことがあるらしい」

 

 

 

ヴラドニア「それはなんとも・・・奇妙な世界に行っていたのね?」

イフォニ 「倭の国か~。異聞録では一つ目の妖怪とか、巨人とか稀有な人種がいるって言われてるよね」

オティス 「うっそ・・・。みんな凄い綺麗だったけど?」

イフォニ 「そうなんだ。へーぇ、僕も行きたかったな」

ベニオット「そうか・・・、妖怪、物の怪と言われる魔物か、戦ってみたかったな、何度も生き返るとは。奇異な体験をしたものだな」

ヴラドニア「ヴァンハーフまで居たのね。本当によく無事で帰って来てくれたわ、良かった・・・」

キバイラ 「さて、うちは往ぬわ。長居は必要ない」

イフォニ 「あ、今度会った時にもう少し詳しく教えてよね。貴重な情報を仕入れたと見た」

キバイラ 「情報量払ろてくれるなら話そか。・・・原典、倭の国では世話んなったね」

オティス 「お前から礼を言われるとか気持ち悪いんだけど?」

キバイラ 「うちは傍若無人な礼儀知らずやあらへんからな。通す筋はきちんと通す」

アニ   「その、色々助けてくれてありがとう」

キバイラ 「アニちゃんも色々頑張ったね。立派やった思うよ」

アニ   「あ、う、うん・・・本当だ、なんか気持ち悪い」

キバイラ 「なんなん? あんさんら・・・、喧嘩売ってはるん? 買う気はないけど」

オティス 「その、なんだ、あれだ・・・。ありがとう」

キバイラ 「アニちゃん、初恋ちゅうんは通過点や。余り実らんもんよ?」

アニ   「ふぇ」

オティス 「は? アニちゃんが? 初恋?! え?! だ、誰に?!」

キバイラ 「気付いてなかったんかいな、呆れた」

ベニオット「へぇ・・・? 初恋か。なんだオティスよりも強くていい男がいたか?」

アニ   「別に・・・、ベニオットさんに話す事なんて何もないもん」

ベニオット「いいじゃないか。どんな男だ?」

アニ   「・・・強くて・・・、優しくて・・・、頭も良くて、お姉ちゃんと張り合えるくらい強かった」

ベニオット「オティスと張り合える?! 待て、それは化け物と言わないか?」

アニ   「ベニオットさんよりずっと細身だったよ、とてもきれいな顔立ちの人」

ベニオット「お前は面食いか・・・」

アニ   「腕力でごりごり押すんじゃなくて、動きがすごく速いの。あと敵の攻撃に対して瞬時に対策を打ち出したり」

ベニオット「それは・・・、連れて帰ってくるべきだったんじゃないか?」

アニ   「死にそうになりながらでも周りを守る事もあたしを守る事も忘れないで、最後まで諦めなかった」

ベニオット「重要な戦力じゃないか」

アニ   「ダメだよ。恋人がいるもん」

ベニオット「なんだ、失恋したのか」

アニ   「・・・っ! どっちみち生きる世界が違うんだから叶う恋じゃないよ」

オティス 「ねね、アニちゃん、だ、だ、誰?! その・・・、もしかして、れんた・・・」

アニ   「お姉ちゃん!! 美味しいサバの味噌煮、作ってあげるね!!」

キバイラ 「ほなここらでさいならや」

オティス 「あぁ」

キバイラ 「次逢うた時は敵や。変な情持ち込んだら遠慮せんと叩き切るさかいな」

オティス 「それはこっちのセリフだ」

キバイラ 「次の邂逅まで、あんじょうやりや」

 

 

 

ベニオット「お土産も多いな?知らんものばかり入ってる」

ヴラドニア「おせち・・・だったかしら?いいの?私達も頂いてしまって」

オティス 「みんなで食べたほうがおいしいよ」

アニ   「そうだよ! はむ、むぐ・・・おいしい」

ヴラドニア「変わった味ね? 小魚を甘辛くするなんて、向こうの世界の人も面白いことを考えるのね」

アニ   「蓮太郎さんのごはん・・・もう、いっしょにはつくれないんだ・・・ぐす」

オティス 「思い出しちゃうよね。うん、いい人達だったね」

ヴラドニア「え、え!? どうしたのアニさん! キバイラの発言といい、向こうで何をしてきたの!?」

オティス 「素敵な人たちだったよ。ちゃんとヴラドニアたちにも教えるから」

ヴラドニア「そう・・・素敵な人に出会えたのね」

アニ   「うん、うん。とっても、とってもいい人たちだったよ。怖かったりもしたけど・・・みんな、笑顔のままでいてほしいなって思う」

ベニオット「うわなんだこれ!酸っぱいな!本当に人の食べ物か?」

アニ   「蓮太郎さんはそんなに無神経じゃなかったし・・・」

ベニオット「俺はいったい誰と比べられて詰られてるんだ?」

オティス 「がんばれベニオット、蓮太郎はもっといろいろ気が利いたぞ」

ベニオット「だから誰だそれ!?向こうで何があったか知らんが、俺は――ん、オティス。肩のそれ、なんだ?」

アニ   「ひゃう!? お姉ちゃん、蜘蛛ついてるよ!!」

オティス 「え? うわ!! 気持ち悪っ!!」

ベニオット「は? お前らそんなに蜘蛛嫌いだったか?」

ヴラドニア「まぁ、結構大きな蜘蛛ね。金貨くらいはある――あら? 風で飛んで行ってしまったようね・・・」

アニ   「ううー!しばらく蜘蛛は懲り懲りだよー!」

 

 

ハルセル 「そうか、なるほど。長距離を飛べなかったので一旦私の所に来たのだね。賢い選択だ。蜘蛛の形で端末は小さくともきちんと情報を全て持ち帰るのは最重要事項となるだろうからね。あぁ・・・、安心するといい。もう間もなく彼女達はこのヒルブデリに来ざるを得ないだろう。その前に君を本体へ送り付けてあげるよ、ヴァンハーフ」

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