
ルイは鷹を呼ぶ
一次創作サークル
堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 9話 ~渇望(かつぼう)~
男性3 女性4 上演時間:90分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ
〇台本上演の利用規約について
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椿 (♀)(19歳)
大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。
蓮太郎 (♂) (19歳)
華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。
オティス (♀) (23歳)
300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。
アニ (♀) (12歳)
オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。
ヴァンハーフ (♂) (30歳)
君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。
威津那 (♀)(20歳)
ヴァンハーフの実験により殺生石より封印を解かれて覚醒した九尾狐。ヴァンハーフと協力し何かを企てているが現在その謀略の内容については判らない。性格は不遜で大変な我儘で自己中心的な上に堪え性がない。自身の目的の為ならば人間がどれだけ死のうが関係なく、女性は等しく皆己の餌だと言い張る。口調は古風な話し方で、命令口調が多い。炎系の魔法を使って攻撃する事が多い。
傷追人 (♂)(25歳)
どこからか逃げて来た様子の男性。遊郭内で今にも命果てようというところをヴァンハーフの端末となる事により一命を取り留める。何が原因で追われていて、どうして傷を負っているのか一切の詳細は不明。ただ、椿に対する偏った妄執の様な愛情がある為、椿は気味悪がっている。
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【配役表】
椿 (♀):
蓮太郎 (♂):
オティス(♀):
アニ (♀):
ヴァン (♂):
傷追人 (♂):
威津那 (♀):
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傷追人「人を愛した。ただそれだけの筈じゃった。今の時世惚れた者と共にあるは難しい。例えそれがどの様な身分であっても。だからワシは二度と逢えぬと言われようがもう一度逢わねば今生に悔いが残り成仏も出来ぬと逢いに来たのだ。若山遊郭、この男女が偽りの恋を綴る町といわれる場所で誠の愛を確かめる為にーーー」
威津那 「なんぞ? あの男随分弱っておる様に見えるが、この時間はもう客の男共は大門を閉められて出入りできぬ筈じゃが?」
傷追人 「畜生・・・、どこまでも蠅の様に付き纏いおって、鬱陶しい奴らじゃ」
ヴァン 「君は、随分くたびれた着物を着ているね」
傷追人 「誰じゃ、貴様! まさか、追手か!!」
威津那 「咎人(とがびと)ではないのか? まぁ、人の善悪など妾には関係ないが」
ヴァン 「追手、ね。追われているのかい? 助けが必要なら加勢するけど、どうかな」
傷追人 「加勢じゃと・・・? ・・・いや、今は特に、今回は逃げ切れた様じゃ」
威津那 「今回は・・・長らく逃亡する生活をしておった様じゃの。匂いも酷いわ、共犯者、こやつをどうする積もりじゃ」
ヴァン 「すぐに判るよ・・・ひと安心と言いたい所だが、怪我が酷いね」
傷追人 「ワシの命運もここまでか・・・。ひと目、椿に逢いたかった・・・」
ヴァン 「椿・・・、その名はこの国には良くある名前なのか?」
傷追人 「おなごに花の名を付ける親は大抵子煩悩じゃ。そうでなければ季節や生まれた時間など適当じゃがな」
ヴァン 「女性の名前なんだね? では・・・、恋人かな?」
傷追人 「いや、ワシが逢いたいのは遊郭のおなごじゃ。美しく雪を分けて凛と咲く寒椿」
ヴァン 「華屋の花魁、椿で間違いないかな?」
威津那 「ほぅ・・・? 桃夭姫(とうようき)の香りに酔った男という訳じゃの?」
傷追人 「なんじゃ、そなたも知っておるのか」
ヴァン 「僕も彼女に迷う男の一人だよ」
威津那 「こやつだけではないぞ。椿、あの娘は妖の者、老若男女問わず香りで狂わせる」
傷追人 「椿と逢っている間は・・・、金蔓(かねづる)にされているなどと思いもしなかった」
威津那 「己の欲求の前に盲目になるは必然。致し方なかろうて、不憫じゃの」
ヴァン 「恨んでいるかい?」
傷追人 「いや? 恨んで憎んでしまえればきっとその方が楽じゃったろうな」
ヴァン 「恨むより愛情が勝っている、か」
傷追人 「じゃが、ワシにはもう華屋に登楼る金もなければ、伝手もない。生涯逢えぬ」
威津那 「空の財布は楼閣には用無しじゃろうて。じゃが、逢う手段が無い訳でもないと教えてやれ、共犯者」
ヴァン 「もしも逢えるとしたら何を伝えたい?」
傷追人 「金蔓(かねづる)としてでも良かった。今一度掻き抱き、接吻けをひとつ」
威津那 「ふむ、謙虚な事じゃな、妾には判らぬわ」
ヴァン 「出血が酷いね、これでは死んでしまうよ」
威津那 「逃げてここに参ったは良いがもう歩けそうにもあるまいて。放置すれば朝には転がる骸(むくろ)じゃ」
傷追人 「せめて・・・、道中を眺めたかったのぅ・・・、あの美しい姿で歩む八文字、裾から覗く白い足」
威津那 「あのちんたら歩く滑稽な奴じゃな? トロ臭い」
ヴァン 「諦めてしまうのは、勿体ないと思わないか?」
傷追人 「もう、目が霞んで上手く景色を捉える事も出来ぬ。そろそろ命も尽きよう・・・」
ヴァン 「僕が逢わせてあげると言ったらどうする?」
傷追人 「そなた、椿と縁があるのか?」
威津那 「縁があるどころか、桃娘は我等の手中にあると言っても過言ではないわ」
ヴァン 「まぁ、好まれているとは言い難いけどね。彼女はきっと誰も好んではいないだろうから」
傷追人 「互いに想うおなごは同じ、また傷を負う心も同じという訳か」
ヴァン 「今少し、生きて椿と逢って見るかい?」
傷追人 「可能ならばそうしたいが寿命と言うものは決まっているからな」
威津那 「諦めるは愚か者と脆弱な者と相場が決まっておる」
ヴァン 「僕と共に在るのならば生きて行けるよ」
傷追人 「どういう事じゃ」
ヴァン 「少しこの世界の常識とは違うので何とも説明はし辛いが――僕の命を少し分けてあげるというのが一番近いかな」
傷追人 「そなた、何者じゃ・・・。ワシは魑魅魍魎(ちみもうりょう)と会話をしておるのか?」
ヴァン 「そうかもしれないね。人と妖に境目があるとしたら、僕はその境目を歩く男だ」
威津那 「妾にしてみれば脆弱(ぜいじゃく)な癖に至高を唱える人間共の方が魑魅魍魎ぞ」
傷追人 「よかろう、本当に椿と逢えるのならば物の怪に魂魄(こんぱく)諸共(もろとも)差し出して見せようぞ」
ヴァン 「己を贄(にえ)にする事さえ厭(いと)わぬ愛情に祝杯を」
威津那 「良き判断ぞ? 傷追人よ」
椿 「もーーうげーんーかーいい!! もみじ屋に行って直接甘味が食べたいのーーーお!!」
蓮太郎 「ダメだ」
椿 「ぴぎゃーー!! たまにはあたしの我儘(わがまま)聞いてくれたっていいじゃんかー!!」
蓮太郎 「・・・たまには?」
椿 「そうだよ! 蓮太郎はいつだって勝手に行きたい所に行くし、心配したって全然気に留めてくれないし! 今回の敵が強い事も蓮太郎が必死なのも判ってるけど目の前であんな風に傷だらけで倒れられたりしたら! あたしにはどうもできないのに・・・、ぅ・・・、ひく」
蓮太郎 「え? なんで泣いてる?!」
椿 「甘いもの食べたい」
蓮太郎 「泣く程?!」
椿 「もみじ屋のおはぎ」
蓮太郎 「はー・・・、判って欲しい、椿。桃夭姫(とうようき)の血は前にも言った通り依存性が高い」
椿 「しらたまぜんざい」
蓮太郎 「敵が香りだけに引き寄せられているなら付け狙う可能性も微弱だと思う」
椿 「草餅」
蓮太郎 「けど、あの狐は椿の血の味を知っているんだ。あの仮面の男だって拉致した時に何をしたか判らない以上依存している可能性は否めないんだ」
椿 「みたらしだんご」
蓮太郎 「その危険性を全部考慮して注意を払っていても外出するのは賢い選択じゃない」
椿 「麩の焼」
蓮太郎 「しかも前回見た時あの駄狐の尻尾は八本に増えてた。伝説が本当なら九尾となる前段階だ」
椿 「葛餅」
蓮太郎 「もみじ屋に俺が買いに行っている間に椿が拉致されたらと考えると離れる訳には行かないんだ」
椿 「氷飴・・・、もう出てるかな?」
蓮太郎 「はー・・・、判った。けど、絶対に俺と離れない事と、危ないと思ったら途中でも帰る、約束できるか?」
椿 「うん! 約束する!!」
蓮太郎 「この状況でどうしてそんなに満面の笑みが出て来るんだ、全く」
オティス「いやー、我ながら完璧な作戦!正体を隠しつつ華屋を守る!うんうん、妙案だわ」
アニ 「これ本当にうまくいってるの?ていうかよもぎ仮面って何?」
オティス「拾った仮面が緑色だったので。町の人に聞いたらよもぎ色って言ってたじゃん」
アニ 「お姉ちゃんのそういうところ、何とかなってほしいんだけどなぁ」
オティス「もう、「オティスとアニ」じゃ華屋には近づけない、だからひとまずこうするしかない。そこは話し合って納得したじゃん」
アニ 「したよ?したけど・・・」
オティス「不満そう」
アニ 「結局、何が変わるのかなって。これで、華屋の人たちはお姉ちゃんのことひどい人じゃないってわかってくれるのかな」
オティス「変えなくてもいい。むしろ、他の世界なのに干渉が過ぎたのかもって反省してるくらい」
アニ 「でも、見過ごすのも嫌だよ」
オティス「昔から汚名を被ること、なかったわけじゃないし。ちょっと浮かれてたのかもな」
アニ 「え・・・今、浮かれてないの?」
オティス「物の怪見るみたいな目しないで!?こっちは大真面目なんだけど」
アニ 「なおさら性質が悪いよ!」
オティス「アニちゃんもノリノリだったじゃん。なんだっけ、杏仁豆腐?」
アニ あそこで全部ばらせるほど心強くないです!」
オティス「ともかく、ヴァンハーフと狐だよな。この間見たときは尻尾が8本だった、ならあと1回殺せばいいのかな?」
アニ 「完全体は尻尾が9本、だったよね?蓮太郎さんが言ってた」
オティス「そっちがなんとかなったとして、問題はやっぱりヴァンハーフだ」
アニ 「鬱陶しいよね」
オティス「アニちゃんを以てそんなこと言わせるのかあいつ・・・」
アニ 「搦め手ばっかり使うんだもん。使う魔法は、どれもこれもすごいとは思うよ?けど、使い方が嫌だ」
オティス「それに、シパオで見たあいつともちょっと違うよね?」
アニ 「うん・・・なんだろう、何か引っかかるんだよね」
オティス「調べないとね。放置したまま戦うには不安要素が大きすぎるし・・・う、わ」
アニ 「お姉ちゃん?何が――また死体・・・梅毒(ばいどく)、かな」
オティス「穴だらけになって・・・やっぱりおかしいよね、こんなに多いなんて」
アニ 「う、うん。蓮太郎さんからいろいろ聞いたけど、こんなに毎日毎日何人も死なないと思う」
オティス「躑躅ちゃんのこともあるし――うん!後手に回るの腹立ってきた!」
アニ 「そういいながら適当に動いても意味ないんだよ!?」
オティス「無策なもんか。ほらアニちゃん、あっちの方」
アニ 「えっ?えーと・・・あっ!気配感じる!」
オティス「まーた華屋にちょっかい出して。このよもぎ仮面が見逃すとでも思うたか!」
アニ 「・・・ほんとはそういうのやりたかっただけなんじゃ?」
オティス「そんなことないですぅー!さぁさぁ、不埒な輩にはご退場頂き御座候!」
アニ 「やっぱり言いたいだけだ!多分使い方も違うよそれ!」
椿 「でね、その旗本のお侍さん、えーっと確か名前が藤丸様だったかな? 三百両で身請けを切り出したんだって」
蓮太郎 「ん? 三千両でなくて?」
椿 「三百両だよ? もうお母さんたら五臓六腑煮えくり返ってるんじゃないかってくらい怒ってて」
蓮太郎 「華屋の身請けの相場を知らなかったんだろうな。他の中見世くらいならきっと何とか融通して貰えたかもしれないけど」
椿 「・・・加賀の、ぼんくら息子を思い出す、・・・なんて言って、さ」
蓮太郎 「・・・、そうか・・・。嫌な事思い出したな」
椿 「でも、もう終わった事だしね」
傷追人 「身請けとはそれ程に金の掛かる物なのだね。一つ勉強になったよ」
蓮太郎 「般若の、仮面・・・? 椿、後ろに下がれ」
椿 「え、蓮太郎? 刀握って・・・、どうしたの? 仮面被ってたら全部が全部敵だという訳じゃ」
傷追人 「そうとも、僕は敵じゃない。椿、君に狂ってしまった男の一人だよ」
椿 「あたしに狂った・・・?」
蓮太郎 「仮面を変えて別人を装った積もりか。身に纏う雰囲気が狐と共にいる男と同じだ」
椿 「え・・・、や」
蓮太郎 「大丈夫だ、ちゃんと守る」
傷追人 「気に入らないね、彼に守られている、彼を頼っている、身を寄せている、君はあんなにも僕を愛してくれたじゃないか」
椿 「何を・・・、言っているの? 愛した・・・? あたしが?」
威津那 「ふむ。共存同期とはこういう事であったか」
蓮太郎 「狐・・・っ!! やっぱりか!」
威津那 「何がやはりなのかは存ぜぬが、そなた桃夭姫(とうようき)の味を知っておるな? それ程に執着して守るとは」
蓮太郎 「知ってても知らなくても椿は俺が守る。お前達には二度と触れさせたりしない」
威津那 「よいよい、隠さずとも。桃夭姫(とうようき)の愛は美味いか? 甘いか? 馨(かぐわ)しいか? 潤いは豊かか? のう、小童(こわっぱ)そなたもあの天狗の力を持っている以上我等と同じく化け物じゃ」
椿 「・・・え?」
蓮太郎 「・・・っ! 黙れ」
威津那 「知らなかったのじゃなぁ桃娘。この町の守護神でもあった天狗の力を貰ってその小童(こわっぱ)は化け物と契約しおったのよ」
蓮太郎 「黙れ!!」
威津那 「本来ならば桃娘を抱きとうて仕方あるまい? 血を啜りたくて仕方あるまい? のう? 口吸いで僅かに得られる妖力だけではもう我慢もなるまいよ? いつまでそのやせ我慢が続くかのぉ?」
傷追人 「口を、吸ったじゃと? 椿、そなた口吸いは誰にも赦してはおらぬと申してはおらなんだか?」
椿 「・・・っ?! 口調が・・・、変わった・・・? どういう事なの?」
威津那 「そやつは共犯者であり共犯者ではない」
ヴァン 「勿体(もったい)ぶる気はなかったけど、そんなに簡単に種を明かして貰っても困るね」
蓮太郎 「仮面の男が、二人? 本体はそっちか!」
ヴァン 「さて、本体とは一体何を以って本体と言うのかな? 僕が本体? いいや、違うね。元々この僕は捨て駒だ」
蓮太郎 「・・・、搖動(ようどう)か、そう言う積もりなら三人纏めて切ればいいだけの話!! 『柳葉菜居合(あかばないあい)』・・・」
オティス「簡易版『七天穿つ極座の蠍(セブンフィール・アンタレス)』!!」
椿 「きゃあ?!」
蓮太郎 「椿、大丈夫か?!」
椿 「だ、大丈夫、衝撃でちょっと足元ふら付いただけ・・・」
オティス「悪の声を聞いてよもぎ仮面!! 風と共に参上!!」
蓮太郎 「?! ぷふっ・・・、ふひひひひっ・・・」
椿 「蓮太郎?! 何笑ってんの?! 戦闘中でしょう?!」
アニ 「杏仁豆腐参上!!」
蓮太郎 「不謹慎なのは判ってる! ぶふっ! ダメだ力が抜ける、あはははは」
威津那 「共犯者!! 奴らじゃ! ようやく原典等が戦線離脱したというのに、何やら正義を振りかざして原典と似た技を使いおる!」
椿 「え、嘘でしょう?! 本気で信じちゃってるの?!」
ヴァン 「威津那・・・、正気かい? 君は」
威津那 「妾に何を聞いておるのじゃ!」
オティス「そこの狐と仮面の男は私に任せて! 君達は逃げなさい!」
蓮太郎 「仮面の男はどっちの?」
オティス「どっち・・・? って、増えてるーーーー?!?!」
椿 「そっちも驚いてるの?!」
アニ 「お姉ちゃん、蓮太郎さんが笑い過ぎて戦闘不能だよ?!」
オティス「どこに笑う要素があったんだ?! はっ! 私はお姉ちゃんではなくよもぎ仮面だ!」
ヴァン 「ふむ、隙を見て連れ去ろうとは思ったのだが椿は少年から離れる気はなさそうだね」
傷追人 「そこの男、椿から離れよ!」
蓮太郎 「・・・、お断り致します。その様に抜身(ぬきみ)の剣を構えて椿にどんな危害が加えられるか判らない」
椿 「蓮太郎、もみじ屋諦める。帰ろう?」
オティス「それがいい! この場は私が引き受けた! 来い! 貴様ら悪は私が相手だ!!」
蓮太郎 「椿、走るぞ!!」
椿 「うん!」
蓮太郎 「甘味、食べなくても良かったのか?」
椿 「ぜぃ・・・、はぁ、は、は・・・、ちょ・・・、ま・・・・・・、はぁ・・・っ、は」
蓮太郎 「ごめん・・・、走り過ぎた。抱えた方が良かったか。台所に行こう、水飲んで落ち着かないと」
椿 「にゃっ! 抱っこ・・・、された。・・・蓮太郎、力強いよね」
蓮太郎 「・・・うん、今は・・・。戻るかどうかも判らないけど」
椿 「そんな不安そうな顔しないで? あたしは蓮太郎が何であっても好き」
蓮太郎 「気に、ならないのか?」
椿 「んー・・・、元々普通の若衆でない人がちょっと変な力持ったらどうなるの?」
蓮太郎 「そうでした」
椿 「それに、あたしが妖怪達の餌・・・、桃夭姫(とうようき)だって言っても蓮太郎は変わらないでいてくれたじゃない?」
蓮太郎 「奴等には絶対渡さない」
椿 「うん、あたしは蓮太郎の傍に居たいもん」
蓮太郎 「そうだな台所に山椒味噌が余ってるから簡単に麩の焼を作るよ」
椿 「麩の焼! 蓮太郎の麩の焼は優しい味がしてとても美味しいの」
蓮太郎 「そっか」
椿 「あの・・・、般若の仮面の人・・・、怖い、って言うかなんか気持ち悪くて・・・。傍に居たくなかった」
蓮太郎 「それは? 狐や元の仮面の男が怖いのと何かが違うのか?」
椿 「うん、違う。あたしが、あの人を愛した、みたいな事言ってたでしょう? それが引っ掛かってるの」
蓮太郎 「勘違いだろう?」
椿 「うん、そうなんだよ。勘違いなの、でも仮面被ってるから良く判らないけど、きっとあたしを知ってる人じゃないかな?」
蓮太郎 「椿を知ってて、愛してる・・・。・・・、あ、なんか腹立って来た」
椿 「そうじゃなくて!」
蓮太郎 「客じゃないのか?」
椿 「おきちゃが? 仮面被って? あの人達と? あたしを付け狙うの?」
蓮太郎 「キバイラさんが言ってた。あの仮面男は人を端末化するって」
椿 「た・・・、端末? な、何? それ」
蓮太郎 「俺も良くは知らないけど、彼らの元の世界の物じゃないかと思う。『端末』、人の身体を乗っ取って自分と意識を繋いで何人もの人間を操ったり情報を得たりするのが目的らしい」
椿 「それって・・・」
蓮太郎 「多分元は人間だ。だとするなら椿の客であった可能性が高い」
椿 「おきちゃが・・・、あたしを恨んで、化け物になって仕返しに来たの? 嘘みたい・・・、怖いよ」
蓮太郎 「大丈夫だ。確かに仮面の男はその『端末』にされたんだろうけど、力量はそれ程でもない。守れるよ」
椿 「本当は、夜も怖くて眠れないの・・・、蓮太郎と一緒に寝たい」
蓮太郎 「それは俺がキツイ。眠れる自信がない」
傷追人 「せいや!」
オティス「甘い甘い!剣捌きは完全に素人のそれなんだけど・・・おっと!不意打ちは卑怯だぞっと!」
威津那 「っち、すばしっこいな?妾の炎をこうもあしらうとは!」
オティス「周りの攻撃が鬱陶しいな。ちょこまかと、うねうねと!」
ヴァン 「地を這う魔の鎖だよ。まだ力を十分につかめていないね?大丈夫、今の君は誰よりも強いはずだ」
傷追人 「そこを退けぃ!行かねば、逢わねばならぬのじゃ!」
アニ 「防御魔法!気を付けてねお姉ちゃん!」
オティス「キャリコの時と同じだろ?途方もない力を植え付けられたって、使い方がわからないんじゃ持ち腐れだ!」
ヴァン 「いいかい。想像するんだ、最強の自分を。すべてを切り伏せる、ねじ伏せる自分の姿を」
傷追人 「邪魔を、するなああああ!!!」
オティス「ちょっと弱めに、簡易版『狼王失墜(バスタード・フェンリル)』!!」
傷追人 「ぐううう!?」
威津那 「なかなかやるではないか、よもぎ仮面!」
オティス「君に褒められてもうれしくないね!」
ヴァン 「無詠唱か・・・恐れているね」
オティス「何をだ!」
ヴァン 「また、殺すのかい?」
オティス「っ!?」
ヴァン 「その「彼」は、どうだろうね。僕の端末か、それとも恋慕に狂ったただの傷追人か」
アニ 「傷追人、さん・・・」
ヴァン 「命を奪う覚悟もなしに、ここにくるべきではないよ」
オティス「は、はは、ばーか。そんなことをしに来たんじゃないよ、私は!」
威津那 「ならば何を為すのじゃ、よもぎ仮面!殺す覚悟がないというのなら何故ここにいる!」
オティス「決まってんだろ!もう誰も殺さなくていいようにここに立っているんだ!」
威津那 「戯言(ざれごと)を!ならば精々守って見せよ!猛り狂え、叢原火(そうげんび)!!」
オティス「天にこそ虹は輝けり!彼方に続く円環(えんかん)の理を知れ、これこそが新たなる原点の剣となる!」
威津那 「舞い踊る炎よ!妾の手に集え!『狐火創弓(きつねびそうきゅう)・穿(うが)て焔矢(えんし)』!!」
オティス「ダンスナンバーなら他所でやってろ!『七色覆いし蒼天の剣(セブンカラーズ・レイヴンダガー)』!!」
威津那 「ぐ、うううう!相殺とはな・・・しかし!」
ヴァン 「下がるんだ、威津那。巻き込むよ」
アニ 「お姉ちゃん!大きいのがくるよ!」
オティス「もう一発・・・いや、ここは変えるか」
ヴァン 「小手調べだ。『盲目故の恋人殺し(デッド・オブ・オライオン)』」
オティス「神話の矢がなんだって話だ!『七重留めし友殉の盾(セブンレザーズ・ランサーブレイカ)』!!」
ヴァン 「なるほど、受けるではなく逸らすか。町へも自分へも被害がない――勘が鋭いのは相変わらずか」
傷追人 「まだ終わっておらぬわ!」
アニ 「行かせないよ!三連魔法弾!」
傷追人 「な!?くそ、この!」
ヴァン 「なるほどね。君はこの世界と完全には繋がっていないようだ。どこで得たのかな?その魔力は」
オティス「こっちもその場しのぎなんだ、あんまり暴れないでもらいたいんだけどね!」
アニ 「お姉ちゃん、気を抜かないで!数が数なんだから!」
傷追人 「そっちのおなごから切り捨ててくれるわ! でいやーっ!!」
アニ 「そう来るよね!アニ式・挑発ミラージュ!」
傷追人 「き・・・、消えたじゃと?! そっちか、そやーー!! 己ぇ!! ちょこざいな!!」
アニ 「なんか使わなくてもよかった気がするけど! ともかくくらえ! 特大魔法弾ー!!」
傷追人 「ぶふぉぅおわ?! ぐ・・・、ぐぅ・・・、やりおるな・・・、ワシは椿に逢わねばならぬのじゃ、そこを退けい!!」
オティス「最強の自分を想像、ね。指導としては上々。けど想像力が必要って前提は理解してるかな?」
ヴァン 「・・・なるほどね。僕とした事が、失念していたよ」
オティス「ない尻尾は振れない、ってね!」
傷追人 「べふぅ!?こ、転ばされた!」
威津那 「妾をその男と比較するでない! 妾は尻尾があるのじゃ! 八本も!!」
ヴァン 「少し改める必要があるかな。君に肉薄すらできないとなれば、再調整が必要だろう」
オティス「そのまま大門から出て二度と帰ってこなくてもいいんだぜ!この町から去るがいい、悪の手先よ!」
アニ 「あ、今設定思い出した?」
オティス「このよもぎ仮面ある限り、若山に手は出させない!」
傷追人 「えぇい、放せい! ワシは帰らぬ、このまま華屋にっ・・・う、ぐ・・・」
威津那 「延髄打ちじゃ。おとなしくせぃ。帰るぞ共犯者。こやつを使えるようにするのに妾が手を貸そう」
ヴァン 「ようやく協力関係が築けそうで嬉しいよ」
傷追人 「くそぅ・・・、ワシは椿に逢わねばならぬと言うに・・・、何ゆえ皆邪魔をするのじゃ」
威津那 「使えぬ男よ。醜態を晒しおって、みっともない」
ヴァン 「出来ないことを叱咤するのは簡単だよ、威津那。彼は人なりの優しさを持っているのだから、方法は選ぶべきだ」
威津那 「共存同期などと中途半端な事をするから失敗するのじゃ」
傷追人 「失敗・・・? ワシが何を失敗したと申すか! ワシは、ワシは何も失敗なぞしておらぬ! 何ゆえ・・・」
威津那 「さてはそなた、なんぞ失敗を晒して咎人(とがびと)となりおったな?」
傷追人 「何がいけなかったのかも判らぬ、どうすれば良かったのじゃ。ただ、共にいて笑顔を見たかっただけなのに」
威津那 「望みを叶える為には力を手に入れねばならぬ。のう? 傷追人、中途半端な優しさなど棄ててしまえ」
ヴァン 「それを奪っては僕の計画が台無しになるということは理解してもらっているのかな?」
威津那 「ほぉ・・・、つまりは端末半分人半分として更なる罪をあの原典に重ねさせようという魂胆か」
ヴァン 「そう・・・、彼女は人を殺す事を恐れている。ただの罪のない人を殺す事をね」
威津那 「そなたが残り半分の人である部分を残すというならば残せばよい。肉体は人であれ」
傷追人 「のう、教えてくれ、どうすれば椿に逢える。椿に逢いたいのじゃ、逢って愛したいのじゃ」
威津那 「抜かせ愚か者。愛などと巧言(こうげん)令色(れいしょく)で隠すでない。そなたの騙(かた)る愛の事実は欲望じゃ」
傷追人 「欲望?」
威津那 「そなた、桃娘を組み敷いて犯したいと考えておろう? 口を吸い、着物を剥いで獣の様に雄の本能のまま肌を合わせたいと考えておろう?」
傷追人 「それは・・・っ!」
威津那 「反論出来ぬようじゃな?」
傷追人 「わ、悪いか! 惚れたおなごを抱きたいと思って何が悪い!!」
威津那 「良し悪しではないわ。雌雄(しゆう)の生存本能じゃろうが、妾の知った事ではない」
傷追人 「抱きたい、触れたい、掻き抱いて離したくはない! 椿を愛したいのじゃ!」
ヴァン 「それの何が失敗となり、咎人となり追われる身となったのか・・・実に興味深い」
威津那 「はぁ、貸し一つだ共犯者。妾の力をこのようなことに使わせるなど」
ヴァン 「助けはいるかい?」
威津那 「要らぬわ愚か者。傷追人よ、良く聞け」
傷追人 「な、なんじゃ・・・? ワシをどうするというのじゃ?」
威津那 「人の理性を葬り去れ。それが邪魔をしておる。己が欲望を満たしたいのじゃろう?」
傷追人 「穢れた言い方をするな! ワシは・・・、ワシは」
威津那 「ただの人間では万全たる力が出せぬ、駒にすらならんわ。ならば力を与える他あるまいて」
傷追人 「なんじゃ・・・? 頭に靄(もや)が掛かって・・・、ぐぁっ! あが、ぁ・・・、がああっ!!」
威津那 「初めから、理性などを生かしておくから手間取るのじゃ。人の常識を殺す」
傷追人 「あ・・・、がぁああああ、頭が! 頭が割れる様に痛い! 痛い!! 痛いぃ!! うがぁああ!!」
威津那 「傷追人よ・・・、桃娘を好きに凌辱して来い。幸い桃夭姫(とうようき)はどれだけ男の精を受けようが、どれだけ人に触れられようが決して穢れぬ奇跡の果実。思う存分犯して、己の欲望をぶつけ暴虐の限りを尽くして来るがよい」
ヴァン 「余り乱暴な事をしてしまうと実験結果に影響が出るよ?」
威津那 「その程度の暴虐で失敗する実験なら最初から成功なぞ望めぬわ。そなたの絡新婦(じょろうぐも)の力を借りるぞ」
傷追人 「何をするのじゃ!! ぅがああああああ!!」
威津那 「なあに、心配することはあるまいて。精々そなたの意識が内側から食いつぶされるだけ。呪いの負荷で自我が崩壊し気が狂うかもしれんが、構わぬ。安心して壊れるがよい」
傷追人 「あ、ぅあ・・・そん、な。蜘蛛に、内側から? 喰わ・・・、やめ・・・、あ、が・・・」
威津那 「さらばじゃ、傷追人(きずおいびと)――『黄泉堕(よみお)とし』」
傷追人 「うがあぁあぁあぁあぁあ!! あ・・・、あ、椿、椿に逢わねば、逢ってどうする? 逢って・・・、ふはっ、はは・・・」
威津那 「上々じゃ、疾(と)く行って参れ」
アニ 「ねぇ、お姉ちゃん。あの人、あの凄い怖そうな仮面被った人・・・、昨日の人じゃない?」
傷追人 「ワシは逢わねばならんのじゃ・・・、椿に逢うて、ひ、ひ・・・、着物を剥いで、そうじゃ、良いぞ、フハ」
アニ 「けど、なんか雰囲気がおかしい・・・。なんだろう? なんか、昨日とはまたちょっと違う」
オティス「どこに向かってるんだ? あの方角は華屋、か・・・、行くよ。杏仁豆腐」
アニ 「今その設定要らない」
ヴァン 「行かせないよ、アニ。『主を貶めし画策(ゴルド・ディーテ)』」
アニ 「うひゃあ?! やぁ! 足がべたべたする! もう! そういう搦め手が鬱陶しいの!」
オティス「アニちゃん!!」
アニ 「はっ、名前呼んで貰えた!!」
オティス「あ!杏仁豆腐!!」
アニ 「言い直した?! もう、どっちでもいいよ!! お姉ちゃんは先行って!」
威津那 「果敢な判断じゃの? そなたの血は美味いか? 確か生娘じゃの? ん?」
オティス「杏仁豆腐を置いて行ける訳ないだろう! それならここで一戦構えるだけだ! 来い! このよもぎ仮面が相手仕る!」
ヴァン 「その茶番に付き合う意味を感じないし珍しく興味がないんだ。原典、いいのかな、彼を放っておいて」
オティス「なんでバレてるの・・・?」
威津那 「上手く足止めをしておれよ、共犯者。妾はあの傷追人に付く」
オティス「二手に分かれるなんて卑怯な!でも、華屋には蓮太郎もいるし、あの超怖い仮面の男なら」
ヴァン 「あれは般若の面と言う仮面だよ。多くは女性の怨恨や憎悪、妄執を表現したものらしい」
オティス「そうなんだ?! 良く知ってるね、ってちがーう!!」
アニ 「お姉ちゃん行って! 何か企んでるのに放置したらダメだよ!!」
オティス「・・・っ! 判った。アニちゃん、後で必ず助けに来るから、死んだらダメだよ!」
アニ 「魔力フルチャージ!超々巨大魔法弾!! 行っけえー!!」
ヴァン 「おっと、その程度の技を大人しく喰らうと思っているのかな? 君はまだ考えが非常に稚拙(ちせつ)だ」
アニ 「そんな事知ってるよ! あの狐さんと般若の仮面の人放って置く事は出来ない! あなたはあたしを足止めしたかったんでしょう?」
ヴァン 「そうだね? 僕は君に少しお礼をしなければならなくてね」
アニ 「こう言う時のお礼がろくでもない物だって事は判るよ。でも、個人的な恨みを買った覚えもないんだけど!」
ヴァン 「いいや? 君が知らないだけだ。僕は・・・、アニ、君をよく知っている積もりだ」
アニ 「あたしを知ってるから何? 関係ないよ! あなたはヴァンハーフであたしはお姉ちゃんの仲間だ! あなたは敵だ!」
ヴァン 「勿論まだ種明かしをする積もりはないんだけどね。ヒントをあげよう」
アニ 「要らないって! 言ってるでしょう?! あなたが敵なら倒す! それだけだ!」
ヴァン 「僕を倒せる気で居るのかな? 君が」
アニ 「力の差が歴然としてる事くらいは判ってる! よし、蜘蛛の糸切れた!」
ヴァン 「口先だけだと思っていたら先の事も考えていたんだね。素晴らしいよ」
アニ 「あなたに褒められても嬉しくない! じゃあね! あたしは華屋に行くの!」
ヴァン 「一つ教えてあげよう、プリメロの復興は順調だよ。君のお父さんの友人が町長となって立て直している」
アニ 「・・・へ? なんで・・・、あなたが・・・、そんな事知ってるの?」
ヴァン 「足を止めてはいけないよ? せっかく蜘蛛の糸を切らせてあげたんだ。大好きなお姉ちゃんの所に行きなさい」
アニ 「何? なんなのよ! 行くなって言ったり行けって言ったり! 意味が判らない!!」
ヴァン 「どう動くのも君の自由という事だよ。僕は束縛が好きではなくてね」
アニ 「・・・、なんか、良く判らないけど・・・、あなたは絶対倒すから!!」
ヴァン 「そう・・・、植え付けた不安をそのままに、君は今後も戦えるかな? アニ」
椿 「こしあんと粒あんってどっちが作るの大変なの?」
蓮太郎 「工程が一つ加わるからこしあん。でも大した差はないよ?」
オティス「悪の匂いを嗅ぎつけてよもぎ仮面ここに参上!!」
蓮太郎 「・・・、今の所誰も来ていませんが?」
オティス「なんて事だ、私としたことがフライングしてしまった! って言うか見掛けてから来るの遅くない?!」
椿 「くす・・・、オティスさん、もう、仮面外してもいいでありんすよ。こんなにしてまで助けてくれて・・・、わっちは感謝しておりんす」
オティス「椿ちゃん・・・」
椿 「牡丹姐さんに逢えるように段取りを組ませて戴きんす」
蓮太郎 「またそんな安請け合いして、牡丹花魁が頑固なのは知ってるだろう?」
傷追人 「椿!! 逢いに来たぞ!! 出て参れ、椿!! 椿――――!!!」
椿 「・・・っ?! い・・・、今の声・・・」
オティス「・・・蓮太郎、助太刀頼む。般若の仮面を被った男だ」
蓮太郎 「判りました。椿を一人で置いておきたくないので連れて行きますが大丈夫ですか」
オティス「そうだね、椿ちゃんを狙っているのは一人じゃない。連れて行くのが安全だと思う」
蓮太郎 「椿、俺の傍(そば)から離れるな」
椿 「う・・・、うん」
オティス「なんだ? 男の人達が玄関で止めてる」
椿 「本来おきちゃでもない方が見世に登楼る事は出来んのでござんす」
蓮太郎 「ダメだ! あいつ力が強くなってる!」
傷追人 「えぇい! 邪魔をするでない!! 椿に逢いに来たのじゃ!!」
椿 「嘘・・・っ?! 腕に覚えがある筈の妓夫(ぎゆう)があんな風に突き飛ばされて・・・っ! 血、が」
傷追人 「邪魔じゃ!! 退けーい!! 椿―! 椿! 出て来い!!」
オティス「頭がひしゃげて・・・、馬鹿力め! 外に出さないと大変な事になる!!」
傷追人 「邪魔だと申しておるに!! 退けーい!! 迎えに来たぞ!! 椿! そなたを迎えに来た!!」
椿 「・・・っ?! は・・・、むか、え・・・、ぅあ・・・、いや・・・、まさか・・・、まさか?!」
オティス「蓮太郎!! 椿ちゃんを連れて玄関から外に出るんだ!! 奴に見えるように!!」
椿 「ぃいやあぁあぁあ!!」
蓮太郎 「大丈夫だ!! 守るから、抱えるぞ」
椿 「やだ、離さないで、蓮太郎、やだ、怖い、いや、いや・・・っ!! あの人」
蓮太郎 「判ってる!! しっかり掴まって、走るぞ!!」
傷追人 「椿ぃ!! ようやく出て来たな? その男、前にも見たぞ? 何ゆえそれ程に気安く椿に触れるか!!」
オティス「椿ちゃん・・・、怖がり方が異常だ・・・、知り合いなのか?」
アニ 「お姉ちゃん!! およ? 仮面外してる!!」
傷追人 「許さぬぞ! 椿を放せぃ! 椿はワシの物じゃ、ワシが連れ帰る」
蓮太郎 「お断り致します。オティスさん、アニさん一瞬だけ椿をお願いします」
椿 「嫌! 蓮太郎、やだ、離れないで!!」
アニ 「大丈夫だよ、椿さん、蓮太郎さんに考えがあるんだよ、信じてあげて!!」
蓮太郎 「正体を明かせ! 『柳葉菜居合(あかばないあい)・落葉一重切(らくようひとえぎり)』!!」
傷追人 「ぐぁ・・・っ!! か・・・、仮面が」
威津那 「早々に現れたのか、共犯者は何をしておったのじゃ、どいつもこいつも役立たずめ!!」
アニ 「仮面が、割れた!!」
椿 「い・・・、や・・・、いやあぁああぁあああぁあああぁああああぁああ!!!」
アニ 「椿さん?! どうしたの? そんな悲鳴あげて」
蓮太郎 「何故、あなたがここに居る!! 加賀(かが)・・・、鬨(とき)衛門(えもん)!!」
傷追人 「何故じゃと? ワシは椿に逢いに来たのじゃ!」
椿 「どうして? なんで? もう一年も前の事でしょう? 改易になったでしょう? 切腹、した・・・って」
アニ 「改易? 切腹って・・・、何?」
蓮太郎 「罪を犯した家は家財全て没収されて地位を剥奪(はくだつ)されます。そして家名を継がせない様に男児は全て自害を言い渡される。通常切腹と言う自害の儀には介錯人(かいしゃくにん)が三人配置されるので逃れられる筈がないんです」
オティス「つまり、彼はもう1年前に死んでいる筈なんだね?」
アニ 「どういう事なの?死人を蘇らせる事が出来るの?」
オティス「逃げた可能性はないの? 蓮太郎」
蓮太郎 「切腹の儀に於(お)いて、武士として逃げる事は生き恥を晒すのと同じ、志として逃げたりはしません。ですが万一逃げたとして、逃亡は罪に値しますので三人の介錯人が切り捨てます」
アニ 「儀式が・・・? じゃあその儀式になる前には逃げられるんじゃない?」
蓮太郎 「可能性はあるでしょう。ですが・・・」
椿 「切腹を命じられて逃げる? なんで・・・? もう、あなたのしている事の意味が判らない! それじゃあ、あなたの犯した罪を贖(あがな)うのは一体誰なの?! お父様に罪を全部擦り付けて! お母様だって亡くなった筈でしょう?! 罪を犯した当の本人がなんで生きてるのよ! 武士としての志も心得も恥も外聞もかなぐり捨てて、何一つ学ばずになんでそこにいるのよ!!」
蓮太郎 「椿! 落ち着け」
傷追人 「ワシはそなたを迎えに来たのじゃ。のう椿、ワシと共に来い存分に愛し合おう、椿」
ヴァン 「彼の夢を叶えてあげてはどうかな? 椿」
オティス「お前・・・、こんな非道な真似が良く出来るな! 言え! 彼は端末なのか、人間なのか!」
ヴァン 「人間なら彼の夢を叶えさせてあげるとでもいうのかな?」
オティス「質問に質問を返すな! やり口が卑怯なんだよ! 人の弱さに付け込んで!!」
椿 「オティスさん、斬れるなら斬って!!」
オティス「・・・え?」
アニ 「椿さん・・・?」
椿 「この人が例え人間であっても端末であっても罪人。ここで生き延びても死罪確定なんです。見せて下さい、この人がちゃんと死ぬのを」
アニ 「死ぬのが、見たいの・・・? 椿さん? どういう事?」
オティス「・・・判った。蓮太郎、椿ちゃんを支えててあげて」
蓮太郎 「はい」
アニ 「お姉ちゃん?! いいの? あたし達何も知らされてないんだよ?!」
傷追人 「また、そなた椿にくっつきおって許さぬぞ、許さぬ!! そこを退けーい!!」
オティス「この世に、救済があればいいんだけど。『一閃・海裂きの号令(モー・ゼ・カットアウト)』!」
傷追人 「がぁ・・・っ!」
アニ 「判らないよ、お姉ちゃん! あたし、なんにも判らない! もっと他に方法なかったの?!」
蓮太郎 「他にも方法はありますよ」
アニ 「じゃあどうしてその方法を取らなかったの?」
蓮太郎 「奉行所に突出し法の裁きを持って、市中引き回しの上打ち首獄門にさせる」
アニ 「それって・・・、どういう事?」
蓮太郎 「罪人に縄を掛け町中を引き摺り回します。町人は唾棄(だき)するでしょう、石を投げるでしょう。冷たい視線で陰口を言うでしょう。その後刑場で斬首刑(ざんしゅけい)になり、身体は刀の試し切りに使われ、首は棒に建てられ晒されます」
アニ 「そんな・・・っ! そんな、酷い事を・・・、するの?」
蓮太郎 「それだけの重罪を犯しているんです、この人は」
オティス「アニちゃん、納得できなくてもその町のやり方って言うものがある。こうする事がきっと最善だったんだと思う」
アニ 「難しいん、だね・・・」
威津那 「ふぅ・・・、妾が黄泉堕としまで使ったというのに全く役に立たなかったのぉ、どう責任を取るのじゃ共犯者」
ヴァン 「そうだね。彼を切る事に寄って原典の壁を越えさせてしまったね。これ以上ここに留まる事に意味はないよ、帰ろう」
アニ 「待って!」
威津那 「なんじゃ? 小娘、とんでもない剣幕じゃが何かしたのか? 共犯者」
ヴァン 「さて、何もしていないよ。ほんの少し話をしただけだ。思い出をね、少々」
アニ 「プリメロにいた頃のあたしに、あなたの記憶なんてない!」
ヴァン 「そうか、薄情だな。僕は忘れた事はないよ。思い出語りがしたければ僕の所に来るかい? アニ」
オティス「アニちゃん! 口車に乗せられたらダメだ!」
アニ 「判ってるよ! 判ってるけど! プリメロはあたしの大事な故郷なんだよ、あなたの口からプリメロの名前を聞きたくない!」
ヴァン 「振られてしまったね、残念だ。真実を知った時の君の顔を見るのがとても楽しみだよ、アニ。ではまた」
アニ 「また・・・、次こそはあなたを倒すから!」
威津那 「あな恐ろしや・・・、さらばじゃ。『伏見(ふしみ)・雲隠(くもがく)れ』」
アニ 「絶対に、許さないから!」
蓮太郎 「椿、もう泣くな・・・、もう死んでる。もう襲ってきたりしないしなんなら、燃やしてしまう事も出来る。改易になった上に一年以上経ってる今では人別帳にすら名前は残らないんだ」
椿 「もしかしたらって・・・、思ったの・・・。本当は、ほんの少し期待をしてしまったの」
アニ 「期待・・・? って、椿さん?」
椿 「死にきれない程の想いが一体なんだったのか。でも、死ぬまで一度も名前を呼んでくれなかったね・・・」
アニ 「え・・・? 名前? ずっと呼んでたよ?」
椿 「燃やせるなら、燃やして・・・。お願いできますか? オティスさん。もう二度と、思い出したくない・・・」
アニ 「椿さん、どうしてそこまで徹底して非道になれるの? あたしには判らないよ!」
蓮太郎 「アニさん、これは椿が乗り越えるべき壁なんです。今は判らなくても、その内判る日がきっと来ます」
オティス「判った。フレイム」
椿 「さようなら・・・。お兄ちゃん」
アニ 「え・・・? お兄ちゃん・・・?」
椿 「わっちは八つの時、ここに売られて来んした。その時この兄鬨衛門は十四でありんしたが、たった十一年の歳月で妹がいた事も忘れわっちの客としてここに来たんでありんすよ」
オティス「客って・・・、え、客って、それは・・・」
椿 「ごめんなんし・・・、それ以上はもう。出来るならこの話はお忘れになってくんなんし・・・。失礼致しんす」
アニ 「ねえ、お姉ちゃん・・・。お客って・・・そういうことなの?」
オティス「そう言う事だよ。椿ちゃんはずっとお兄さんを求めていたのに、そのお兄さんは椿さんを欲望の道具にしたんだ」
アニ 「・・・っ! 謝らなきゃ! あたし」
オティス「待って、アニちゃん!! 今はまだ、そっとしておこう」
アニ 「けどっ!」
オティス「蓮太郎がきっと、きちんと支えてくれるはずだから、自分の贖罪(しょくざい)の為だけに人の傷を抉ったらダメだよ」
アニ 「・・・ねぇお姉ちゃん」
オティス「ん?」
アニ 「あたし達、この町を救えるかな?」
オティス「判らないよ。でも出来る限りの事をしよう? そうでなければここに来た意味がない」
アニ 「うん。頑張るよ、あたし・・・、みんなの笑顔、見たい。だから・・・、精一杯頑張る」
オティス「・・・そうだね。もう、誰も悲しませない。私がここに来たのは、そのためだろうから」
一次創作サークル ルイは鷹を呼ぶでは「花魁道中いろは唄」
のゲーム制作にあたり皆様からの支援を募っております。
台本をご利用し、ご支援をいただければ幸いです。