top of page



堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 6話 ~相克(そうこく)~
男性3 女性4  上演時間:90分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ

〇台本上演の利用規約について

 下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。

 https://call-of-ruitaka.fanbox.cc/posts/1761504

椿 (♀)(19歳)

 

大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。

 

蓮太郎 (♂) (19歳)

 

華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。

 

鈴蘭 (♀)(18歳)

 

大見世、華屋で働く集合女郎。今回13番目の花魁が年季明けの為大門をくぐって出て行った為花魁に戻る好機を与えられた。元は振袖新造として位の高い花魁になる予定だったが、突き出し前日に他の客に破瓜を奪われた為、花魁としての道が閉ざされた筈だった。根本的に自分より能力の低い人を見下して自分の立場を確認する癖がある。

 

ヴァンハーフ (♂) (30歳)

 

君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。

 威津那 (♀)(20歳)

 

ヴァンハーフの実験により殺生石より封印を解かれて覚醒した九尾狐。ヴァンハーフと協力し何かを企てているが現在その謀(たばか)略の内容については判らない。性格は不遜で大変な我儘で自己中心的な上に堪え性がない。自身の目的の為ならば人間がどれだけ死のうが関係なく、女性は等しく皆己の餌だと言い張る。口調は古風な話し方で、命令口調が多い。炎系の魔法を使って攻撃する事が多い。

鞍馬 (♂)(26歳:外見年齢)

 

元々鞍馬天狗だったが、何代か前の桃夭姫(とうようき)と恋慕を絡めた為強大な能力を身に着け、大天狗を凌駕する能力を持っている。だがしかし、妖の者としての矜持を持ち人間を妖怪達に蹂躙を許さない為、神格位に近い虬(みづち)や五位鷺(ごいさぎ)と協力して人界を守っている。今回は桃夭姫(とうようき)の存在にて妖怪達の世界が荒れているので戦っている。蓮太郎に紋章を通じて能力を与えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【配役表】

椿   (♀):

蓮太郎 (♂):

鈴蘭  (♀):

キバイラ(♀):

威津那 (♀):

ヴァン (♂):

鞍馬  (♂):


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

鞍馬  「人の住まうこの世、人は脆弱なもの。守らねば蔓延(はびこ)る悪しき物の怪に蹂躙しつくされてしまうだろう。我がこの朱塗りの町を守ると決めたのはここにあの姫が再臨する気配を察したが故。あの姫は稀なる果実。物の怪の理性を根こそぎ奪い種族同士の争いを拡張させ、その度に人々は争いの渦中に巻き込まれ数多の命を奪い去った。我が鞍馬でありながら大天狗の力を持ちしは、先代桃夭姫(とうようき)と心を通わせ愛を紡いだから。だが姫は力を我に与えて後亡くなった。あの力は他の種族に持たせてはならぬ。理性の薄い雑魚などが手に入れた暁にはこの世を阿鼻叫喚の地獄へと貶めてしまうだろう。この男と女が偽り仮初とはいえ愛を紡ぐ若山遊郭より外に持ち出させない為に我にできる事は―――」

 

 

 

威津那 「くふぁはははは、あははは、あー、愉快じゃ愉快!」

ヴァン 「随分、ご機嫌なようだね威津那」

威津那 「とうとうあの小賢しい小僧に土の味を知らしめた、この爽快感! 溜まらぬわ!! くふふふふふっ!」

椿   「耳障りな笑い声の狐ね、黙らせて」

威津那 「何じゃと? 小娘もう一度申してみよ」

椿   「頭の悪そうな笑い声が癇に障ると言ったのよ」

ヴァン 「先程はあれ程怖がっていたというのに、恐怖を通り越したのかな?」

椿   「あなたも、狐のお面を被って、着物を着崩して伊達男を気取っているようだけれどだらしないわ」

ヴァン 「手厳しいね」

鈴蘭  「椿、おんし立場を判っておりんすか?」

椿   「さぁ?」

鈴蘭  「囚われの身の上で暴言を吐いたらどうなるか判っておりんすか」

椿   「鈴蘭がここに居る経緯は良く判らないのだけれど」

鈴蘭  「わっちはおんしとは立場が違いんす」

椿   「甘言に唆(そそのか)されたか、もしくはその男と間夫契りをしたか。いずれにしても軽率な事この上ない」

鈴蘭  「どこまでもわっちを馬鹿にするんでありんすね!」

椿   「ごめんなんし? 勘違いだというならおんしが賢いという証明を見せてくんなんし? 鈴蘭」

鈴蘭  「このっ!」

ヴァン 「いけないよ、鈴蘭。彼女に暴力を振るっては」

鈴蘭  「手を、離して下さい! ヴァンハーフ様!!」

ヴァン 「彼女は経過観察をする為にここに連れて来たんだよ、僕の実験の邪魔をするのかい?」

鈴蘭  「随分と擁護なさいますけど、なんの実験ですか?!」

椿   「・・・っ」

ヴァン 「まだ、内緒だよ。大切な、それはとても大切な実験なんだ」

威津那 「果て扨て情報網から得た内容に寄るとそなたは桃夭姫(とうようき)というおなごらしいの?」

椿   「とう、よう・・・き? 何それ」

威津那 「桃夭姫(とうようき)の血は高潔にして穢れを知らず完熟した桃の如き香りを放ち、生娘(きむすめ)幾束(いくたば)にも増して妖力を持つ。その血を一度口にすれば高貴なる力に目覚めよう、と。歳月千年に一度の稀なる果実、とな」

椿   「で? 聞いた話ではあなた私の血を啜って蓮太郎に倒されたのよね? どこが覚醒したのよ」

威津那 「馬鹿者、血は体を巡るのじゃ。体内に取り込む前に体を失っては能力を目覚めさせる事など出来ぬわ」

ヴァン 「自分がその桃夭姫(とうようき)である事は疑いはないのかな?君からすれば突拍子もない話だと思うよ」

椿   「幼い頃から不治と言われる病や、致死率の高い怪我をしたけれど私は生きているし体に一つの傷跡もないわ。美しさにも自信はある、疑う要素がどこにあるの?」

鈴蘭  「は・・・、桃夭姫(とうようき)・・・、なによ、それ、ヴァンハーフ様、それが実験とかいうものに何の関係がありんすか」

威津那 「実験の内容も知らぬのに、実験の因果関係なんぞ判る物か。そのおなご、ちと頭が悪いぞ」

鈴蘭  「何よ! 妖怪のあなたに馬鹿にされる謂れはありんせん!」

威津那 「さっさと喰らって終わりにしてやろうか?」

ヴァン 「威津那、この子も食べてはいけない」

威津那 「桃夭姫(とうようき)は判る。じゃが、このおなごは何ゆえここに連れて参った」

ヴァン 「行く所がなくて困っているというので助けたんだ」

威津那 「人助けじゃと? 馬鹿かお主は。我等のどこにそんな余裕がある」

鈴蘭  「わっちは、少しでもヴァンハーフ様のお役にたてるなら何でもしんす、だから・・・」

椿   「・・・」

鈴蘭  「な、なんでありんすか、椿、その顔」

椿   「安い女」

鈴蘭  「な・・・、んっ?! おんしヴァンハーフ様が手を挙げてはならんというからと好き勝手な事をほざきんすな!!」

椿   「男の為に何でもするなん滅多な事で口にしんすな。華屋の妓(おんな)の自負はありんせんのか」

鈴蘭  「男女の恋慕で物言える事なんありんせん! おんしだって蓮太郎には尽くして居りんす!!」

椿   「わっちが、いつ蓮太郎に尽くしんした?」

鈴蘭  「・・・っ!」

椿   「具体的に、いつ、何を以って尽くしたか言って見なんせ?」

威津那 「役に立つというならそれも証明してみせい。口先だけの弁論など腹の足しにもなりはせぬ」

ヴァン 「僕の為に何でもする、か・・・本当かい?」

鈴蘭  「本当でありんす! お役にたてるならなんだって」

ヴァン 「その見返りに、何か欲しい物があるのかな」

鈴蘭  「わっちは・・・、その、ヴァンハーフ様のお役に立てれば・・・、その・・・、あ、あの・・・」

威津那 「なんじゃ、この娘おぬしに惚れているのじゃな」

ヴァン 「ふむ、初めての経験だね。成程・・・ふふ、女性に好意を寄せられて悪い気はしない。興味深い感情だ」

威津那 「そのおなごの生殺与奪はお主に委ねるわ。好きにせい、要らぬというなら血を啜(すす)って棄てる」

鈴蘭  「・・・っ!」

ヴァン 「そうか。なら、手を出してくれるかな」

鈴蘭  「手、ですか? あの、こう・・・?」

ヴァン 「少し刃を立てさせて貰うよ。血を注ぎ、君に僕の力を少しあげよう」

鈴蘭  「・・・っ! 痛っ!」

威津那 「なるほどな、何の力も持たずでは使い勝手も悪かろう。良き判断じゃと思うぞ」

ヴァン 「力の使い方は僕が教えてあげよう。ただ、自分で学ぶ事も必要だよ。いいかな?」

威津那 「妾は食事をして参る。そなたはそのおなごを使えるようにしておけ」

椿   「・・・、気味の悪い人達」

 

 

 

キバイラ「真澄田(ますみだ)神社、ここで最後や・・・おるんやろ?! さっさと出てこんかいな!」

鞍馬  「鬼風情が我に何の用だ」

キバイラ「やっと出て来はった。全くなんで鬼の首魁が遊郭四ツ角神社回らなあかんの」

鞍馬  「信心深い人間の真似事もたまには悪くあるまい――そなた、鬼灯島(ほおずきじま)の鬼か」

キバイラ「・・・っ! やっぱりここは・・・、ってちゃうわ! うちは昔語りをしに来たんちゃうの」

鞍馬  「それを聞きに来たのではないのなら何故我を呼んだ。担いでいるその少年の事か」

キバイラ「蓮太郎君に紋章刻んで妖力流し込んだんはあんさんやろ、大天狗・鞍馬」

鞍馬  「虬(みづち)や五位鷺(ごいさぎ)、土蜘蛛の可能性は考えなかったのか」

キバイラ「虬(みづち)はともかく土蜘蛛にそない高位な真似でけへんわ。蓮太郎君、ちょい降ろすよ」

蓮太郎 「・・・っく!」

鞍馬  「ふむ、見知らぬ土地の先住民(せんじゅうみん)の貴賤(きせん)を瞬時に判断出来るだけの知識と機転はあるのだな」

キバイラ「見ての通り人の子に無茶な能力与えたせいで化け物と戦って満身創痍やわ。責任取れるんかいな」

鞍馬  「紋章と気力のみでかろうじて生を保っている状態か。よくぞ耐えた、人の子よ」

蓮太郎 「助けに・・・、行かないと・・・、いけないんです」

鞍馬  「話すのも辛かろう。目を閉じよ」

蓮太郎 「・・・っ」

鞍馬  「万物の息吹よ、風を舞い恵愛をもって慈悲の恩寵(おんちょう)を為せ」

蓮太郎 「・・・、ふ、ぅ、あっ! ぅああ、あっぐ・・・、うあ! あぁあああああああああああ!!」

キバイラ「待ちぃや!! 苦しんではるやないの!!」

鞍馬  「残留痛(ざんりゅうつう)だ、気に病むな。小さな痛みを超える激痛が感覚麻痺を起こせば、激痛の元となる傷を治した時に体中の傷が痛みを訴える」

キバイラ「ならええわ、あんさんが殺してしまうんかと思ただけよ」

鞍馬  「少年、しばらく痛みは続くが順次治療の痛みぞ、耐えよ」

蓮太郎 「ぅ・・・、ぐぁ・・・、・・・ぁむ」

キバイラ「見栄っ張りやね、自分で猿轡(さるぐつわ)噛んで。そないに悲鳴あげたないん? ま、舌噛む危険がないからええけど」

鞍馬  「鬼よ、聞きたい事があるのではないか?」

キバイラ「せやね。山ほどあるけど掻い摘んででええよ。まず、なんで蓮太郎君に力を与えたん? 自分で始末つけよ思わんかったん?」

鞍馬  「人に憑いた絡新婦(じょろうぐも)はあくまで人の領分、我が出れば人の世の均衡(きんこう)が崩れる」

キバイラ「不動山(ふどうやま)を動かす力は害になる、か。で、蓮太郎君はこの程度の力で奴らと戦わせるん?」

鞍馬  「急激な成長は自我を失い四肢を飛ばす。人の身体は変化に乏しい故」

キバイラ「諧調踏んでるって事やね。判った、ほならどこまで?」

鞍馬  「それは我にも判らぬ。その少年の気力、心理、能力により上限は変わるが、諧調は三度。既に一度目は済んでいる」

キバイラ「一段階でこれかいな。蓮太郎君、あんさんほんまに人間やの?」

鞍馬  「忍術を叩き込まれているのだろう」

キバイラ「忍びやったんかいな?! あー、そんで蓮太郎君ね、納得したわ。戦力考えて人選したんやね」

鞍馬  「あの妖狐と絡新婦(じょろうぐも)も成長する故、油断は禁物ぞ」

キバイラ「それは知っとうよ? あんさんよりもあの傑物とは長いんよ、自慢にもなれへんけど。もう一つええ?」

鞍馬  「もう一つでいいのか。控えめだな」

キバイラ「自分で調べられる事は人をあてにしたない性分やの。蓮太郎君の助けたい少女な、あん子、何?」

鞍馬  「桃夭姫(とうようき)、という娘だ」

蓮太郎 「・・・っ?!」

キバイラ「と・・・、桃夭姫(とうようき)・・・?! て、ほんまにおったんかいな?!」

蓮太郎 「・・・、なん、ですか? とう、・・・ようき?」

キバイラ「猿ぐつわもうええの? 舌噛まんといてよ?」

蓮太郎 「何となく、慣れて来ましたので、大丈夫です。それより、桃夭姫(とうようき)ってなんですか?」

キバイラ「桃夭姫(とうようき)は妖怪にとって至高の餌や」

蓮太郎 「餌?」

キバイラ「滋養強壮の上位互換みたいなもんや。血を飲めば能力は覚醒し、肉を喰めば眼光で敵を射殺す程の力を手に入れ、骨をしゃぶれば体に力がみなぎる。桃夭姫(とうようき)と交合わえば他に比類する者なし、と言われる千年に一度の存在と言われているけど、うちは見た事ない。ただの伝説やと思てたわ。なんにせよ人の世界には意味のないもんやけど、人ならざる存在には垂涎(すいぜん)モノの存在やな」

蓮太郎 「椿が・・・、桃夭姫(とうようき)・・・」

キバイラ「確認するわ、蓮太郎君。椿ちゃん怪我や病気の治りが早いちゅう事ある?」

蓮太郎 「早い、です。怪我なんかは痣が残るんじゃないかと思う程の怪我でも大抵綺麗に治って痣は残らない。病気もしますし風邪で高熱を出しても現在の通りです」

キバイラ「間違いないな、椿ちゃんは桃夭姫(とうようき)や。なるほど? いい香りする筈やわ。よう虬(みづち)が黙ってはるな」

鞍馬  「そなたは欲しくならぬのか、鬼」

キバイラ「うちはこの世界の均衡壊したないからな。それにそないなもんに集(たか)る様な蛆虫になりたないわ」

鞍馬  「虬(みづち)とて同じ事。その様に餓鬼の様な真似をするは高貴な一族には無用、と。そして人界を荒らすのも好まぬ」

キバイラ「桃夭姫(とうようき)を欲するちゅう事は己を矮小眇々(わいしょうびょうびょう)たる存在と認めたようなもんやからな」

鞍馬  「彼奴ら妖狐と絡新婦(じょろうぐも)を潰すは簡単ぞ」

キバイラ「目的も判らず、禍根も確認せず潰せば均衡は崩れ、先住民の世界も滅ぼしかねない・・・、か。厄介やな」

鞍馬  「少年よ・・・一時的に人を辞める覚悟がそなたにあるか?」

 

 

 

威津那 「何じゃ? 食事から帰って来てみれば桃娘が随分げんなりしているように見受けるが」

椿   「・・・信じられない」

威津那 「何じゃ? 共犯者、おぬしそのおなごと交合っておったのか」

ヴァン 「そうだね。これ程に献身的な愛情を受ければ、少しは情に絆(ほだ)される」

鈴蘭  「あ・・・、はぁ。好き・・・、ヴァンハーフ様、好いておりんす」

威津那 「成る程のぉ?」

椿   「場所も弁えず人前でするなんて信じられない」

ヴァン 「考えた結果、この場で抱き合う事にしたんだよ」

鈴蘭  「わっちとの想いの丈を椿に見せ付けて何かいい事がありんすか?」

ヴァン 「視姦といってね、人は他人の行為を見る事で欲情すると聞く」

威津那 「なんじゃ? そなた桃娘を煽情(せんじょう)しておったのか」

鈴蘭  「え、あ・・・、そうなんでありんすか? ヴァンハーフ様」

ヴァン 「そうだね」

椿   「それなら二度としないで。気持ち悪いだけだわ」

ヴァン 「逆効果だったのか、それは残念だ。だが鈴蘭とは有意義な時間だったよ」

鈴蘭  「有意義って、どういう意味でありんすか。あの、ヴァンハーフ様はわっちをどう思っておりんすか?」

威津那 「人は情に脆いというから上手く使う手段としては確かに有意義じゃ」

ヴァン 「勘違いしてはいけないよ威津那。僕は鈴蘭を道具として運用する予定はないんだ」

椿   「じゃあ何? 化け物が鈴蘭に恋慕の情でも持っていると言う積もり?」

ヴァン 「ああ」

鈴蘭  「あ・・・、嘘、え? ほ、本当に・・・?」

椿   「男のいう事を簡単に信じんすな」

鈴蘭  「うるさい!! 椿だって蓮太郎がそう言えば信じるでありんしょう?!」

椿   「・・・、蓮太郎は滅多な事じゃそんな事言わないもの」

威津那 「安心せい、次にあやつと逢った時には四肢を引き裂いて殺してやる」

椿   「・・・」

威津那 「桃娘、命乞いをすれば助けてやろうか? ん?」

ヴァン 「威津那、それくらいにしておいたほうがいい。泣いてしまったよ」

椿   「あなた達は蓮太郎を助けてなんてくれない。あたしがここで命乞いをしたって何の意味もないじゃない」

ヴァン 「彼を愛しているんだね」

威津那 「下衆が愛を語るな、鬱陶しい。で、以前から言っておった資金繰りの話はどうなっておるのじゃ」

ヴァン 「そちらも問題なく進んでいるよ。もう間もなく、千両箱が幾つか届く」

鈴蘭  「せ・・・、千両箱、って・・・」

ヴァン 「言っただろう? 君を助けてあげようとね」

鈴蘭  「本気で・・・、わっちを助けてくんなんすか?」

椿   「どこの馬の骨かも判らない男と、妖怪。金子(きんす)を手に入れる方法なんて強盗か窃盗しかないでしょう?」

ヴァン 「鈴蘭にも話したが、僕は海運業を行っているんだよ。たまに陸路も使うけどね」

椿   「あなたが、廻船問屋だというの? 信じられると思う?」

ヴァン 「信じようが信じまいが好きにするといいよ。人の心は、誰かによって決められるものではないからね」

椿   「一つ質問をするわ」

ヴァン 「幾つでも構わないよ、僕は」

椿   「私をここに連れて来た理由は?」

ヴァン 「実験の経過観察だよ。だが、君は私が触ろうとすると容赦なく平手打ちを飛ばす。少々困っている」

威津那 「鎖で抑え込めばよかろう?」

ヴァン 「無論最終的にはそうなるさ。だが可能であれば、僕が我慢できる内に自主的に協力してもらいたいものだね」

 

 

 

蓮太郎 「人を・・・、辞める?」

鞍馬  「怪物に挑むのだ、そなたとて怪物にならなくては対抗することは出来まいて」

蓮太郎 「椿を守れる力が欲しい。それが人ならざるものでも構いません」

鞍馬  「口だけではどうとでも言える。行動が伴わぬ言葉は信用は出来ぬ」

キバイラ「あー、ちょっと待って鞍馬はん。こん子の覚悟、口先だけやないで?」

鞍馬  「ほぉ?」

キバイラ「阿保みたいに傑物に挑んで死にかけた結果この様や」

鞍馬  「・・・、ふ、ふはは、なるほどな。そなたに人界の運命を背負う覚悟はあるか?」

蓮太郎 「死なば諸共なんでしょう? 椿を守る事がそれに繋がるなら同じ質問に答える必要はありません」

鞍馬  「気に入ったぞ、そこの鬼。名をなんという」

キバイラ「鬼狽羅」

鞍馬  「我の風切羽(かぜきりば)を二枚そなたに託そう。この少年の成長をそなたの采配に任せる」

キバイラ「・・・良く言えば信用された。と受け取るけど、あんさん面倒臭いだけやないの?」

鞍馬  「鬼灯島の均衡世界、守りたいのはそなたの意志と見受けるが? 鬼狽羅」

キバイラ「うわぁー、うちあんさん嫌いやわー」

鞍馬  「結構。所詮種族違いの結束。好感を持てと言う方が難しい」

蓮太郎 「どうすれば、彼らを倒す力を貰えるんですか」

鞍馬  「二度目の拡張に耐えられるかどうかを見せて貰おう」

キバイラ「せやな。体は治ったとして新たな力を享受する許容範囲は見せて貰わなあかんな」

蓮太郎 「どうやって? 貴方を倒せでも言うんですか」

鞍馬  「それで済むようであれば、最初からそなたに力なぞ与えぬわ」

キバイラ「そもそも倒せる気で居てはるの?」

蓮太郎 「無理でしょうね。これでも己の力と相手の力量を計るくらいの事はできます」

キバイラ「よう言うわ。腐れ馬鹿の思うままに突っ込んではったやないの」

鞍馬  「そうだな・・・、では其処な鬼を超えて見せよ」

キバイラ「うちを巻き込むなや」

鞍馬  「我には神に阿(おもね)る呪術はないが、森羅万象の理(ことわり)を多少導く事は出来る。今のそなたはその力で以って回復した」

蓮太郎 「つまり?」

鞍馬  「現時点においてそなた自身の身体が強靭になった訳ではない。あくまで人の子だ。肉を切れば血は吹き出し骨を折れば激痛が走る、神経を損傷すれば身体は動かなくなろう」

蓮太郎 「俺自身は変わらないと。それで、どうやったら俺を認めてくれるんですか。早く椿を助けないと」

鞍馬  「逸(はや)るなと言った筈ぞ。体が出来上がらぬうちに風切羽(かぜきりば)を使ってみろ、文字通り四肢が弾け飛ぶぞ。人間花火だ」

蓮太郎 「四肢が・・・?」

鞍馬  「人ならざる力を得ることがそう簡単だと思うでないぞ」

蓮太郎 「元より簡単に手に入るとは思っていません」

鞍馬  「故に、突貫といえど器を為さねば力は渡せぬ」

蓮太郎 「料理は玻璃(はり)の鍋で煮込みはしません。瀬戸物も同じ。土瓶より釜の様な金属がいいという事ですか」

鞍馬  「うぬ・・・? 遠からず近からずというか」

キバイラ「阿呆な話しとる場合なんか? 時間かかるんは事実やけど、無駄な時間あるわけやあらへんやろ」

蓮太郎 「椿がどんな目に合っているか判らない。突貫だろうがなんだろうが結構です。方法を」

鞍馬  「荒療治で行くしかあるまい。鬼よ、日が暮れた故今宵は一晩休め。明朝より思い切り暴れて見せぃ」

 

 

 

ヴァン 「夜更けに外出は危ないよ?」

椿   「人をかどわかした上に軟禁してる人に言われたくないんだけど」

ヴァン 「ああ、そうか、そうだった。ところで何の策も無く逃げられると思っていたのかい」

椿   「策を講じても講じなくても同じでしょう? 考える時間が無駄だもの」

ヴァン 「成程ね、無策必勝とでも言うのかな」

椿   「思慮深い人間は、相手もそうだと警戒する。裏を書いた積もりだけど無理みたい」

ヴァン 「何故逃げようとするんだい? 僕は君に危害を加えた積もりはないよ」

椿   「あなたと狐が嫌いだからよ。籠絡されてる鈴蘭も気味が悪い」

ヴァン 「あからさまに嫌いと言われるとさすがに悲しいね」

椿   「いやだ・・・、ふふっ、人並みに傷付くなんて感情があると思わなかった」

ヴァン 「威津那が言う、「桃の香り」とは最初何のことか判らなかった。けどね、最近少し判るようになってきたんだ」

椿   「なら桃を買ってきて食べたら? 幸い今は旬だから手に入りやすいわ」

ヴァン 「果物では補えない程の強い香り。私はね、君が欲しい」

鈴蘭  「ヴァンハーフ様? そこで何をしておりんすか?」

ヴァン 「・・・鈴蘭か、眠っているかと思ったよ」

鈴蘭  「手水を使いに行っておりんした。けんど物音が聞こえるんで来てみたら」

威津那 「やれ、おなごのヤキモチは醜いのぉ? 妾まで目が覚めてしもうたわ」

椿   「はー・・・、この状況で逃げる算段する程馬鹿じゃないわ、閨に戻りんす」

威津那 「この状況だろうがそうでなかろうが余計な画策はするでない。面倒じゃ」

椿   「じゃあ、その面倒な私の事は放っておいて貰えない? 血の匂いで気持ち悪くて食事も出来ない」

鈴蘭  「宵も更けたこんな夜に逃げ出そうとしておいて放っておけなん笑い話にもなりんせん」

椿   「そう? どうやらおんしの大好きな『ヴァンハーフ様』はわっちに興味があるようでござんすが」

鈴蘭  「・・・っ! このっ!」

椿   「ねぇ、鈴蘭。おんしの恋路の邪魔はしんせんよ? わっちを逃がしてくんなんし」

威津那 「そんな愚かな口車に乗せられまいな、そこのおなご」

鈴蘭  「・・・けんど・・・。ヴァンハーフ様」

ヴァン 「逃がしてはいけないよ、鈴蘭。まだ検証は終わっていないんだ」

鈴蘭  「ヴァンハーフ様、椿の前で愛し合ったのはわっちらの関係を椿に知らしめる為じゃありんせんかったのか?!」

ヴァン 「確かに『僕達の愛し合う姿を見せてあげよう』とは言ったよ」

鈴蘭  「ならどうして椿にまでちょっかいを掛けようとしんすか?!」

威津那 「共犯者は以前より絡新婦(じょろうぐも)の能力が濃くなっている。桃娘の香りが判る程には、な」

ヴァン 「僕が僕であるなら、種族も貴賤(きせん)も問わないよ。この僕は些か君臨勇者とはズレてきている」

威津那 「いっそ潔い奴じゃとは思うが、己が妖の者に侵食される畏怖はないのか」

ヴァン 「新たな能力を得る為には犠牲が必要だ。それが己の身だというなら殊更(ことさら)にやりやすい。成果を得るためならば、僕は僕自身をも実験材料にすることを躊躇わないよ。現にこの僕は捨て駒だ」

威津那 「やれ、偽善なのか本心なのか判らぬ。ほんに気持ちの悪い男じゃの」

鈴蘭  「それがいったいどういう事なのかわっちには判りんせん!」

威津那 「我等妖の者にとってこの桃娘は至高の餌じゃと言うた筈じゃぞ」

鈴蘭  「・・・、つまり・・・、食事という事ではありんせんのか?」

威津那 「世の理を知れ、単なる餌で良いならば何ゆえ人の形をとる。強い香りを放つ果実でよかろう」

鈴蘭  「餌と言いんした!」

威津那 「苛々する程頭の悪い娘じゃのぉ?」

椿   「桃夭姫(とうようき)は姫の字を充てる。つまり必ず女なのね」

鈴蘭  「つまり、どういう事でありんすか?!」

椿   「鈴蘭の大好きな『ヴァンハーフ様』は現時点で妖の物の首魁となる能力を持っているという事よ」

鈴蘭  「おんしまではぐらかしんすか、椿!!」

椿   「あとは自分で考えなさい。わっちは逃げられないというなら閨(ねや)に行って眠りんす」

鈴蘭  「ヴァンハーフ様・・・」

威津那 「安心して眠るが良かろう。この男は今主に手出しはすまいよ」

椿   「安心が聞いて呆れんす・・・、ふぁ・・・(欠伸)」

 

 

 

威津那 「のう共犯者・・・、連れて来たものの少々邪魔なのではないか? あのおなご」

ヴァン 「鈴蘭の事かな」

威津那 「いかにも」

ヴァン 「確かに激昂(げっこう)しやすい性質があるね。己にまっすぐなのは良いことだとは思うけれど」

威津那 「妾は桃夭姫(とうようき)というならば簡単に殺されるのは好まぬぞ」

ヴァン 「無論だね」

威津那 「そなたに対する想いが募り桃娘を殺しかねぬ」

ヴァン 「威津那は、どうするべきだと考察するかな?」

威津那 「さっさと血を啜って終わりにすればよかろ・・・、そう言えばお主、力を分けておったの?」

ヴァン 「見ていたのかい」

威津那 「更に不純な血となったな、用無しじゃ。殺してしまえ」

ヴァン 「それもいいが・・・、もう少し使い方を考えたいところだね」

威津那 「面倒な事になる前にさっさと始末を付けよ」

ヴァン 「最大限、活用できる方法・・・、そうだね、少し考証してみよう。端末化のデータを取るか? だがそれは勿体ないな、他の妖を加えるか? しかし九尾と絡新婦(じょろうぐも)の相性はどうにもよくない。では――」

威津那 「ああもう、考証は他所でやれ。トロ臭い事ばかりするでないぞ」

 

 

 

蓮太郎 「回復を施して戴いた上にゆっくり休めましたので体力も十分回復しました」

キバイラ「それは僥倖(ぎょうこう)。ひとまず、うちに一撃中(あ)ててみ。魔法でも剣でも、何でも構わん」

蓮太郎 「いいん――ですね?」

鞍馬  「殺す気でかかれ、そうでなくてはこの先何も守れぬぞ」

蓮太郎 「元より鬼。殺しても罪悪感はありません。行きますよ」

キバイラ「は! 力貰たからいうて、あまり強うなった気になったらあかんよ? あんさんが後れを取ったんも、駄狐を嘗めてかかったからやないか?」

蓮太郎 「あなたを嘗(な)める気は毛頭ありません」

キバイラ「当たり前や。さあ、かかってきぃや小童(こわっぱ)!『一条(いちじょう)・綱(つな)断(だ)ちの刃(やいば)』!!」

蓮太郎 「なっ!? いきなり大技を!? 神社には一般人がいるんですよ?!」

鞍馬  「周囲になら気を使わんでも良い。この程度の陣なら用意は出来る」

キバイラ「社の心配なん気楽でええなぁ! 余所見してんやないわ!」

蓮太郎 「人を救う技術を得るのに人を傷付けては本末転倒! 犠牲が出ないというなら本気でやります!」

キバイラ「紋章媒体にしてそん柳葉菜(あかばな)は鞍馬の力が流れ込んではる、柳生(やぎゅう)も同じや! 力貰といてそないな程度しか戦えんの? せやったら宝の持ち腐れや! 柳葉菜(あかばな)も名刀やのに報われんなぁ!?」

蓮太郎 「ぐ・・・一撃一撃が、重い! 柳葉菜(あかばな)は太刀で黒切は脇差なのに・・・っ、威力が全く違う」

キバイラ「剣術は叩き込まれとるみたいやけど、実戦経験が足らん!」

蓮太郎 「稽古はしても実際に使う場面など遭遇した事はありませんよ!」

キバイラ「動体視力は良し、型も綺麗や! けぇど、馬力がない!」

蓮太郎 「なんでっ! こんな脇差で斧並みに重たいんですか!」

キバイラ「受けてばっかでうちを越えられる思うなや!『羅生門(らしょうもん)・暮波刃鬼(くれはばき)』!!」

蓮太郎 「ぐぁ・・・っ!! は・・・、ぅ・・・、ぅ・・・ぐっ・・・、くそっ!!」

キバイラ「ここで死ぬ程度なら、どうせこの先でもどん詰まって死ぬ。君臨勇者も駄狐も、あんさん殺した後は笑いながら全てを奪う!」

蓮太郎 「人の世界を・・・、妖怪なんかに荒らさせない」

キバイラ「なら立て!剣を振るえ!痛みなんぞで止まれる程度か、あんさんの信念は!!」

蓮太郎 「苦界だと言われても人は懸命に生きています。突如現れた妖怪如きに奪わせたりなんてしない!」

キバイラ「何もかも守るなん傲慢(ごうまん)が通じる思うなや!」

蓮太郎 「己の矮小(わいしょう)さは身に染みて判っています」

キバイラ「ほなら真に守るべきものは何や!」

蓮太郎 「・・・、俺のこの・・・、血で汚れた手を、花の様な笑顔で包む暖かい手の平」

キバイラ「その花は! 妖怪どもが絶賛する垂涎(すいぜん)モノの果実や! 『四天(してん)・雷光大江ノ演武(らいこうおおえのえんぶ)』!!」

蓮太郎 「かは・・・っ!! ぐ、ぅ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・、」

キバイラ「あんさんが守らへんやったら! 椿ちゃんは駄狐に血ぃ啜られ! クソ男に犯され! 狼に肉引き千切られ! 土蜘蛛に骨しゃぶられ! 蛆に屍荒らされるんや!! 花ん笑顔は悲痛に歪んで血塗れになって穴だらけになるんや! 椿ちゃんの矜持ごと彼奴等は凌辱し尽くす!!」

蓮太郎 「そんな事!! させない!!」

キバイラ「あんさんの為なら赦したる!! うちを駄狐と思え! クソ男と重ねぇや!!」

蓮太郎 「椿は・・・、俺が守る!! 『柳葉菜居合(あかばないあい)・樹氷結華舞(じゅひょうけっかまい)』!!」

キバイラ「・・・っ、くは・・・っ!! ぅ・・・、珠酊・・・、院?」

鞍馬  「そこまでだ! 『結界(けっかい)・柳魔玻璃(やなぎまはり)』!」

キバイラ「はぁ・・・、はぁ・・・、やるやないの、蓮太郎君。鞍馬の結界なかったらそこそこ重傷やったわ」

鞍馬  「我の結界はいい、戦いの最中に他所事を考えるな、鬼」

キバイラ「済まへんかった。柳葉菜(あかばな)を上手く使こうたね。撓(しな)る柳の枝に得意な属性乗せるんは見事やったよ」

鞍馬  「我の見立てでも悪くない筋だったと思うぞ」

キバイラ「気概は見せてもろた、元々鍛えとるだけあって想定よりは幾分かマシやわ」

蓮太郎 「結構頑張ったんですけど、マシ、程度なんですね」

キバイラ「そう言わんと。一枚、風切羽(かぜきりば)を解放しよか」

蓮太郎 「使い方が・・・、紋章と共鳴して・・・っ?! ぁう!」

キバイラ「どれ――紋章の形変わったね。体の方はなんや変化ある?」

蓮太郎 「・・・、全然、判りません」

キバイラ「まぁええわ。おめでとさん、これであんさんも原典やうちと同じ、化け物の舞台へ格上げや」

 

 

 

鈴蘭  「ねぇ椿、おんしここに来て食事しておりんせんな?」

椿   「敵の施しなん受けんせん」

鈴蘭  「見上げた誇りでありんすな、助けが来なきゃ飢えて死ぬだけでありんすよ」

椿   「蓮太郎はきっと助けに来てくれる」

鈴蘭  「ヴァンハーフ様の話では再起不能な程の怪我をしたとか。死んでるかもしれんせんなぁ」

椿   「・・・、そんな事、ない」

鈴蘭  「へーぇ? 何を言っても人を見下げ果ててた癖に蓮太郎の話になるとそんな顔するんでありんすね?」

椿   「鈴蘭・・・、可哀想な子でありんすな」

鈴蘭  「は? 何でそんな目で見んすか? 哀れなのはおんしでありんしょう? 愛しい恋人は瀕死の状態で助けに来ようともヴァンハーフ様や威津那が強くて助けられない! 桃夭姫(とうようき)なんぞと持て囃(はや)されていい気になっておりんすけんど所詮は餌!! 良い気味でありんす! 次代だの傾城(けいせい)だの持ち上げられた妓(おんな)が実は妖怪の餌!! ざまあない!! あはははは!」

椿   「人を蔑む事でしか自己を立てる術を知らない」

鈴蘭  「何とでも言えばいい!! おんしなん妖怪どもに食い千切られて死んでしまえ!」

威津那 「みっともないおなごじゃのぉ?」

鈴蘭  「んな?! おんしまで!! そんな」

威津那 「まぁよいわ、妾にはそなたがどうであれ関係ないからの」

鈴蘭  「・・・っ! だったら! 黙っておりなんし!!」

椿   「自分は噛み付く癖に人には黙ってろなんて、ずいぶん勝手でありんすな」

威津那 「人など皆勝手な物よ。桃娘、そなた己は違うと申すか?」

ヴァン 「歓談が捗っているようだね」

威津那 「これが歓談に見えるのか、お主頭が沸いておるのではないか?」

ヴァン 「椿、君に甘味と言うものを買って来たよ」

鈴蘭  「は・・・? ヴァンハーフ様?! こんな頑なな態度の椿になんで?!」

威津那 「飲まず食わずでは死んでしまうからの?」

ヴァン 「おはぎ、草餅、大福、みたらし団子、白玉ぜんざい、羊羹(ようかん)、練り切り。どれが好きかわからなかったから、色々持ってきたよ。好きな物を食べるといい」

椿   「・・・っ! 要らない」

鈴蘭  「やせ我慢、どこまで続くか見物でありんすな」

ヴァン 「甘味にも多少の滋養がある。食べるんだ」

椿   「断りんす、ここでは一切飲食はしない。死んでも!」

ヴァン 「では、君が怖がっているこの実験道具で無理矢理食事を流し込む事になるけど、構わないかな?」

椿   「な・・・っ?! や・・・」

ヴァン 「口を開かないならばそれもいいよ。これは流動食と言ってね、口が使えない際に鼻から管を通して飲食をさせる道具だ。鈴蘭、彼女の頭を押さえてくれないかな?」

鈴蘭  「こ、こう、でありんすか?」

椿   「ぃ・・・や!! 放して!!」

ヴァン 「暴れてはいけないよ。でないと鼻腔を傷付けてしまう」

椿   「いや・・・っ! いや!! いやあああああああ、助けて蓮太郎!! 蓮太郎ーー!!!」

蓮太郎 「椿!!『波紋(はもん)氷結(ひょうけつ)・手裏剣(しゅりけん)』!!」

椿   「・・・っ?! ・・・っ、れ・・・、れんた、ろ・・・、れんたろう・・・、れ」

蓮太郎 「遅くなった、ごめん」

椿   「生きて、た・・・。生きてた、蓮太郎・・・、良かった」

蓮太郎 「心配かけたな、ごめん」

椿   「良かった・・・、よか、ぅ・・・、ひっ、く・・・、ふ」

威津那 「なんじゃお主。人とはもっと脆い物じゃと思うが、何ゆえ無傷でここにおる」

蓮太郎 「そのからくりを、あなたに教える義理はありません」

威津那 「良かろう、今度こそ息の根を止められに来た、で間違いなかろうな小童(こわっぱ)」

蓮太郎 「椿、もう大丈夫だから、泣くな」

威津那 「人の話を聞けーい!! この愚か者が!!」

蓮太郎 「椿を連れ帰るのは当然ですが、鈴蘭さん、あなたも見世にお帰り下さい」

鈴蘭  「は・・・、なんで」

蓮太郎 「なんで。あなたが華屋の女郎でこれから花魁名披露道中(おいらんなびろうどうちゅう)の準備が控えているからです」

鈴蘭  「え・・・、あ、わ・・・っちは」

蓮太郎 「ここで敵の施しを受けて生き長らえ、情を移して本来の仕事を忘れたなどと愚かな事は言わないで下さいね」

鈴蘭  「い・・・、嫌、でありんす! わっちは!」

蓮太郎 「あなたに選択の余地はありません」

威津那 「その女は好きにすればいい! じゃが桃夭姫(とうようき)は渡す訳には参らぬぞ! 『炎(えん)神(じん)』!!」

ヴァン 「外で・・・、やってくれないかな威津那。『魔の鎖』」

威津那 「んあ・・・?! 愚か者!! 妾を放り投げるとは!! 後で覚えておれよ共犯者!!」

蓮太郎 「椿! 外に出るぞ」

椿   「うん」

蓮太郎 「おいで」

椿   「・・・温かい手・・・。蓮太郎」

鈴蘭  「わっちは嫌でありんす!!」

蓮太郎 「交渉するなら女将さんにするんですね!」

威津那 「えぇい!忌々しい、桃夭姫(とうようき)が傍におるではやりにくくて敵わぬ!」

蓮太郎 「桃夭姫(とうようき)、あなた方に渡す積もりはありませんよ」

椿   「蓮太郎・・・? 知ってるの?」

蓮太郎 「聞いた」

椿   「・・・そ・・・、か、うん」

キバイラ「蓮太郎君! 覚醒したてで無茶すなや! 今はそん二人連れて後ろ引っ込んで」

蓮太郎 「はい!」

鈴蘭  「放して!! わっちは帰りたくありんせん!」

鞍馬  「待て狐、我がそなたの相手仕ろう」

威津那 「・・・っ?! は・・・、大天狗じゃと? とんでもない輩が出て来おったわ。さすが桃夭姫(とうようき)じゃの?」

鞍馬  「桃夭姫(とうようき)、そなたの様な卑しい狐にくれてやる程我等は甘くないぞ」

威津那 「鬱陶しいわ!! まとめて燃やしてしまおうか!『火炎車(かえんしゃ)・邪竜渦紋(じゃりゅうかもん)』!」

鞍馬  「煩わしい。薙げ、『叉拿淘(サナト)・久万羅(クマラ)』」

威津那 「な、炎を切り裂いたじゃと!?」

鞍馬  「いつまでも優位に立ったままでいられると思わぬことじゃな。『風切一閃(かざきりいっせん)・居合楓舞(いあいかえでまい)』」

威津那 「あぎ!? が、は・・・」

鞍馬  「我の縄張りを荒らそうというのだ。挨拶として一度くらいは殺しても良かろう?」

キバイラ「腹立つくらい綺麗な居合やこと」

鞍馬  「そなたが知る最強には程遠かろうがな。我の「凪」ではまだまだよ」

キバイラ「さっきから匂わせぶりな・・・」

鞍馬  「さてな。初めから結末がわかりきった絵巻ほど退屈なものもあるまい?」

キバイラ「ああ、そ。干渉する気あらへんのならそれでもええわ」

蓮太郎 「次元が、違いますね」

キバイラ「当たり前や、彼奴もうちも、あんさんらとは歩んどる年数が違う。人間五十年とは言うたもんや、文字通り別次元よ」

蓮太郎 「それでも・・・だからこそ、足掻きますよ。あなた方が短く儚いというならその分懸命に」

 

 

 

鈴蘭  「いや! 帰りたくない! ヴァンハーフ様! わっちを見捨てないで!」

ヴァン 「君は一度帰るんだ」

鈴蘭  「いや! 嫌でありんす! わっちは!」

キバイラ「あんさん、こん子になんしはったん?」

ヴァン 「さて、ね。いずれ判ると思うよ」

キバイラ「とにかく今は連れて帰るで。暴れる言うんなら着物で隠れるところ殴るけどええ?」

鈴蘭  「ひっ!」

蓮太郎 「帰りましょう、華屋に」

 

ヴァン「威津那、やられてしまったね。だが、これで更なる覚醒が出来る、感謝するよ――大天狗か、成程ね」

一次創作サークル ルイは鷹を呼ぶでは「花魁道中いろは唄」

のゲーム制作にあたり皆様からの支援を募っております。
台本をご利用し、ご支援をいただければ幸いです。

© since2017-2020.03 話題転換P声劇プロジェクト

© since2020.04 - ボイスドラマサークル - ルイは鷹を呼ぶ

© since2020.04 - ボイスドラマサークル - ルイは鷹を呼ぶ
bottom of page