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堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 5話 ~浸食(しんしょく)~
男性2 女性6 上演時間:120分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ

〇台本上演の利用規約について

 下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。

 https://call-of-ruitaka.fanbox.cc/posts/1761504

牡丹 (♀)(25歳)

 

若山随一の大見世、華屋のお職であり椿の姐女郎。華やかな色気と優しさと雅さで道中を歩けば大輪の花の様だと男達を沸かせる。しなやかな色気の反面気風の良さを併せ持っており、自身の見世に害が及ぶと怒鳴り込む事もある。正義感が強く心根も優しいので汚濁したものを見ると非常に驚き、気分を害するところもある。

 

椿 (♀)(19歳)

 

大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿(かむろ)として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。

 

蓮太郎 (♂) (19歳)

 

華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。

 

オティス (♀) (23歳)

 

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。

 

アニ (♀) (12歳)

 

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。

 

鈴蘭 (♀)(18歳)

 

大見世、華屋で働く集合女郎。今回13番目の花魁が年季明けの為大門をくぐって出て行った為花魁に戻る好機を与えられた。元は振袖新造(しんぞ)として位の高い花魁になる予定だったが、突き出し前日に他の客に破瓜を奪われた為、花魁としての道が閉ざされた筈だった。根本的に自分より能力の低い人を見下して自分の立場を確認する癖がある。

 

ヴァンハーフ (♂) (30歳)

 

君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。

 

女将 (♀)(32歳)

 

華屋の楼主兼美人女将。見世の経営を遣り手任せにはせず自らもせわしなく働く。自分の見世の女郎たちをとても可愛がっており、何か女郎が失敗した時なども身体に傷を付けない為に折檻はせず、仕置き部屋に閉じ込める程度で済ませるなど、大切にしている。突如現れた怪異の者達に驚愕しながらもオティス達に協力する。

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【配役表】

椿:(♀)

蓮太郎(♂):

女将(♀):

鈴蘭 (♀):

威津那/牡丹(♀):

オティス(♀):

アニ(♀):

ヴァンハーフ(♂):


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オティス「この若山遊郭では人に価値などない、それは私の世界でも変わらない宿命のはずだ。けれど、死した命を弔う、美味しい食事に暖かな布団、男女が愛し合い契りを交わす・・・。そんな「当たり前」が許されない赤い檻に私たちは囚われてしまったのだ。皆懸命に生きて、明日を掴むために藻掻いている。きっと誰も間違っていないはずなんだ。だから――私が私を喪うのは、きっと必然だったのだろう」

 

 

 

鈴蘭  「失礼致しんす。お母さん、内証呼び出しなんてどなんしんした?」

女将  「今しがた、十三位の花魁、紅花(べにばな)が年季を明けて出て行った。身請け先も決まらないままだから正直心配だったが、明ける年季以上に留まらせることは出来ないんでね」

鈴蘭  「末席の花魁一人が年季を明けたから、なんでござんしょう? 菖蒲(あやめ)姐さんみたいにわっちを花魁にするとでも?」

女将  「早い話がそうだ。・・・部屋に行きながら話そうかね。ついといで」

 

女将  「初見世を取ってくれる筈だった客は結局、あの事件で華屋から手を引いたが、見世も詫びを入れないままでは成り立たない。金封五十両を包んだ事は知ってるね?」

鈴蘭  「あい・・・。その他にも準備してた座敷の食材、酒、内芸者、太鼓持ち達への十五両がある事も知っておりんす」

女将  「女郎の年季は十年、だがのらりくらりと十年勤めたら終わりだなんて言われたら見世だって大赤字さ」

鈴蘭  「祝儀(しゅうぎ)と揚げ代が跳ね上がる花魁として稼ぎ少しでも多く返せ、という事でありんすか」

女将  「・・・、鬼夜叉見る様な顔で見るんじゃないよ」

鈴蘭  「・・・、・・・初見世前夜に犯されたんは、わっちのせいじゃ、ありんせんのに?」

女将  「椿もね、禿(かむろ)の時代から客に犯されそうになった事は数えきれない程ある。あの美貌だ、当たり前なんだがね。華屋は特に綺麗な女が多いから、みんな通る道だと言っても過言じゃない」

鈴蘭  「椿花魁は・・・、蓮太郎さんが助けに入るから」

女将  「いつでも折良く蓮太郎が傍に居るとでも? そんな筈ないだろう!! どうして悲鳴の一つあげられなかった!!」

鈴蘭  「・・・っ!」

女将  「お開帳前の新造(しんぞ)ってったって、幼い少女だ。大の男に組み敷かれて殴られて犯されそうになってすくみ上って声が出なかった! そんなこたあたしだって判るさ! けどね、守れた娘はみんな! 恐怖より責務を感じて悲鳴を上げる! そうやって身を守る術をあんたの姐は教えなかったかい?!」

鈴蘭  「おかあさんはそれがどれだけ怖いか・・・、知らんから・・・、そんな事が言えんす」

女将  「あの夜に悲鳴を上げて助けを呼べなかったあんたの責任だ、鈴蘭」

鈴蘭  「・・・。今でも・・・、お開帳するのが怖いわっちに、それを言いなんすか」

女将  「この部屋だ、入んな。四畳半が二つ。西が客を迎える部屋、東が寝間だ」

鈴蘭  「箪笥(たんす)も、鏡も、何もありんせん・・・」

女将  「今から必要な物を書き付けるから言いな。花魁道中を踏んで、名を広めて大口の客を掴むんだよ。道中の準備金は見世が立て替える。三十両。それで仕掛けと簪と櫛、高下駄、傘持ち、肩持ち、妓夫(ぎゆう)に割り振って準備だ。新造(しんぞ)と禿(かむろ)は姐付でない子を付ける」

鈴蘭  「莫大な、借金になりんすな・・・?」

女将  「返す為の努力を怠るんじゃない、いいね」

鈴蘭  「あい・・・。あの、お母さん。最近よくいるあのお二人は?」

女将  「あん? オティスさんとアニさんの事かい」

鈴蘭  「一人は多分これから躾けるんでありんしょうが、もう一人は随分と年増でありんした」

女将  「お前は、さっき言った準備を進めな。十日後に道中だよ。それと夜はまだ元の部屋で客を取りな、いいね」

鈴蘭  「・・・あい」

 

女将  「ふーー・・・。全く。自分より下を探す。己の成長を諦めた人間の行動だってどうして判らないかね、あの子は」

 

 

 

アニ  「蓮太郎さん、これ!」

蓮太郎 「煮しめ・・・、作ったんですか?」

アニ  「うん、でちょっと味見して貰おうと思って、幾つか取り分けてみたんだ!」

蓮太郎 「ちゃんと一品ずつ取り分けてるんですね、蕗(ふき)の緑と人参の赤が綺麗ですね。盛り付け、上手だと思いますよ」

アニ  「へへ・・・、褒められた。嬉しい。人参さんもちゃんとお花の形に出来たの!」

蓮太郎 「椎茸(しいたけ)もちゃんと手を抜かずに水から戻したんですね、ふっくらしてて美味しいです」

アニ  「えへへ。大根が思ったより大変だった」

蓮太郎 「うん・・・、でもこれ美味しい。どうやったんですか?」

アニ  「お出汁を取る時に昆布をお水で戻すでしょ? で、大根さんもお水から茹でるから一緒に付けておいたの」

蓮太郎 「それで甘さとコクが一緒に引き出されたんですね。大根も煮付けた後の萎(しぼ)みがない」

アニ  「和食ってきちんと下ごしらえをしないと手抜きしたら絶対失敗するんだね。・・・あ、それ椿さんの御膳?」

蓮太郎 「・・・はい」

アニ  「ふ、普通の女の子なら、あんな、死体から蜘蛛が出てきたらそりゃ気を失っちゃうよ! 椿さん、体は元気だから!大丈夫!」

蓮太郎 「心配かけましたね、済みません。台所の仕事はお手伝い頂けるとの事ですので、またあとで声を掛けます」

アニ  「あ、行っちゃった・・・」

オティス「おむ、これ美味しいな。なんだろう、口の中でふわっと蕩(とろ)けて」

アニ  「あー! お姉ちゃんつまみ食いはしちゃダメ!」

オティス「ごめんて。・・・、アニちゃん。心配なら様子見に行こう?」

アニ  「う・・・、心配だけど、けど・・・、でも、迷惑じゃないかな?」

オティス「それが迷惑だったとしても、私達だって状況が判らないんじゃ対抗策が打てないんだ。遠慮とかしてる場合じゃないと思ってる」

 

 

 

椿   「奥座敷って・・・、寒いんだね。ここに入れられる女郎の気持ちなんて初めて知ったよ」

蓮太郎 「部屋で休める様に女将には掛け合ったけど、これからどうなるか判らない状態で仕事にならないだろうから、と」

椿   「仕事出来ない女郎はお払い箱だもの。当然でしょう? 大丈夫よ、ちゃんと復帰する。・・・それ、ご飯?」

蓮太郎 「あぁ、玉子粥と鯛のあら汁、食べられるなら豆腐も、餡かけにしてあるから暖かい」

椿   「・・・、私今働けないから帳簿に付けさせて貰えないのよ? そんなにいい食事食べられる訳ないでしょう?」

蓮太郎 「俺が払ってるから大丈夫だ」

椿   「そうやって、イチ女郎に肩入れするから、禁止されてるのに。真面目の名が泣くよ?」

蓮太郎 「どうでもいい。食べさせてやるから、口開けて」

椿   「あ・・・ん。ん、く・・・、美味しい。初見世の時以来だね、こんな風に蓮太郎に食べさせて貰うの、凄く美味しい・・・。ちゃんとお料理の味わかるよ」

蓮太郎 「椿?」

椿   「まだ、大丈夫だよね? あたし・・・、目、あるよね? 蜘蛛みたいに、なってないよね。どっかから蜘蛛出て来てないよね?」

蓮太郎 「大丈夫だ、椿はいつも通りちゃんときれいだ」

椿   「ごめんね、敵の事も良く判らないのに牡丹姐さんを助けて貰えるなんて本気で信じて、馬鹿だね、あたし。ごめんなさい・・・」

蓮太郎 「人の情に漬け込む奴らなんだと、椿がそれを判ったならそれでいい」

椿   「自分から飛び込んで行った癖に・・・、怖いよ! 何も判らないから、どうして躑躅があんな風になったのか全然判らなくて! あたし、犯されそうになったけど蓮太郎が来てくれたから未遂で終わってる! けど、その前に何かされたかもしれなくて、でもそれがなんなのか判らなくて、いつ自分がどうなるか判らなくて! 本当にちゃんと見えてるものが正しいのかも判らなくて、怖くて怖くて・・・、んっ」

蓮太郎 「・・・ん(接吻け)」

椿   「・・・ん、・・・、れんたろ・・・」

蓮太郎 「傍に居るから。俺が、あいつから必ず情報引き出して二度とこんな事をさせないように殺す、だから大丈夫だ」

椿   「ん・・・、うん、うん・・・、好き、蓮太郎、傍に居て・・・んっ」

蓮太郎 「・・・ん・・・、・・・ん?」

オティス「お邪魔しまー・・・っ!? うわーっ! うわーっ! うわーっ! ヤバイ今は入っちゃいけない!」

アニ  「ちゅーしてるぅ、ちゅーしてる、はわわわ」

蓮太郎 「・・・なに、してるんですか? お二人とも」

オティス「いー、やぁあ、あ、な、なんだっけかなぁー? ちょっと思い出して来るよ! うん、そんなに重要な話じゃなかったかもしれない!」

蓮太郎 「は?」

椿   「ふぁっ?!」

オティス「うん、また時間を置いてくるよ」

アニ  「はわわ・・・。ちゅーしてた、ふわぁ・・・大人だぁ・・・」

蓮太郎 「あ、アニさんは、なんの用ですか?」

アニ  「はっ!! や、あ、あたしは何も見てないから!!!」

蓮太郎 「あ、ちょっ! って逃げ足早っ!」

アニ  「お姉ちゃん、待ってぇ!!」

椿   「・・・切腹して死にたい」

蓮太郎 「いや待って?」

 

 

 

オティス「び、び、びっくりしたぁ・・・、そっか。うん、そうだよね、何となくそうだったと思う」

アニ  「何となく? そうって?」

オティス「蓮太郎と椿ちゃんだよ、あの二人多分恋人だよね」

アニ  「恋人・・・、って・・・、へ? そうなの?」

オティス「だって、椿ちゃんが攫(さら)われた時の蓮太郎の焦り具合半端じゃなかったし」

アニ  「え、あ、そっか・・・。うん、言われてみればそうかも・・・? ・・・? アレ?」

オティス「ん? どうかした?」

アニ  「え? うん? え、と、なんだろ? えへへー、判んない」

オティス「何が?」

アニ  「なんか・・・、胸の辺りが、ちょっとチクってしただけ? 前にもあったけど多分何でもないよ、気のせい」

オティス「そう? 酷くなるようならちゃんと言ってね?」

アニ  「うん、判った! ・・・、そう言えばお姉ちゃんってキスとか、したことあるの?」

オティス「へ?!?! や、え、あ、その、やぁ、アレだ、その、うん! アレはなんというか、通り雨みたいなもんだから!」

アニ  「した事、あるんだ・・・」

オティス「聞かないでいただくことは、可能かな?」

アニ  「気になる」

オティス「忘れたい過去なんです」

アニ  「・・・黒騎士さん?」

オティス「ふぇ!? な、何言ってんの? あいつはそういう存在じゃなくて!」

アニ  「黒騎士さんなんだ」

オティス「あう・・・あ、見てアニちゃん! あそこ! 白いカラス!」

アニ  「どこどこ?! 白いカラス!? そんなのいないじゃ・・・いない!? お姉ちゃん、逃げたー!」

 

 

 

威津那 「桔梗、とか言ったかの。眠っておるが腕は綺麗にくっついたのじゃな? ふむ、男に穢されていなければこの美しいおなご何度でも血を啜りたい所じゃが・・・」

ヴァン 「彼女はまた別のパターンで実験体μ(みゅー)として検証中だ。仮に処女であっても彼女の血は君にとって毒になるよ」

威津那 「毒、じゃと? よもやそなた、妾に協力すると言いながら謀殺を企ててはおるまいな」

ヴァン 「君はいつでも思考回路が短絡的過ぎるね」

威津那 「馬鹿にしておるのか? お主。一度妾の炎を食らうか?」

ヴァン 「馬鹿にはしていないよ。常に回答を念頭に置いて考えを巡らせるのは悪い事ではない」

威津那 「では何ゆえこの娘の血が毒になると申すか」

ヴァン 「君の眷属を増やすのにねずみ算式に増やすのがいいと考えた。けど、人間の女性はそう簡単にはいかなくてね」

威津那 「であろうな? よくて双子か。双子は倭の国では忌み嫌われるらしいがの」

ヴァン 「双子が嫌われるのはこちらも同じ、か」

威津那 「信心深さ故じゃろうな」

ヴァン 「信心深さは僕にとっても良い環境さ。話を戻そう、眷属を増やすのに十月十日、多くて10体などと言うまだるっこしいやり方を君は望むかい?」

威津那 「のろまは好かぬ。そんな方法ならば主でなくともよい」

ヴァン 「僕はね、どうやら次元移動の際に無意識に融合した種族がいてね。おそらく端末化や同期を行う上で身に着いた相互能力だとは思うんだけどね」

威津那 「融合・・・。妖怪か、絡新婦(じょろうぐも)じゃろう」

ヴァン 「そう。この絡新婦(じょろうぐも)、しばらく僕はその融合体と同調出来ず居たんだけどね、ようやく説き伏せた」

威津那 「なんじゃ、元々そなたが絡新婦(じょろうぐも)じゃと思っておったが違うのか」

ヴァン 「僕はただの人間さ。本来はね」

威津那 「つまり、この世界にて絡新婦(じょろうぐも)の力を手に入れた、という事じゃな?」

ヴァン 「では威津那、質問させて貰うよ。どの蜘蛛も必ず巣に掛かった得物を弱らせるがその方法は?」

威津那 「・・・毒、か」

ヴァン 「この桔梗と言う娘には僕の血を輸血して腕を修復したんだ」

威津那 「つまり血には毒があるという事じゃな。穢れておるだけならばいざ知らず、毒まで含んでおるならば口に出来ぬわ」

ヴァン 「済まないね」

威津那 「ならば、妾の好む娘を連れて来い」

ヴァン 「そうだね。・・・、そういえば君は桃が好きだったね? 威津那」

 

 

 

牡丹  「あぁ、鈴蘭。匂い袋が落ちんしたぇ」

鈴蘭  「あ、ぇ? あ・・・っ! ぼ、牡丹花魁! す、済みません!」

牡丹  「仕事に懸命だと聞いておりんすよ。頑張りなんし」

鈴蘭  「そんな、勿体ない言葉・・・、あっ! 牡丹花魁! 拾ったりせんでくんなんし! 床に手を付いたりなん!」

牡丹  「? 何をそんなに慌てて。どんぞ・・・、可愛い匂い袋でありんすな。けんど掠れて破れそうになっておりんす。わっちので良ければ持って行きなんし。この間作ったばかりなんでありんすよ」

鈴蘭  「そんな、勿体ない!」

牡丹  「わっちは匂い袋を作るのが趣味なんでありんす。余っておりんすに、使う人がおらんかったら捨てるだけでありんす」

鈴蘭  「じゃ・・・、じゃあ、戴きんす。その・・・、ありがとうございんす。し、失礼致しんす」

牡丹  「他人行儀になってしまいんしたね。寂しいでありんすな」

オティス「今の子は? なんであんなに怯えてたの?」

アニ  「怯えてるって言うか、なんか、うーんと、偉い人に遠慮してるみたいな?」

椿   「他人行儀を通り越して卑屈になっている気がしんす」

オティス「椿ちゃん、相変わらず切れ味抜群だね?」

牡丹  「椿、少しは良くなりんしたか?」

椿   「姐さんがお湯を奢って下さるというんじゃ、元気じゃなくても出てきんす」

牡丹  「そうか。それなら誘ってよかったでありんす」

アニ  「鈴蘭さん・・・、どうしてあんなに委縮してたんだろう?」

椿   「鈴蘭は牡丹姐さんに憧れておりんした。憧れて、近くに居られる花魁を目指してたんに、遊女に格下げになったんで立場が違うんでありんす」

オティス「格下げ・・・?」

アニ  「え? だって今の人すごく可愛いって言うか綺麗だったと思うけど、なんで?」

牡丹  「初見世前に、おきちゃに破瓜を奪われたんでありんす」

アニ  「墓? おっ、お、茶、茶器?! はちみつ?」

オティス「待ってアニちゃん、全然判らなくなった」

女将  「元々は椿が潰れた時の備え筋として育ててた娘さ。あの通り人形の様な別嬪だからね、酔っぱらった客が凌辱したんだよ」

オティス「あぁ、ええと、女将さん・・・、だっけ。その、花町って結局その、男性にそういう行為を提供する町だよね?

なのに凌辱されただけで?」

女将  「花町ってったってね、大見世は客と遊女の信頼関係があってこその商売なんだ。処女をきちんと守るというのは高位になるほど大切な信頼と評判に繋がる」

オティス「そりゃ商売に於(お)いて信頼は大切だろうけど・・・」

女将  「鈴蘭の初見世を約束している客が居てね。250両で買ってくれていたんだ。祝儀に布団、仕掛けに下駄、必要な物を全部揃えてくれていたってのに、初見世を取れなかった客が前日にやっかみも含めて手を出しちまったのさ」

オティス「250両・・・、ていうか、その失敗はあの子の失敗じゃないでしょうに」

女将  「自分を守れなかったあの子の失態だ。生娘は高く売れる。生娘とそうでない女の格差は歴史も語っている。しきたりでも決まっている事を覆せば女郎は反論するだろう」

オティス「・・・悪政だこと。この町はもう個人が動いたってどうにもならないくらい堕ちてる、と思う」

女将  「悪政だと罵るんなら、全国の男の女に対する価値と態度を変えとくれ」

オティス「世界と戦えって? はは、言うね。私にできることは剣を振るう事だけだからさ」

 

 

 

蓮太郎 「では、先ほど教えたようにお願いしますね。俺はもう別の仕事が――」

オティス「ねぇ待って。ちょっと待って本当に!ねえ!」

蓮太郎 「何ですか?」

オティス「うん、お金を稼ぐために働くと決めたは良いよ?」

蓮太郎 「ええ、そのためにこちらから仕事を振りましたよ。若衆として」

オティス「でさ、遊郭って所謂(いわゆる)娼館でしょう? 今の時間って、その、女性とお客さんが、アレな訳で」

蓮太郎 「娼館・・・、が判りかねますが、そうですね。そういう時間です」

オティス「そうですね、って。そんな所にずかずか入って行って油足すの? ちょっとその、で、デリカシーに欠けるというか、ね?」

蓮太郎 「暗いと妓(おんな)も仕事になりませんので、お願いします」

オティス「蓮太郎、聞くけどわざわざこの仕事を選んでやらせた、って訳じゃないよね?」

蓮太郎 「選びましたよ? この喜助(きすけ)という仕事は「睦言聞かず油足し」というとても大変な仕事で、賃金はいいんですけど皆やりたがりません。オティスさん、60両は牡丹花魁ですら苦心する金です」

オティス「足元見るんだ。そうか、そういう奴なんだな蓮太郎は」

蓮太郎 「助け合いですよオティスさん。俺は不寝番(ねずのばん)はやれても喜助(きすけ)は苦手なんで。じゃ、よろしくお願いしますっ」

 

 

 

オティス「うう・・・いろんなところから甘い声が聞こえるぅ。牡丹さんとか椿ちゃんもこの中で・・・だめだめ! 変なこと考えてたら油溢す!わぁ・・・、すごい襖の数。全部、部屋なんだよね? 果てしないや。し、失礼しま~す」

鈴蘭  「ん? おんしは、例の・・・、女の身で、若衆の真似事なん、どうなさったんでありんしょ?」

オティス「あはは・・・行燈油、足しておくね~。とととととと・・・あわわ! 油が・・・っ!」

鈴蘭  「・・・呆れた。油一つまともに入れられんせんのか? 入りたての若衆の方が余程いい働きをしんすよ?」

オティス「だって! だってね?! あの! 鈴蘭ちゃん、だっけ? ほぼ、裸・・・、胸とか、下とかも見えてるし」

鈴蘭  「子供みたいな事をいいんすな。もしかして、その年齢で未開通(おぼこ)とかいわんでくんなんし?」

オティス「う・・・か、関係ないじゃん。そんなの」

鈴蘭  「そう、そうでありんすな。関係ありんせんな。守れる操があるなん、わっちには・・・」

オティス「捧げる人も、いなかったし。そんな余裕もなかったから、私は」

鈴蘭  「捧げる・・・? 捧げるって? 自ら望んで人にあげるなんてそんな選び方が出来ると思っておりなんすか?!」

オティス「あ・・・しまっ」

鈴蘭  「牡丹姐さんだって椿花魁だって金という塊の為に売ったんだ! わっちは!! わっちは売る事も出来ずに男に奪われた!」

オティス「・・・うん。それは、聞いたけど」

鈴蘭  「ふふっ・・・、一緒にいたおなご、十二歳と聞きんした。見目いいでありんすな、高く売れる。処女なんでありんすか?」

オティス「売る?! アニちゃんを? 馬鹿言わないで! そんなこと!」

鈴蘭  「ここは若山! 遊郭でありんす!女の価値なん、その程度しかありんせん!」

オティス「その程度・・・って」

鈴蘭  「どれだけ高潔に振る舞ったって雄の遊び道具にしかならん。雌豚の様に布団に転がって犯される以外に金を生み出す方法なんありんせん」

オティス「そんなことない!人はもっと――ぐ!?なに、すんの!急に押し倒して!」

鈴蘭  「だったら、あんたもそうなればいい!男に犯されてみればわかりんしょう?! この苦界! 身を持って知りなんし!」

オティス「身をもって、って・・・え!?ちょ、やめろ!私はこんなことしに来たんじゃない!」

鈴蘭  「こんなところに来ておいて、何をいいんすか!? ほら!! 今日の祝儀全部あげるからさ!! この男にまたがってひぃひぃ喘いで見せてよ!!」

オティス「やめっ・・・まだ、喜助の仕事があるんだってば!」

鈴蘭  「そんな若衆の真似事より稼げるよ! 若衆だってね! わっちらの稼ぎから賃金貰ってんだから!ほら!」

オティス「そんなことして稼いだお金なんて、アニちゃんに申し訳が立たない!」

鈴蘭  「・・・そんなこと、と言いんしたな。そんなこと・・・ふふ、うふふふふふ。あは! あははははは!!」

オティス「鈴蘭、さん!! 待っ、やめ! 下着脱がさないで! ちょっと!」

鈴蘭  「濡れてなくても、麩(ふ)海苔(のり)があれば大丈夫でありんしょう?ああ、それともわっちが手伝ったほうがいい?」

オティス「ひゃっ! 冷たい!? あぅ、ぬるぬるして・・・気持ち、悪い!やだ、やだ、変なところ触るな!」

鈴蘭  「心の中で、女郎を見下しておりんしょう?その黄金色の目、虫唾が走る。だから、同じところまで引きずりおろしてやる」

オティス「ちょ、待ってほんとに洒落にならない。ま、や、やだ!鈴蘭さん!やめてってば!」

鈴蘭  「一応、慣らさないと痛いでありんすよ?ほーら、指、入ってるのわかる?ここで男を受け入れんすよ」

オティス「ひうっ!?ちょ、や!指、どこ触って・・・!」

女将  「あんたたち、何やってんだい!」

オティス「お、女将さん!」

女将  「喜助が来ないから行燈が消えちまったと、客が文句を言いに来たんだよ。どこで油売ってるのかと思えば!」

オティス「お、女将さん・・・確かに喜助は油を注ぐけど・・・」

女将  「そう言う事じゃないよ。鈴蘭、客を放ったらかして何やってんだい」

鈴蘭  「だって、この人が!」

女将  「お前が、何をしてるか聞いてるのさ。怠慢な妓(おんな)がどうなるか知ってるんだろうね?」

鈴蘭  「この人は処女だと言いんした! 金になりんしょう?」

女将  「関係ない。それに、もう二十二歳なんだろう?年増だ。今更遊女として使うにしたって、技芸もない。顔はいいが小見世が関の山だ」

オティス「二十二歳で年増とか言われちゃうのか、こわ。小、見世? って、何それ。お店の名前?」

女将  「女郎としては使えないってこった。仕込みもないんじゃ一回一朱稼げれば上々だろうよ」

オティス「また聞いた事のない単位だ。ええと・・・?」

女将  「一朱は250文だよ」

オティス「え、と、たしか一両が8000メナでしょ?で、一両がたしか4000文だから・・・500メナ。コーヒー5杯分?いや、冗談じゃないんですけど」

女将  「冗談じゃないとも。そんなことさせる意味も理由もないからね、稼げない女は若衆の真似事で我慢しな」

鈴蘭  「お母さん!! なんで、そっちの肩を持つでありんすか?」

女将  「お前、処女を散らせたかっただけだろう? こんなところで客に奪わせるなんざ下衆みたいな真似すんじゃないよ」

鈴蘭  「わっちも、客に奪われたんでありんすよ!」

女将  「それをやり返してどうするんだい。お前の破瓜が返って来るとでも? 見当違いな妬みは醜いだけさ」

オティス「あ、あの、私は・・・、その、大丈夫だったから」

女将  「口を挟まないでくれるかい」

オティス「あ、はい」

女将  「あたしが! 望んでお前を集合に下げたと思ってんのかい! お前が・・・、お前が客に犯された日、どれだけ悔しい思いをしたか、気配り出来なかった己をどれだけ憎んだか!」

鈴蘭  「結果は変わりんせん! わっちは!七つでこの遊郭に売られてからずっとずっと見世に奉公し続けた! いつか天女の様に綺麗な道中を踏む姐さん方を見ながら!」

女将  「そうさ、芸事も所作も美貌もお前なら引け目を感じる事もない」

鈴蘭  「豪華な仕掛けと三枚重ねの布団! 高下駄も結局何一つ使う事が叶わないままわっちはこんな二畳の狭い部屋で客を取る事になった! 今更十三位に上がったってあの日は返って来ない!! そう決めたのはお母さんだ!」

女将  「生娘じゃない娘が突出し道中を踏む事は出来ない。けど菖蒲の例だってある。あの子は元々所作も芸事も出来た娘じゃなかったし生娘でもなかった。だけど並々ならぬ努力で花魁と同じ金額にまで這い上がった」

鈴蘭  「菖蒲姐さんは! 誰よりも綺麗だったから! あの美貌はそうそうあるもんじゃない・・・っ!」

女将  「花魁だって努力が無ければいつでも集合に格下げさ。逆を言うなら集合にも好機はある。落ちない為、上がる為の努力が出来ない妓(おんな)に道中が踏めるかい」

鈴蘭  「そうした所で、わっちの摘まれてしまった未来は帰ってきやせん!」

女将  「そうだね。腐って関係の無い人にこんな仕打ちをする妓(おんな)に未来なんかありゃしないさ」

鈴蘭  「そんなの・・・」

女将  「妬み嫉み、それは昔からあんたにある卑しい性(さが)だ」

鈴蘭  「卑しい・・・」

女将  「自分の首を絞める前に、さっさと治しな」

鈴蘭  「もう・・・、こんな見世は嫌じゃ!!」

女将  「鈴蘭!客ほっぽってどこに行こうってんだい!戻ってきな!鈴蘭!! ・・・はーーー、この逆境を乗り越えられないんじゃ花魁になってもたかが知れてるね。美貌はあれど若い内だけ、か」

オティス「は・・・う、あ」

女将  「・・・、震えてるね、無理もないさ」

オティス「だい、じょうぶです・・・っ、ふ、うぅ・・・」

女将  「どこが大丈夫なんだい。今にも泣きそうに瞳潤ませてあんた、ほんとに男っ気がない生活だったんだね」

オティス「そう、ですね。油・・・入れてきます」

女将  「大丈夫なのかい?」

オティス「もう、平気です。ちょっと、股のぬるぬるが気持ち悪いけど」

女将  「ん?・・・ああ、そうだ」

オティス「なんですか。私はもう」

女将  「油溢(こぼ)したら、その油分と汚した畳、借金に追加だ」

オティス「うそでしょ!?」

女将  「あんたに女としての仕事をさせる気はないが、特別扱いもしないよ、きっちり稼ぐんだね」

オティス「特権持ちの勇者より性質が悪くない・・・?ええ、きっちりやらせてもらいますとも!」

女将  「焚きつけりゃ立ち直る。強い人だ――若山のためにも、潰れられちゃ困るんだ」

オティス「ぴゃー!?油溢れたー!やらかしたー!」

女将  「・・・本当に、大丈夫なんだろうね?」

 

 

 

鈴蘭  「どう、しよう。もう、朝になっちゃった。今戻ったら・・・でも・・・あの人が、まだいるし。顔、合わせたくない・・・」

威津那 「何じゃ、娘・・・。ふむ、美形じゃが汚れておるの? 妾の食事の邪魔をするでないわ」

鈴蘭  「え? し、食事・・・? ひ!? し、死んでる・・・」

威津那 「覚醒後の食事ゆえ抑制が出来なんだ。まぁ良いじゃろう、継続して啜(すす)るにはさして美味くもない」

鈴蘭  「これ、集合部屋の橘・・・なんで」

威津那 「頭の悪いおなごじゃて、妾は食事と言うた。血を啜ったのよ」

鈴蘭  「ひ・・・っ、ば、化け物・・・っ!!」

威津那 「今、倭の国にどんな妖怪がおるかは知らぬが、この町は妾の国にする為の贄とするのじゃ」

鈴蘭  「贄・・・、って、き、狐・・・っ?」

威津那 「烏の濡れ羽色の髪、瞳も美しいの。穢れておるのが勿体ない」

鈴蘭  「あ、あの。なにを・・・っ、あれ。ちょ、手が、ほどけな・・・、子供の癖にっ、んや!!」

威津那 「艶やかな肌じゃの。余計な怪我をしたくなくば大人しくするがよい」

鈴蘭  「え、あ・・・きゃ!?」

威津那 「何奴じゃ! 妾の食事を邪魔する愚か者めが!」

ヴァン  「相変わらず自由を満喫しているようだね。いけないよ、そんな風に計画性も節操もなく蹂躙しては。君、大丈夫かな?」

鈴蘭  「あ、あの・・・大丈夫、です」

ヴァン 「君はどこの楼閣の者かな?見送ることくらいは出来るよ」

威津那 「妾の食事じゃ! 横取りする気か!」

ヴァン 「少し横暴が過ぎるよ威津那。協力体制は不可欠だけど、己の意志ばかりを主張するのは控えてくれないかな」

威津那 「何じゃと?!」

ヴァン 「不満は後ほど聞こうか。今はこの少女の事情が気になる」

鈴蘭  「あ・・・え、っと・・・。見世には・・・、その・・・」

威津那 「何じゃ、見世から逃げ出して来たのか。面倒事に巻き込まれるのは御免じゃ、好きにせい」

ヴァン 「行ったか。さて・・・、僕でよければ、話を聞こう。解決することは出来ないかもしれない。だが、時に吐き出さねば人は壊れてしまうよ」

鈴蘭  「けんど、まだ会ったばかりの人を信用するわけには」

ヴァン 「そうだね・・・では確かな筋を示せばいいのかな。僕はね、遠くの町で商人を営んでいるんだ」

鈴蘭  「商人、でありんすか」

ヴァン 「そう。海運に陸運・・・積み荷を運ぶことが多いね。ここで商売の繋がりを増やしたいと考えているんだよ」

鈴蘭  「か、廻船問屋かな・・・? そ、そしたら襲名の時とか、もしかしたら」

ヴァン 「君にどのような事情があろうが構わない。僕は、君を救ってあげたい」

鈴蘭  「あの・・・、若山の制度は・・・ご存じでありんすか?」

ヴァン 「町の制度も人も、色々調べたから知っている方だと思うよ。これでも、好奇心がかなり旺盛な方でね」

鈴蘭  「と・・・留袖、と言われて、何のことかは」

ヴァン 「ああ、知っているよ。袖の長さで格差が生じるのだったかな。基準は生娘かそうでないかとだそうだが、ここの女性は皆仕事を始めたら失うものだろう? どうも、理解はし難い」

鈴蘭  「そんでも、事実は変わりんせんよ」

ヴァン 「君は大変に美しいのに、たかがそれだけで将来を決めるなど勿体ない」

鈴蘭  「わっちは、牡丹姐さんの新造(しんぞ)にもなれんかった。なのに・・・わっちから牡丹姐さんの新造(しんぞ)を奪った蓮華はどこぞの男と足抜けして死んだ!」

ヴァン 「恩知らずというのは世界共通なんだね。君ならばそんな不義理を働く事もなかっただろうに」

鈴蘭  「・・・わっちは、初見世前に客に犯されたんでありんすよ」

ヴァン 「そうか。だが、それについては客ばかりを責める事が出来ないな」

鈴蘭  「どうして・・・!」

ヴァン 「愚問だよ。君の造形は完璧が過ぎる」

鈴蘭  「・・・っ」

ヴァン 「ただ、責任を取れぬというのであれば処女を奪ったというその男は外道なのだろうね」

鈴蘭  「格下げされたわっちは、もう花魁になってもたかが知れてる。もうわっちには何もない・・・何もないでありんすよ!」

ヴァン 「自暴自棄になっては本当に全てを失ってしまうよ?」

鈴蘭  「桜も、わっちのことを冷たい目で見んす。もう嫌でありんす!留袖になんか、なりたくなかった。牡丹花魁のこと、姐さんって呼びたかった!なのに・・・あの日から、全部変わってしまった!」

ヴァン 「恥辱を、味わってきたんだね。たった一度の間違いが、全てを変えてしまう」

鈴蘭  「悔やんでも事実は変わらないから、生きなければって頑張って来たのに!」

ヴァン 「僕にね、一つ提案がある」

鈴蘭  「て、提案・・・?」

ヴァン 「理不尽な世の中だとは思わないか?――変えたくは、ないか? 君を蔑(さげす)み、蔑(ないがし)ろにし、辱(はずかし)めてきた者たちを見返したくはないか? 復讐をしたくはないか?」

鈴蘭  「復讐・・・? わっちをこんな目に合わせた者達へ・・・?」

ヴァン 「そうとも。君を馬鹿にした者たちを、見返す術がある」

鈴蘭  「そんな術が・・・、ありんすか? わっちが屈辱を晴らしたいのは一人や二人じゃありんせん」

ヴァン 「何人でも構わないさ。君を苦しめ続けたその屈辱からも、汚辱からも、君を解き放とう。どうかな」

鈴蘭  「・・もう、こんな惨めな思いをしなくていいでありんすか? 牡丹花魁を、姐さんって呼んでもいいでありんすか?」

ヴァン 「ああ、構わないよ」

鈴蘭  「わっちにも! 人々の賞賛を浴びて道中を歩く権利が貰えるのでありんすか? 仕掛けを着て高下駄を履いて、若衆を侍らせて、町人に美しかろと誇れるのでありんすか?」

ヴァン 「勿論だとも。僕がその手伝いをしよう。君の世界を変えに行こうじゃないか」

鈴蘭  「参りんす! 牡丹姐さんの様に、椿花魁よりも! 人々が思わず振り返り羨望するあり方に、若山を変えて、妹にも感謝されるように、二度と後ろ指を指されぬように! 変えんしょう? この町を、人を変えるのでありんす!」

ヴァン 「その狂気に、乾杯だ」

 

 

 

ヴァン 「さて、諸々の調整はこれで済んだだろうか・・・環境は違うが材料が揃えば道具の作成にはそれ程時間は掛からない」

威津那 「おい共犯者、妾はどうするのじゃ? まさか放置と言う事はないじゃろうな?」

ヴァン 「僕はしばらくこの娘と共に活動するよ。君の能力の解析も恙(つつが)なく進めていく」

威津那 「ふむ?いったい何をすると言うのじゃ?」

ヴァン 「僕だからこそ出来ることもあるということさ。そのために『饗場屋(あいばや)』という仮面も用意したんだ」

威津那 「・・・成程な。外から叩くのではなく、内から食いつぶすわけか」

ヴァン 「万事が上手くいくとは思っていないさ。ただ、虎穴に入らざれば虎子を得ず、と言うだろう」

威津那 「虎に食い殺されなければいいがな?」

ヴァン 「いいや?もはや惜しむ命でもないさ。君の完全復活をこの目で観測できればそれでいい。そのためならこの生命すら、天秤に乗せてもいい」

威津那 「そうか・・・、くふふ。しかと妾に貢ぐがよいぞ、共犯者」

ヴァン 「君の食事の調達も心配しなくていい。入り込むからこそ得られるものもあるだろう。例えば、もう少し質のいい女子を連れてきたりね」

威津那 「で、このおなご達は何に使うのじゃ? そなたが連れて来た功績は高く評価するが、見目が悪い。食事にはならぬぞ」

ヴァン 「僕が連れてくる女性皆が皆君の食事ではないよ?」

威津那 「妾より優先事項があるというか」

ヴァン 「言うなればこれも君の為さ」

威津那 「この有象無象のおなごがか? 全く役に立つようには見えぬが」

ヴァン 「人というのは様々な役割を持っている。外見が好みでなくとも中身・・・、内臓は等しく美しいだろう」

威津那 「内臓は食わぬ。妾が欲しいのは魔力量の高い純粋な血であるぞ?」

ヴァン 「力を取り戻した暁に君はどうしたいと言ったかな?」

威津那 「この地を拠点にして、妾の眷属を作り妾の世界を作るのじゃ」

ヴァン 「聞いた話では幾度も君はこの国を制覇しようとしてその度に辛酸を味わってきたそうだね。ならば、今回のこの実験は成功すれば必ずや君の役に立つと思うよ」

威津那 「雑草の様に蔓延(はびこ)る人間どもも鬱陶しい。排除せねばならぬ」

ヴァン 「無論だとも。十分に力を蓄えた君を見せてほしいね。この計画はそれが無ければ成り立たない」

威津那 「良かろう・・・。妾は腹が満たされておるでな。少々力試しをして参る」

ヴァン 「余り派手な事は控えてくれよ」

 

 

 

牡丹  「今度は鈴蘭まで・・・、何という事でありんしょう」

オティス「鈴蘭ちゃんって、え・・・、あれからまだ帰って来てないの?」

アニ  「あの、えと・・・、この町ってこうやって人がいなくなる事って、よくあるの?」

椿   「理由は様々でありんすが、あると言えばありんす」

アニ  「椿さん、あの、もう体調大丈夫・・・?」

椿   「アニさんが作ってくれた薄氷の黒蜜掛けで元気になりんした。美味しかったでありんす」

アニ  「ホントに?!ホントに?! アレとってもおいしかったから自分でも作ってみたの!」

オティス「椿ちゃん、自分の気持ち隠すのにアニちゃん使わないで欲しいな」

アニ  「ふぇ?」

牡丹  「アニさんは素直で優しいお人柄でありんすからな。椿、そう言うのは良くありんせん」

椿   「・・・、ごめんなさい。でも氷が美味しかったのは本当。ただ、奥座敷の暗い部屋で一人でいると色々悪い事ばかり考えてしまうから、みんなと一緒に居たい」

牡丹  「そんなら最初からそう言えばよろしんす。何も奥座敷から出て来てはならんとは言われておりんせんのだから」

アニ  「うーん、良く判んないけど、えと、台所にお砂糖を見付けたので今度プリンブリュレを椿さんに作るのです!」

椿   「ぶりゅ・・・? え?」

オティス「それは私も食べたいです。アニちゃんが気にしてないならいいよ」

蓮太郎 「話を戻しますが、昨夜の顛末を聞く限りでは、自ら出て行ってまだ帰って来てないというのが明確です」

オティス「探しに行くよ。出て行ってしまったのは私の責任でもあるし」

アニ  「あ、あたしも行く」

蓮太郎 「賛成できません」

オティス「このまま帰って来なくて颯太さんや桔梗ちゃん、躑躅ちゃんの様にあいつらの餌食にさせる訳には行かない」

椿   「わっちはもう止めはせん、けんど一つ話を聞いてくんなんし」

牡丹  「話・・・? なんの?」

椿   「牡丹姐さんが、お顔に怪我を負ってわっちが看病していた時の事でありんす」

蓮太郎 「椿? 看病って・・・、鈴蘭さんと話をしたのか?」

椿   「牡丹姐さんのお体を拭く為に手水鉢(ちょうずばち)にお湯を汲みに行っていた間の事でありんす」

 

 

 

鈴蘭  「牡丹花魁・・・わっちと同じところまで、落ちて来てくれたんでありんすなぁ?」

女将  「鈴蘭、お前・・・。夜見世の時間だろう。何サボっているんだい」

鈴蘭  「あぁ、お母さん・・・」

女将  「直接牡丹のいる奥座敷に来るなんて、今のあんたのどこにそんな暇があるんだい」

鈴蘭  「牡丹花魁のお顔が潰れたと知って、心配で・・・」

女将  「・・・、・・・そうかい。あんたは昔から牡丹を信望しすぎている所があったからね。まぁ判らなくもない」

鈴蘭  「こんな・・・、酷い・・・。包帯だらけの顔、血が滲(にじ)んでおりんす」

女将  「一応医者に診て貰ったけどね」

鈴蘭  「治りんすか?」

女将  「どう、だろうね・・・。傷が傷だ」

鈴蘭  「ふふ。そうなんで、ありんすか」

女将  「はーーー・・・。鈴蘭、自分に掛かってる借金の金額を知ってどこにそんな余裕があるってんだい」

鈴蘭  「事情を知っている癖に・・・、鬼じゃな・・・」

女将  「それと鞭打ち十回!」

鈴蘭  「・・・え?」

女将  「金を払えば許される範疇を越えてるんだよ、お前は! 椿が牡丹の妹に着いた時も蓮華の時もそうだ。人を貶(おとし)める、悪知恵が回る、注意をすればあたしに楯突く!!」

鈴蘭  「ふ・・・、なぁんだ・・・。お母さん、自分に反抗されたんが腹立っているんでありんすね」

女将  「・・・そうだね」

鈴蘭  「くす、ふふ、ふふふ、なぁんて狭量(きょうりょう)。それこそ醜い話じゃござんせんか」

女将  「この見世で勝手する妓(おんな)を赦したってんじゃあたしの沽券に係わる」

鈴蘭  「どんな大義名分を掲げたって結局自分をないがしろにされるのが許せないんでありんしょーお? あははっ!」

女将  「お前の尊敬する牡丹は勿論あたしをないがしろにする事はなかった。気位の高い椿もだ。見世で働く以上あたしが法律だって事を知っているからだよ!」

鈴蘭  「自分で足開いて客を取った事もない癖に良く言いんすねー。偉そうな事を言うならお開帳してみろってんだ、あは」

 

椿:ぱーん!! (手を叩くなどで表現して下さい)

 

女将  「つ・・・、椿」

椿   「お母さんに対する罵詈雑言、聞くに堪えん。お母さん、遠慮せんでいいでありんすよ。鞭打ちを三十に増やしなんし」

鈴蘭  「椿・・・、花魁。よ、夜見世の時間じゃ・・・。客は」

椿   「わっちは見上がり金を貢納して姐さんの看病に当たっておりんす。おんしが心配する様な事は何もありんせん」

女将  「三十はやり過ぎにしても、お咎めなしという訳には行かないからね、しっかり身に刻みな」

鈴蘭  「花魁になるわっちの身体に、傷を付けんすか」

椿   「大丈夫でありんすよ。どうせすぐに集合に落ちる。花魁になった時の心配などせんでもよろしんす」

鈴蘭  「そうやって・・・、周囲を常に見下して。新造(しんぞ)の時からそうでありんしたね」

椿   「そりゃあ・・・、己より容姿が劣ると蓮華を追い詰めて楽しんでたおんしなん眼中にある訳ありんせんよ」

鈴蘭  「わっちは、そんな積もりじゃ・・・」

椿   「蓮華が飛び出して行って死んで、いざ責任を被りそうになったら同情の振りして牡丹姐さんに寄り添って泣いて。気付いていないと思っておりんすか? 我が身の保身だけで牡丹姐さんに近付かんでくんなんし。姐さんが穢れる」

女将  「椿、それは言い過ぎだ。この子は」

椿   「牡丹姐さんがてっぺんだから利益の為に媚び売ってただけでありんしょ? 優しい姐さんは気付かんかったけんど。わっちまで気付かんと思っておりなんしたか?」

鈴蘭  「媚びたりなんしとらん! わっちは本当に尊敬しておりんした」

椿   「へぇ? で?」

鈴蘭  「で・・・、って」

椿   「おんしが尊敬してるからなんでござんしょ? 若山中の妓(おんな)が憧れる牡丹姐さんを、いわば二千人の女郎の中の一人でしかない鈴蘭が尊敬したから何? わっちは早くこの部屋から出て行けと言っておりなんす」

女将  「とにかくここで揉めてる暇はないんだから、さっさと部屋を出るよ、鈴蘭」

鈴蘭  「何の権利があって牡丹花魁を看病する権利を独占しんすか!」

女将  「鈴蘭!」

椿   「寝ぼけた事を。わっちが牡丹姐さんの妹だからでありんす? おんしは? 牡丹姐さんの妹になりたかったおんしは? 何の権利があってここにおりなんす?」

女将  「もういい、椿、やめな。鈴蘭は連れて行くから」

椿   「お母さんから聞いた花魁名披露道中(おいらんなびろうどうちゅう)は十日後。あと十日で支度出来んすか? 傘持ちや肩持ちに出来る様な若衆は予定が詰まっておりんすよ。今からじゃあ間に合いんせん?」

鈴蘭  「たった・・・、十日というのに無理がありんす」

女将  「十日で無理って・・・。お前、何言っているんだい?」

椿   「へぇ? わっちらは差し紙が来て三日で準備しんすよ? 金を払って若衆を捕まえるんでありんす。みすぼらしい道中を踏まないように」

鈴蘭  「金・・・。そんじゃあ、金を積んだら蓮太郎さんでもわっちの肩持ちをやるということでやるという事でありんすなぁ」

椿   「そうでありんすね? 料理番の仕事に支障をきたすんでありんすから、最低でも二分は積まんと動きんせんけんど」

鈴蘭  「に・・・っ!」

女将  「なんだい。鈴蘭。あんた相場を知らなかったのかい?」

椿   「傘持ちだって肩持ちだって、妓夫(ぎゆう)だって。全員普段の仕事を潰して道中に付くんだから相応の賃金が無ければ動く筈有りんせん。若衆は華屋に、金を稼ぎに来ておりんす」

女将  「蓮太郎の肩持ちは高いよ。歩幅の呼吸を合わせるのが上手いし、何より美形で人の注目を浴びやすいから、本人もそれを判ってて安い金じゃ動かない」

鈴蘭  「そんな金を、毎度払わせて、借金とりたてて」

椿   「ふふっ、安心しや鈴蘭。襲名道中以降、おんしに道中踏む機会なん来んせんよ。出費の心配なんて要りんせん」

女将  「椿・・・、お前は言い過ぎだ」

椿   「身の程を弁えればよろしんす」

女将  「さ、鈴蘭、行くよ。お前もこれ以上椿に言われたくないだろう」

鈴蘭  「いつか・・・、泥を食わせてやる」

椿   「ふん」

 

 

 

牡丹  「椿・・・」

蓮太郎 「はーーーー・・・、椿、それは」

アニ  「椿さん、それは酷いよ。あたしは、その、ここの常識とか良く判らないけど、椿さんは言葉がきついと思う」

椿   「悪いとは思っておりんす。腹は立っているけんど、もう少し包んだ言い方も出来たとは思いんすよ」

アニ  「とにかく、探しに行かないと」

椿   「わっちにも責任がありんす。一緒に探しに行きんす」

蓮太郎 「体調が優れないんだから無理しなくてもいい、休んでろ」

アニ  「そうだよ、体が資本だよ!」

椿   「・・・あれ? オティスさんは?」

アニ  「あれ? さっきまで居たのにどこ行ったんだろう。先に行っちゃったのかな? とにかく玄関に出てみよう?」

椿   「そうでありんすね」

蓮太郎 「なんだ・・・? 奥で物音がしたような・・・?」

椿   「蓮太郎? 先に行っちゃうよ?」

蓮太郎 「ちょっと待て、椿。何かがおかしい」

アニ  「お姉ちゃーん! あれぇ? 玄関にもいないな? お姉ちゃーん?!」

威津那 「行かせぬぞ、小娘。『火炎(かえん)・流星群(りゅうせいぐん)』」

アニ  「っ!? この、防御魔法ー!」

椿   「きゃああああ!!」

蓮太郎 「椿! ふー・・・、何回目ですか? 懲りないと言うかしぶといと言うか命根性汚いと言うか、粘着質と言うか」

アニ  「よくそんなにスルスル攻撃の言葉出てくるね!?」

威津那 「は!以前の妾と同じと思うでないぞ。ようやく、この段階まで来れたのじゃ」

アニ  「なんだろう・・・雰囲気が重たくなった? 随分成長してる!」

蓮太郎 「餓鬼の様に食料を漁り過ぎて肥え太った駄狐(だこ)ですね。以前と同じではない、その言葉も何度目でしょうか」

ヴァン 「加勢するよ、威津那。僕も少し試したい事があるんだ、構わないね?」

威津那 「邪魔をするでないぞ」

椿   「・・・っ! あの男・・・、・・・い、いやっ!!」

ヴァン 「そんなに怯えないでくれ。僕はね、君を結構気に入っているんだ」

威津那 「桃娘を気に入ったか、それだけは気が合うの? ならば連れて帰ろうぞ」

アニ  「椿さんだよ! 桃じゃない!」

威津那 「源氏名など妾に関係ないわ」

椿   「や・・・、蓮太郎・・・」

蓮太郎 「椿、俺の後ろから離れるんじゃないぞ」

椿   「・・・うん」

アニ  「なんかもう、いっつも付け狙ってて薄気味悪いって言うか、向こうでもそうだよね!」

威津那 「共犯者が気持ち悪いのは同意するが、協力体制があるからの。妾には必要不可欠なのよ」

アニ  「共犯者だなんて・・・、あなただって騙されてるかもしれないのに!」

威津那 「愚か者が! 妾がこやつ如きに後れを取ると思うか!」

アニ  「絶対の自信とかって、慢心って言うんだよ! イフォニさんが言ってた!」

威津那 「青臭い小娘が、難しい言葉を使いたいだけじゃな?」

蓮太郎 「尻尾が5本。5回目の黄泉(よみ)返(がえ)りですか」

威津那 「小僧、今度こそお主を再起不能してくれようぞ」

蓮太郎 「今度こそ・・・、いつもはそうでなかったみたいな言い草ですね。負け犬の遠吠え、いえ、駄狐(だこ)の嘶(いなな)き、ですか」

アニ  「蓮太郎さん、なんでいっつも敵怒らせるように煽っちゃうの・・・??」

威津那 「ふーーー・・・、お主、生きて立ち上がれると思うでないぞ」

椿   「蓮太郎・・・? 確か、尻尾の数で強さが増してるみたいな事言ってなかった?」

蓮太郎 「あぁ、身体に受ける威圧感が前より増幅してる」

アニ  「それはあたしもさっきから感じてるの」

椿   「大丈夫なの? オティスさん、待った方がいいと思う、よ」

蓮太郎 「敵が、待ってくれるなら待つ」

アニ  「お姉ちゃん、何してるんだろう。ここから離れる訳にも行かないし」

威津那 「援軍が来なければ何も出来ぬ臆病者が、何かを守れると思うでないぞ」

蓮太郎 「臆病者と俺を煽った積もりですか?」

威津那 「人は煽るが己は口車には乗らぬか。扱い辛い男ばかりじゃ」

蓮太郎 「思い通りにならず歯痒そうですね。短気を起こして自滅して戴けたら楽なんですが」

威津那 「短気短慮と罵るならばそれも良かろう」

蓮太郎 「優勝劣敗ですか」

威津那 「先手必勝じゃ! 『朱門(あかもん)・鳥居(とりい)包囲(ほうい)』」

椿   「きゃあ!! ほ、炎!」

蓮太郎 「・・・っ! 周囲を炎で囲んで退路を断つ」

椿   「こ、これじゃオティスさんが来ても、越えられないよ!」

蓮太郎 「炎が怖くて同心なんかやれるか(小声)」

椿   「へ?」

蓮太郎 「『櫓(やぐら)半鐘(はんしょう)・大団扇(おおうちわ)』!!」

椿   「え?! 嘘?! 一瞬で炎が消えた?!」

威津那 「ぬ? 奇妙な術を使いおるな。そなた妾の嫌いな臭(にお)いがするぞ」

ヴァン 「ふむ・・・炎だけではかき消される、か」

椿   「蓮太郎! あの人、なんか・・・っ!」

ヴァン 「いつまでも優位なままでいれるとは思わないことだね。ここに輪廻の繕いをひとつ。『終末期を告げる笛(ギャラル・ベル・ゼール)』」

アニ  「なに・・・ぴゃあああああああ!?蜘蛛!?こんなにたくさん!?」

椿   「・・・蜘・・・、蛛? 蜘蛛、・・・あ、あ・・・」

アニ  「椿さん!?どうしたの?椿さん!!」

椿   「躑躅の蜘蛛? あ、あたし、あた」

蓮太郎 「椿、大丈夫だ、椿から蜘蛛は出てない!」

椿   「ほ、ほんとに? あたしじゃない?」

アニ  「大丈夫だよ、椿さん! けど、な、なんとかしないと!そうだ! 虫は、燃やす!蓮太郎さん!」

蓮太郎 「炎は割と苦手なんですけどね! 薙ぎはらえ『円陣(えんじん)・螺旋焔(らせんえん)』!」

威津那 「戯れておる場合か? 疾(と)く援護せい!」

ヴァン 「魔力充填。そら、突っ込め」

威津那 「『掃天円戟(そうてんえんげき)・叢原火(そうげんび)』!!」

蓮太郎 「早い!?」

ヴァン 「悪いね、少し消耗しているんだ。だから僕は君を絡めることに手を尽くそう」

蓮太郎 「蜘蛛がまとわりついて・・・鬱陶しい!」

威津那 「そら、遅い遅い遅い!!以前と同じ火力ではなァ!」

アニ  「アニ式・緩衝バリア!!」

ヴァン 「守るものがあるというのは大変だね。ならばひとまず僕が貰い受けよう」

蓮太郎 「糸の束?!?!」

椿   「・・・え?! きゃあああああああ!!」

蓮太郎 「椿!!」

威津那 「良き案じゃ、しっかり捕まえておれよ」

椿   「いや!! いやああ!! 触らないで!来ないで!! 嫌!! 蓮太郎!!」

蓮太郎 「あいつ・・・、蜘蛛の術ばかり・・・、椿!!」

ヴァン 「威津那が言う桃の香りは判りかねるが、君はとてもいい香りだ、何より美しい」

椿   「触らないで!! 嫌! 蓮太郎! 助けて!!」

アニ  「椿さんを離して!魔法弾、行って!!」

威津那 「ふん!なんじゃそれは、児戯(じぎ)に構っておる場合ではない!」

ヴァン 「魔法妨害霧展開。増加(りょりょくぞうか)。対魔法障壁付与。火炎術増幅魔法付与。そら、まだ暴れられるよ」

アニ  「嫌がらせの才能がありすぎる!」

蓮太郎 「遊びが過ぎますね」

アニ  「蓮太郎さん?! 地面に手を付いて何してるの?」

蓮太郎 「大地に張る水の恩恵に加護の在らん事を! 『後刃(こうじん)・氷結槍(ひょうけっしょう)』!飛べ!」

アニ  「そっか、大地の水分を伝って後ろに魔法を展開させたんだね!」

ヴァン 「なるほどね。それならばこういうのはどうかな?『死を見張る番人(ティルティウム・ガルム)』」

蓮太郎 「?! 空気が急に冷え込んだ、何をする積もりだ?!」

アニ  「まさか、大気中の水分を集めて氷にしてるの?」

威津那 「風が吹いて鬱陶しいのぅ」

ヴァン 「気体を固体に変えているんだ。周辺の空気が収縮すれば、周りの空気が流れ込んでくる」

アニ  「風がっ・・・上手く、立てな・・・」

蓮太郎 「風が、邪魔して上手く魔方陣を展開出来ない・・・っ!」

ヴァン 「椿、だったかな。見事な美しさだが・・・ふむ、もう少し胸は大きい方が好みかな?」

椿   「い・・・っ、や! 触ら、ないで・・・!」

ヴァン 「ところで聞きたいんだが、この世界の服の構造は、衿(えり)から手を突っ込みやすいようになっていると聞く。君のこの服も、そういう意図で間違いはないのかな?」

椿   「衿(えり)、から、手を入れないで! そんなの、誰にも赦してない!! い、やっ!?」

ヴァン 「ふむ・・・指に吸い付くような柔らかさと手触りがとても心地良い。手に収まるサイズというのもこれはこれで素晴らしいね」

椿   「うぁ、胸・・・揉まれ、てっ・・・やぁ、やめて、離して! 気持ち悪い! や、いやあああっ!」

威津那 「間抜けぃ!! おなごにちょっかい出している暇があれば奴らを潰せぃ!」

ヴァン 「怖い怖い。そう焦らないでくれ。たった今完成した」

アニ  「っ・・・氷の、槍?いや、それよりももっと・・・」

ヴァン 「同種の魔法のぶつけ合いというのも一興だろう?どちらの氷のほうが強いかな?そら、放て」

蓮太郎 「くそっ! 圧倒的に速さと魔力量が違う! 俺が一本作る間に五本作っている!」

威津那 「先程の妙な技は出せまい! 『舞え・炎纏いし極楽鳥』!!」

蓮太郎 「・・・っ!! 二方向から?! 避け・・・っ、うあああああああああああああああああ!! ぁ、・・・が、ふ・・・っ!」

椿   「もうやめて! 蓮太郎をこれ以上傷付けないで!! あたしが・・・」

蓮太郎 「余計な事を言うな椿!!」

椿   「あたしが必要なら好きにすればいいから! 蓮太郎を助けて!!」

威津那 「当然のことを懇願されても説得にはならぬ。そなた如何(いかん)で、こやつの命の是非は決まらぬよ」

アニ  「横から攻撃するなんて。この・・・卑怯者!」

威津那 「そう言われる筋合いはないわ。妾は技比べをするために此処に来たのではない」

蓮太郎 「まだ、だ・・・」

アニ  「動かないで!それ以上魔法撃ったら反動で死んじゃうよ!」

蓮太郎 「椿を・・・、連れて行かせはしない! 『疾風迅雷(しっぷうじんらい)・凍氷刀剣五芒展開(とうひょうとうけんごぼうてんかい)』穿(うが)て!!」

ヴァン 「良い剣戟だ、返してあげよう。『生を掴む竪琴(ドルフィン・ハープーン)』」

蓮太郎 「なんっ?! ぅああああああああああ!!!」

椿   「蓮太郎ーーーーっ!!!!!」

アニ  「っ・・・魔法、反転・・・そんな技があるなんて」

ヴァン 「よく研ぎ澄ませたね。けれど、切れ味のいい包丁は、時に自分をも傷つける」

椿   「放して!! 放してよ!! 蓮太郎が! やだ! 蓮太郎!!」

蓮太郎 「っ・・・、ぁ、・・・く、・・・、ま、だ」

椿   「もういいよ、蓮太郎・・・、もう、動かないで、助けなくていいから・・・、お願い!!」

蓮太郎 「ぃ、や・・・、だ」

アニ  「待って!回復を・・・っ、しま、糸が!?」

威津那 「黙って見過ごすと思うか?ようやく綻(ほころ)んだ、しばし眠っておれ」

アニ  「あ、ぅぐ・・・魔力、吸われ・・・う、にゅ・・・」

ヴァン 「魔法使いは昏倒、尖兵(せんぺい)は重体。さて・・・まだ、やるかい?」

蓮太郎 「つ・・・、ばきを・・・、返せ・・・」

椿   「れんたろ・・・、立っちゃ、ダメ・・・、もう、お願い。やめて、くだ、さい。・・・お願いします」

オティス「『七海轟く武勲詩の剣(セブンブルース・デュランダーナ)』!!」

ヴァン 「『不完全な創生(セブン・ノースターター)』・・・追いついて来たか、潮時だね」

威津那 「さあ、煙に巻こうとしよう! 『伏見(ふしみ)・雲隠(くもがく)れ』さらばじゃ」

オティス「またそれか!くそ・・・アニちゃん!蓮太郎! ごめん! 奥で蜘蛛の化け物と戦ってた!!」

アニ  「おねえ、ちゃ・・・」

オティス「魔力がほとんどない・・・ちょっと、手を切って――飲んでアニちゃん、私の血だ」

アニ  「はむ、ぅ・・・まず、い」

オティス「そりゃ、人間だからね。私じゃ回復は出来ないから。アニちゃんに魔力を戻して、蓮太郎を治して、それから・・・あれ。椿ちゃんは」

蓮太郎 「く・・・、そぅ・・・、くそぅ!! 椿を・・・、連れてかれた。魔力も・・・、何もかもが足りない! 畜生! 椿ーーっ!!」

アニ  「ごめん、なさ・・・い」

オティス「間に合わなかったか――けど、奴ら妙に椿ちゃんに執着してるな。何か理由がありそうだ」

蓮太郎 「奴らを! ・・・、追う!!」

オティス「悪いね、蓮太郎! 当身喰らわせるよ」

蓮太郎 「ぐ・・・っ」

オティス「今は、椿ちゃんを助ける為の算段をきちんと立てないと連中の思う壺なんだ」

一次創作サークル ルイは鷹を呼ぶでは「花魁道中いろは唄」

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台本をご利用し、ご支援をいただければ幸いです。

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© since2020.04 - ボイスドラマサークル - ルイは鷹を呼ぶ

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