
ルイは鷹を呼ぶ
一次創作サークル
堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 4話 ~毒牙(どくが)~
男性2 女性7 / 男性2 女性6 上演時間:120分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ
〇台本上演の利用規約について
下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。
牡丹 (♀)(25歳)
若山随一の大見世、華屋のお職であり椿の姐女郎。華やかな色気と優しさと雅さで道中を歩けば大輪の花の様だと男達を沸かせる。しなやかな色気の反面気風の良さを併せ持っており、自身の見世に害が及ぶと怒鳴り込む事もある。正義感が強く心根も優しいので汚濁したものを見ると非常に驚き、気分を害するところもある。
鬼狽羅 (♀)(22歳)
かつて鬼灯島に棲んでいた鬼一族の首魁。原典の勇者オティスとは300年前からの因縁がある。毒を使う事に長けており、医学にも精通する。ヴァンハーフに協力して九尾狐の威津那を殺生石の封印から解放するのに協力し、威津那の力により若山遊郭へ時空間移動させられた。言葉遣いは京弁。倭の国に鬼灯島の面影を重ねて珠酊院の事などを思い出し郷愁の思いがある。
椿 (♀)(19歳)
大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。
蓮太郎 (♂) (19歳)
華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。
オティス (♀) (23歳)
300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。
アニ (♀) (12歳)
オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。
躑躅 (♀)(17歳)
牡丹の妹として育てられた振袖新造。美貌はとても素晴らしく真面目だが桔梗よりは少々落ちる。とはいえやはり将来的に花魁の地位を約束されている。天真爛漫で明るく、可愛らしい性格だが、少々頭の巡りが悪く警戒心も薄い。なんにでも興味津々でキバイラに懐いている。
ヴァンハーフ (♂) (30歳)
君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。
女将 (♀)(32歳)
華屋の楼主兼美人女将。見世の経営を遣り手任せにはせず自らもせわしなく働く。自分の見世の女郎たちをとても可愛がっており、何か女郎が失敗した時なども身体に傷を付けない為に折檻はせず、仕置き部屋に閉じ込める程度で済ませるなど、大切にしている。突如現れた怪異の者達に驚愕しながらもオティス達に協力する。
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【配役表1】
椿 (♀):
蓮太郎 (♂):
女将 (♀):
牡丹 (♀):
躑躅 (♀):
オティス(♀):
アニ (♀):
キバイラ(♀):
ヴァン (♂):
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躑躅「わっちがここに売られて来た時、この若山遊郭の仲ノ町と言われる目抜き通りには色とりどりの躑躅(つつじ)が植えられておりんした。紅色、桃色、朱色、白色。目を見張るような光景にわっちはここを徳川の公方様がおいでになる大奥かと思ったのでござんした。わっちは人より物事の飲み込みが少し遅くて、芸事を習うんに姐さんの困った様な八の字の眉毛が苦手でありんした。けんどそんな事も全く気にせず、わっちを愛でてくだしゃんしたのは人ではなく鬼でござんした。鬼でありながら人より美しい鬼。この男と女が偽りの恋を綴る町でわっちは鬼に愛されんした―――」
女将 「牡丹、お参りはして来たのかい? 躑躅は? あぁ居るね、じゃあ早く部屋にもどんな」
牡丹 「何か急ぎの用事でもありんしたか?」
躑躅 「お母さんただいまでありんす」
女将 「お帰り、躑躅。お前の仕掛けが届いてるよ。なんでも身丈が大丈夫か少し確認したいとかで、呉服屋さんが部屋でお待ちだ」
牡丹 「部屋で? 待ってる?」
躑躅 「仕掛けが届いたんでありんすか?! やったー!!」
女将 「川瀬様の伝手(つて)なら松川屋様がいらっしゃるかと思ったけど違うんだね?」
牡丹 「え? 惣一郎様じゃござんせんのか?」
女将 「違うね、事情まで聞くのはややこしいからひとまず上がって貰ったけどね」
牡丹 「・・・、判りんした。躑躅、部屋に戻りんしょう?」
躑躅 「あーい!」
女将 「体付きは十分に成長してるが、イマイチ頭の成長が大丈夫かい? 躑躅は・・・」
牡丹 「淑(しと)やかさは褥(しとね)を迎えて身に付く場合もありんすから、それを期待しておりんす」
女将 「桔梗が行方不明な以上、次の初見世の報せはあの子に掛かってるって言っても過言じゃないんだ」
牡丹 「桔梗は・・・、きっともう・・・、戻ってはこんでありんしょうな」
女将 「帰って来たと言っても、もう生娘じゃない。それに、椿が言うには腕が落ちてたと言っている。とてもお職筋には」
牡丹 「無事に帰ってくればわっちが何とか方法を考えんす。鈴蘭の姐御の様に投げ出したりはせん」
女将 「あんたはそうだろうよ」
躑躅 「牡丹ねーさーん! まぁーだー?」
牡丹 「今行きんす! お母さん、そんじゃ」
女将 「なんでこう、変な事件が相次ぐんだろうね・・・。若山も終わりという事かい・・・?」
牡丹 「お待たせしんした、申し訳ありません」
ヴァン 「いえ、構いませんよ。こちらも急なご依頼の変更の為ご無理を申し上げまして」
躑躅 「牡丹姐さん、仕掛けどこ?」
牡丹 「躑躅、みっともない。ええと・・・」
ヴァン 「ああ、これは失礼、饗場屋(あいばや)と申します。松川屋様とは最近店(たな)繋がりになりましたもので」
牡丹 「あぁ、やはり松川屋様との提携でござんしたか。それならよかったでありんす」
ヴァン 「こちらの衣桁(いこう)をお借りしてもよろしかったでしょうか」
牡丹 「ああ、そっちのを使ってくんなんし。こっちに掛かってる仕掛けは他の妹のもので・・・、まんだ外したくはありんせんので」
ヴァン 「まだ、とは。何かご不幸がありましたか」
牡丹 「ああいえ、失礼しんした。そんな話聞かされてもお困りになりんしょう?」
ヴァン 「私は大丈夫ですとも。ですが、その妹さんも間もなく帰ってきますよ」
躑躅 「わっちは、桔梗と一緒に揃い踏みで突出しを出来たらいいと思っておりんした」
ヴァン 「情の深い妹さんですね」
躑躅 「幼い頃から何でも一緒にやってきんしたから、だから」
牡丹 「お慰め痛み入りんす」
ヴァン 「慰めではありませんよ。少々その手合いの予知などが出来ましてね」
牡丹 「そう言えば、お顔を隠しておいでなのはどうしてでござんしょう?」
ヴァン 「これは幼い頃に顔に火傷を負いましてね。どうせ目も見えませんからいっそ隠した方がと思いまして」
牡丹 「ははぁ・・・、お目を失くされた代わりに他の感覚が鋭敏になられたとかいう」
ヴァン 「よくお判りで」
躑躅 「でも、そんなんで呉服屋が勤まりんすかぁ?」
牡丹 「これ、躑躅。余り失礼な事を言わない」
躑躅 「だって、着物の柄だって見えんせんのに、身丈合わせるってどうやって?」
牡丹 「躑躅! 饗場屋様、申し訳ござんせん、幼い故わっちに免じて無礼の程お許しいただけんでしょうか?」
ヴァン 「いえいえ、素直なご意見をお持ちの妹様ですよ」
アニ 「アニ式サーーーーーーチ!!! なんか変な気配がするんだーーー!!」
躑躅 「あ、あ、アニさん?!?!」
アニ 「さっき廊下ですれ違った時も思ったけど、もうすごく気持ち悪い!! ここの部屋かーー?!」
牡丹 「あ、あああ、ああ、アニさん?! 饗場屋様、ほんに申し訳ありんせん!!」
躑躅 「あれ・・・? 居ない? え、と、これが仕掛けかな?」
アニ 「逃げたの?! 絶対あいつだと思ったのに、もう!」
牡丹 「あいつ・・・? あぁ、躑躅ひとまず衣桁(いこう)にかけなんし。その後帯も合わせんしょう?」
躑躅 「あい、うわぁ・・・、綺麗! ねぇ、姐さん! 萌黄(もえぎ)の仕掛けってとっても明るくて爽やか!」
アニ 「牡丹さん、その人の特徴覚えてる?」
牡丹 「特徴と言っても、顔をお隠しになっていらしゃんしたから覚えておりんせん」
アニ 「最大の特徴だ!! って、うわぁ!すっごい綺麗なお布団!!」
躑躅 「仕掛けでありんす!!」
ヴァン 「生命力は生活水準と比例する。ふむ、やはりここの楼閣の女は全体的に生命力が高いね。検証前の仮説構築にも十分使えそうな女が揃っている。素晴らしい」
椿 「キバイラさん! いるなら出て来てくんなんし!」
キバイラ「なんよ。うちを呼び付けるなんええ身分やないの」
椿 「瓢箪(ひょうたん)を、お返しに参りんした。それと、お礼を」
キバイラ「治らはった? 姐さん」
椿 「あい」
キバイラ「なら良かった」
椿 「誤解してました。いい人なんですね、キバイラさん」
キバイラ「うちは鬼や、人やあらへん。そない簡単にうち信用すると痛い目見るよ?」
椿 「・・・」
キバイラ「綺麗な子やね、椿ちゃん。生娘以外興味あらへんかったけど、気にならんほどの美貌があるて知ったわ。あぁ、そない顔こわばらせんと。今はなぁんもせぇへん、そない構えんでもええよ」
椿 「今は? これからするんですか?」
キバイラ「さてどやろ? うちな、一緒におったあの二人好きやないんよ。狐は考えなしに壊したり殺したりするし、あの妙な男は生理的に受け付けんし。せやから離反した。こん町を好き勝手させるんは気に要らん」
椿 「そんな事言われても」
キバイラ「ま、せやろな。何がそうさせるんか判らへんけど。もしかしたら故郷に似た風景のここが郷愁(きょうしゅう)感じさせるんかもしれへんね」
椿 「郷愁(きょうしゅう)・・・、故郷には帰らないんですか?」
キバイラ「うちの故郷、もうないんよ。大昔に滅ぼされてなぁ、今はもう瓦礫の山や」
椿 「滅ぼされた、って」
キバイラ「人間の浅ましい欲によって、や。うちらは財宝を貯め込んどった。それに、鬼の身体は金になるもんが多かったんや。角とか、肝とか」
椿 「体の部位を、売られたの?」
キバイラ「・・・あんさん、食卓に並ぶ鶏に同情するか? 簪(かんざし)や櫛(くし)の材料を哀れや思うか? 絹の糸吐いた後は煮られて死ぬ蚕を救いたい思うか?思わんやろ? 人間はな、姿形はどうであれ、人でなければ消費対象でしかあらへん。鬼は殊更(ことさら)、厄介やっただけや」
椿 「御伽(おとぎ)草紙(そうし)と呼ばれる文献に鬼は出て来ます。全て悪者として退治される。一寸法師も桃太郎も」
キバイラ「はは、この世界にもおるんかいな! 結局人間が善で鬼が悪、か。どこもかしこも変わらへんなぁ?」
椿 「一寸法師を読んだ時にわっちは、鬼が悪いとは思いんせんかった。打ち出の小槌を持ち出したのも一寸法師でありんすから」
キバイラ「ふうん、読んでみたいなそれ。ともかく――思ったよりも動じへんかったね? こっちでの鬼をよう知らんけど、恐れの対象ではあるんやろ」
椿 「私には判りません。あなたが悪い人だとは思えなくて。オティスさんはそう言ったけど」
キバイラ「・・・・・・は? オティス、おるんか?」
椿 「御存じなかったんですか? アニさんというお方もいらっしゃいます。」
キバイラ「アニちゃんも!? 嘘やろ、巻き込んでたんか?けど・・・ほうか、ほうか。奴がなあ」
椿 「・・・、オティスさんは敵愾心(てきがいしん)を持っていたけど、あたしにはキバイラさんが悪い人には見えなくて」
キバイラ「椿ちゃん、オティスが何者か知っとるんか?」
椿 「良く判りません。けど、人を助ける為に旅をしてるをしてるって聞きました」
キバイラ「あいつはな・・・うちにとっての『一寸法師』や」
椿 「え・・・、でも、アニさんは、牡丹姐さんを助けてくれました。恩人です。オティスさんも・・・」
キバイラ「まあ、せやろな。自己を犠牲にして他を助けることに猛進する狂人やもん。けど、鬼は人やあらへん。此処まで言わなわからんか」
椿 「人に害を成すから、命を狙われている、という事ですか?」
キバイラ「あーあ、窮屈なことこの上あらへんわな。なんでうちらが、人間なんぞが決めた尺度で測られなあかんのや、って話や。まあ人に害成すんは紛れもない事実やし?そこは否定する気はあらへんけど?」
椿 「何もしなかったら見逃してくれる、なんて都合のいい事は・・・、ないですよね?」
キバイラ「そこは原典次第やけど・・・なんよさっきから。椿ちゃん、うちんこと庇てくれるんかいな」
椿 「牡丹姐さんの顔を抉った人と離反して、牡丹姐さんを救ってくれた人を疑えって言う方が難しいです」
キバイラ「優しいなあ。原典も、善人の情には弱い。椿ちゃんが頼み込めば――ひとまずは平気ちゃうかな。受けた恩を蔑(ないがし)ろにする気概もあらへん。正義の心と、どっちが強いか次第かな?」
椿 「牡丹姐さんを治した薬がキバイラさんの物だって言ってもいいなら。頼んでみます。その、変な争いごとで戦うのはいつも蓮太郎が飛び出してっちゃうんだけど。あの顔を潰した男の人に蓮太郎が敵うとは思わなくて、怖いんです」
キバイラ「ああ・・・そういうことかいな。妖狐倒すんやから相応の手練れや思たけど。ふうん、蓮太郎君が、ねえ。ふ~ん? ま、椿ちゃんが庇てくれるんならその場で原典と殺し合いにはならんよ。うちも暴れる気はないから、そこは安心しぃや」
椿 「じゃあ、戻って伝えてきます」
キバイラ「ああせや、一つ」
椿 「なんですか?」
キバイラ「今はええけど・・・鬼のことを、腹の底まで信用するんは危険よ?理解せんで隙だらけやったら・・・
うっかり手が滑るかもしれん。うちは鬼の中でも殊更に悪趣味や、一応覚えとき」
椿 「・・・、本当に優しいんですね。キバイラさん。気を付けます」
キバイラ「調子狂う子やね。まぁ暇潰しに少し勇者とやらの気分味わってみるんも悪ないか。で? 蓮太郎くんは盗み聞きが得意なん?」
蓮太郎 「気配は消した積もりでしたが、通用はしませんね」
キバイラ「椿ちゃんの護衛かいな。お品のよろし子やね。嫌いやないよ、蓮太郎君」
蓮太郎 「一つ・・・、人を蔑んでいらっしゃるようですが、あなたは随分と『人臭い』と思いますよ。それでは失礼します」
キバイラ「愛想ないな・・・。まあ、文化も何もかも、かつてうちらが奪ったものなんやけど。もしあのまま鬼灯(ほおずき)島(じま)で人間が繁栄を続けとったら、この倭の国みたいな国が出来てたんやろうか。ま、「もしも」なん考えるだけ無駄なんやけど。過去は変えられやせんのやし」
女将 「・・・なるほどね、状況はわかったよ。誰も彼も・・・化け物じみてて怖ろしいねえ」
アニ 「だ、大丈夫かな?」
女将 「対策を考えたいと思ってね」
アニ 「対策会議かぁー。牡丹さんの顔があんな風にされたのは確かに蓮太郎さんから聞いた三人組なんだろうけど」
女将 「その、なんだい、ヴァンハーフってのや、あー、狐にしても何が目的で動いているんだ?」
オティス「何か妙な実験をしているんじゃないかと思うんだけど」
アニ 「変な実験は、嫌だね」
オティス「研究者と自負するくらいだからこの国に来た事を無駄にするとは思えないんだ」
アニ 「また・・・、誰かが犠牲になるのは嫌だよ」
女将 「実験、の意味が判らないんだけどね?」
アニ 「ううーん・・・お姉ちゃん、判る?」
オティス「例えば、一つ試したい事があってそれを、実際にやってみて正しいかどうか確かめるって言うか、んん? 難しいぞ?」
蓮太郎 「予め予想する理論や仮説を実施して結果を確認するという事ですか?」
オティス「うん、蓮太郎、解説とても助かる」
女将 「はー・・・。暇人なんだねぇ?」
アニ 「身も蓋もない言い方」
オティス「なんだろう、同情の余地もないんだけど、なんだか・・・、不憫だ」
女将 「で、実験って何やるんだい?」
アニ 「あたしが見たのは、女の人と魔力炉とクラーケンをくっつけて暴れさせてた」
女将 「魔力・・・、ろ? くらー・・・、なんだって?」
アニ 「こっちにもいるかな? 大きいイカさん」
蓮太郎 「イカ? ・・・って、イカですか?」
アニ 「うん、海にいるイカだよ。足が十本のものすごく大きいやつ」
女将 「ってったってたかがイカだろう? くっつけてどうするんだい? あれは食材程度にしかならないだろう?」
アニ 「すごく大きいんだよ! この建物なんかグシャってやられちゃうくらい大きいの! って・・・、えぇええぇええ?!?! クラーケン食べるの?!?!」
蓮太郎 「食べますね、酢の物や煮付け。干したイカは出汁も良く取れます。そんな大きなイカは見た事ありませんが」
オティス「いや、好き嫌いは無いと自負してたけど、流石にそれは・・・。食べたくないな」
女将 「華屋より大きいイカって・・・」
オティス「あぁ、まぁ、いわゆる化け物です」
女将 「なるほどね。それと・・・、人間をくっつける?!」
アニ 「そうだよ! だからヴァンハーフの実験はとっても怖いし、たくさんの人を巻き込むんだ」
女将 「蓮太郎、椿は連中に攫(さら)われたんだろう。施術が何とか言っていたんじゃなかったのかい。大丈夫なのかい」
オティス「今の所椿ちゃんに異常はないよね」
アニ 「ねぇ、お姉ちゃん。あたしは、ヴァンハーフも気になってるけど狐さんも気になってる。 あれ、なんだろう」
オティス「殺す度に生き返り、成長する、か・・・。しっかり対面しないと判らないけど」
アニ 「お姉ちゃんがちゃんと見たのは1回目だけだよね?」
オティス「アニちゃんは2回見たんだっけ。で、蓮太郎は何度も遭遇してるよね」
アニ 「うん、その度に尻尾が残るんだ」
オティス「私が今まで戦ってきた中にもそんな魔物はいなかった。私達の世界の産物な気がしないんだ」
アニ 「うん・・・。ちょっと今までと勝手が違うよね? 1回1回倒すのは割と簡単な感じなんだけど、生き返るんじゃきりがないもんね」
オティス「生き返るのに限界点があるのか、それとも本当に急所が別の場所にあるのか」
アニ 「お姉ちゃん、七星剣使える様になった?」
オティス「実は、まだ」
アニ 「何とかしないと、いくらお姉ちゃんでも武器がないと心許ないもんね」
女将 「それも考えててねぇ。事が済んだら返して欲しいんだけどね。これを使えるかい?」
オティス「それは?」
アニ 「綺麗な布に包まれてる」
女将 「もう、亡くなっちまったけど、うちの人がね刀剣好きだったんだよ。その名残さ」
オティス「開けても?」
女将 「ああ。構わないよ」
オティス「どれ・・・これは、随分と細くて長い・・・繊細な武器ですね」
女将 「童子切安綱(どうじぎりやすつな)」
蓮太郎 「童子切・・・。本物ですか? ソレ」
女将 「はっはっはー。まー、十中八九偽物だろうね。童子切なんて偽物だらけだよ。とは言え本物にかなり似せて作られているから詳しくは知らないけど、忍虎(かげとら)曰く『扱い易い』らしい」
オティス「見た目より、軽いな。うちの人・・・?」
女将 「旦那だよ? 病気でおっ死んじまったけどね?」
オティス「形見、じゃないんですか?」
女将 「さて、忍虎の形見全部大事にする程殊勝じゃなくてね。使えるもんは使ってくれ。何より華屋を守ってくれるというのに丸腰でお願いするというのもおかしなもんだ」
オティス「ありがとうございます。うん、手にしっくりくる。七星剣が使えるまでお借りします」
アニ 「良かったー! やっぱりお姉ちゃんが武器持ってないのは不安だもん」
女将 「それと蓮太郎、そっちの床の間の打刀(うちがたな)、お前はそれを使いな」
蓮太郎 「これは? ・・・っ?! 柳生(やぎゅう)が、共鳴してる?」
女将 「なんだって?」
蓮太郎 「あ、いえ。何でもありません」
女将 「お前が忍虎から貰った柳生の揃えだよ。普段はそんなモノ持たせないけど場合が場合だからね。使えるんだろう?」
蓮太郎 「・・・はい。銘が、刻んである・・・。柳・・・、葉、・・・?」
女将 「『柳葉菜(あかばな)』と言うらしい」
蓮太郎 「柳葉菜(あかばな)・・・。楼主(おやかた)の・・・。・・・、ありがとう、ございます」
女将 「あたしに出来る事は、これくらいしかないからね」
蓮太郎 「はい」
オティス「武器は揃った。後は、もっと詳しく情報を集めないといけないんだけど、接点がなさすぎる」
アニ 「んーと、何か忘れてる気がするんだよね?」
オティス「何か?」
アニ 「あっ!! キバイラ! って・・・、情報無くない?」
オティス「そうだね・・・。なんだか聞いている限りじゃヴァンハーフは今回狐と一緒に行動している感じだけど。キバイラは何してるんだろう?」
アニ 「あっちもあっちで何か企んでそうで怖いね」
オティス「大人しい時ってのはきっとロクな事考えてないだろうからな」
アニ 「今大人しいだけかもしれないから気を付けないといけない」
オティス「うん、今以上に注意して色々情報を仕入れて行こう? それと先日から河岸(かし)・・・、でしたっけ? あの辺りで遺体がボロボロになっているものを幾つか見ました。それって、よくある事ですか?」
女将 「遺体がボロボロ? もしかして穴が開いたり、鼻がなくなってたりかい?」
オティス「そうですね。全身に穴が開いているというか」
蓮太郎 「それは・・・、おそらく妖狐や実験ではないと思います。病気・・・、ですね。痩毒(そうどく)と言う、女郎が罹る病気です」
オティス「病気・・・? そうなんだ・・・。あんなにたくさん、不治の病なの?」
女将 「治す方法はないよ。女郎の身体をゆっくり腐らせて、蝕(むしば)んで行く病さ。仕事が原因で感染する」
アニ 「ねぇ、そんな危険なお仕事なのに、続けないといけないの? どうして辞めさせないの? 酷いよ」
女将 「あぁ、酷いね。そんなこた判ってるんだよ」
アニ 「判ってるならなんで?!」
オティス「アニちゃん、町や世界の決まりごとってね、個人ではどうしようも出来ない事がある。多分女将さんが一番苦しんでると思うよ。だから、そんなに責めない」
アニ 「・・・ごめんなさい」
女将 「あたしにゃ頼むことしか出来ない。不甲斐ないもんだね。けど・・・、どうかよろしく頼むよ、皆を守ってくれ」
アニ 「わーい、買い物買い物! へへ、こっちの世界にも魚市ってあるんだね! シパオで一度見たんだけどすごい沢山の魚が並んでて」
蓮太郎 「くす・・・、流石に遊郭に魚市はありませんよ。町の外に出ればありますが朝が早いので間に合いません」
アニ 「でもお魚買いに行くんでしょ? じゃあ、どこに?」
蓮太郎 「知り合いの魚屋が来てくれるんですよ。本来は華屋と提携してる問屋が見世まで卸(おろ)しに来てくれていますが、たまにこっちに来てくれると連絡があって、その時に見に行っていい魚があれば買います」
アニ 「問屋さんのお魚だけじゃ足りないの?」
蓮太郎 「量的には足りますよ。他は何となく」
アニ 「なんとなく?! 蓮太郎さんって気まぐれなんだね?!」
蓮太郎 「・・・、俺がいるから大丈夫だと思ってたんですけどね」
アニ 「そうだね、色々勉強になってお料理のレパートリーが増えるからあたしは・・・、へ?」
蓮太郎 「空に舞う雪が如し氷の結晶、千の刃(やいば)を成せ!『烈千(れつせん)氷刃(ひょうじん)・弧光陣(ここうじん)』貫け!!」
アニ 「うぇえぇえぇえぇえ?! 何でいきなり氷魔法?!」
ヴァン 「お、っと・・・、気付かれてしまったか。気配を読むとは中々素晴らしい戦闘能力だ」
アニ 「ヴァンハーフ・・・! いきなり出て来るなんて! 気持ち悪い」
ヴァン 「君も、元気そうで何よりだ。プリメロの一件から、ここまで実力をつけるとはね」
アニ 「・・・? プリメロ、って」
蓮太郎 「喋っている暇がありますか?」
ヴァン 「つれないね、僕はただ君に取引を持ち掛けに来ただけなんだ」
蓮太郎 「あなたの取引が正当な物である確証がどこにありますか? 前回の一件を考えてからおっしゃって下さい」
ヴァン 「信用に足らないか、それは悲しいね。君にとっても有用な話だとは思ったんだけど」
蓮太郎 「殺しますよ。躊躇(ためら)う理由はありません。椿にとって害しかない」
アニ 「そうだよ!ここで何を考えてるのか知らないけど、これ以上好き勝手させない!」
ヴァン 「勇ましいね、仮初の刃を振りかざして笑う―ー誰の悪戯なのか、気になるところだ」
蓮太郎 「仮初・・・。この紋章が気になりますか。結構です、あなた方にとって脅威である事が判りました」
ヴァン 「脅威とは、即ち未知だからだ。観測できれば解析できる、解析できれば対策が出来る。僕に見せてくれないか? 君はどこまでやれるのかな」
蓮太郎 「風よ、焔(ほのお)を纏い飛べ!『烈風閃火(れっぷうせんか)』!!」
ヴァン 「『生を掴む竪琴(ドルフィン・ハープーン)』・・・なるほど、混ぜたのか」
蓮太郎 「全ての要素を入り乱れさせれば解析も難しいのでは?」
ヴァン 「そうだね、どんな色でも全て混ぜれば黒と成る。元の色は読めなくなるだろう」
アニ 「こんな短期間でそういうの考えちゃうんだ。ホントにただのお料理屋さんじゃないよね」
ヴァン 「12を連ねて、時を束ねる。はぐれ者にも慈悲はなし。『輪廻せし刻の観測者(ナイト・スターラインズ)』」
アニ 「っ!?魔法陣を展開した?十二個も・・・!?」
ヴァン 「なら、君を狙うのはやめにしようか。同じ土俵に上がってくるのならばそれでもいい。窮鼠(きゅうそ)猫を噛む、然らばその牙は丁重に抜かせてもらおう。さあ、審判の時だ。放て」
蓮太郎 「っ?!」
アニ 「きゃああああああああ!?」
ヴァン 「所詮素人と驕(おご)る気はない。君は原典とよく似ている・・・なら、自分のために周りの人間が傷つくことをどう思うかな?」
アニ 「ぼ、防御追いつかない!たいへんだ、お魚屋さんたち、まだ逃げきれてないのに!」
蓮太郎 「防御を!『氷壁(ひょうへき)・縦横(じゅうおう)展開(てんかい)』!!」
ヴァン 「ふむ。3から5を前方展開。貫きしは逢瀬(おうせ)の先の神への不始末。『盲目ゆえの恋人殺し(デッド・オブ・オライオン)』」
蓮太郎 「攻撃が、魔法だけだと思うな! 『柳葉菜(あかばな)・居合切(いあいぎ)り』!!」
ヴァン 「そうだろうね、魔法の打ち合いで勝てないと悟れば、君は接近を考えるだろう。まさに蜘蛛の巣に飛び込む蝶のようだ・・・『神を貶めし旗(アラクネー・シュラウド)』。そら、捕まえたよ」
アニ 「蓮太郎さんを離してよ、ヴァンハーフ!」
蓮太郎 「・・・っく、アニさん! 町の人を逃がして下さい!」
アニ 「けど!そのままじゃ!」
蓮太郎 「多少の怪我をした所でアニさんを頼っていいんですよね? 穿て慟哭(どうこく)の炎!『螺旋炎陣(らせんえんじん)』!」
ヴァン 「おっと。そうか、アニの回復魔法はそこまで力を高めたのか。しかし、いい火力だ」
アニ 「そんな近接で魔法なんか使ったら自分まで怪我しちゃうよ!!」
ヴァン 「自分ごと糸を焼き払うとはね。自己犠牲、それは蛮勇だよ」
蓮太郎 「護る物が自分の身だけとは、寂しい人ですね」
ヴァン 「そうか、君には尊ぶべきものがあるんだね。ならばそろそろ君の限界をはかろうか。創剣(そうけん)――『贋作(がんさく)・圧切長谷部(へしきりはせべ)』」
蓮太郎 「俺を仮初と侮(あなど)りながら己は贋作ですか? 所詮真似事です」
ヴァン 「何もかも真似事でも、地力が伴えば立派な兵器だ。火炎魔法充填、魔力加速セット、標準角固定」
アニ 「この魔力量・・・逃げて蓮太郎さん!大技が来る!」
蓮太郎 「大技? ・・・っ、アニさん!回避を」
ヴァン 「いいのかな?射線の延長線上、そこには何があるかな?」
蓮太郎 「延長線・・・っまさか、華屋!?」
ヴァン 「殺してしまったら、すまないね。『邪竜を討ちし勇猛の剣(イミテーション・セブンカラーズ・レイヴンダガー)』」
蓮太郎 「・・・っ、椿!! 打たせない!! 『氷塊(ひょうかい)乱舞(らんぶ)』!!・・・っく、う・・・、重い!」
アニ 「お姉ちゃんの、技のマネ!?そんなこと、するなんて!」
ヴァン 「ただ放つだけが正解じゃないよ。弱点は突いて然るべきものだ――素晴らしい、守り切ったんだね蓮太郎」
蓮太郎 「ぁがっ・・・!」
アニ 「蓮太郎さん! へ・・・? 刀、が・・・、どして・・・?」
ヴァン 「魔法への対処はなんとか出来た。だが、核と成り飛んできた刀にまで頭は回らなかったようだね」
蓮太郎 「・・・、この程度・・・、どうって事ありません」
アニ 「で、でも! こんな刺さって!!」
蓮太郎 「大丈夫です。けど・・・、くそ・・・、消費が、激しい・・・」
ヴァン 「無理をしてはいけないよ。それは君の命の鼓動、使いすぎれば死に至るのは明白だ。成程、今のが君の最大かい」
蓮太郎 「この程度・・・、で、舐めるな」
ヴァン 「そうか。ちなみに僕は、もう一発撃てるよ」
蓮太郎 「まだだ・・・、まだ」
椿 「蓮太郎!! ・・・っ?! 何やってるのよ!! あなた・・・」
ヴァン 「おや?・・・これはこれは、君がここにきてしまったのか」
蓮太郎 「椿!! 来るな!!」
ヴァン 「まあ、いい。君の実力の程度は知れた。これ以上遊んでいては威津那の機嫌を損ねる。僕はここで退くとしようか」
アニ 「ちょ、待って!何を企んでるの!?皆を使って、何しようとしてるの!ヴァンハーフ!」
ヴァン 「いずれわかるよ・・・その少女を大事にするんだよ、蓮太郎。傷つけてしまっては成果を図れないからね」
蓮太郎 「待て!! 成果・・・? なんの、・・・っぐ」
アニ 「もう、消耗してるのに焦って動かないで!今、回復するから! ヴァンハーフはもう行っちゃったよ!」
蓮太郎 「・・・くそっ・・・」
椿 「動いたらダメってアニさんが言ってるでしょう? 動かないで」
蓮太郎 「椿・・・、何も、されてないか?」
椿 「へ・・・? されてない、けど、・・・蓮太郎? 何でそんな事聞くの? 目・・・、見えて・・・、ないの?」
蓮太郎 「ごめん、ちょっと・・・、目が、霞んで・・・、・・・」
椿 「うそ・・・、蓮太郎?! やだ、やだ蓮太郎! 蓮太郎!!」
アニ 「だ、大丈夫だよ!魔力使い切っちゃって、寝てるだけだと思う。ほら、ちゃんと胸のところ上下してる。生きてるよ」
椿 「・・・っ、良かった・・・。そんなになってるのに、あたしの心配なんて、ばか・・・」
アニ 「大切な人の為に、こんなになるまで戦えるんだ・・・椿さん達の、為に・・・、・・・っ? なんだろう、ちょっと胸の奥、チクってしたけど」
オティス「はぁ~、いいお湯だったねぇ」
アニ 「気持ち良かったねー、なんか湯船がすっごく広くていい匂いがした!」
牡丹 「あぁ、お帰りなんし。オティスさん、アニさん」
オティス「ん、今から支度するの?」
アニ 「花魁って綺麗だなー、いいなー」
椿 「お二人の髪の長さでは結えんせんな。纏める事は出来んすが、んん、髢(かもじ)を使ったら何とかなるかな?」
キバイラ「綺麗なもんに憧れるんはさすが女の子やねぇ、アニちゃん?」
アニ 「・・・へ? え、あ・・・っ!!」
オティス「お前!! キバイラ!! っ、・・・と、あ・・・剣が・・・、無い」
キバイラ「ええなぁ、そん殺気。久し振りやね? 原典」
オティス「何しに来た! わざわざ殺されに来てくれたってなら遠慮はしないぞ」
椿 「待って! オティスさん! あの・・・、キバイラさん、まだ・・・、あたし・・・」
キバイラ「説明でけへんやろ? オティスはうちに敵愾心(てきがいしん)持ってはるんやから上手いタイミングなん見付かる筈あらへん。ずーっと原典の様子窺ってはるんは健気やったけど、流石に時間掛かり過ぎやわ」
椿 「・・・、ごめん、なさい・・・」
キバイラ「ええよ、うちと原典の因縁を知って会わせよと思う方が無理難題やったわ。うちこそ任せきりで済まへんかったね」
オティス「椿ちゃん・・・、キバイラと知り合いだったの?」
椿 「ごめんなさい!!」
キバイラ「ちょいちょい・・・。椿ちゃんそれはうちに対して失礼ちゃう? なんでうちと知り合いっちゅうんを原典に謝るん?」
椿 「だって! キバイラさんは好きだけどオティスさんが攻撃しちゃうのはあたしのせいだもん!」
キバイラ「好きて・・・。そんなあからさまな好意示されたら襲いたくなるやないの」
アニ 「キバイラさんが、椿さんに優しくて、椿さんがキバイラさんを、好きなの? え? え、と・・・」
オティス「椿ちゃん、騙されたらダメだ! そいつは人を唆して好き勝手に操る最悪の奴だ! 何か下心があるに決まってる!」
アニ 「う・・・、うん。そうだよ! その人は敵でヴァンハーフたちの仲間なんだよ! 絶対何か企んでるに決まってる!」
椿 「企むって、そんな事ない」
オティス「どんな甘言で唆(そそのか)されたのかは知らないけど、信じたらダメだ。殺されるよ」
キバイラ「ま、そうなるやろね」
椿 「オティスさんお願い! 少し話を聞いて!」
オティス「話? 何の? 話し合って判り合える相手ならこんなにも拗(こじ)れてない。椿ちゃんに近付くな、キバイラ」
キバイラ「原典は確執に囚われて話し合いがでけへんのやって、椿ちゃん。どないする? うちはどうでもええよ?」
蓮太郎 「失礼ですが、あなた方の確執についてはどうでもいいです。そういう反応があるから椿も躊躇っていた。ですが、オティスさん、牡丹花魁の治療の際使った薬はキバイラさんに戴いたものです。キバイラさんは放っておいても構いませんが椿の話を聞いて戴けませんか」
キバイラ「蓮太郎君、あんさん正鵠(せいこく)を得てはるけどきつい物の言い方やね? もうちょい優しい言い方っちゅうもんがあるやろ」
オティス「は・・・? あの酒が? キバイラの?」
キバイラ「うちが作るんは毒だけやあらへん。毒作る時に解毒剤も作る、当たり前の事や。あの薬は元、鴆酒(ちんしゅ)いう猛毒に含まれる微量の良剤を燻(いぶ)して作り上げたもんや」
アニ 「じゃあ、牡丹さんを助けたのって・・・、キバイラさん、なの?」
キバイラ「あぁ、勘違いせんといて? そん時はうち、ここに原典らがおるちゅうこと知らへんかったから椿ちゃん使こて何か企んでた訳やあらへん。単純に綺麗なもん潰すヴァンハーフが気に入らんかっただけや」
オティス「くっそ・・・、まだ七星剣は重たいな。もっと魔力の供給をしっかり出来ないと。童子切で何とかするか!」
椿 「ダメ! オティスさん!!」
オティス「椿ちゃん、退いて」
椿 「いや!」
キバイラ「原典ん前に立ち塞がって、うちん事庇てくれるんやね、椿ちゃん。ほんまええ子やわ。一瞬だけやけどコレ預かってや」
椿 「・・・、黒い・・・、脇差? ・・・え?」
オティス「黒切・・・?」
キバイラ「どや? うちは武器を手放したで? そんでも疑うんなら、椿ちゃんには悪いけど交渉は決裂や」
オティス「どういう事だ」
キバイラ「石頭やね? うちはあの臭い下衆と駄狐が嫌いなんよ。せやからきれーな子の多いこっちの味方になるて決めたんよ」
オティス「何?その不純な動機」
アニ 「お、おお、お、お姉ちゃん、どうするの」
オティス「ち・・・ああもう! 条件がある、キバイラ!」
キバイラ「なんでうちが原典の出した条件飲む必要があるん? 意味判らんわぁ」
オティス「黙れ! いいか、絶対に椿ちゃんと二人きりになるな! 牡丹さんともだ!」
牡丹 「わ、わっちも・・・? でありんすか?」
オティス「気が変わって何かされたんじゃ私が守りきれない」
キバイラ「あぁええなぁ・・・、その髪。なんちゅうたかいな? 伊達兵庫(だてひょうご)ゆうんやっけ? 綺麗な鹿(か)の子使こて、情緒あるわぁ。うちも簪(かんざし)好きなんよ」
牡丹 「そうなんでありんすか? その、万能薬のお礼もありんす。よろしければお好きなの持って行ってくんなんし」
キバイラ「ええの? ほんまに? あぁ、嬉し」
椿 「牡丹姐さんは鼈甲(べっこう)が多いでありんすが、わっちは漆塗りが好きなんでありんす。良かったらわっちのも見てくんなんし」
キバイラ「これなんか斑(まだら)が入ってて高値やろ? ええの?」
オティス「人の話を聞けー!!」
キバイラ「洒落っ気一つない原典には判らん話や。椿ちゃんその伊達衿可愛えぇなぁ。あ、蓮太郎君と色違いのお揃いかいな」
椿 「あぁ、これはお祭りに来てた京の小物屋で買ったんでありんす」
キバイラ「ほうかほうか、今度また買い物一緒行こ」
牡丹 「買い物・・・っ! 良いでありんすな」
オティス「蓮太郎、キバイラから目を離すんじゃないぞ」
蓮太郎 「オティスさんは興味、無いんですか?」
アニ 「なんていうか、良く見たら蓮太郎さんもお袖の裏に柄が入ってたり、見えない所でおしゃれなんだね」
オティス「・・・泣いてもいい? アニちゃん」
蓮太郎 「なんとか華屋に入り込む事が出来ましたね」
キバイラ「簡単な事を見落としてたわ」
蓮太郎 「簡単な事?」
キバイラ「うちが原典の許可取る必要、顔色窺(うかが)う必要や。なんでうちが原典に遠慮して美形の居る華屋に寝泊まりしたらあかんの?っちゅう話や。うちも可愛らしい子に添い寝されたいわ」
蓮太郎 「あぁ、それはダメですね。あなたは腹の底から自分を信用するなと椿に言った。俺はその積もりですので」
キバイラ「自分で自分の首絞めてもたわ・・・で、なんやあんさん籠手外してはるやないの」
蓮太郎 「俺は料理番なんで仕事の時は外しますよ?」
キバイラ「ふぅん。それでなんで紋章眺めてはったん?」
蓮太郎 「・・・ヴァンハーフ、でしたっけ。彼に負けました」
キバイラ「負けた・・・、て。はー、彼奴ん前で負けてよう無事やったね?」
蓮太郎 「椿が来て、何故か彼が逃げる様にいなくなったので。九死に一生を得たという方が正しいです」
キバイラ「悔しい?」
蓮太郎 「・・・、はい」
キバイラ「ええなあ、素直で」
蓮太郎 「これでは守りたいものも守れない。奴らに蹂躙(じゅうりん)を許してしまう。それが悔しいです。いざという時にこれでは使い物にならない、椿への凌辱すら止められずに、俺は・・・」
キバイラ「ふーん、ええよ。うちに宿題くれる? それ調べるわ、多分うち知ってるから」
蓮太郎 「え?」
キバイラ「その紋章、原典や君臨勇者は勇者特権や思てはるんやろ? 裏かくんも面白いな思て」
躑躅 「鬼なん、わっちは初めて見んしたよ」
キバイラ「ま、珍しいもんやろね。こっちの世界にはそういうのおらへんの? 鬼や魔物、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)とか」
躑躅 「うーん。お話の中で出てくることはありんすけんど、会ったことはありんせん。貴重な経験出来んしたよ」
キバイラ「そういうもんか。けど、うちとしても此処に来れたんは僥倖(ぎょうこう)やったわ」
躑躅 「え、なんででありんすか?」
キバイラ「右見ても左見ても美人揃いで目の保養なんて騒ぎやあらへん。躑躅ちゃんもかわええね、さすが華屋お職牡丹花魁の妹なだけあるわ」
躑躅 「か、可愛い・・・、えへへ、照れるなぁ」
キバイラ「躑躅ちゃんは、水揚げまだなんよね?」
躑躅 「あい、まんだ牡丹姐さんに色々教わってるところでありんす。褥の技芸、とか、見てるのはちょっと恥ずかしいけんど・・・、えへへ、ドキドキしんす」
キバイラ「初々しいんもかわええなぁ――あかん、ちょいと気が迷いそうや」
躑躅 「気が、なぁに?」
キバイラ「こっちに来てから、まともに「食事」もできとらへんし。躑躅ちゃんみたいに可愛らしい美味しそうな子見ると、ついな」
躑躅 「食べたくなる、ってこと、でありんすか?」
キバイラ「ま、そゆこと」
躑躅 「う。そ、それは困る。まだ牡丹姐さんに育ててもらった恩を返しきれておりんせん」
キバイラ「何も取って食うわけやあらへんよ。血を吸うだけでも持つし」
躑躅 「傷が残るのは困りんす。だから血も難しいと思いんす」
キバイラ「ま、噛まれた傷見せるわけにもいかへんしな。あとはそこまで効率は良くないけど・・・粘膜接触、とか」
躑躅 「ねん、まく?それは・・・つまり、どういうこと?で、ありんすか」
キバイラ「ふむ・・・知ってか知らずか、相手の劣情煽るようなあどけなさ・・・花魁になるんには、そういう才能も大事なんかもね」
躑躅 「え?それって、どういう――んっ!?」
キバイラ「ん、ちゅ・・・こういうこと」
躑躅 「ふぇ!はえ!?な、なんで接吻けを!?」
キバイラ「要は、唾液にも魔力は含まれとるんよ。清らかで美味しい魔力に、柔らかい唇。最高よ?躑躅ちゃん」
躑躅 「ば、馬鹿!キバイラさんのばーか!わっちは、まんだ誰ともこんな、こんな! あうわうわうー・・・」
キバイラ「ああ、初めて奪ってしもうた?それはどうも、ごちそうさん」
躑躅 「うう、うー!もう・・・、ふえぇ」
キバイラ「赤くなって、かわいらし・・・女同士言うんも、気持ちええもんやろ?」
躑躅 「ふぁっ!?」
キバイラ「躑躅ちゃん。もっかい、してもええかな?」
躑躅 「えええ!?や、そろそろ戻らないと!」
キバイラ「ええやないの。うち、もう限界なんよ。我慢なんて出来へん、躑躅ちゃんの唇、堪能させて?」
躑躅 「けど、牡丹姐さんの躾が――んむうう!」
キバイラ「ちゅ、ん。ええやないの。ちょっとだけ。ほら・・・舌、出しや」
躑躅 「だめ、だめなのに・・・あ、れぅ、あ・・・、ん、ん、ちゅ・・・、は・・・、ぁ」
キバイラ「ほら・・・ん、舌絡めるんも・・・、あ、む、気持ちええやろ?」
躑躅 「あ、む、・・・、ん、気持ちい・・・、ん、ちゅ。舌、熱い・・・キバイラ様、もう一回・・・して?」
キバイラ「何度でも。教えたげる、口吸いだけやのうて、もっと色々」
躑躅 「けど、もう戻らないと・・・ん、むぅ・・・キバイラ、様っ・・・」
キバイラ「ほんまに?まだ満足出来てないみたいやけど・・・もうちょっとだけ、しよか」
躑躅 「うん・・・キバイラ様・・・素敵な、お方でありんすね・・・は、う・・・ちゅ、ん・・・足りない、もっと・・・」
キバイラ「ふふ、抱き着いて離れんほど夢中になって。姐さんの躾は行かんでええの?」
躑躅 「んむぅ・・・ぷ、はぅ。いじわる、言わんでくんなんし・・・ん、んにゅ・・・」
キバイラ「んちゅ、れぅ・・・今日は、ここまで。ご馳走さん・・・また声かけてもええ?可愛がったるさかい」
躑躅 「あい・・・勿論でありんす。また、今度。キバイラ様・・・」
躑躅 「ご、ごめんなんし牡丹姐さん!遅れんした!」
牡丹 「躑躅?何を、しておりんしたか?」
躑躅 「ふええ、怒ってる。怒ってるよう・・・」
牡丹 「怒ってはおりんせんよ? ただ、どこで、何を、していたか・・・、躑躅の返答にもよりんすな」
躑躅 「え、ええと、ええとそのぅ・・・なんというか」
牡丹 「もしやと思いんすが、間夫と逢引でもしておりんしたか」
躑躅 「あいぅ!?そ、そんなんじゃありんせん!ただ食事をしていたと言うか!く、唇を吸われたとかそんなこと、全くありんせん!」
牡丹 「口を、吸う? 食事・・・。・・・はーーー・・・、素直すぎるというのも考えものでありんすな」
躑躅 「あっ。しま・・・」
牡丹 「躑躅、いつの間に間夫をつくりんしたか? そのような素振り、今までなかったと思いんすが。帯は解いておりんせんな?」
躑躅 「ええと、間夫というか・・・相手も女なので大丈夫、でありんすよ? うん」
牡丹 「そうでありんすか。なら今日は――ん、相手も? 躑躅、今なんて言いんしたか?」
牡丹 「キバイラ様。躑躅と仲良くしてくれてると聞きんしたよ」
キバイラ「躑躅ちゃん? ああ、可愛らしゅうてええ子やね」
牡丹 「なるほど? 美人なら誰でもいいと言う事でありんすね?」
キバイラ「へ?そないなことはあらへんけど・・・なによ。なんで怒っとるん?」
牡丹 「怒ってなどおりんせんよ。わっちの可愛い妹を誑(たぶら)かして接吻けを交わしたことなんて、全然腹を立てておりんせん」
キバイラ「う。あー・・・見とったの?」
牡丹 「躑躅から聞きんした、隠し事が苦手な子でありんすから」
キバイラ「その、あれはやね」
牡丹 「魔力、とやらが不足していたでありんしょう?キバイラさんにとってはただの食事だと、それも躑躅から聞きんした」
キバイラ「全部筒抜けやないの」
牡丹 「鬼とは人を喰らう者。なのに狐のように人を食わぬというのは身に堪えんしょう。躑躅は可愛いでありんすからな」
キバイラ「うちを駄狐と同じに思わんで?」
牡丹 「それは申し訳ありんせん。けんど・・・そんなに、生娘がいいんでありんすか?何度も逢引しているようでありんすが」
キバイラ「はぁ? 牡丹、話の方向性がわからんのやけど」
牡丹 「もういいでありんす。躑躅は、キバイラ様のことを好いているようでありんすから、今後も仲良くしてあげてくんなんし?」
キバイラ「え、あ、うん。それはもちろん大歓迎なんやけど」
牡丹 「そんじゃあ、わっちはこれにて失礼しんす(怒)。そろそろ夜見世の準備をせねばなりんせん」
キバイラ「牡丹の仕掛け、綺麗なんやろね。うちも見てみたいわあ」
牡丹 「は、道中に湧く素見(ひやかし)と頭並べてみればよろしんす」
キバイラ「は!?なんやの・・・、めっちゃ怒ってはるやないの?」
牡丹 「全く、キバイラ様は・・・わっちに言えば、接吻けくらい・・・」
蓮太郎 「牡丹花魁!」
牡丹 「蓮太郎?おんし、こんなところで何をしておりんすか。料理の準備は?」
蓮太郎 「今、お一人でしたか?」
牡丹 「キバイラさんと一緒に居りんした。何かあったでありんすか?」
蓮太郎 「躑躅さんは、一緒じゃないんですね?」
牡丹 「躑躅?一緒じゃありんせんが・・・まさか、まだ帰ってきておりんせんのか?」
蓮太郎 「もみじ屋に行くと言ったきり、もう二刻も戻って来てません」
牡丹 「なにか、良からぬことに巻き込まれて?」
蓮太郎 「今は仮面の男や狐の怪物が若山を混乱に陥れている、そうでなくとも番所が潰されて監視の目も浅いんです」
牡丹 「探しに行きんす!」
蓮太郎 「若衆が探してます。牡丹花魁は夜見世の準備を続けて下さい」
牡丹 「けんど!」
蓮太郎 「ここで牡丹花魁まで居なくなったら、華屋はどうなりますか」
牡丹 「う、っ・・・絶対に、見つけてきてくんなんせ!絶対に!」
蓮太郎 「はい、必ず」
ヴァン 「やれやれ、また威津那か。この隠れ家を得るのに僕も程々に苦労したんだけどね。
彼女がそんな気を回すとも思えない・・・やはり、隠れ家と工房は分けるべきだ。新しい場所を検討しないと」
躑躅 「う、ん・・・だぁれ?」
ヴァン 「目を覚ましたかい」
躑躅 「どなたか知りんせんが・・・、助けてくんなんしたか?」
ヴァン 「大したことではないよ。それで、ここで何があったか覚えているかな」
躑躅 「突然目の前に女の子が現れんして、そうしたら首を噛まれて・・・そこからは、何があったのか」
ヴァン 「そうか、もう心配いらないよ」
躑躅 「ところで、貴方は一体・・・きゃ!?なに!?変な鎖!」
ヴァン 「威津那が食べ残したと言う事は、桔梗と同じと言う事だろう。大きな見世で大事に育てられた、生娘」
躑躅 「な、なになになに!? って、ここは――、どこ?」
ヴァン 「ああ、場所がわかっていなかったんだね?ここは裏茶屋の一室だよ」
躑躅 「へ? う、裏茶屋? だ、男性・・・?! い、いや!離して!いやぁ!」
ヴァン 「僕たちが隠れ住むために乗っ取ったんだけどね。何せ此処はとてもいい、奉仕品がたくさんあるからね」
躑躅 「誰か、誰か!牡丹姐さん!キバイラさん!誰か助けてぇ!」
ヴァン 「そんなに叫んでも誰も来ないよ。しかし、キバイラと関わりがあったのか。すまないね・・・どれ」
躑躅 「あ、いや、いやぁ・・・帯解かないで!着物を、捲(めく)らないで!いやぁ!」
ヴァン 「ふむ、中々に成熟しているね。もう少し肉付きがいいと好みだが、触感はいい。こちらは・・・問題はないかな」
躑躅 「い、や・・・っ! 変な、手つきで触らないで・・・ん、んんんっ!? ・・・っあ・・・、力が・・・入らな・・・んっ、いや!」
ヴァン 「敏感だね。元々そうなのか・・・それともよく効いているということかな。色々作ったが、一番これが良さそうだ」
躑躅 「身体、熱い・・・? うぅ・・・、なに、これ。何かおかし・・・ひうっ!? やだ・・・やだぁ!」
ヴァン 「驚かなくていい、眠っている間に媚薬を盛っただけだよ。余計な道具が要らないからね、色々都合が良いんだ」
躑躅 「やだっ! やめ、て・・・っひ!? ねえ。その、変なものは何?」
ヴァン 「これかい?実験のための道具だよ。少し、試したいことがあるんだ。威津那の眷属を増やさなくちゃいけなくてね。けれど、命を育てるためには「母体」が必要なんだ」
躑躅 「い、意味が、判りんせん!」
ヴァン 「そのための『核』をつくらなくちゃいけないんだけど・・・命を成すには、おしべとめしべ――、人間でいう精子と卵子が結びつく必要がある。それはわかるかな?」
躑躅 「知らない!わからない!」
ヴァン 「今までは外で核を作って埋め込んでいたんだけど、どうにも効率性に欠けると思ってね。そこで気付いたんだ。
外で作った核を埋め込むより――母体の中で作ったほうが効率がいいし何より安全で着床率が高い」
躑躅 「あ、ぎっ!?指、入れないで・・・、触らないで!やだ、やだやだぁ!」
ヴァン 「さて、注入はこれでいい。あとは精を、打ち込まないとね・・・ふむ、麩海苔(ふのり)は要らないね。実に合理的だ」
躑躅 「いや、やめて!わっちはまだ・・・いや・・・いやあああああああああああああ!!!」
ヴァン 「怖がらなくてもいいよ、せっかくだから楽しむと良い。さあ・・・「俺」に、全部委ねろ」
女将 「裏茶屋に連れ込まれて・・・破瓜を、奪われた!?」
躑躅 「ひっぐ、ぐす・・・」
牡丹 「そん、な・・・桔梗もまだ帰って来んせんのに。躑躅までこんな・・・」
女将 「あの妙な奴らが来てから、若山はずっとおかしいまんまだ。牡丹、百合の躾はしばらく休みだ。あたしの手元に置く、いいね」
牡丹 「あ・・・、あい。わっちが不甲斐ないばかりに・・・、申し訳ありんせん。大事な妓(おんな)を、わっちは・・・」
女将 「お前のせいじゃない。今は特別おかしいんだ、自分を責めるんじゃない」
オティス「ヴァンハーフが、そんなことするなんて」
キバイラ「女を凌辱する趣味があるなん、信じられへんな。三度の飯より研究探求な男やろうに」
オティス「性欲とかあったんだな・・・この間の戦闘の技といい、「こっち」のヴァンハーフはなんか妙だぞ」
キバイラ「今は、そないなことどうでもええ。あの腐れ外道、いてこましたらな気が済まんわ」
オティス「そうだね。躑躅ちゃん、どの辺の茶屋だったか覚えとる?」
躑躅 「えぐ、ひっく・・・ごめん、なさい」
キバイラ「・・・酷なこと、聞くで躑躅ちゃん・・・。君臨勇者だけか?」
オティス「は? お前、何を聞いて」
キバイラ「ここの若衆が躑躅ちゃん見つけた時、泥まみれで服も乱れてたっちゅう話やった。部屋の中で君臨勇者に犯されたとしても、そないな姿になる思うか!?」
オティス「・・・それって」
躑躅 「ふ・・・、ひっく、夢中で逃げてたら、道に迷っちゃって・・・、そしたら、そしたら暮れ六つの鐘が聞こえて。
早く帰らなきゃって思ったんでありんす。・・・でも華屋がどっちかわかんなくて・・・、そうしたら、男が何人もいて。うらっ、路地裏に連れていかれて・・・そう、したら、そう、して・・・、あ」
牡丹 「もういい、躑躅! もう・・・、十分でありんす」
躑躅 「牡丹姐さん、ごめんなさい! 私、もう・・・花魁には、なれない」
牡丹 「守ってあげられなくて、ごめんなんし!躑躅、躑躅!ごめんなんし!」
躑躅 「ごめんなさい! ごめんなさい! うわああああん! 牡丹姐さん!ごめんなさい!」
キバイラ「・・・原典。アニちゃんから、目離したらあかんよ。ここは「こういう」町なんやと、ちゃんと受け入れや」
オティス「わかってる・・・ちゃんと、わかってるよ」
アニ 「お姉ちゃん。躑躅さん、なんだけど」
オティス「どう?熱があって寝込んでるって話だったけど」
アニ 「元気そうにはしてるよ? ただ、その・・・梅毒かもしれない、って他の人が言ってて」
オティス「・・・え?」
アニ 「梅毒って、何・・・? なんであんなに体中が穴だらけになるの? ねぇ、」
椿 「女郎が罹(かか)る病気と以前にお伝えしんした」
女将 「子供とは言え、夫婦になって子を作る方法は知ってるだろう?」
オティス「女将さん、椿ちゃんも」
女将 「知りたがっている子の向学心を邪魔する権利はあんただってない筈だろう?」
オティス「けど、そう言うのは気持ち的な物からゆっくり学んでいけるものだと思っています」
椿 「ゆっくりと時間を掛けて学ぶ猶予がないとしたら?」
オティス「その、『それ』がそんなに大事な事だと私は思わない」
女将 「おそらく、あんた達の元の世界じゃ瑣事(さじ)なんだろうね」
椿 「この町に居るからには知って貰わねばなりんせん。迂闊に男と交合わない為にも」
オティス「アニちゃんがそういう子だって言うの?」
椿 「アニさんにその意思がなければ大丈夫と言える訳じゃありんせん」
オティス「それなら私が守る」
椿 「本人の意思と自覚、周囲の配慮全てが揃っててもまだ足りないんです」
オティス「足りない・・・、って」
椿 「キバイラさんが言った通り『そう言う町』なんでありんす、ここは、ここでは女は男の性欲を処理する道具でありんす」
アニ 「何? 道具って・・・、そんな言い方しなくたって!」
椿 「わっちも含めて、道具でありんすよ」
アニ 「椿さんも、って、え・・・?」
椿 「誰かを虚仮(こけ)落(お)とす為に行っている訳ではありんせん。この町に根付く真の仕組み、わっちらは逃れる術を知らん」
アニ 「椿さんは・・・、道具なんかじゃないよ? ただの、道具を・・・、・・・あんな風に守ったり、しない」
椿 「・・・? アニさん。子を作る行為・・・、知っておりんすな?」
アニ 「そ、それは・・・、その、えと、しって、る・・・、けど、あ、ああ、あの・・・、んっ。ふ、夫婦で・・・」
椿 「その行為で、梅毒、痩毒は感染する伝染病でありんす」
アニ 「それじゃ・・・、みんな、子供、産めないの・・・?」
女将 「いや? そうじゃない。少なくとも椿や牡丹・・・、華屋の花魁と言う立場の女には梅毒はいない。そう言う男と関わらせないからだ」
アニ 「そう言う男? それって、わかるの?」
女将 「いつから、どこで、どんな風にどんな風に広がったかは判らない。けどね、西河岸(にしがし)や羅生門(らしょうもんがし)、そう言った所に居る女郎達はほとんどが罹(かか)っている」
アニ 「椿さん・・・、だから、西河岸には、行かない、って颯太さんを探す時」
椿 「その辺をうろついてる男に隙をつかれたら梅毒を貰ってしまうから、行かなかったの」
アニ 「あたしは、知らない事が、多すぎる、ね」
女将 「つまりはそこの女達と関わった経歴を持つ男を客として受け入れない。その姿勢を徹底してるからウチの女達には痩毒を持っている女はいない」
アニ 「どうして? 女将さん何とかしてあげられないの? 感染るって判ってるんでしょう? なのに」
女将 「そうだね。あたしにもっと力があれば、この町の女を助けてやれるかねぇ?」
アニ 「そうだったよね、ごめんなさい。でも、あたし・・・、もうなにもわからない。どうにかしてあげたいのに・・・っ、力が足りない! あたしが、病気も怪我も全部全部直してあげられたらいいのに!! 全然足りないよ!!」
女将 「誰か一人の責任にするには余りに事が大きすぎるね」
椿 「でもお母さん、熱が出ただけで痩毒を疑うのは安直すぎでありんす」
女将 「確かにそうだね・・・。司波先生がいればきちんと診断して貰うが今はいらっしゃらないんだろう?」
椿 「先週いらっしゃって牡丹姐さんの診断をしてから一度公家に行くと言っておりんしたからそう早くは来られんと思いんすが」
女将 「痩毒の女郎の成れの果ては知ってるが、初期症状をあたしは良く知らなくてね」
アニ 「そ、そうなの・・・?」
女将 「言ったろう? 華屋にはいないと。詳しく見た事がないんだよ」
アニ 「でも、あんな・・・、穴だらけになって、きっと、痛いよね」
椿 「判りんせん。何も・・・、判らんのでありんす」
オティス「躑躅ちゃんを襲った男たちは、見つからず仕舞いなんでしたっけ」
女将 「そうだね、暮れ六つ刻の雑踏じゃ探し様がない。おそらくそいつらの誰かが梅毒持ちだったんだろうね」
オティス「っ・・・アニちゃんの回復でも、流石に梅毒・・・、病気を取り除くことは出来ません」
女将 「ははっ、この町で梅毒を治せたなんて言ったらアニさんは担ぎ上げられて神様扱いさ」
オティス「・・・そんなに、深刻な病なんですか」
女将 「花柳病(かりゅうびょう)と言われる病さ」
オティス「かりゅう・・・? つまり?」
女将 「ほとんどの男も女も梅毒なんだよ。言葉を包み隠して『鳥屋(とや)がついた』なんて言うのさ。粋人の証としてね」
オティス「済みません。意味が、分からない。粋人って良い言葉じゃ、ないの?」
女将 「そう、人としての成功者。遊び歩いた粋な人間、そう持ち上げて重大な病から現実逃避する」
オティス「そうしないと生きて行けない、という事ですか」
女将 「生娘じゃなくても、実力によっちゃ花魁にのし上がる娘だって居る。躑躅もこれからの教育によっちゃとは思っていたが」
オティス「私が、早く見つけられてたら」
女将 「誰の所為(せい)でも無いさ。抱え込むのはあんたの癖かい?」
オティス「救えたはずの命を目の前で取りこぼす・・・自分を責めても、どうにもならないのはわかってます」
女将 「その優しさは、ここじゃ命取りになるよ。しかし、ちょっと妙だね」
オティス「妙、って?」
女将 「症状が出るのが早すぎるんだよ。1週間もしないうちに発熱や関節痛の症状が出るなんて。普通はないんだ」
オティス「・・・けど、梅毒じゃないとしたら躑躅ちゃんは一体」
女将 「あんた達が持ち込んだ新種の病気、なんて顛末だとしたら――あたしゃあんた達を赦せる自信がない」
オティス「その時は・・・この体、御自由に」
女将 「そういうことを、曇りない目で言うかね普通」
オティス「お生憎、普通じゃないので。そのおかげで守れる命があるなら本望です」
躑躅 「姐さん・・・そこに、おりんすか」
牡丹 「躑躅、ここにおりんすよ」
躑躅 「体中が、痛い。わっちの顔、どうなっておりんすか?もう、目も開かんのでありんす」
牡丹 「っ・・・綺麗なままで、ありんすよ」
躑躅 「腕も足も、動かん。これじゃ、桔梗と一緒に揃い踏みも出来んせん」
牡丹 「大丈夫でありんす。桔梗も、必ず返ってくる!だから!二人で揃い踏みをしてくんなんし!」
躑躅 「また、キバイラさんに会いたいでありんすな。いろんな話をしてくれて。わっちの知らない世界を、教えてくれたでありんす」
牡丹 「キバイラさん、が?」
躑躅 「わっちの破瓜は、妙な男に奪われんした・・・けんど、唇は・・・わっちを最初に奪ったのが、キバイラさんで良かった」
牡丹 「そう、でありんしたか?」
躑躅 「いっそ、破瓜もキバイラさんに捧げていれば、こうはならなかったでありんしょうか? もしくは、いっそわっちを食べてもらえば・・・こんな思いは、せんかったでありんしょうな」
牡丹 「違う、違いんすよ。おんしを想うからこそ、奪わんかったでありんすよ?」
躑躅 「こんな私じゃ、もう誰の役にも立てない。ならせめて・・・キバイラさんの助けに、なりたかったなぁ」
牡丹 「そんなにも、キバイラさんのことを・・・?」
躑躅 「見てほしかったでありんすなぁ。わっちの、仕掛け・・・」
牡丹 「躑躅、諦めちゃあならん!」
躑躅 「ああ、まだ、色々知りたいことがありんした、のに・・・もう、キバイラさんの力にも、なれんせん。穢(けが)れた身体じゃ、キバイラさんに申し訳ありんせん」
牡丹 「そんなこと、そんなことありんせんよ」
躑躅 「こんな顔、最後に見られたくない・・・キバイラさんには、黙って、弔ってくんなんせ」
牡丹 「ダメでありんす。ちゃんと、キバイラさんに会って!己の口で別れを言わねばなりんせん!だから!」
躑躅 「ごめん、なんし。牡丹姐さん・・・何も、返せなん・・・だ」
牡丹 「躑躅、躑躅?起きてくんなんし!躑躅!」
キバイラ「・・・もう、息を引き取っとうよ」
牡丹 「躑躅・・・姐より先に死ぬなんて」
キバイラ「仇は、絶対取るさかいな。あんさんの顔壊しただけやなくて、こんなかわいい子まで死なせるなん、赦(ゆる)されたもんやあらへん。こっちの君臨勇者は、うちが潰す」
牡丹 「わっちらは人間やというんに、キバイラさんはそう思ってくれんすか?」
キバイラ「綺麗な子は、好きよ。やからこそ、それを何の躊躇いもなく壊されるんは気に食わん」
牡丹 「もう、怯えることはありんせんよ。躑躅、辛かったで、ありんすな、よう、耐えんした・・・」
蓮太郎 「牡丹花魁、済みません、椿が」
椿 「牡丹姐さん、あの、躑躅の話で気になる事がありんして・・・」
牡丹 「椿・・・?」
キバイラ「牡丹、あんさんは・・・、ん?」
牡丹 「どうしたでありんすか」
キバイラ「や、気の所為かな。今、躑躅ちゃんの目が動いた気がして」
牡丹 「そんなこと・・・もう、躑躅は――ひぃあああああ!?」
キバイラ「っ!?目から・・・なんや・・・? なんかが這い出して・・・、蜘蛛!?」
牡丹 「あ、あああ・・・あああああああああああああ!!!」
キバイラ「どないなっとるんや!?なんで、こんな、耳からも出て来はった! まてや、なんやのこれは!
牡丹 「目から、口から、耳から、鼻から! いや、いやああ! 躑躅が、躑躅が! やめて、もう躑躅を崩さないでくんなんせ! いやああああああああああ! 躑躅いいいいいいいいいい!!」
キバイラ「落ち着きや!正気を手放しなや牡丹!まさか・・・躑躅ちゃんの体内に巣食っとったんか?」
牡丹 「ああ、躑躅、躑躅!いや、いや・・・」
椿 「あ・・・、あ・・・、や・・・」
蓮太郎 「椿、しっかりしろ」
ヴァン(M)『身体を使わせてほしいんだ。少しの間だけで構わない』
椿 「いや・・・、いや、やめて・・・、なに、が・・・」
蓮太郎 「椿・・・?」
ヴァン(M)『施術後はより濃い生命力や体力が必要となる』
椿 「これは、何? 何が・・・、どうして? こんな、あ、・・・あぁ」
蓮太郎 「椿、聞こえないのか、しっかりしろ、大丈夫だから」
ヴァン(M)『適合できるかどうか、実験しておきたい』
椿 「実験・・・、実験て、何? 何の実験? 蜘蛛? これ、実験?」
牡丹 「椿・・・? おんし、どなんしんした?」
ヴァン(M)『一つ、君に「種」を埋め込む』
椿 「種・・・、って、なんの? や、こんな、こんな事を」
ヴァン(M)『クスコというものだよ。種を植え付ける為にね』
椿 「いぃいやあああああああああああああああああ!!!」
蓮太郎 「椿!! ・・・っ、意識を・・・? 椿」
牡丹 「気丈な椿が・・・、意識を手放した・・・?」
蓮太郎 「あいつらが椿を拉致して『実験』を行った。躑躅さんも何らかの実験を行われた結果だと思ったんでしょう。椿が意識を手放すのは・・・、旗本加賀の客を取って以来です。」
牡丹 「余程恐ろしい目に合ったんでありんしょうな。ひとまずお母さんに報告して椿はしばらく休ませんしょう」
女将 「やけに進行が早いと思っちゃいたが・・・体内から蜘蛛が出てくるなんてね」
蓮太郎 「最近若山で散見されていた、痩毒のように崩れた死体。あれはもしかして」
女将 「みんな、躑躅みたいに蜘蛛に食い尽くされたのかもね」
蓮太郎 「・・・ここしばらく、あの狐を見かけていません」
女将 「大人しく引き下がるような物の怪なら、苦労もしないんだけどね」
蓮太郎 「必ず、なんとかします」
女将 「うちで頼れるのはあんただけだ蓮太郎・・・椿から目を離すんじゃないよ」
蓮太郎 「言われなくても、そのつもりです」
ヴァン 「実験体β(ベータ)~λ(ラムダ)まで、全員産卵及び増加を確認。しかし如何せん数ばかりで個体の強さに欠けるな。やはり人間のように母体に長く留まらせ、着実に育てる方式が確実だろうか? 実験台α(アルファ)の結果も待ちたいが、あまり悠長にしていると威津那がしびれをきらしそうだ・・・、そろそろ、次の手を考えなくてはね」
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