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堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 3話 ~乖離(かいり)~
男性2 女性6 上演時間:90分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ

〇台本上演の利用規約について

 下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。

 https://call-of-ruitaka.fanbox.cc/posts/1761504

牡丹 (♀)(25歳)

 

若山随一の大見世、華屋のお職であり椿の姐女郎。華やかな色気と優しさと雅さで道中を歩けば大輪の花の様だと男達を沸かせる。しなやかな色気の反面気風の良さを併せ持っており、自身の見世に害が及ぶと怒鳴り込む事もある。正義感が強く心根も優しいので汚濁したものを見ると非常に驚き、気分を害するところもある。

 

鬼狽羅 (♀)(22歳)

 

かつて鬼灯島に棲んでいた鬼一族の首魁。原典の勇者オティスとは300年前からの因縁がある。毒を使う事に長けており、医学にも精通する。ヴァンハーフに協力して九尾狐の威津那を殺生石の封印から解放するのに協力し、威津那の力により若山遊郭へ時空間移動させられた。言葉遣いは京弁。倭の国に鬼灯島の面影を重ねて珠酊院の事などを思い出し郷愁の思いがある。

 

椿 (♀)(19歳)

 

大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。

 

蓮太郎 (♂) (19歳)

 

華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。

 

オティス (♀) (23歳)

 

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。

 

アニ (♀) (12歳)

 

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。

 

ヴァンハーフ (♂) (30歳)

 

君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。

 

威津那 (♀) (14歳)

 

ヴァンハーフの実験により殺生石より封印を解かれて覚醒した九尾狐。ヴァンハーフと協力し何かを企てているが現在その謀略の内容については判らない。性格は不遜で大変な我儘で自己中心的な上に堪え性がない。自身の目的の為ならば人間がどれだけ死のうが関係なく、女性は等しく皆己の餌だと言い張る。口調は古風な話し方で、命令口調が多い。炎系の魔法を使って攻撃する事が多い。

 

女将 (♀)(32歳)

 

華屋の楼主兼美人女将。見世の経営を遣り手任せにはせず自らもせわしなく働く。自分の見世の女郎たちをとても可愛がっており、何か女郎が失敗した時なども身体に傷を付けない為に折檻はせず、仕置き部屋に閉じ込める程度で済ませるなど、大切にしている。突如現れた怪異の者達に驚愕しながらもオティス達に協力する。

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【配役表】

牡丹    (♀):

キバイラ  (♀):

ヴァン   (♂):

威津那+女将(♀):

椿     (♀):

蓮太郎   (♂):

オティス  (♀):

アニ    (♀):


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牡丹「若山遊郭随一の楼閣華屋。わっちはこの華屋の頂点花魁として全ての妓の憧れでありんす。そうあらねばならん、容姿の美しさ、芸事、所作、心根全てが美しかろと胸を張って道中を歩く。死ぬまでそうあれかしと思っておりんした。友情や恋心を己の身に宿る命を失い傷付いても立ち直らねばなりんせん。そうでなければ、この町に暮らす女郎二千人に面目が立たないから。けれど、もしかしたらもう終われるかもしれんせんと淡い期待を持った事だけは誰にも知られたくはありんせんかった。この思いは死して屍になろうとも誰にも吐露しないと誓いんした。この男と女が偽りの恋を綴る町でーーーー。

わっちの命はまだ果てぬ」

 

 

 

キバイラ「奥座敷・・・、ちゅうんやっけ? こないな狭い部屋に閉じ込められて・・・。あんさん、こないな待遇受ける様な花魁ちゃうやろ?」

牡丹  「ぅ・・・、あ・・・、そ、さま・・・は・・・」

キバイラ「済まへんね・・・。ちょい傷、診(み)さして貰える?」

牡丹  「・・・、ぁ、・・・、見・・・、ないで・・・」

キバイラ「薬、作りたいんよ、堪忍な。・・・えらい目ぇに遭わはったね・・・。あのぼんくら共はモノの価値ちゅうもんを知らん」

牡丹  「あ・・・、ぁ・・・」

キバイラ「あぁ、無理して喋らんといて。傷、ひきつって痛いやろ?」

牡丹  「・・・また・・・、会えんした、な・・・、ようやく」

キバイラ「なんや、会いたい思てはったの? ・・・ヴァンハーフの吹き飛ばしに感じた威力は色々混ざっとった。アレを解読するんは難しい、となると傷から読み取るしかなかったんよ」

牡丹  「申し訳・・・、あり、んせん・・・」

キバイラ「何謝ってはるの?」

牡丹  「そさまが・・・、どなたかに、似てると・・・、言った顔を・・・」

キバイラ「あんさんのせいやないやろ? 謝らんといて」

牡丹  「・・・っ」

キバイラ「辛いのは、あんさんの方やろ。・・・、包帯、取るよ? 元には戻すから」

牡丹  「・・・っ、う・・・」

キバイラ「そない、泣かんといて。皮脂陥没、少し火傷もあるね。二本の並行した傷、これがひきつりの原因か・・・。腫れは炎症か。ちょい痛いよ」

牡丹  「・・・ぅっ!」

キバイラ「腫れ上がってるけど目の玉は無事やわ」

牡丹  「こんな・・・、醜くなったら、もう、食っては貰えんせんか?」

キバイラ「何言うてはるの。傷、診に来ただけや、喰う積もりはあらへん。ワセリン塗ってはるんやね。こん国、医療は未熟やと思てたけど、名医がおるの?」

牡丹  「わっちを、食ってくんなんし・・・」

キバイラ「いやや」

牡丹  「醜く・・・、崩れた妓には、もう・・・、価値が、ない、と・・・」

キバイラ「絶望は判るよ? けど、そない弱いおなご興味ないんよ。判る? ・・・誰か来はったわ。うちまだ姿晒す積もりないんよ。やから次逢う時あったらちゃんといい酒振るもうてや」

 

 

 

蓮太郎 「椿・・・、もう百回過ぎてる。お百度参りだって過ぎれば効力が増す訳じゃない」

 

椿:柏手(二度手を叩いて下さい)

 

椿   「真澄田の社にお住みなす天火明命(あめのほあかりのみこと)様、どうか、お願いします。牡丹姐さんを、助けてください・・・お願い、します」

蓮太郎 「気持ちは判るけど、椿、お前寝てないんだぞ?」

椿   「離して」

蓮太郎 「椿・・・、お前が体を壊したら意味がない」

椿   「・・・なんで? ねぇ蓮太郎なんで? どうして牡丹姐さんがあんな目に合わなきゃいけなかったの?!」

蓮太郎 「・・・判らない」

椿   「蓮太郎は牡丹姐さんの手当ての為と、あたしに危害を加えさせない為に、あの場を収めたんでしょう?」

蓮太郎 「・・・そうするしか・・・、出来なかった。あいつの目的も、正体も何一つ判らないから見逃す事しかできなかった。俺を罵(ののし)るなら罵(ののし)ればいい。けど椿、牡丹花魁はある程度看病して見込みが無くなったら、女将はお前にお職を襲名させる。体を労われ」

椿   「蓮太郎が悪いなんて思ってない。あの場はああするしかなかった事くらい判るもの」

蓮太郎 「それなら」

椿   「怖いんだもん!」

蓮太郎 「・・・っ」

椿   「声に出して祈ってるのは牡丹姐さんの無事。でも・・・、心の中にある願いは自分が同じ目に遭いたくないって、思ってる」

蓮太郎 「・・・当たり前だろう? 誰があんなものを見て平静でいられる」

椿   「最低だね、あたし・・・」

蓮太郎 「そんな事、ない」

ヴァン 「ふむ・・・どうやらこの世界にも、神はいるようだ。僕は無神論者なんだけどね」

椿   「っ!? あなたは・・・っ! あの、時の!!」

蓮太郎 「椿に近付くな」

ヴァン 「また会ったね。彼女の調子はどうかな?ぜひとも経過を見せてほしいのだが・・・ダメかい」

椿   「経過を見る・・・、ですって? ふざけないで! あなたが・・・、あなたが牡丹姐さんの顔を潰したくせに!」

ヴァン 「すまないことをしたと思っているよ。けど、興味深くないかい?僕の世界の人間と何が違うのか。解き明かしたいんだ」

蓮太郎 「椿、相手にするな」

威津那 「相手にしないという判断は正しいかもしれぬの? 何せ妾の共犯者は、ちと次元が違うからの」

ヴァン 「遅かったね威津那。迷っていたのかい?」

威津那 「抜かせ。神社に入るのにちいと手間取っただけじゃ。彼奴等にとっては妾は異物であるからな」

蓮太郎 「・・・三度、殺した。あと何度殺せばいい・・・っ!!」

威津那 「おーおー、小童(こわっぱ)がイキり立ちおって、愉快じゃのぅ。『黄泉還(よみがえ)り』じゃ。妾を殺したと毎度勘違いしておるようじゃの?なにをぼさっとしておるか共犯者。疾(と)く進めよ」

ヴァン 「そうだったね威津那。では、僕たちの目的を果たそうか」

蓮太郎 「目的だと?! 遂行させる積もりはない! 何度でも殺してやる!」

威津那 「悪いの小僧。妾は今戦う積もりはない『陽炎(かげろう)・写(うつ)し絵(え)』」

椿   「え? 消えた・・・。蓮太郎・・・、ねぇ、あの狐、強くなってない?」

蓮太郎 「知ってる。生き返る度に強くなっていっている」

威津那 「どこを見ておる。捕らえたぞ、娘」

椿   「きゃ!?」

蓮太郎 「椿!!」

威津那 「良(よ)いのぅ。この香りじゃ。熟した桃の実の如し甘い香り、よくも他の妖怪どもが襲わなかったものじゃ」

椿   「え・・・?」

威津那 「実に良い。この美貌と生命力、美味そうじゃ」

蓮太郎 「椿を離せ!」

威津那 「動くな、小僧」

蓮太郎 「っ!」

威津那 「この爪が娘の首を掻き切らねばよいなぁ? そうじゃ小僧、動くでない。聞き訳の良い人間は嫌いではないぞ。」

椿   「・・・、目的、って何よ」

ヴァン 「というよりは、取引かな?僕は、あの女性の顔を治してあげられる」

椿   「え」

蓮太郎 「治す?」

ヴァン 「彼女の顔を壊したのは僕だ。だから、僕であれば治せる。わかるかい?」

椿   「牡丹姐さん、を?」

蓮太郎 「取引だと? こっちに何を要求する積もりだ」

ヴァン 「施術には、親しき者に手伝ってもらう必要があるんだ――君は、どうかな?」

椿   「親しき者って・・・、あたし・・・?」

蓮太郎 「椿を離せ。・・・椿、耳を貸す必要はない、罠に決まってる」

椿   「でも・・・、牡丹姐さんを治せる手段があるなら」

ヴァン 「そう、君たちは選ぶしかない。少年、君は・・・、来てはいけないよ」

蓮太郎 「椿を一人で、という事ですか。そんな条件を安易に飲む程短慮な性質に見えますか」

ヴァン 「無論見えないさ。僕に対する猜疑心と警戒心。殺意すら持っているだろう?」

蓮太郎 「施術と言いますが、どんなまじないか判らず信憑性もない。椿を行かせる積もりはありません。お引き取り下さい」

椿   「蓮太郎!」

蓮太郎 「誘導されるな椿、こいつらに人を助ける理由がない」

ヴァン 「それはそうだろう。益無く人助けはしないし、彼女の顔を中途半端に壊してしまったのも特に理由はない。が、それを助ける事で一つ得られるものがあるなら技術を提供するのも悪くない、そう思ったんだよ」

蓮太郎 「得られるもの、だと?」

ヴァン 「大切に、丁寧に育てられたこの娘、素晴らしいね。彼女の協力で成し得る事があるんだ。なに、無碍(むげ)な扱いはしないし、同意なく乱暴もしない。その協力であの女性を助けよう、と提案している」

椿   「・・・、本当に・・・牡丹姐さんを治してくれるの?」

蓮太郎 「椿!」

椿   「蓮太郎は花魁の顔がどれだけ大事か判ってない」

蓮太郎 「判ってる。だからこそ足元を見てこんな怪しい取引を持ち出す連中に応える必要性を感じない」

椿   「牡丹姐さんを見殺しにするの?」

蓮太郎 「俺にとっては椿の方が大切だ」

椿   「・・・、ごめんね。あたし蓮太郎のその冷たさは、少し苦手」

蓮太郎 「・・・っ」

ヴァン 「話は決まったかい?」

椿   「約束して下さい。必ず牡丹姐さんを助けると」

ヴァン 「・・・ああ。約束しよう」

蓮太郎 「待て、椿!」

威津那 「こらこら、乙女の覚悟を邪魔するでないわ・・・『伏見(ふしみ)・雲隠(くもがく)れ』」

蓮太郎 「く・・・っ!! 煙・・・っ!? 消えた・・・? 椿・・・? 椿!!!」

 

 

 

女将  「なんだって?! 椿を連れ去られた!? お前!! 黙って見逃したのかい?!」

蓮太郎 「報告に帰って来ただけですので今から探してきます。失礼します!」

オティス「ちょちょちょ、こっちもこっちで大変なんだけど!?」

蓮太郎 「済みません!」

女将  「ああ、もうあっちもこっちも全く!! アニさん!牡丹をしっかり押さえとくれ」

牡丹  「離して!離してくんなんし!わっちはもう、もう!」

アニ  「ダメぇ!お姉ちゃん助けて!あたしだけじゃ抑えられない!」

女将  「牡丹! 落ち着きな! 牡丹! まだ諦めるのは早いだろう! 司波(しば)先生が治療方法を考えてくれてる!」

牡丹  「なんで止めるんでありんすか!こんな顔じゃ、お職なん張れやせん! もう、あの人も・・・っ!!」

女将  「司波先生なら何とかしてくれる! 信じて待ちな!」

アニ  「早まらないで!お願い、自分のこと、もっと大切にしてあげてよ!」

牡丹  「おんしらには判りんせん! わっちの思いなど! わっちが背負ってきたものなど!!」

女将  「やめな! ちゃんと治したらあんたはまだお職を務められる! 椿にだってまだ教えなきゃならない事が残ってるだろう!」

牡丹  「この顔で! 何を教えられるというんでありんすか! 舞を? 所作を? 美しさを失った女が何を教えるといいんすか!」

女将  「とにかく、あんたの周囲から全部鏡は撤去した! 全部忘れて休みな!」

牡丹  「この痛みが! ひきつった肌が! 開かん唇が! 忘れさせてなどくれんせん!」

アニ  「私が治すから! だからやめて、死なないで! いなくならないで牡丹さん!」

牡丹  「勝手なことを言わんでくんなんし!」

女将  「あぅ・・・っ! しまっ・・・、鍛冶場の馬鹿力かい! 突き飛ばすとか・・・、あ痛てて・・・、牡丹!」

オティス「やば、そっちには」

女将  「は・・・っ!! 牡丹! 剃刀(かみそり)を離しな! それを置くんだ!」

アニ  「待って、牡丹さん!」

牡丹  「わっちの今生、今はこれまで・・・。十六夜、辰巳・・・、今そちらに参りんす・・・、いざ」

女将  「やめ、牡丹!!」

アニ  「だめ・・・だめええええええええええええ!!!」

牡丹  「・・・っ! 離して、くんなんしオティスさん」

オティス「剃刀は私が貰うよ。あなたの手に似合うものじゃない」

牡丹  「返して!」

オティス「むざと命を棄てようとする人を見逃せる性質(たち)じゃないんだ」

牡丹  「生きる術も価値も無くした人を無駄に生かして苦しめるのが救いだとでも言う積もりでありんすか!」

オティス「生きていれば助かる方法があるかもしれない」

牡丹  「だったら!! おんしの顔をくんなんし!」

オティス「・・・て、え?」

女将  「何を言っているんだい! 牡丹!」

牡丹  「この醜い顔を人に晒して生きて行けるというなら、おんしがそうなればいい!」

女将  「牡丹!! 八つ当たりするんじゃない!」

オティス「いいよ」

牡丹  「・・・っ」

オティス「私は顔が潰れようが腕が無くなろうが自分の生き方は変えない。もし、私の顔を牡丹さんにあげて治る方法があるならあげるよ。なんなら方法だって探す。それで、牡丹さんが生きてくれるなら」

牡丹  「言うは、簡単じゃ」

オティス「探すよ。方法を。私の生きる道に美しさは要らない。欲しいのは揺るがない強さだから」

アニ  「あたしは、その、人が羨むような美しさなんてわかんないけど・・・、けど! どっちかがその負担を担うなんてやだよ」

オティス「アニちゃん」

アニ  「だって、それは牡丹さんのせいでもお姉ちゃんのせいでもない! なんで二人が仲違いしてるの? おかしいよ!

あたしにさっさと魔法が使えたならこんな事にならなかったのに! くやしいよ! 治してあげたいのに!」

牡丹  「顔のすげ替えなん、四方山話(よもやまばなし)でありんす。みんな、出て行ってくんなんし」

女将  「死のうとしてるあんたを放置して出て行ける筈がないだろう!!」

牡丹  「生かしてどうする積もりでありんすか! これから張り見世でも作って晒しもんにでもしんすか?!」

女将  「馬鹿な事を言うんじゃない!」

牡丹  「かろうじて、お歯黒溝(はぐろどぶ)横の羅生門河岸(らしょうもんかし)なら、顔を隠して着物を捲(まく)り上げれば客は取れんしょうな!」

女将  「あたしがそんな事をするように見えるのかい! ふざけんじゃないよ!」

アニ  「あたしに、もっと沢山の力があれば・・・、いいのに。みんな、みんなの傷を全部治せる力が欲しいよ!」

女将  「うっ・・・! 眩し・・・っ!」

アニ  「牡丹さんの顔を治してあげたいよ! 此処にも神様がいるんでしょう?! だったら力を貸して!」

女将  「何やってんだい、あんた!! まぶしい! やめな!」

アニ  「へ・・・? あ、アレ? え・・・? あ・・・、消えちゃった」

オティス「アニちゃん、今の・・・、何?」

アニ  「わ、わかんない。あたしも夢中で・・・何が、起こったの?」

オティス「もしかして・・・、アニちゃん、ちょっと魔法使えるか試してみて」

アニ  「え?けどここじゃ」

オティス「いいから」

アニ  「う、うん。ええと・・・光よ!」

牡丹  「う、く・・・っ眩しい!?」

女将  「何を遊んでいるんだい! 牡丹の傷を抉るだけなら出てっとくれ!」

オティス「あ・・・、済みません。アニちゃん、確かめたいから外に出よう」

アニ  「う・・・、うん」

 

 

 

オティス「アニちゃん、こっち来てからの回復魔法ってどれくらい強い?」

アニ  「あんまり、強くないよ?まだここの神様から上手く力貰えてないと思うんだ」

オティス「じゃあ魔法もからっきし?」

アニ  「ううー・・・あんまり上手く出来てないんだよ」

オティス「じゃ、さっきなんで光魔法使えたのかな?」

アニ  「・・・もしかして?」

オティス「やってみよっか。この傷、治せる?」

アニ  「お姉ちゃん! その剃刀、牡丹さんから奪ったやつ・・・。ちょ!?お姉ちゃん!自分で腕を切るなんて」

オティス「アニちゃんの力を確認する為だ、なんてことないよ。さ、治してみて」

アニ  「うん・・・、えい! 治れぇえ!」

オティス「お、早い。見て、アニちゃん、跡形もなく消えた」

アニ  「おお!椿さん直したよりも・・・ううん、向こうに居た頃よりも、強くなってる?これって」

オティス「こっちの神様が、アニちゃんのことを認めてくれたんじゃないのかな」

アニ  「ほんとに!?じゃあ、あたしにも出来ること増えたかな?うへへ、やったやった!」

オティス「流石だよアニちゃん、こっちの神様に認めてもらえるなんて。いいこいいこ」

アニ  「うー!子ども扱いして!」

オティス「子どもですが?」

アニ  「もう!そんなこと今は良いの!やっと魔法が使える・・・みんなの役に立てるよ!」

オティス「牡丹さんの顔、治せるかな」

アニ  「お姉ちゃんの治癒の力もあるからだと思うけど・・・これならやれる気がする!牡丹さんを治してあげられる!」

 

 

 

キバイラ「あらあら、そない焦って走り回って・・・、綺麗な顔やのに、眉間に皺刻んで夜叉(やしゃ)の形相や」

蓮太郎 「あなたは」

キバイラ「なんよ、もう一人の可愛らしい子はどないしたん? いつも一緒に居ったやろ」

蓮太郎 「あなたには関係ないです」

キバイラ「ほうか・・・これは関係のない話なんやけどな。あん妖狐、人の血を啜って力を得とるみたいやね」

蓮太郎 「そんな事知っています。椿は既に襲われていますから」

キバイラ「妖力の素は血ん中に含まれとるそうや。最近、血ぃ抜かれた変死体見かけるやろ? あれ、みぃんな妖狐の仕業やで」

蓮太郎 「それも把握済みです。先日行動しやすくする為、番所を潰して若山の警備体制を弱体化させました」

キバイラ「ほうか。知っとうならええけど・・・。ほならこれは? 狐と一緒におった男。あん男は人を人と思わん非道な男や。あないな男に目付けられたら、命が幾つあっても足らんよ?」

蓮太郎 「椿を『妖力』とやらの糧にする積もりですか。何か術を施工する為の手伝いとか言っていました」

キバイラ「それだけで、済めばええね。彼奴はな、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)と人を生きたまんま融合させたり、怪物に死者の自我を与えたり、娘に竜を植え付けたり――挙げてったらキリがあらへんほど無茶苦茶やっとる。死体が五体満足やったらええね?」

蓮太郎 「な・・・」

キバイラ「・・・あは、青ざめてもうて。かわええなぁ」

蓮太郎 「俺を、追い詰めて楽しいですか」

キバイラ「いんや? 今は、あの駄狐が悔しがる顔のほうが見たいかなぁ」

蓮太郎 「意味が、分かりません」

キバイラ「ついておいで。うち、あいつらの隠れ場所知っとるよ」

蓮太郎 「罠でない保証は」

キバイラ「はは。そない愚直に聞くかいな普通。じゃあうちも愚直に返そか――罠やないよ。今は、うちの言う事聞きや」

蓮太郎 「場所は、どこですか」

キバイラ「なんか、儀式でも行っとったんかな?神を祀るでもない場所が、異様に神聖度が高い場所があるんよ」

蓮太郎 「儀式・・・、神聖? ・・・、もしかして、地鎮祭?」

キバイラ「せや? あそこ、建屋が燃えたんやろ? 炎ちゅうのは浄化の作用が高い。焦土には草生えるんも時間が掛かる。

生きとし生けるもんが住めん場所。そん近くに陣構えるのが一番効率ええわな。少なくとも、うちならそうする」

蓮太郎 「くそ、盲点だった・・・三軒中見世(さんげんなかみせ)の予定地か!」

キバイラ「あたり。こないな河岸(かし)まで来てもうて、的外れもええとこよ?」

蓮太郎 「椿・・・」

キバイラ「ちょい待ち、情報には相応の対価ちゅうもん払て貰わんと」

蓮太郎 「対価、とは?」

キバイラ「ちいとだけでええわ、うちに血ぃくれへん?」

蓮太郎 「血? あなたも狐の真似事をするんですか」

キバイラ「本当は生きたまんまの人間を食いたいんやけどね。腕の一本食わせてとか言うてもくれへんやろ?やから、血」

蓮太郎 「・・・、正気であれば断りますよ。だいたい、あなたと取引? 情報は勝手にあなたが喋っただけでしょう」

キバイラ「あは、押し売り押し売り。言うとくけど、あんさん一人で敵陣に突っ込んで勝てる思てんの? 片方は人の顔ごとき簡単に壊せる傑物、もう片方は力を増しつつある駄狐や。返り討ちが関の山よ?」

蓮太郎 「椿を、助けるのに協力して下さるという事ですか」

キバイラ「そうしたいのは山々やけど。うち、此処来てから全然『食事』出来てへんの。腹が減っては戦は出来ぬ、今の火力はどうも心許ないんよ。やから・・・うちに、椿ちゃんを守る力を分けてくれへん?」

蓮太郎 「っ・・・、判りました。どれくらい、必要ですか」

キバイラ「時間もあらへんし、軽く吸うだけでええわ。腕、出して。左でええから」

蓮太郎 「籠手を外します。少し待って下さい」

キバイラ「・・・よう見たら、あんさん軽装やけど武装してはるね」

蓮太郎 「真似事です」

キバイラ「あー、っそ? それ信じる思う? ・・・っ?! あんさん、その紋・・・、どないしたん?」

蓮太郎 「神社参りの際に刻まれたようです。これがどれ程のものかは判りかねますが」

キバイラ「なるほど・・・ね。まぁ、ええわ。血ぃ貰うで(がぶ)」

蓮太郎 「・・・っ」

キバイラ「んー・・・はぁ、美味し。やっぱり清い人間の血はええなあ。飲み干してもええ?」

蓮太郎 「約束が違います。協力、してもらえるんですよね」

キバイラ「ち、身が堅いなあ。ええよ、ついておいで」

 

 

 

威津那 「共犯者、妾は腹が減った。疾(と)く支度をせよ」

ヴァン 「焦るのは早いよ・・・はて、どうかな。なかなかどうして強情だ」

椿   「離して! 何する積もりよ! 離して! 嘘吐き! 牡丹姐さん治してくれるって言ったじゃない! 何よこの鎖!」

ヴァン 「ただの人間には解けないよ。その鎖、少々特殊でね。縛る者の力を奪うんだ」

椿   「いったい何のつもり?! こんなところに連れ込んで!」

ヴァン 「少し、手が足りなくてね。手伝ってはくれないだろうか?」

椿   「手伝い・・・? 何の話よ! 牡丹姐さんを治してくれるんじゃないの?  あなた達に味方なんてしない!!」

ヴァン 「そこまでは言わないさ。ただ・・・身体を使わせてほしいんだ。少しの間だけで構わない」

椿   「か・・・、え? 身体、を・・・って」

威津那 「共犯者?妾の食事の話はどうした。よもや忘れたとは言わせんぞ。その様に熟れた果実の香りを撒き散らして空腹に拍車をかけるだけじゃ」

ヴァン 「ちゃんと覚えているよ、けれどこの子は君の食事の為だけではないと言った筈。逸材だ、ぜひとも欲しい」

威津那 「適合体とか言っておったの。その施術が済めば血を吸っても構わぬか」

ヴァン 「いや? 施術後はより濃い生命力や体力が必要となる。奪えば失敗する。勘弁してくれないか」

威津那 「話が違うではないか!」

ヴァン 「後で、君の御眼鏡に叶うものを探しておくとも。まずは君の眷属の話だ。適合できるかどうか、実験しておきたい」

椿   「じ、実験て何?! 逸材って何の事よ! どうする積もり?!」

ヴァン 「一つ、君に「種」を埋め込む。威津那」

威津那 「わかっておるわ・・・精は、その男のモノを使うた。交合う気にはなれぬのでな、絞り取った。妾の眷属を為すには申し分あるまいて」

椿   「・・・・・・は? 何を、言っているの?」

ヴァン 「威津那、足を開かせろ。押さえておいてくれ」

威津那 「其方の指図など・・・まあ良い。大事の前の小事、今は失われし同族を増やすことが先決じゃからな」

椿   「やめてよ、何? 何する気よ! やだ!! なんなのよその道具!!」

ヴァン 「クスコというものだよ。種を植え付ける為にね、会陰(えいん)を完全に開く必要がある」

威津那 「これが麩海苔(ふのり)というものか。べたべたしておるの」

椿   「や・・・、いや!! いやああ!!」

ヴァン 「大切な器官に傷が付けば施術の結果に支障が出る。最大限に丁寧に扱う必要があるんだ。『ここ』は非常にデリケートな器官だからね。ふむ、柔らかくていい触り心地だ」

椿   「何をしたのよ! やめて! 触らないで・・・っ」

ヴァン 「今はまだ、秘密だ。これで良し。クスコを外して・・・ああ、いけないな。目を魅かれてしまう」

威津那 「ぬ・・・、共犯者? お主、発情しておらぬか」

ヴァン 「普段は、興味すらないんだけどね。慣れない世界で同期が乱れているせいか、どうにも僕らしからぬ感情が湧く。施術は済んだが、今後の検証に集中したいな・・・ふむ。情欲は、晴らしておいたほうがいいか」

椿   「いや! ・・・っ! 鎖が・・・、やだ!! いや!」

ヴァン 「大人しくしたまえ」

椿   「いや!! 気持ち悪い! あなたなんかにお開帳なんてしない! やめて!」

ヴァン 「おかしなことを。君は、そのために生きているんだろう?」

椿   「やだ・・・、や・・・、いやぁあぁあぁあ! 助けて・・・、助けて! 蓮太郎!!」

蓮太郎 「椿!! 『凍氷蓮華(とうひょうれんげ)・飛苦無(ひくない)』!!」

椿   「え・・・??」

ヴァン 「っ、避けろ威津那! 氷柱(つらら)だ!」

威津那 「言われずとも! 小賢しいの、小僧。どうやって我らの隠れ家を見付けた」

蓮太郎 「教える必要性を感じません」

威津那 「果(は)て扨(さ)て何度妾に刃を向けるか。また、殺すか? 今なら相手をしてやってもいいぞ? 今は機嫌がいい」

蓮太郎 「機嫌がいい・・・? 灯台下暗しでした。まさか建築途中の三軒中見世(さんげんなかみせ)の仮現場に潜伏しているとは思わなかったので。椿、怪我は?」

椿   「・・・っ、・・・ぅ、・・・っ!」

蓮太郎 「もう大丈夫だ・・・、・・・っ?! 着物の裾が・・・、乱れてる・・・。これは・・・、麩海苔(ふのり)?」

椿   「・・・、ぅ、ひ・・・っく、ふ・・・、ぅ」

蓮太郎 「施術・・・? その様に着物を乱して何が施術でしょうか?」

ヴァン 「施術は行ったさ。もののついでさ、構わないだろう? どうせ女郎だ」

蓮太郎 「どうやら、死にたいようです・・・、ねっ!」

ヴァン 「ぅぐ・・・っ! 一発貰ってしまったか、不甲斐ない。君一人でここを見つけたのかな?やるじゃないか」

蓮太郎 「敵を褒めるとは、塩でも送っている積もりですか? 俺が一人でここに来ると油断して」

キバイラ「射線上に立つな、死ぬで!」

蓮太郎 「っ、椿! 伏せろ!!」

椿   「きゃっ!?」

キバイラ「猛り狂え、『一条(いちじょう)・綱断(つなだ)ちの刃(やいば)』!」

威津那 「ぎゃあああああ!? なんじゃ! この太刀筋は?!」

ヴァン 「飛ぶ斬撃、か・・・状態は?」

威津那 「平気じゃ!一端(いっぱし)に心配するなぞ、妾への不敬とみなすぞ!」

ヴァン 「辛うじて致命傷は避けたか。しかし・・・まだまだ強度が足りない。今の段階ではこれが限界か」

キバイラ「そこの二人! 助けたんなら早よ往ねや! こんなところじゃ暴れられん、建物壊すな言うたんはそっちやろ!」

ヴァン 「妙なことをするじゃないかキバイラ。僕たちに牙をむくなんて、どういうつもりかな?」

キバイラ「知っとうやろ? うちはな、美人が好みなんや。駄狐とあんさんか、椿ちゃんか・・・。どっちか選べ言われたら、間違いなく後者選ぶに決まっとるやろ、うつけ者が」

ヴァン 「僕とは、手を切るのかい?」

キバイラ「ああ、「この町での君臨勇者」とは手を切らせてもらうわ。椿ちゃんに欲情して犯そうしたんやろ? そないに欲剥き出しの身体選んで、余裕なかったんやね?」

ヴァン 「彼のことを悪く言うのはよしてもらおう。勇者特権者の仲間の戦士として名を馳せたんだよ。生憎と、僕の仲間にはなってくれなかったけどね。こうして彼は僕を受け入れてくれた。感謝しているんだ、これでもね」

キバイラ「ああそう、ようやくあんさんの「臭い」が気に食わん理由が分かったわ。そういう輩は、あのクソ魔法使いを思い出す!」

ヴァン 「威津那、無理はするな。まだ万全じゃないだろう?」

威津那 「ぐ・・・鬼如きが、愚弄するばかりでなく妾に傷をつけたな!」

キバイラ「あらあら、まだ胴体繋がっとったんか。何度潰しても這い上がる、目障りな妖狐やこと。早よ消えるか、トカゲにでも種族替えしたらどないや?」

威津那 「一度ならず二度までも愚弄するか、鬼風情が!」

キバイラ「ふふ、何か吠えとる。ほーら、狐らしくコーンコーン啼いてみてくれへん?」

威津那 「焼き殺す!」

キバイラ「あっははははは!なんやの?そのしょうもない火力は!火遊びなら、焦熱地獄で楽しんできぃや!穿て、黒切(くろきり)!」

威津那 「ごへぁお!?」

キバイラ「は!あーあ、脆いなぁ?」

ヴァン 「やれやれ、またやられてしまったか・・・ふむ、毎度尻尾は残るのか。やはり当初の仮説は正しそうだ」

キバイラ「さぁ、あん狐の首はお歯黒溝まで飛んでったで? 次は、あんさんか?」

ヴァン 「君が求めたのは僕ではない、そこの二輪の華のはずだ。であれば、ここで退かせてもらおう。お互い、これ以上ぶつかり合うことに益がない」

キバイラ「おう、往ね往ね。二度と椿ちゃんと蓮太郎くんに近付くんやないで」

ヴァン 「蓮太郎、この世界には逞しく凛々しい少年だ。彼もいいな、覚えておこう」

キバイラ「覚えんでもええよ? あんさんには勿体ない」

ヴァン 「歯に衣着せぬというのだろうか。手を切るというなら仕方ないね。精々邪魔だけはしないで欲しいものだ」

キバイラ「宣戦布告は済んだ。臭い言うとるやろ、早よ往んで?」

 

 

 

蓮太郎 「あの男・・・逃がして、良かったんですか?」

キバイラ「今は時期やない」

椿   「あ・・・、あの・・・」

キバイラ「なぁに? 可愛い子に声掛けられるんはええなぁ。しばらくあいつと一緒やったから気が滅入っとったけど」

椿   「ありがとう・・・、ございます。助けて、くれて・・・」

キバイラ「足(あいや)、震えてるよ? 怖い目に合ったからしゃあないけど、うちん事も怖いんやろ? 無理せんでええよ?」

椿   「でも、助けてくれた、から! あの、ありがとうございます」

キバイラ「・・・物のついでや。あんさんらの身内に、顔潰された女郎おるやろ」

椿   「牡丹姐さん・・・、あたし、あの人が、姐さんの傷を治してくれるって言うから・・・、だからっ!」

キバイラ「あん男が壊したもん直す殊勝な心意気持ってはるなん聞いた事あらへんわ。そないな口上のために、自分生贄にしようとしたん?」

椿   「親しき者の力が必要だ、って」

キバイラ「・・・回復にせよ、修復にせよ、補助に親しい人間を使わなあかん魔法なん聞いたことあらへんな。まるで詐欺や、無知な者は簡単に騙される」

椿   「だって! 何もかも判らない事だらけだもの! あの人達の事を詳しく知らないのにどうすればいいか判らない・・・!」

キバイラ「うちな、気まぐれ起こすんは良くあるけど、あんさんら助けたんは気まぐれやないよ」

蓮太郎 「牡丹花魁には会わせられませんよ。牡丹花魁の顔が抉られた時、あなたも一緒に居た。一戦を共にしたとは言え完全に信じるには信憑性が薄い」

キバイラ「その警戒心と慎重さには敬服するけど、潰したのはうちやあらへんし今は地位も関係あらへんわ。一つ、渡したいもんがあってな」

椿   「・・・? 渡したいもの?」

キバイラ「これや」

椿   「瓢箪(ひょうたん)・・・? ちっちゃい。(匂い嗅ぐ)・・・この匂いは、お酒?」

キバイラ「銘はあらへん、さっき作ったさかいな。ただ、飲ませたら傷の治りが早うなる。お猪口一杯飲ませて余ったんは潰れた肌に直接塗ったらええわ。二日三日は掛かるけど綺麗に跡形もなく治せるはずや」

椿   「どうして、これを?あなた、牡丹姐さんを傷付けた人と一緒にいたでありんしょう? 蓮太郎と一緒に居た訳も判らないし」

キバイラ「うちはな、綺麗なものが好きなんよ。喰うも壊すもうちが決める。他人に好き勝手されるんは我慢ならん。」

椿   「だから・・・治させるんでありんすか」

キバイラ「うちを疑ってる言うんは構へんよ。けどま、命に代えられるもんあらへんやろ? こんまま放置すれば傷が化膿して死ぬで」

蓮太郎 「何を、企んでいるんですか」

キバイラ「ふうん・・・。蓮太郎君やっぱり、綺麗な顔しとるんやね。それに匂いも・・・ふむ、悪うないな」

蓮太郎 「やめて、いただけますか」

キバイラ「そない気色ばんで、可愛いね? 蓮太郎君。そう言えば年齢幾つよ。13? 4?」

蓮太郎 「・・・、・・・19です」

キバイラ「またまた、鯖読まんでええよ。背伸びしはって、ええなあ」

蓮太郎 「本当に19です」

キバイラ「倭の国の人間が若く見えるんはほんまやったんやな・・・。ほなら椿ちゃんは16か7いう所か」

椿   「・・・19、です」

キバイラ「ええ・・・あかん、全く判らへん。椿ちゃんは綺麗で・・・、くん・・・、なるほど? 桃の香りするわ。駄狐が欲しがる筈やね。蓮太郎君も美形に加えてええ匂いしてはるね? 純潔のええ匂いや。おなごと契った事、ないやろ?」

蓮太郎 「・・・っ!」

キバイラ「ええよ? 恥ずかしがらんで。こんご時世身持ちが固い言うんはええ事やないの」

蓮太郎 「揶揄(からか)っているんですか」

キバイラ「冗談よ、冗談。あんさんらの家はすぐそこ、別に護衛もいらへんやろ?ほな、さいなら」

椿   「あ、待って!あ・・・行っちゃった。屋根を飛んで行くなんて」

蓮太郎「華屋に戻ろう、何も妙なことはされてないな?」

椿   「・・・、妙な・・・、こと・・・、かどうか、判らない」

蓮太郎 「ひとまず、無事ならいい。けどあの鬼、二度の救助があったとして、目的が判らないな。信じていいのか悪いのか」

椿   「でも蓮太郎にすり寄ってくのだけは嫌い!」

蓮太郎 「そこはどうでもいい」

椿   「・・・あれ、蓮太郎。左の手首、怪我してない?」

蓮太郎 「なんでもない」

椿   「え、なんで隠すの」

 

キバイラ「相当必死なんやな。有りもせん魔法ちらつかせて贄を欲するなん、君臨勇者のやり方とは思えへんけど。狐が誑(たぶら)かしたか、あるいはもう君臨勇者やあらへんのか・・・。牡丹・・・、無事、治ったらええけど」

 

 

 

威津那 「中々、厄介な状況になったのではないか? 共犯者よ」

ヴァン 「目覚めて開口一番に僕を詰(なじ)るとは」

威津那 「はて・・・? 妾は詰(なじ)っておらぬよ?」

ヴァン 「そうかい? 僕の勘違いか、それならば済まない事を言ったね」

威津那 「ただ、現状を鑑みるに付け、我等の不都合が増えておるのを嘆いておったのじゃが・・・」

ヴァン 「嘆く? 君がかい? 威津那」

威津那 「いかにもじゃ。だがそれを詰っていると捉えるとはなかなかどうして、其方(そなた)だけは調教が上手く行っているようじゃな?」

ヴァン 「つまり、詰(なじ)っているんだね」

威津那 「考えてもみよ、共犯者」

ヴァン 「何を」

威津那 「鬼風情如き離反した所で構わぬが、我等の目的を邪魔立てすると言うではないか」

ヴァン 「キバイラの事かい? あれは確かに予想外だった」

威津那 「お主は餓鬼の微々たる協力が役に立つなんぞと抜かし倒しておったが。それはつまり敵として裏返るなら厄介という事じゃろうて?」

ヴァン 「言うなればそういう事になるね。だが、研究に関しても君の目的や成長に関してもただ無計画に手を打つのでは些か効率が悪い」

威津那 「我等の計画に邪魔立てする者を皆殺しにしたいのぅ?」

ヴァン 「今の所、それは不可能だよ」

威津那 「妾にもっと力があればよいのじゃが」

ヴァン 「敵にキバイラが居る事、また出会う度に君を討つあの少年、そして原典と連れの魔法使い」

威津那 「はー・・・。忌々しい限りじゃ」

ヴァン 「気持ちは判るさ。だがね、威津那。歯向かうものが四人として、計画を練れば太刀打ち出来ない訳でもない」

威津那 「策があるのじゃな?」

ヴァン 「策は今から考えるよ」

威津那 「今から考えるじゃと? 敵の後手後手に回っているではないか」

ヴァン 「予想外なのだから仕方ないよ。ひとまず、威津那は覚醒したばかりなのだから腹も減っているだろう」

威津那 「食事の用意をしたのじゃな? 何処におる、ささと準備せよ」

ヴァン 「そう焦るものではないよ。覚醒の度に食欲が旺盛になっているからね。準備はしておいたさ」

威津那 「ふむ、騒がれぬよう眠らせておるのか。気が利くの」

ヴァン 「君でも人を褒める事があるのか」

威津那 「妾も血を吸う度に怖いだの痛いだの悲鳴をあげて逃げられたのでは綺麗な食事が出来ぬ」

ヴァン 「食事の方法が方法だから仕方ないとも思うけどね」

威津那 「良い子達ではないか」

ヴァン 「二人とも中々美麗な子だろう。新造(しんぞ)とやらを狙うのが一番効率が良さそうなのでね」

威津那 「ふむ、それは妾も聞いた。禿(かむろ)や新造というのは姐がおってこその物じゃと」

ヴァン 「仕組みを理解してしまえば策を弄せずとも手に入る」

威津那 「姐がおる即ち美麗な物が多く、それ故に良い食事と生活を保障されておるらしい」

ヴァン 「穴場、という訳だね?」

威津那 「誠、ここは妾の食事の為に作られた養殖場の様な物じゃな。はむ・・・、じゅる、ん・・・?」

ヴァン 「どうかしたかい?」

威津那 「ん、ごくん・・・」

ヴァン 「怪訝(けげん)な顔をして。見た目より味が悪かったか?」

威津那 「いや? 味は良い・・・。じゃが、共犯者、着物にお主の臭いが付着しておる」

ヴァン 「あぁ、それは済まなかったね。世界が違うという事もあろうか、本体との同期回路が非常に細く覚束ない」

威津那 「訳の判らぬいい訳をつらつらと」

ヴァン 「だからね、皆無という訳ではないが、本来の僕にはない性欲というものがどうにもあるらしくてね」

威津那 「・・・お主、この娘達を犯したのか」

ヴァン 「それくらい許してくれ。椿という少女に煽られたまま燻っていたんだ」

威津那 「お主が精を打ちこんだ後の処理を妾にさせておるというか、この痴れ者が!!」

ヴァン 「君の食事量に合わせて女を連れてくるというのも結構手間のかかる作業だ。僕もその恩恵に預かりたいだけだよ」

威津那 「恩恵じゃと? 妾の元で働ける事こそ誇りに思え」

ヴァン 「本当はね、君の種を植えたあの娘が僕の好みなのだがね? 中々守りが固く手ごわい」

威津那 「あの、忌々しい小僧が守っている娘の事か。まぁ・・・、あれ程の美麗なおなごもそうはおるまいて」

ヴァン 「威津那の言われるままに作業をするも中々捗らぬでは、僕も感情が無い訳ではないのだから不満も溜まる」

威津那 「妾の知った事ではないわ」

ヴァン 「やれやれ・・・。不満がたまれば研究結果に支障が出る恐れもある。そこは同じく、「女を食らう」という所で分かち合いたいものだがね?」

威津那 「妾にお主の働きに対する対価を払えとでも言う積もりか」

ヴァン 「良いじゃないか。君に何か労働を強いている訳ではない。君は十全なる覚醒の為に力を貯め込む事に集中すればいい」

威津那 「無論じゃ。尻尾が九本無ければ何とも心許ないからの」

ヴァン 「荒事も計画も実験も僕は担おう。ほんの少しの捌け口として精を打ったからと、血の味が変わる訳でもあるまい?」

威津那 「言い訳には殊更弁が立つようじゃな」

ヴァン 「たまには僕の主張も聞いてくれないと困るよ、仮にも僕を共犯者と呼ぶならね」

威津那 「まぁ良い。どうせ血を吸った体は棄てるのだ。お主が死体愛好症でないというなら、生きている内に欲の捌け口とするも良かろう」

ヴァン 「初めて僕の要望を飲んだね。僥倖(ぎょうこう)と言うべきか?」

威津那 「勘違いするでないぞ。餓鬼が離反の上敵対となればお主の力添えが必要不可欠。その為に少々は融通を利かせねばならぬと思うてこそ故」

ヴァン 「互いのメリットとして突き詰めた効率の良い方法だと思うけどね」

威津那 「構わぬよ。ただし、事が済んだら娘達の着物を脱がせて体を拭け。お主が舐め回したと考えると怖気が走るわ」

ヴァン 「酷い言われようだ・・・それくらいはしてあげようとも」

 

 

 

アニ  「これで、よし。今日で三日目、やれることは全部やったはず。どう・・・かな」

椿   「終わったんで、ありんすか・・・?」

アニ  「包帯、取るね・・・お、おおおおお!?お姉ちゃん!やった!やったよ!」

オティス「おお!綺麗に治ってるよ牡丹さん!ほら、鏡!」

牡丹  「嫌でありんす。鏡など見たくありんせん」

椿   「・・・、アニさん、オティスさん。傷を治して戴いて置いて大変失礼を申し上げんす」

アニ  「およ、何?」

椿   「席を外しては戴けんでしょうか」

オティス「それは、構わないけど一応理由を聞いてもいいかな?」

椿   「わっちら花魁にとって顔の美醜は命と同様、むしろ命よりも重い物。潰れた事実、治った経歴いずれも簡単に受け入れるには余りに辛い」

アニ  「けど、治ったよ? 鏡見てちゃんと確認したら・・・」

オティス「アニちゃん、ストップ・・・判った」

椿   「ひとまずわっちの部屋に居てくんなんし。姐さんが落ち着いたらきちんとお呼び致しんす」

アニ  「私、頑張って治したよ。ちゃんと見て綺麗になったって、ちゃんと」

オティス「アニちゃん、判るけど。回復魔法で治せないモノって・・・、やっぱりあると思うから。行こう」

アニ  「・・・判った」

椿   「申し訳ありんせん」

オティス「椿ちゃんの部屋だね。判った、先に行くね」

椿   「申し訳、ありんせん」

 

 

 

椿 「牡丹姐さん、お顔を触ってもよろしんすか?」

牡丹「・・・嫌じゃ」

椿 「姐さん・・・、まるで駄々をこねる禿のようでござんすよ」

牡丹「本当に治ったのかすら判らんのに?」

椿 「治っておりんすよ?」

牡丹「ハリボテではなく? 触れたら白粉(おしろい)の様に崩れて溶けてしまうかもしれん? 今のわっちは本当にまともな顔でありんすか?」

椿 「触りんす」

牡丹「やめ・・・っ」

椿 「綺麗な肌」

牡丹「・・・っ」

椿 「なめらかで柔らかくて、色も白くてきめも細かい。元の牡丹姐さんのお顔でありんす」

牡丹「本当に・・?」

椿 「撫でてもつねっても剥がれたりしんせん。んー、なんなら吸い付いてよろしんすか?」

牡丹「椿?!」

椿 「ふふ・・・、姐さん、鏡を。姐さんの心構えが出来てからで構いんせん。いつでも見られるよう持っていてくんなんし。この、新之助様から戴いた鏡を。きっと新之助様が守ってくだしゃんす」

牡丹「新之助様は顔の綺麗なおなごが好きじゃと仰っておりんした。潰れた時に呆れて見放したかもしれん」

椿 「そんなら、美しく返り咲いた姐さんの所に戻ってきんすよ」

牡丹「・・・。目を閉じても判りんす。今までの傷の痛みはありんせん、ひきつる感じも、ない」

椿 「鏡を前に、ゆっくり目を開けてみなんし」

牡丹「(息を吸う)」

椿 「ゆっくりでよろしんす」

牡丹「・・・、椿。鏡では見えない耳の近くは? あごの下は? ちゃんと治っておりんすか?」

椿 「あい、憎たらしい程綺麗でありんすよ」

牡丹「・・・、良かった・・・。ほんに・・・、よか・・・っ! ふ・・・、ぅ、う」

椿 「姐さん、泣かないで」

牡丹「怖かった!わっちが背負って守って来たもの全部、見世も、お職の立場も、繋ぐおきちゃも全部、全部! 無くしてしまったのかと思って怖かった!」

椿 「うん、怖かったでありんすな。わっちも同じ思いでありんした」

牡丹「もう、・・・二度と座敷には座れないかと思っておりんした」

椿 「もう一度、お座敷に戻れんすよ。最初のお座敷は思い切り豪華なお座敷にしんしょ? 川瀬様にお手紙を書いて」

牡丹「怖かった! もうこんな思いは嫌じゃ。自害して果てようと思いんした!」

椿 「よう、踏み止まってくんなんした」

牡丹「ぅ、あ・・・、ぅあああん」

 

 

 

アニ  「ねぇ、お姉ちゃん。あたし、余計な事したの?」

オティス「違うんだよ、そうじゃない。どちらも受け入れるには椿ちゃんの言う通り、牡丹さんにとっても重要な物だったんだと思う」

アニ  「うぅ・・・よくわかんない」

オティス「じゃあ、残酷な例え話をするね」

アニ  「残酷・・・、って?」

オティス「今、ここにさ。ハントさんが生き返ってアニちゃんに手を広げたら、素直に抱き着ける?」

アニ  「え?なんで・・・、そんなこと言うの? お父さんは、だって。え、なんで」

オティス「信じられない事だけど、ここに住む女性はみんな顔の綺麗さで生き方が決まるんだ。文字通り全てを突然失って絶望して、突然返されたら? 簡単に受け入れられるものかな?」

アニ  「それくらいの・・・衝撃だったってことなの?」

オティス「うん。実感って大事だよ。それこそ、私の全部を知った時――救国の英雄でもなければそもそも人間じゃないって話。簡単には理解できなかったんじゃない?あの時は、そんな余裕もなかったかもしれないけど」

アニ  「やっぱり・・・ダメだったのかな」

オティス「アニちゃんの気持ちを否定したいわけじゃないよ」

アニ  「けど!」

オティス「例えこの世界にはない理だとしても、あそこで牡丹さんを見捨てることは私もしたくなかった」

アニ  「もう、だれにも苦しんでほしくないの」

オティス「うん。だから――アニちゃんは、間違ってないよ」

アニ  「よかった、のかな」

オティス「牡丹さんや椿ちゃんがどう言うかはわからないよ」

アニ  「ふぇ・・」

オティス「けどさ、アニちゃんがそうしたくて、そうすることがアニちゃんにとって大切なら・・・私は、そうさせてあげたい」

アニ  「間違ったことだとしても?」

オティス「ああ、道を外れようとするならそれは全身全霊で止めてあげるから安心して」

アニ  「うん・・・わかった。ごめんね、お姉ちゃん」

オティス「謝らなくていいのに。さて・・・あっちはどうなったかな」

 

 

 

オティス「牡丹さん・・・、もう大丈夫だって男の人が呼びに来たけど」

アニ  「本当に、大丈夫? ふわぁ?! 牡丹さん綺麗!」

椿   「命の恩人へお礼差し上げるんにみすぼらしい恰好は出来んせん。どんぞ、お入りになってくんなまし」

オティス「あ・・・、あぁ、えっと、失礼します」

牡丹  「此度はこの命、救って戴き誠にありがとうございんす。華屋お職牡丹、この命に代えましてお礼を申し上げたく存じ上げます」

アニ  「そ、そんな、土下座なんてしなくても????」

オティス「そ、そうだよ! 頭をあげて!」

椿   「姐の命、救って戴きどの様な感謝が良いのか判らぬ不束者なれば。何卒ご用命の際はご自由にお呼び奉り下さいませ」

牡丹  「お二方へのご恩、命果てるまで金輪際忘れんせん」

オティス「そんな、大袈裟だよ。それに、救ったのはアニちゃんだし」

アニ  「良かった! えへへ、ちょっと大変だったけど頑張ったよ!」

オティス「ほんと、なんとかなってよかったよ。さすがはアニちゃんだ」

アニ  「あたし達の世界とちょっと理屈は違うみたいだったから、難しかったや」

牡丹  「本当に、ありがとうございんす」

アニ  「ああ! その恩を着せようって訳じゃなくてね! あの、頭あげて? 二人とも」

牡丹  「命を絶つ事を考えんした。花魁として、お職として生きた生もここで仕舞と思っておりんした」

アニ  「本当に、綺麗に治って良かった!」

オティス「この世界でも神様が信じられている・・・ということは魔力が存在してるはず。なら回復も使えるはず。滅茶苦茶な理論だったけど、なんとかなるもんだな」

アニ  「呪いも発動しなかったね。キバイラに植え付けられた呪い」

オティス「こっちの女神所縁(ゆかり)の力じゃなけりゃ呪いも発動しない、か。違う世界に飛ばされるなんて抜け穴、あいつも想定してなかったろうからな」

椿   「つきましては、この先のお宿とお食事、湯など華屋にてご自由にお使いくだしゃんせ」

アニ  「え? でもそれって確か物凄いお金かかるんじゃなかったっけ?」

牡丹  「全てわっちが払いんす。どんぞご自由にお使いになってくんなまし」

アニ  「えっ、えぇ・・・ふえええええ!?」

オティス「良かったね、アニちゃん。アニちゃんの功績だよ」

アニ  「うん、ありがとうお姉ちゃん!それにしてもあのお酒・・・、なんだったんだろう。あたしの回復魔法を、増幅してくれたような気がするよ」

オティス「気味が悪いけど、なんにせよこれが牡丹さんを救ったことには変わりないわけだし・・・、その椿ちゃん、あのお酒は」

椿   「大変に申し訳ありんせんが、それだけは申し上げる事は出来んせん」

オティス「なんか、伝統の秘薬、とか?」

椿   「お許しくだしゃんせ」

オティス「まぁ、うん。治ったし、知ったからって作れる訳じゃないと思うからいいけど」

アニ  「全部使っちゃったから、調べることもできないし・・・つくれそうなものなら欲しかったな」

オティス「その、あれだ。ひとまず二人とも、その仰々しい態度はやめてほしいかな? 話しにくくてしょうがないや」

椿   「ふふっ、おもてなしに慣れておりんせんかったか。逆に堅苦しい思いをさせたなら申し訳ありんせん」

アニ  「あ、よかった! いつもの椿さんだ」

牡丹  「ところでお二方、腹を空かせておりんせんか?お食事を用意させんした。それ、持ってきや」

オティス「食事?たしかにそろそろご飯にしようかと思ってたんだけど・・・うーん、あはは?ちょっと待ってくれる?」

牡丹  「どないしんしたか?」

オティス「見たことない量が出てきましたが?」

牡丹  「ふふ、これほどの膳はみたことありんせんか?」

アニ  「量もすごいけど、なんだろう。すごい綺麗なお料理」

牡丹  「手前の膳より、七色飯と申しんすは、菜飯(なめし)、小豆飯(あずきめし)、麦飯(むぎめし)、粟飯(あわめし)、湯取り飯(ゆとりめし)、引き割り飯(ひきわりめし)、干し飯(ほしめし)と七種類のご飯。お口に合うものをどうぞ。中の膳は、汁物、煮物、和え物、豆腐、炒め物、蒸し物の膳、奥の膳に鯛の刺身、キスの天ぷら、カレイの煮付け、マスの包焼き、鮭の塩焼きをご用意しんした。途中のお飲み物には、ほうじ茶とお番茶、煎茶お好きな物を、酒もご用意しんた」

オティス「こ、これは・・・、さすがに多くない?」

牡丹  「オティスさんたちは、これから幾度となく戦いに馳せ参じることになりんしょう。肝心な時に体力が足りぬ魔力が足りぬでは、わっちの面子(めんつ)に関わりんす」

オティス「だからって、これは」

牡丹  「向こうの世界の膳とは似つかぬものでありんしょうが、それでも力が付くものをと料理番に用意させんした。食べてくりゃれ?」

オティス「し、尻込みする・・・ヴラドニアといい、なんでこう惜しまない人たちばっかりなんだ?」

アニ  「ありがたくいただこうよ!それじゃさっそく!はむ、まぐ・・・んんー!!おいしい!とっても繊細で優しい味がするよ!」

オティス「私がシパオで魚釣って焼いたのと、なんでこうも変わる?わからない・・・美味しすぎて逆に感想が出てこない」

牡丹  「もう、誰も苦しませたくありんせん。身勝手だとはわかっておりんす。けんど、どうかわっちたちを守ってくんなんせ」

オティス「・・・はい。もちろんです」

アニ  「うん!任せて!絶対みんなを助けるんだから!」

牡丹  「それにしても素晴らしい力でありんすな。魔法、というんでありんしたか。その力があれば・・・たくさんの人を救えるんじゃありんせんか?」

アニ  「えへへ、そうなれたらいいなあ」

牡丹  「改めてオティス様、アニ様、どんぞこの若山と町を守ってくんなんし。その為ならばこの牡丹、いかようにもお力添え致しんす」

一次創作サークル ルイは鷹を呼ぶでは「花魁道中いろは唄」

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