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堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 2話 ~壊残(かいざん)~
男性2 女性6 上演時間:120分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ

〇台本上演の利用規約について

 下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。

 https://call-of-ruitaka.fanbox.cc/posts/1761504

牡丹(ぼたん) (♀) 25歳


若山随一の大見世、華屋のお職であり椿の姐女郎。

華やかな色気と優しさと雅さで道中を歩けば大輪の花の様だと男達を沸かせる。

しなやかな色気の反面気風の良さを併せ持っており、自身の見世に害が及ぶと怒鳴り込む事もある。

正義感が強く心根も優しいので汚濁したものを見ると非常に驚き、気分を害するところもある。


鬼狽羅(きばいら) (♀) 22歳


かつて鬼灯島に棲んでいた鬼一族の首魁。

原典の勇者オティスとは300年前からの因縁がある。毒を使う事に長けており、医学にも精通する。

ヴァンハーフに協力して九尾狐の威津那を殺生石の封印から解放するのに協力し、

威津那の力により若山遊郭へ時空間移動させられた。言葉遣いは京弁。

倭の国に鬼灯島の面影を重ねて珠酊院の事などを思い出し郷愁の思いがある。

 


椿(つばき) (♀) 19歳


大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。

八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。

元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。

芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。

蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。


蓮太郎(れんたろう) (♂)  19歳


華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。

華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。

正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。

怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。


オティス (♀)  23歳


300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。

顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。

旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。

そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。

 


アニ (♀)  12歳


オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。

思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。

若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。

年齢の割にはしっかりした女の子。

 


ヴァンハーフ (♂)  30歳


君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。

人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。

勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。

何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。

若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。


威津那(いづな) (♀)  14歳


ヴァンハーフの実験により殺生石より封印を解かれて覚醒した九尾狐。

ヴァンハーフと協力し何かを企てているが現在その謀略の内容については判らない。

性格は不遜で大変な我儘で自己中心的な上に堪え性がない。

自身の目的の為ならば人間がどれだけ死のうが関係なく、女性は等しく皆己の餌だと言い張る。

口調は古風な話し方で、命令口調が多い。炎系の魔法を使って攻撃する事が多い。
 

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【配役表】


牡丹   (♀):
キバイラ (♀):
ヴァン  (♂):
威津那  (♀):
椿    (♀):
蓮太郎  (♂):
オティス (♀):
アニ   (♀):


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キバイラ 「ふと見付けた華翁格子(はなおきなごうし)模様の長煙管。確か珠酊院(しゅていいん)が持っていた時は花ん付いた飾り紐や房飾りがついてた思うけど、長年土に埋もれたこん煙管にそれは付いとらん。若山遊郭という、ここは一体珠酊院が命を散らした鬼灯島(ほおずきしま)と何の関連があるんか気になった。ここで少し時を刻めばおのずとわかる。せやからこん町は守ろ思たんよ。珠酊院とは擦れ違いばかりでまともに話し合いはでけへんかったから、ここを守り抜いたら判るかもしれんと思て。男と女が偽りの恋を綴るというこん町を、うちが守る。珠酊院が聞いたら、今更笑止千万言うて嗤うやろなーーーー」

 

キバイラ「やっと逢えたわ。あんさんらどこでなんしてはったの?」
ヴァン 「すまなかったね。こちらの世界に来るとき、次元の歪みで君だけ少々離れた場所に飛ばされてしまったようだ」
キバイラ「うちの作った酒『模倣(もほう)・八塩折(やしおり)』で何やおかしな実験する言うから顛末を見届けに来たらこないな所に飛ばされて。んで? あの聖遺物級の化け狐はどないなったん?」
ヴァン 「無事復活したよ。君に貰ったこれは、魔力炉にでも使おうと思っていたのだがね。大蛇(おろち)をも酔わせる御神酒(おみき)がこんなところで役に立つとは、人生とは興味深いものだ」
キバイラ「で、こないに配線塗れになったと。美しくないで、この装置。それに、尻尾増えてるやないの」
威津那 「無礼者め、妾の尻尾をつまむでないわ」
キバイラ「起きてはったん。その身を自由にしたうちらに言う事あらへんの?」
威津那 「妾への貢献は褒めて遣わそう。じゃが、礼じゃと?」
キバイラ「殺生石の封印解除に『模倣(もほう)・八塩折(やしおり)』がなかったら今のあんさんはあれへんかった、言うても?」
威津那 「妾が蘇ったのは必然じゃ」
キバイラ「聖遺物は迂闊(うかつ)に喋らせるもんやあらへんな。気位ばかり高くて話にならへんわ」
ヴァン 「そう言うものではないよ。研究対象としてはとても有意義だ」
威津那 「しかしまぁ、よくぞ妾と共犯者を見付けた。相応の能力は持っているようじゃの? これからも妾への貢献忘れるでないぞ」
キバイラ「能力批評して命令。舐められたもんやねぇ?」
ヴァン 「落ち着いてくれるかな。これでも僕は研究者の端くれでね。この先彼女がどうなるか、とても興味がある」
威津那 「其方の職務や知識欲などどうでも良いわ」
ヴァン 「君のような恰好の研究材料を逃すほど、僕は馬鹿じゃない。協力は惜しまないよ」
キバイラ「あんさん、好奇心で身ぃ滅ぼすで? うちは聞きたい事まだあるんやけど」
ヴァン 「僕の判る範疇なら答えられるよ。ほんの少し、中途半端ではあったが同期した若者がいたからね。情報はある方だ」
威津那 「失敗して死なせおったがな」
キバイラ「まず一つ目。なんよここ。光で視界奪われて目ぇ覚ましたらこないな所に転移して。ここどこやの?」
ヴァン 「あらかた町の検証は終わっているよ、僕が思うに威津那側の世界だと思う」
威津那 「いかにもそうじゃ。妾が欲した世界、ここを倭の国と言う」
キバイラ「倭の国・・・。うちの故郷にも少し似てはるわ。建築物の様相や住人ん服装。おそらく次元を越えた平行世界やな」
威津那 「くふふふふふ。どこもかしこも騒がしいのう。人、人、人。この世界でも人が溢れて・・・、鬱陶しいことこの上ないわ」
ヴァン 「鬱陶しいのに欲するとはなかなか興味深いな」
キバイラ「相反する支離滅裂な思考を興味深いて、あんさん前から思てたけど、オツムがいかれてるんちゃうの?」
ヴァン 「いや? 支離滅裂ではないよ。この妖狐はこの「国」が欲しいと言っている、つまり「人」は要らないという意味ではないのかな?」
キバイラ「着いて早々、物騒な事言わんといて。物見遊山(ものみゆさん)ちゅう言葉があるやろ? うちは色々見て回りたいわ」
威津那 「妾はこの町を欲したが、しばらく見ない内に随分と変わってしまったようじゃ」
キバイラ「朱塗りの格子、檻の中の女、確か遊郭ちゅうたかいな。男が女を買う為の町やね」
ヴァン 「王都に行けば、裏通りに娼館街といわれる所があるらしいが、ソレと似たようなものかな?ここまで絢爛ではないが」
キバイラ「なんや? あんさんでもそないな情報持ってはるんやな? 全く興味あらへん思てたんやけど」
ヴァン 「む?あぁ・・・、おそらくこの端末の前の記憶だろう。今は本体との同期も取れていない、混濁しているな」
威津那 「共犯者。肝心な時に使えなくなっては困るぞ」
ヴァン 「大丈夫だとも。僕はヴァンハーフ、僕は・・・なんだったか。何を、言おうとしたのだったか」
キバイラ「あんさんみたいな化け物はそんまま壊れたらええ思うよ」
ヴァン 「手厳しいな。君も目的を果たせぬままここで死にたくはあるまい」
キバイラ「かわええ子に囲まれて死ぬならそれも本望やけど? くん・・・、なぁ、今日会ってからずっと思てた事やけど、あんさんの匂いうち好きやあらへん。話すんは構へんけど、余り近寄らんといてくれる?」
ヴァン 「ふむ・・・、虫の居所でも悪いのかい? 今日はやけに突っかかってくるね」
キバイラ「嫌味で言うてるんやないの。・・・なんやろ、判れへん」
ヴァン 「それはそれで瑣事(さじ)だ、今は捨て置おう。ところで、ここの通貨が中々手に入らなくて困っているんだ。何をするにしても先立つものがないのは何とも心許なくてね」
威津那 「ここの住人から奪うしかなかろう? これだけ人が溢れておるのじゃ。一人くらいそこの堀に沈めても問題なかろう」
ヴァン 「即金が必要になる。荒事は避けたいが仕方ないかな」
キバイラ「は・・・、荒事を避けたいて、よう言わはる。感心するわ」
ヴァン 「君も金が無くては困るだろう? 助け合いの精神を欠いては互いに生きては戻れないよ」
キバイラ「助け合いが人殺す算段なぁ。余りけもじな事言わんといてぇな、臍(へそ)で茶が沸くわ」
威津那 「そなた先程から無礼が過ぎるぞ」
キバイラ「たかが妖狐が、うちを睥睨(へいげい)せんといて。ついうっかり手ぇが滑って殺してしまいそうになるやないの」
威津那 「たかが妖狐じゃと?! 野蛮な鬼如きが何を抜かす! このうつけが!!」
キバイラ「煽られ耐性あらへんの? あぁ、余り頭が良うないんやな? 語彙力薄いから舌戦は苦手、不憫やなぁ?」
ヴァン 「威津那も気に要らないのかい。随分と態度が悪いね」
キバイラ「うちの態度が大人しかったことある? あるなら聞いてみたいもんやね。けどま、その両方や。尻尾が増えるだの力があるだの言うてはるようやけどただの獣。そないなもんに振り回されるんはごめんやわ」
ヴァン 「妖狐に興味はない、と」
キバイラ「知らんの? 狐と鬼は昔から仲悪いんよ?」
ヴァン 「そんな歴史があったとは知らなかった」
キバイラ「今うちが作った歴史やからね」
ヴァン 「謀(たばか)っているのかな? いずれにしても僕たちは協力しなければ、この世界からは帰れないよ。戻る方法が見付かるまで生き抜かねばならないし、時間は有限だ。僕たちが今ここに居る時間を無駄にするのも惜しい」
キバイラ「帰る方法は共有するけど他は勝手にやってくれへん?」
威津那 「勝手にするに決まっておるじゃろう? 何ゆえ妾がそなたにイチイチ許可を取らねばならぬ」
キバイラ「あらあら、犬並みの脳みそでええ事言うやないの。それだけは同感やわ。うちに話しかけんといてえな。馬鹿が移る」
威津那 「共犯者、そろそろこの鬼を八つ裂きにしてもよかろう?」
ヴァン 「やれやれ、困ったね。僕の実験には威津那が必要不可欠だし、君の協力も欲しい」
キバイラ「知らへん。うち、協力するなん言うた覚えないんやけど? 言わば今の境遇迷惑千万極まりない巻き込まれ事故なんよ。倭の国には零れ幸いだの棚からぼた餅だの言う諺(ことわざ)さかい、目の保養として楽しませて貰うけど、あんさんらは目障り」
ヴァン 「嫌われたものだ」
威津那 「良いではないか。無礼な鬼如き要らぬわ」
キバイラ「ん?木の根元、なんや落ちとる。・・・、なんやろ」
威津那 「やれ、餓鬼が拾い食いを始めたぞ? みっともないのう、なんとまぁ不憫じゃ」
キバイラ「黙れ駄狐」
ヴァン 「なんだい、その棒の様な物は。工具か何かかな? 僕にも見せてくれないか」
キバイラ「近付くな言うたやろ。あんさんに見せる義理はあらへん」
ヴァン 「それが何かくらい聞いてもいいだろう」
キバイラ「煙管ちゅう、煙草を吸う道具。羅宇(らう)が長いから女もんや。土被って随分汚れてはるけど・・・、これ」
ヴァン 「生憎僕は葉巻主義なのでね。要らない道具だな」
キバイラ「何・・・? あんさん煙草吸うの? 知らんかったわ」
ヴァン 「ん・・・? いや、僕は喫煙者ではないよ」
威津那 「時空間移動で頭の中身を欠損したか? 使い物にならねば棄てるぞ」
ヴァン 「平気さ、どうも混線したようだね。時空間移動、もう少し解き明かしたいところだ」
キバイラ「そう言えば、食い繋ぐ金がない言うてはるようやけど? うち、あんさんらみたいな貧乏たれと一緒にされたないよ」
ヴァン 「金を持っているというのか? 到着したばかりのこの国の金を」
キバイラ「多分やけどね。なければ方法は考える。稼ぐ方法も物価も知らんのは不憫やし教えといてあげる。この国の通貨は『両・分・朱・匁(もんめ)・文』や。間違いないならお守りとして持ってた小判使えるし、うちの食い扶持は気にせんでもええよ?」
ヴァン 「なるほど、貴重な情報をありがとう」
キバイラ「なんやろね、お礼言われてイラつくんも中々ない経験やわ。ほな、しばらく好きにさせて貰うわ。夜半過ぎにここに戻って来るさかい、さいなら」
威津那 「あれに協力が出来る訳が無かろう? 勝手にも程がある」
ヴァン 「彼女は彼女で利害の一致があれば協力してくれる。ある意味とても頼りになるよ」
威津那 「さて、通りの向こうにおるおなご、美味そうじゃな。妾は少々腹を満たして来る故、そなたもまずは暮らしの基盤を整えよ。夜露も凌げぬでは話にならぬぞ」
ヴァン
 「まずは実験の為の基盤を整えよう。余り派手に荒らさないでくれたまえよ」

キバイラ「この煙管・・・、華翁格子・・・。間違いあらへん、珠酊院(しゅていいん)の愛用していた煙管や。こないなもんが落ちてはるちゅうことは、鬼灯島(ほおずきじま)とここは何らかの繋がりがあるちゅうことや。調べてみる必要、ありそうやね・・・」

 

 


オティス「ふむ、やっぱりこの紋章はつねっても引っ張っても剥がれない」
蓮太郎 「当たり前ですよ。そんな事で剥がれるなら仕事の料理中や、なんなら風呂に入った時でも簡単に取れています」
アニ  「あ、そっか。あれから何日も経ってるもん、お風呂も入るし仕事もしてるし、手も洗うよね」
オティス「それに、見た感じ細身なのに筋骨逞しい、やー、鍛えてるね、蓮太郎」
アニ  「お姉ちゃん・・・、手付きがいやらしい」
オティス「え、そう?なんというか、筋肉好きなんだよね私。自分もかくありたいけども女だから付きにくくて」
蓮太郎 「毎日5升(しょう)炊きのご飯を2~3回炊けばこうなります」
オティス「知らない? 料理人の筋肉と戦士の筋肉は違うんだ。使う部位が違うからさ」
蓮太郎 「・・・、そうですか・・・」
アニ  「そう言えばお父さんも喫茶で鍛えてたし筋肉ついてたけど、確かに竜騎士のベニオットさんとはなんか違うよね」
オティス「うん、そう言う事」
蓮太郎 「何が聞きたいんですか」
オティス「君は戦える? って質問に明確に答えて貰っていない。重要だって言ったでしょう?」
アニ  「そう言えば・・・。町には警備の人とか回ってるけど蓮太郎さん明らかにお仕事違うよね? どこで戦法学んだの?」
蓮太郎 「重要なのは判ります。まだ、話したくはありませんので、取り敢えず軽く武道を抑えてる、とだけ認識して戴けますか」
アニ  「やっぱりそうなんだ。すごいね、お料理のお仕事忙しいのにいつ学んだの?」
オティス「アニちゃん、聞き過ぎ。蓮太郎は応えられる範疇(はんちゅう)で答えてくれたからそれでいいの」
蓮太郎 「助かります」
オティス「で、蓮太郎はその紋章使う時ってどんなイメージで使ってる?」
蓮太郎 「意識的に使った訳ではありませんから判りません」
アニ  「あたしが見たのは、2回とも怒ったりイラついたりして感情が昂(たかぶ)った時に使えてたよ」
オティス「ま、魔法ってイメージ大事だからね。理屈は同じだと思うから、感情の昂りで呼び起こされるのは自然なことだ。うん、アニちゃんの時と教える方法同じで良さそうだ」
アニ  「最初の氷の時に色が青く光って、2回目の風を起こした時は緑に光ってたんだ」
オティス「あとは、そうだね・・・何か頭に浮かんだ物体を繰り出す様にすると出しやすいかもしれないな」
蓮太郎 「物体を、繰り出す・・・?」
アニ  「判りやすいのは今自分が何したいって口に出せばいいんだよ。ほら、霧に向って『散れ』って言ったりしたでしょ?」
オティス「へぇ、ならそれは確実に意図的に使ってるね。口に出すのはね蓮太郎、詠唱って言ってその間に望む効果のある魔力の集合体を増幅するんだ。神経を集中させるから身体的にはかなり疲弊するけど、敵に与えるダメージは絶大だ」
アニ  「よく使う魔法なんかは名前付けちゃったりとかする。私が探し物する時に使うのが『サーチ』」
蓮太郎 「良く判りませんね」
オティス「視覚的にわかりやすいほうがいいか。例えば・・・『篝火(フレム)』、っと」
蓮太郎 「灯火・・・、小さいですね。魚を焼くことも出来ない」
オティス「建物燃やすわけにはいかないしこれくらいがいいかなって。あと簡単なもので言えば・・・、『氷の霊帝(アイ・スカージ)』!」
蓮太郎 「氷!? これは・・・食材を冷やすのに使えそうですね」   
オティス「心の底から料理人過ぎるでしょ」
アニ  「あたし、たまに捕まえた魔物氷漬けにして置いとくよ?」
オティス「先駆者がいたわ」
蓮太郎 「想像、といわれても・・・」
オティス「よしじゃあこうしよう。今から蓮太郎に思いっきり氷魔法を撃ちます」
蓮太郎 「・・・はい?」
オティス「それをなんとか対処してみて?」
アニ  「いや強引すぎじゃない!? あたしにやってくれたみたいな方法でもいいじゃん!」
オティス「そうも考えたけど、悠長にもしてられないからさ。せーの、『簡易版・七国滅せし淘汰の吹雪(セブンツアーズ・ポアリフハント)』!!」
蓮太郎 「うわっ、本気で撃って来た、信じられない!! 『鎌(かま)鼬(いたち)・切千枚(きりぜんまい)』!!」
アニ  「わー、氷の薄切りだー。蜜かけたらかき氷にできそう」
オティス「へえ、ここで風魔法か。いいね」
蓮太郎 「単純に考えれば炎で溶かすのがいいんでしょうが、威力が足りなかったら太刀打ちできないでしょうから」
オティス「そういう思考は柔軟、か。素質あるなぁ」
蓮太郎 「あぁ、アニさん、どうぞ。氷の薄切り黒蜜がけ。餡子も乗せときますね」
アニ  「やったー!」
オティス「生粋のエンターテイナーか?」
アニ  「甘い食べ物は魔力回復が捗る。これでもう一回椿さんの回復しに行こう」
オティス「じゃ、念のためにもう一つ行こうか」
蓮太郎 「今度は何をするんです? またこちらになにか打ち込むつもりですか?」
オティス「逆。撃ってきてみな」
蓮太郎 「う、ちこむ・・・なにを?」
オティス「『簡易版・七重留めし友殉の盾(セブンレザーズ・ランサーブレイカ)』!!」
蓮太郎 「話聞いてますか?」
オティス「これを展開したまま、君に向かって突撃します。ちなみに結構硬いから、ぶつかると痛いよ」
アニ  「結局攻撃になってるー!?」
オティス「魔力加速!『狼王進撃(ヴィザーブレイカブル)』!!」
蓮太郎 「猪ですか! 考える時間もくれないんですね! 燃え盛る炎、ここに集結『烈火(れっか)・円陣(えんじん)展開(てんかい)・螺旋舞(らせんまい)』!!」
オティス「ッ!と・・・割られた。炎魔法でこれか、文字通り付け焼刃にしては見上げた威力だこと」
蓮太郎 「殺す気ですか?!」
オティス「うん」
蓮太郎 「なんて軽快な返事」
オティス「敵は遠慮しちゃくれないよ。あまり時間もないだろうから、それまでに使えるくらいには研ぎ澄ませないとね」
アニ  「薄切り氷おいしー。まぐまぐ、あ、蓮太郎さん、今炎の魔法使う時紋章赤く光ってたよ」
オティス「その紋章の理屈だけはどうにも理解しがたいんだけどな。一体どこで・・・」
アニ  「そうだよね。あたしも光る紋章なんて初めて見たよ」
蓮太郎 「気持ちは悪いですが、魔法と言う特殊な能力が身について戦闘は楽になったと思います。感覚は掴めたと思いますので、あとは慢心しないように気を付けますよ。ありがとうございます」
アニ  「うぬぅ・・・」
オティス「よっし、じゃあアニちゃん椿ちゃんの様子見に行こう」
蓮太郎 「厳冬の怒りをここに繰り出せ。『凍氷(とうひょう)・散華(さんげ)』」
オティス「おわああああああ!?」
蓮太郎 「油断禁物、ですよね?」
アニ  「わー、悪い笑顔」
オティス「んふふー、よーし蓮太郎。武器を全部無くしたときの徒手格闘の練習でもやるー?」
蓮太郎 「そう言えば牡丹花魁が、オティスさんには淑(しと)やかさが足りないと嘆いていました」
オティス「戦士に淑やかさなんているか!!!」
アニ  「流石にそれはどうかと思うよ?」

 

キバイラ「だい・・・、いや、おお・・・? これは、どう読むんやろな」
牡丹  「大懸(おおあがた)、と読みんす」
キバイラ「あぁ、おおきに、あんがとさん」
牡丹  「・・・っ?! 角・・・? え、あ・・・」
キバイラ「・・・っ?! 珠酊院? や・・・、ちゃう、か・・・。こないに景色似てはるから余計な考えするんやな、鬱陶し」
牡丹  「あ・・・、え、と・・・」
キバイラ「腰、引けてるよ? 足(あいや)振るわせて、綺麗な顔が強張ってる。うちが怖い? そんまま食べたろか?」
牡丹  「・・・、神社に、お参りでござんすか? 鬼が」
キバイラ「お参りちゃうよ? 人の神なん崇めたりせぇへん。町を見て回ってただけや。物色、あんさんみたいにきれーなおなご見付けて食べたろ思てなぁ?」
牡丹  「・・・、ふふっ」
キバイラ「ほんま珠酊院に似てはるわ・・・。何笑ろてんねん」
牡丹  「鬼とはもっと凶悪だと思っとりやんした。けんど、そうやって人の警戒心を煽って逃げさせようなん、なんだか可愛らしいと思いんして」
キバイラ「は?! か、かわいい? 見いや? コレ角、こっち折れてるけど両方あんねんで? 牙もあるやろ。目ぇかオツムか弱いんちゃうの?」
牡丹  「鬼の・・・、花魁? 目張りを綺麗に引いておりんす。口元の紅は何を使っておりんしょうか?」
キバイラ「うちが見ろ言うてんのは角と牙や、化粧やあらへん。そない近付くと食うで?!」
牡丹  「人を・・・、疎ましいと考えておりんすか? それとも憎悪? 自ら隔たりを作ってわっちを帰らせようとしているようにしか聞こえんせん」
キバイラ「あんさん、ほんまに怖ないんか?」
牡丹  「さて・・・、腕の一本でも噛みつかれたら怖いと感じんすが、鬼とはこれ程に美しいものかと少々見惚れてしまいんした」
キバイラ「変わったおなごやな」
牡丹  「その角を折ったのは人でござんしょか?」
キバイラ「なんでそない思うん?」
牡丹  「鬼の角は万病に効く薬だと聞きんす。強欲な人間に奪われたのだとするならそさまのわっちに対する態度に説明が付きんす」
キバイラ「たったこれだけでそこまで考えるんか。あんさん、中途半端な花魁ちゃうやろ。随分高位やな」
牡丹  「町を見て回っていたというならご存知でござんしょう。わっちは華屋お職牡丹、と申しんす」
キバイラ「・・・頂点(てっぺん)かいな。納得いったわ。一応言っとくで? 鬼の角は万病に効く薬やない。肝臓の巡りを少ぉし良くする程度、治せて二日酔いに効く程度や」
牡丹  「そりゃあ、おきちゃにあわせて酒を飲まねばならんわっちらには有り難い薬でござんすな」
キバイラ「しもた、余計な事言うたわ。うちの角折ろう言うんやないやろな」
牡丹  「そんな乱暴を働く妓に見えんすか? くださると言うなら有り難く頂戴しんすが」
キバイラ「あげへんわ・・・はっ!? 人間如きとなんでこない仲睦まじゅう話とるんや。あかんあかん、この景色があかん。遊郭頂点(てっぺん)のおなごちゅうんはさぞ美味いんやろな。その血ぃと肉食わせて貰うで!」
牡丹  「かは・・・っ! ・・・、あ・・・、く・・・っ! 人に心を赦すんが・・・、誇りを傷付けんしたか」
キバイラ「なんやて?」
牡丹  「相容れぬと・・・、思うから、ムキになってわっちを襲おうとしておりんしょ?」
キバイラ「は・・・っ! ガキやあるまいしムキになる? 阿呆な事言わんといてくらはる? 考えてみればあんさん花魁のてっぺんいう事は毎晩男と交合ってはるやろ。そないな肉食ったら穢(けが)れるわ。あんさんなん要らへん。早よ往(い)んでや」
牡丹  「っぁ・・・。けほっ・・・、はぁ・・・。勝手な事をおっしゃいんすな」
キバイラ「相互の理解なん必要あらへんのに、勝手言われる謂(いわ)れもあらへん」
牡丹  「わっちは神社にお参りに来たんでありんす。人の都合はお構いなしでありんすか?」
キバイラ「呆れた・・・。こないな目にあってまであんさん怖くないの? お参りせんで自分の見世戻って布団被っとり」
牡丹  「日々のお参りを怠れば何かあった時に悔やみんす」
キバイラ「うちね、こん町見て回ってるんやけど、この社、なんや感じるんよ。既視感、言うんかな? 祀られてる神様、何?」
牡丹  「祀られている神様・・・。確か玉比売命(たまひめのみこと)様だったと思いんす。良縁を結ぶとは言いんすが、特におなごを護るとか・・・。その、仕事柄、恐ろしい病もありんすから」
キバイラ「あぁ、せやろね。おなごを病から守る・・・、か。早よお参りしたらどない?」
牡丹  「前を失礼致しんす。(ぱんぱん:柏手で二回手を叩いて下さい)どんぞ今日も禍事(わざわいごと)罪(つみ)穢(け)れなく参らせられますように」
キバイラ「願い事が、自分の望みやなくて町の平和かいな。絵に書いたような女神さんよね。平和主義・・・、か」
牡丹  「誰を思いだしておりなんしょ? 愛しいお人でござんしょか?」
キバイラ「阿保な事言わんといてぇや、愛しい? そん逆や。嫌いで憎くていたぶりたくて殺したぁてしゃあなかったわ」
牡丹  「そりゃあ、勘違いな事を申し上げんした。無闇に人の傷に触れるんは良くありんせんな」
キバイラ「あんさん、判っとって言っとらはるやろ」
牡丹  「殺したくて仕方なかった、と。己の手でとどめを刺すに至らなかった後悔。その方は既に亡くなっておりんしょう?」
キバイラ「死んで当然や思てるけどね」
牡丹  「わっちもつい先日謀略にて友人を喪いんした。互いの思いが同じとは思いんせんが、ほんの少し通じるものがあるかもしれんせんな・・・」
キバイラ「鬼と人間、通じる事があるかいな、なんを勘違いしとるか知らへんけど。うちが今あんさんを殺さんのは別に気になる事があって、あんさん如き眼中にないからやで?」
牡丹  「ふふっ、悉(ことごと)く振られんすな」
キバイラ「うちの気が変わらん内に早よ往ねや。殺すで? それとも・・・、毒の霧でも吸ってみる?」
牡丹  「それは、やめときんす・・・、吸うなら煙草がいいでありんすな」
キバイラ「煙草・・・。そか、せやな・・・。あんさん刻み煙草持ってはる?」
牡丹  「はて、持って来てたかどうか・・・。あぁ、ありんした。どんぞ」
キバイラ「綺麗な入れ物やね。漆に金箔の源氏車・・・。煙草好きなんか」
牡丹  「三度の飯より煙草でありんすな」
キバイラ「これ、貰ろてもええなら今日は見逃したるわ」
牡丹  「わっちもまだ命は惜しいでありんすからな。差し上げんすよ。そんじゃ、失礼致しんす」

キバイラ「人護る社で珠酊院に似たおなごと会う・・・。なんの因果かいな。珠酊院はうちに何を望んではるんやろ? 確かこうして、火ぃ付けて。 すぅ・・・うぐ!? なんやこれ、まっず・・・。何がええんや、こんなもん・・・」

 

アニ  「えっと、えっと、ばんちょーって所に行くんだったっけ?」
椿   「ぶふっ・・・、番長・・・、ふふふふっ、皿屋敷? 肝試しでもやりんすか?」
牡丹  「番所、でありんすよ。町の警備を務める同心という人達が集まっておりんす」
アニ  「そっかー、とても大切な使命を持ってる人達なんだね」
椿   「お母さんにも頼まれたんでありんすよ。最近の女郎神隠しの状況をしっかり伝えて来いって」
牡丹  「椿が妖怪に襲われた事も含めてしっかり守って貰わないとなりんせん」
アニ  「状況を伝えるの、あたしで良かったの? お姉ちゃんの方が上手に説明できると思うんだけど」
椿   「オティスさんはもう少し手掛かりを求めて町を捜索すると出掛けて行きんしたよ」
牡丹  「つまり、オティスさんはアニさんに重要な役割を任せたという事でありんす」
アニ  「むむむ?」
牡丹  「オティスさんの代理、きちんと努められんすな?」
アニ  「うん! 頑張るよ、あたし」
牡丹  「その調子でござんす」
椿   「姐さんたら、禿(かむろ)と同じような年齢だから上手い事扱えるんでありんすね?」
牡丹  「椿、扱うだなどとそんな言い方してはならん」
椿   「でも、年齢的に可愛くて仕方ないって顔しておりんすよ」
牡丹  「それはまぁ・・・、認めんすよ。アニさんは育てればきっと華やかで愛らしい花魁になれんす」
アニ  「禿ってなぁに?」
牡丹  「んー、わっちらの様にある程度経験を積んだ花魁の元で躾を受ける妹の事でありんす」
アニ  「妹って? 姉妹なの?」
牡丹  「実際の家族よりも共に長く一緒におりんすから、血の繋がりがなくても家族の様に大切でありんすね」
アニ  「あたしにとってのお姉ちゃんみたいなものかな?」
牡丹  「家族以上の愛情があるならそうでありんしょな」
アニ  「じゃあ、牡丹さんと椿さんってずっと一緒に居るの?」
牡丹  「そうでありんすね。ただ、椿は見世で長く躾けられておりんすからわっちよりは見世全体が家族の様なものでありんす」
アニ  「じゃあ、蓮太郎さんにとっても椿さんは妹みたいなものなんだ。そっか・・・、だからあんなに怒ったんだね」
蓮太郎 「ああ、はい、それでいいです」
椿   「え・・・?」
牡丹  「生きる世界の違いかもしれんせんよ。その、オティスさんが生娘という事はそういう関係の事はもう少し年齢が行ってからなのかもしれんせん」
椿   「うー、でも、蓮太郎・・・、妹って、その、なんか」
蓮太郎 「仕方ないだろう?」
牡丹  「下手に興味は持たせん方がいいでありんしょ?」
椿   「確かにそうかもしれんけど、・・・興味持たせてもわっちらに責任は取れんせんけんど・・・っ! いや!」
蓮太郎 「あとで台所裏でちゃんと話そう?」
椿   「うー」
蓮太郎 「ちゃんと判ってるから」
椿   「ホントに?」
牡丹  「大概にしなんせ、二人とも」
椿   「あうぅ・・・、ごめんなさい」
アニ  「ねーねー、何の興味?」
牡丹  「その内判りんすよ」
椿   「んー、判りんすかぁ? 姉さんがあのオティスさんじゃ一生判らないかもしれんせん?」
牡丹  「必要ないならそれでいいんじゃありんせんのか?」
アニ  「なーんーのー興―味―??」
牡丹  「恋心、というものでありんすよ」
アニ  「うにゅ・・・、恋・・・、かぁ・・・。いつかするのかなぁ? へへー、判んないや」
蓮太郎 「それより椿、付いてくるって言うから止めなかったけど体調はもう大丈夫なのか?」
アニ  「うん、それ。あたしは食事で魔力補給が出来たから大丈夫なんだけど。椿さん、まだ顔色悪いよ?」
蓮太郎 「やっぱり今からでも戻って寝た方が良くないか?」
アニ  「そうだよ、朝少し、ご飯を食べられただけなんだよね? 時間を置いて何度かに分けて回復かけれればもうちょっとで万全になると思う!」
椿   「二人してそんな矢継ぎ早に言わなくても。ずっと寝てると気が滅入るのよ。お日様が恋しいの、外に出たい」
蓮太郎 「ならいいけど・・・、やっぱり回復の基本は食事をとる事と十分な睡眠なんですね」
アニ  「うん。回復魔法ってね、治す本人の生きる力を引き出すって感じなの」
蓮太郎 「つまり、生きる体力が残っていない人間は助けられないという事ですね」
アニ  「助けたいけど・・・。もしその方法があるなら身につけたいけど、あたしはまだ、見習いな物みたいだから・・・」
蓮太郎 「済みません、傷付けてしまいましたか? 責めている訳じゃありません」
アニ  「まだ、こっちでの魔力供給がしっかり整ってないから引き出すのも余計な魔力削っちゃって」
椿   「余計な、魔力?」
アニ  「例えば、10の魔力を使って回復魔法を行使するでしょ? そうすると一番いいのは10回復してくれることなんだけど」
椿   「あぁ、言わんとする事が判りんした。つまり10の魔法で7位しか回復しない」
アニ  「そうなの、燃費が悪いって言うか。あーう、早く万全になりたい・・・」
椿   「って事は、オティスさんも似た様な状況なんでありんしょうか・・・?」
アニ  「お姉ちゃんとは使う能力が違うから判らないけど、多分同じだと思うよ? まだ、そんなに魔力どばどば使う戦闘になっていないからわかんないけど」
牡丹  「とにかく食事で補給できる分は蓮太郎に何とかして貰うしかありんせんな」
アニ  「いつも美味しいお食事で魔力の供給は早いよ? お姉ちゃんもそう言ってた」
牡丹  「それよりも狐の妖怪・・・、か・・・。寒気がしんすね。古来より、狐の妖怪は悪さをすると言いんす」
蓮太郎 「尻尾が残ってたってのも奇妙ですので、掃除屋に聞いてみたんですが・・・、その日猫や狸の死体は何匹か片付けた、しかし狐の尻尾らしきものは見掛けなかったといってました」
アニ  「え?! そ、そんな筈ないよ! たしかに狐さんの尻尾落ちてたよ?!」
蓮太郎 「俺も見たので知っていますよ。でも現状は・・・、残っていなかった」
牡丹  「尻尾だけ、というのも奇妙な話でありんすな」
椿   「ごめんなんし、わっちは前後の記憶が定かではなくて・・・、尻尾を切り落としたら死んだ、んでありんすか?」
アニ  「んー、違うよ? あたしは、その、速くてあんまり判らなかったんだけどね。お姉ちゃんが言ってたのは、足を切ってから心臓を狙ったって言ってたから、尻尾自体は切り離してないと思う」
椿   「なのに、尻尾と本体が分離して本体だけが消えた・・・」
牡丹  「残ってた筈の尻尾も時間を置いて消えた、という事でありんしょうか?」
椿   「消えて、祟りごと無くなったって言うんならそれに越した事はありんせんが、そんなに単純なような気はしんせんな」
牡丹  「嫌な事をいいんすな。余り怖がらせんでくんなんし」
アニ  「あのね、狐じゃないんだ」
椿   「え、狐でありんすよ? 確か自分でもそう言っていたような・・・、んー・・・」
アニ  「外見は人間なの、でもねお尻にふわっておっきな狐の尻尾が付いてたの。だから狐だと思ったんだよ」
牡丹  「狐は化けると言いんすからな」
椿   「尻尾を隠せてないから化けきれてもいなければ隠す気もなさそうな・・・」
牡丹  「そんじゃあ、余程見分けも付きんしょうな。あぁ、わっちはこの辺で失礼致しんす」
アニ  「え? 牡丹さんは一緒に番所に行かないの?」
牡丹  「今一度、お参りをしてきたいのでござんす」
アニ  「あ、真澄田神社(ますみだじんじゃ)? あの、空気の綺麗なトコ」
牡丹  「真澄田は椿や蓮太郎の通っている神社でござんすよ。わっちは大懸神社(おおあがたじんじゃ)にお参りしんす」
アニ  「そっか。えっと、気を付けてね」
牡丹  「ありがとうございんす」

 

椿   「牡丹姐さん大丈夫かな? 最近毎日少し早めに起きてお参りに行くの」
アニ  「お参りって毎日行くものじゃないの? 椿さんも毎日行くって」
椿   「わっちは毎日でありんすよ? けど、牡丹姐さんは物臭というか・・・眠たがりなので行かない日も多くあって。行ったとしてもすぐに帰ってきたりするのに、最近はやけに時間が長いというか・・・」
アニ  「そうなんだ・・・。何かあるのかな?」
椿   「んぁー・・・。なんか変な事に巻き込まれてないといいけど。恋人とかかな?」
アニ  「恋人?」
椿   「長い間行って、帰って来た時にはしおれた顔して、寂しそうなんでありんすよ。恋でもしてるのかなーと思って」
アニ  「えっへへー、全然判んない」
椿   「でありんしょうね。着いた、ここが番所でありんす」
アニ  「説明できるかな? ドキドキしてきた、でも頑張らないと!」
威津那 「ほう、ここの建物に用があるのか?」
アニ  「・・・っ?! え?」
蓮太郎 「・・・、貴様・・・っ!!」
椿   「きゃっ!! あの狐!!」
蓮太郎 「椿、俺から離れるなよ」
威津那 「先日の小童(こわっぱ)か。それに・・・、桃の香りの女か・・・。くくく・・・、前回の様に上手く行くと思うでないぞ」
蓮太郎 「アニさんも、俺の後ろに!」
アニ  「え、ででででも!!」
蓮太郎 「回復されるんでしょう? 戦になっても医者は守るという。アニさんがいないと全力では戦えない」
アニ  「け、けど・・・や、やっぱりお姉ちゃん連れてくれば良かったー!」
蓮太郎 「心配ですか? 大丈夫です。必ず守ります」
アニ  「・・・うっ?」
椿   「尻尾が2本・・・? なんか・・・、なんだろう・・・、違和感、が」
威津那 「おなご二人を守って戦えるか? 妾を討って満悦(まんえつ)したか? のう、小童(こわっぱ)よ」
アニ  「なんで・・・? あの時完全に蓮太郎さんはトドメは刺したよ? 動かなくなったのを確認したもん」
威津那 「あの日は油断したからのぅ? 妾も油断すれば討たれる事もあろうて、致し方なし」
蓮太郎 「急所を打たなければ蘇るという事か」
威津那 「果(は)て扨(さ)て、急所なぞあろうかのう? 妾は知らぬよ?」
アニ  「蓮太郎さん、騙されないで! 急所がない魔物なんていないんだよ!」
椿   「そうなの・・・?」
アニ  「普通の生き物も、心臓とか頭とか潰れたら死ぬでしょ?」
椿   「・・・妖怪、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)も?」
アニ  「うん。同じじゃないんだけど、えっと、あの、体を作るには必要な核みたいなものがあって。えっと、それを囲って出来てるっていうか」
威津那 「小娘が知った風な口を利くでないわ!! 『火炎乱れ打ち』!」
アニ  「アニ式・突貫バリアー!!」
椿   「アニさん?!」
アニ  「馬鹿にしないでよ! あたしだって!」
椿   「ありがとう」
アニ  「えへへっ」
蓮太郎 「・・・」
威津那 「小僧、妾の急所を探っておるのか、それとも力量を計っておるか? 目的を探っておるか? 恋人でもそれ程熱心に眼差しを注ぐことはあるまいて? 先日の妾とは少々違ごうておる故心して掛かれよ?」
蓮太郎 「駄狐が良く喋りますね」
威津那 「・・・、小僧。何と言った」
蓮太郎 「己に対する雑言(ぞうごん)を二度も聞きたいとは物好きな」
威津那 「そなたとはいずれ決着を付けねば妾も落ち着かぬ。じゃが、今はその時ではない」
蓮太郎 「尻尾巻いて逃げますか? 2本の尻尾を巻き込む余裕もなさそうですが」
威津那 「言うておれ。妾は今おぬし如きと対峙する気はない。『焔羅彼岸花(えんらひがんばな)』!!」
アニ  「きゃああああああああああ!!!」
椿   「な・・・っ!!!」
蓮太郎 「っ?!」
アニ  「え、なんで、番所を壊したの? なんで・・・?!」
威津那 「あはははははは、愉快じゃ! 非常に愉快! ここに詰める同心とやらが町の警備だのと見回っておって目障りだったのじゃ!!」
蓮太郎 「・・・、冬馬兄さん・・・」
椿   「蓮太郎! 番所が崩れる! 何で入って行こうとしてるの?!」
蓮太郎 「この時間は冬馬兄さんがいる筈なんだ!!」
椿   「冬馬さんが・・・? けど、この瓦礫じゃ!!」
アニ  「避けて!! 蓮太郎さん」
威津那 「往け!! 炎!! 『烈火蛇走(れっかじゃばし)り』!!」
蓮太郎 「喰らうか!!」
威津那 「おっと、前々から思うておったがお主速いのぅ? 厄介な守護の力を感じるぞ。じゃが簡単にやられる妾ではないわ!!」
アニ  「嘘・・・っ! 前より動きが早くなってる! それに尻尾も増えたけど少し成長したみたい?」
蓮太郎 「疾(と)く逃げ去るは脱兎の如し、逃げますか?」
威津那 「・・・どうしても殺されたい様じゃな? ならば望み通り殺してやるわ! 『火炎蛇爪拳(かえんじゃそうけん)』!!」
蓮太郎 「『氷柱(つらら)・卍(まんじ)固(かた)め』。物騒な爪ですね」
威津那 「妾の爪を受け止めたか、褒めてつかわそう。炎までは避けられまい! 『狐火――』ぐぁ!?」
蓮太郎 「馬鹿ですか。避けられなければ発射時点の狙いをずらせばいいんですよ」
威津那 「妾を・・・、ぐ・・・っ! 足蹴にするとは何事じゃあああ!!!」
アニ  「蓮太郎さんって、煽り癖ある?」
椿   「うーん・・・、そだね。割とね、あるよ」
蓮太郎 「精神も肉体も打たれ弱いんですね、不憫な事です」
威津那 「いずれなどと悠長には出来ぬ! 思い遺す事があれば今すぐ片付けて来るがよい」
蓮太郎 「蹴り一つ、肋骨折れましたよね? 手応えは感じましたよ。窮地に陥っているのはどちらでしょう」
威津那 「死ねぇえぇえぇえい!!」
蓮太郎 「お断りしますっ!」
威津那 「ぐぁ!! な、な・・・、何で殴り飛ばしおった? 刀の柄?! どこまで馬鹿にしおるか!!」
蓮太郎 「様子を窺わせて戴きましたが判りませんね」
威津那 「様子じゃと?」
蓮太郎 「あなたの急所です。また、生き返るのではいたちごっこですから。お遊びに付き合っていられる程暇じゃないんです」
威津那 「はっ! 抜かしおるわ! 妾を殺せる積もりでおるのじゃな? 少々なんぞやの加護を受けたとはいえ所詮人の子が! 妖狐の長に敵うと思うてか! 思い上がりも甚だしいわ! 燃え盛って炭になれ! 『地神龍炎(ちじんりゅうえん)』!」
蓮太郎 「火遊びは! 夜尿症(おねしょ)に繋がりますよ。嘲笑される前に死ね」
威津那 「ぐは・・・っ、また・・・、足の腱(けん)を・・・」
蓮太郎 「少々力が上がっても、知恵が足りないのでは意味ありませんよ」
威津那 「ぐぎゃああ!!」
蓮太郎 「・・・、また尻尾だけが残った・・・? ・・・くっ?!」
ヴァンハーフ  「『魔の鎖』・・・目の付け所はいいがコレは渡せないね。それでは、いずれまた」
アニ  「え・・・? 尻尾持って行かれた?! え、あの人・・・、って」

 

ヴァン 「首尾は上々、力の上昇具合の検証はひとまずこれでいいか。結論を先に述べよう、君の力は跳ね上がっている。やはり尻尾の数と力は比例するようだね。今後が楽しみだよ」
威津那 「力が上がったとはいえ、人間如きに負ける様では話にならぬわ。共犯者、もっと効率よく増幅させられぬか」
ヴァン 「僕も検証途中なのでね。もう少し考察の材料が欲しい」
威津那 「忌々しい、あの小童(こわっぱ)。厄介な守護を持っている」
ヴァン 「それは僕も感じたよ。勇者特権とはまた違う何か・・・。ふむ、興味深い」
威津那 「復活までに三日も掛かってしもうたわ。おなごの血が足らぬ。調達しに参る」
ヴァン 「余り大きな揉め事を起こさないでほしいのだが・・・馬耳東風(ばじとうふう)かな」
威津那 「誰が馬じゃ」
ヴァン
 「そこに噛みつくのかい・・・?」

 

椿   「蓮太郎が嘆いておりんしたよ?」
オティス「ん? 私何か泣かせるようなことしたっけかな? 覚えてないな。好き嫌いも言ってないし」
椿   「着物は身幅より丈を重視して作りんす。つまり、背の高さでありんすな」
オティス「あぁ、蓮太郎、小柄で細身だもんね」
椿   「それ、本人に言いんすな? 割と真剣に嫌われんすよ?」
オティス「気を付けまーす」
椿   「蓮太郎の着物では丈が少し短いので他の男衆から何枚か借りてきんした」
オティス「ありがとう、着方はこの間教わった感じ?」
椿   「男物はまた、着付けが違いんす。着せて差し上げんす。それと、胸にはさらしを巻いてくんなんし。あとこれは股引(ももひき)。端折(はしょ)るなら絶対にこれは穿(は)いてくんなんし」
オティス「ありがとう。女性は胸で着て、男性は腰で着るって感じかな」
椿   「そんな感じ。ていうか、この胸や腰元の下着、可愛い」
オティス「こういうの、町で探したんだけどどこにも売ってなくて。私はまだいいんだけどアニちゃんが困ってた」
椿   「むむ・・・。アニさん十二? 発育が良すぎんせんか?」
オティス「ねー、それは私も思ってた。将来牡丹さん並みにグラマラスになるかもね。楽しみだなぁ」
椿   「オティスさんは似合いんすね、男物。髪縛ったら伊達男の出来上がり。男前でありんすな、その格好で河岸(かし)の方に行ったら命落としんすよ?」
オティス「え、そんなに?!」
椿   「端折(はしょ)りは、自分で出来る様に覚えてくんなんし? 後ろの裾の中央を足ですくって、手に持ったら帯の下側から差しこみんす」
オティス「こうして、下から入れ込んで引っ張るのね」
椿   「そうしたら横の着物を手でなめして、形を整えんす」
オティス「おお、凄い! コレ、横の所ポケットになってる! 色々入れられそうだね」
椿   「・・・、気付かんかった。そう言う事、そっか、だから蓮太郎端折(はしょ)ってることが多いんだ」
オティス「よっし、じゃあ甘味処に行こう!」

 

牡丹  「椿、どこかに出掛けんすか? そちらの殿方は・・・、ってオティス様じゃござんせんか。何故男装などなさって」
オティス「ふふーん、ようやく周囲を説き伏せて男物の衣装を借りれたんだ。端折(はしょ)った時に足が出るのがみっともないって言うなら、蓮太郎が履いてるのと同じの頂戴っていって、股引(ももひき)買って貰った。どう? 似合うでしょ」
牡丹  「オティスさん、先日から思っておりんしたがおなごならもっと淑(しと)やかに振る舞ってはいかがでござんしょう?」
アニ  「おしとやか・・・、お姉ちゃんには逆立ちしても無理だね!」
牡丹  「そんなら逆立ちしてでんぐり返りしても構わんでござんす、わっちは」
椿   「お国柄というのもござんしょ? わっちも無理だと思いんす」
牡丹  「けんど、やはり何かあったでは」
アニ  「本当にお姉ちゃんは大丈夫だよ? すごく強いから」
椿   「それに逆立ちしてでんぐり返りをしてからって・・・、ひと通り粗忽さを晒してから淑やかにしろって事でござんすね」
アニ  「おお、そういう事か! お姉ちゃんいっぱい暴れたらちょっと勉強しよう!」
牡丹  「ん・・・? オティスさん、どなんしんした? そんな所に蹲(うずくま)って」
オティス「い、いいもん・・・、私は武器があればいいもん・・・戦えれば、それで。ぐすん」
アニ  「じゃーね、お姉ちゃん。あたしは蓮太郎さんにお料理教えて貰うから、またあとでね」

 

オティス「ここが椿ちゃん御用達のもみじ屋? へぇ、色々なお菓子が並んでる」
椿   「お菓子だけじゃなくて簡単に食事も出来んすよ? だんなさーん! お団子と草餅、おはぎ、醤油のおかきと茶漬け霰(あられ)、あと煎茶を全部2人前くんなんし」
オティス「人の良さそうなご主人だね」
椿   「とてもいい人でありんすよ。時々おまけしてくれることもありんす」
オティス「一見すると平和に見える町になんであんな妖怪が居るんだろう」
椿   「妖怪幽霊、魑魅魍魎、人に害を成すそれらは虎視眈々と隙を窺(うかが)っていると御伽(おとぎ)草紙(そうし)などには書いてありんすよ」
オティス「御伽草紙・・・、勇者冒険譚みたいなものかな?」
椿   「物語でありんすよ。悪を打倒した色々な物語」
オティス「ふーん・・・。しかもヴァンハーフがいるとなるとろくでもない事しか思いつかないな」
椿   「因縁、でござんしょうな」
オティス「因縁?」
椿   「『一切法は因縁生なり』。因縁あれば必ず果となる何かがありんす」
オティス「む、難しい事を言うね」
椿   「その・・・、ぶぁんはーふ? と言う人もあの狐も。オティスさんもアニさんも因があり縁があってここに来たのなら何かを成す必要があるという事でありんす」
オティス「単純思考ではヴァンハーフとあの狐の妖怪を討ち果たす事だよね」
椿   「それでは因縁止まりになってしまいんす。因果、と言う様に何かの原因があるなら成果がある」
オティス「成果・・・、つまり果たさなければならない使命があるって事だよね」
椿   「それ以上にオティスさんはきっとここで学ばねばならない何かがあるという事ではありんせんのか?」
オティス「失礼なのは判ってる。けど椿ちゃん私より年下なのに考えが老成してない?」
椿   「お母さんや牡丹姐さんにも言われんす。だから明るく考えなしな振りもしんすが・・・、疲れる」
オティス「ははーん、つまりこっちが本物の椿ちゃん、という訳だ」
椿   「どっちもわっちでありんすよ。計算高いから、初めて見た人も己の得になるか否か、金になるか否か、考えてしまう」
オティス「そうしないと生きて行けないから、じゃないの? それを、悪いと思ってる?」
ヴァン 「計算高く生きるのは我々知的生命体にとって最優先するべき事だ。またそれを怠る生命体は自然淘汰されるものだよ」
オティス「お前?! なにこっちの町民に馴染んでんだよ!!」
ヴァン 「それも先程の考え方を起点にしたものだよ。怪しまれない為に構築した処世術とでも言おうか」
オティス「ちょっとオシャレな着物選んでんじゃないか」
ヴァン 「無論だとも。余りみすぼらしいとそれも目立ってしまうらしいからね」
オティス「椿ちゃん、私の後ろにいて。こいつには何一つ返事をしたらダメだ、いいね」
椿   「・・・あい」
ヴァン 「邪魔をしないでほしいね。私はこの少女にとても興味がある」
オティス「邪魔者はお前の方だよ! ヴァンハーフ! 椿ちゃんは私とデートしてたんだ!」
椿   「この人が、ヴァンハーフ・・・?」
ヴァン 「見知って貰えたようだね、嬉しいよ。君はこの町の中でも素晴らしく有名だね」
オティス「椿ちゃんが可愛いからって普通の男みたいにデレたなんて言うなよ。気持ち悪いだけだからな」
ヴァン 「僕が男女間の行為に興味がないと思っているのかい? 僕も世界の叡智に組み込まれた生命体の一つなのだがね」
オティス「何が叡智だ。お前みたいなやつは未知の叡智相手に一人で溺れてればいい」
ヴァン 「なるほど、君は戦闘に性的な感情を持つ事が出来るのだね? 実に興味深い」
オティス「は・・・?」
ヴァン 「個人の特性や得意能力は等しく性的欲求を持ちうる可能性について言っていたのではないのか?」
オティス「お前、そんな奴だったか? こっちの食べ物口に合わなかったか?」
ヴァン 「ここでの僕の研究テーマに非常に近しいんだ。さすがは原典の勇者、見抜いてくるとは素晴らしい」
オティス 「何言ってんだ・・・、あっちとはまた違う何かしようってのか? 何しようとしてんだ!! こっちの人達を無駄に傷付ける積もりじゃないだろうな!! 許さないぞ、私は」
ヴァン 「抵抗しないのならば丁寧に扱ってあげるよ。そこの君、一つ私の研究に協力してくれないか」
椿   「(お茶を飲む) お抹茶美味しー」
オティス「まる無視されてやんの、ざまーみろ」
ヴァン 「君が返事をするなと言ったからじゃないかな。素直に従うとは自己の意思がないのかい?」
椿   「わっちは帰りんす。そさまがどちらのお大尽様かは存じ上げませんが、わっちと話をしたいとおっしゃるなら、引手茶屋に差し紙出して、遣り手の判断を待ちなんし。華屋に登楼る権利があればおなごは選びたい放題でありんすよ」
ヴァン 「ふむ? それが君と会話する為の条件なんだね? 教えてくれてありがとう」
オティス「あ、椿ちゃん帰るなら私も帰るよ! じゃあなヴァンハーフ! お前なんか永遠に振られ続ければいい!」
ヴァン 「特に特権を有している訳でもないのに特権者を超える魔力量を計測出来る。生命力や精神力による恩恵と見做すべきか。実に興味深いね」
オティス「お前・・・、何言ってるんだ? 計測って何を計測してた」
ヴァン 「彼女の魔力量――いや、ここではその名称は相応しくないな。生命力とも違う、何と名付けようか」
オティス「魔力量・・・?」
ヴァン 「君もとっくに気付いているだろう。ここは異次元、僕達が必要とする魔力は得難い代物だ」
オティス「私は代替えの力の受け取り方を見付けたから関係ないけど?知りたきゃ自分で探るんだな」
ヴァン 「交友関係を気付くのは得意そうだからね。後れを取ってしまったか」
オティス「ちゃんと話せよ! 誰の魔力量を計測してた! 私じゃないだろう?!」
ヴァン 「自分で答えを出しているじゃあないか」
オティス「・・・、椿ちゃん・・・? の? なんで・・・、お前椿ちゃんに何をしようとしてる」
ヴァン 「適合者がいるなら彼女でなくてもいいんだが・・・、条件に合う人間が他に見付からないんだ」
オティス「適合者? お前、二度と椿ちゃんに近付くな、椿ちゃんを変な実験に使おうって言うなら赦さないからな!」
ヴァン 「言っただろう、希少だと。丁寧に扱うよ。壊れてしまっては勿体ない、あの繊細な装置は人工的に作れるものじゃない」
オティス「お前・・・、ここで死んでおくか?」
ヴァン 「ふむ。魔力回復の手段は代替えがあると言ったが全回復ではないと見える。七星剣は抜かないのかい?」
オティス「勘違いするなよ。町も人も沢山いるから魔法を使わない戦法を考えているだけだ」
ヴァン 「それは優しいね。ではその優しさに甘えて、僕も逃げさせてもらおうか」
オティス「は? いや、待て!!」
ヴァン
 「紡げ糸車、禁忌を嗤え。『神を貶めし旗(アラクネー・シュラウド)』」
オティス「おお・・・、と、べふっ、な、うわ、何? 糸が足に絡み付いてる!! 転ぶってば!! 何この無様! あ、くそ、逃がした!! 何あいつ・・・、ホントに何か変な力加わってない?」

 

牡丹  「今日も、見かけなんだ・・・、あのお方は、一体どこに・・・」
威津那 「そこな女、待つが良い」
牡丹  「そこな女、とは。わっちのことでありんすか?」
威津那 「お主以外に誰がおる」
牡丹  「どこかの見世の新造でありんしょうか・・・、なんとまぁ美少女でありんすな。どうしたんでありんしょ? 道にでも迷いんしたか?」
威津那 「似たようなものじゃ。共の者とはぐれたのでな。昨今建築している建物があろう?」
牡丹  「建築中・・・角名賀(かどなが)跡地に建設中のあの中見世でありんしょうか」
威津那 「おお、それじゃ。よくぞ妾の行く先を探し当てた。褒めて遣わすぞ女」
牡丹  「おんし、どこの見世のおなごじゃ? 華屋でも手鞠屋(てまりや)でも見たことがないでありんすな。三軒中見世(さんげんなかみせ)はまだ建築途中で動いていないはずでありんすが」
威津那 「抜かせ。妾をそこらの女郎と一緒にするでない。不敬であるぞ」
牡丹  「そこらの女郎ではない、というなら大見世の引っ込み・・・? けんど今は華屋に引っ込みはおらんし手毬屋が育てておりんしょか・・・? 引っ込みを? 松葉からは何も聞いておりんせんが」
威津那 「勘違いするでない、妾は喰らう側じゃ。男も女も、大人も子供も変わらぬ。皆等しく・・・妾への贄(にえ)じゃ」
牡丹  「・・・、ふ、ふふっ、なんとまぁ、全てを喰らおうという覚悟をこの年で持ち合わせておりんすか。よもや数年後には、化けるかもしれんせんな。身を入れて学ぶがよろしんす」
威津那 「ほう?・・・お主、名を名乗れ」
牡丹  「華屋にてお職を務めんす、牡丹と申しんす。そさまのお名前もお伺い出来んしょうか?」
威津那 「ぬかったわ、たかが凡人と侮(あなど)っておった。まさか少し言葉を交わしただけで、妾の本質を見抜くとはな」
牡丹  「・・・本質? 難しげな事を言いんすな。椿とはまた少し違う感じの天才?」
威津那 「惚けるな。おぬし、このまま返すわけにはいかぬ。恨むならば己の才を怨むがよい・・・炎よ!」
牡丹  「・・・っ?! え?! 炎!?」
威津那 「狐火よ、舞え――と、何故止める」
キバイラ「どこに行ったかと思うたら、こないなところで油売っとったんか」
威津那 「おぬしこそ何処に居たんじゃ? 探したぞ、迷子の鬼狽羅(きばいら)」
キバイラ「探してたんはうちの方なんやけど!?」
ヴァン 「まったく、どこに行ったかと思っていたら・・・こんなところで何をしているのかな、威津那」
キバイラ「ちゃんと首輪付けとかなあかんよ、君臨勇者。うちは迷子探しに来たわけやあらへんのや」
牡丹  「おんしら・・・、一体・・・、何者? あ・・・、そさまは先日の!」
キバイラ「げっ」
威津那 「邪魔をするでないぞ、共犯者」
ヴァン 「こんなところで、騒ぎを起こして目立っては意味がないだろう。そこに見えるは名高き女郎とお見受けするが・・・何があったのかな」
牡丹  「わ、わっちは何も。ただ、ここまで案内してくれと言われたものでありんすから」
威津那 「妾が妖狐であると見抜きおったのじゃ」
キバイラ「ほう? 大した洞察力やな。それとも馬鹿な狐のことや、うっかり失言でもしたんか?」
威津那 「抜かせ、妾はそこまで愚かではないわ」
ヴァン 「それはなんとも興味深いね。威津那の擬態は抜け目がなかったと思うが、どこで見抜いたのか」
威津那 「こやつは妾に向け、「化けるかもしれない」と言い放ちおった。この妾の性質を的確に見抜く洞察力、只者ではあるまい」
牡丹  「なんのことかわかりんせんが、わっちはただ、そさまが只者ではないという気概を感じたまでで」
威津那 「この通りだ共犯者、只者ではない――人間でないことまでを見抜かれておる。始動の前に、妾の存在がバレてしまうのはまずいのではなかったか?」
ヴァンハーフ  「そうだね、邪魔されるわけにはいかない。悪いが、口封じをさせてもらおう・・・『主を貶めし画策(ゴルド・ディーテ)』」
牡丹  「ふ・・・、ぁっ!?」
キバイラ「は・・・っ?!」
ヴァン 「おや、やはり少し威力が低くなっているな。頭を吹き飛ばす気でいたのだが」
牡丹  「あ、あ・・・、あぁ・・・、あ、あぁあ!!  うぁあぁぁあぁああああ!!」
ヴァン 「顔を半分潰すのが関の山とは、ふむ」
キバイラ「っな!? 何をしとるんや君臨勇者!」
ヴァン 「口封じ、だろう? ならこうしたほうが手っ取り早いと思ったのだが」
キバイラ「あんたらこないな美貌、殺すて勿体ないことを!」
牡丹  「あぁ・・・っ!! あぅ、あ・・・、あ!」
ヴァン 「そうか、君は人間の女性が好きだったね。それは済まないことをした・・・が、威力減衰は今後の課題だな」
キバイラ「知らん! むごいことしはって! 顔半分抉れとるやないか!!」
威津那 「ううむ、共犯者よ。実力が把握できていないのは困るぞ。些か勝手が違うのではないか?」
ヴァン 「当面の課題だね。魔力供給の術の画策、急がねば致命傷になるだろう」
威津那 「して、この女、どうする?」
ヴァン 「不穏分子は消しておきたいが、そろそろここから逃げたほうがよさそうだ」
キバイラ「なんやて? このまま放置するんか?!」
蓮太郎 「牡丹花魁!? 悲鳴を・・・!」
キバイラ「っ!? 人来はったわ、まずいな。騒ぎになれば余計に人が集まる。けど、あんおなご・・・。」
椿   「牡丹姐さん! どうしたんでありんすか?」
蓮太郎 「・・・っ?! 狐・・・? また・・・、生き返ったのか!」
ヴァン 「1人、2人・・・、これ以上目撃されてはまずいだろう? 後の邂逅(かいこう)としよう」
キバイラ「は!? ああもう、どいつもこいつも往来で滅茶苦茶やりおってからに! うちは逃げる! あんさんらは勝手にしぃや!」
蓮太郎 「待て!」
キバイラ「おっと、聞いた事あるで? 飛苦無(ひくない)。瞬時に投げはって、こん世界も戦う者がおるんやね、覚えとくわ」
威津那 「食えん男よ。妾はいいが、捕まるでないぞ」
ヴァン 「そんなヘマは犯さないさ。君は一人で逃げ切れるかい?」
威津那 「子ども扱いをするでないわ!」
蓮太郎 「その身に冷気纏いて凍て付け『樹氷(じゅひょう)・木立舞(こだちまい)』!」
威津那 「ぐは!? また・・・、おぬしかぁあぁあ!! 小童(こわっぱ)がぁあ!! くっそう、足が凍り付いて動かぬ!」
椿   「蓮太郎・・・? 手の紋章、光ってる・・・? 何?」
蓮太郎 「三人全員を逃がす程間抜けではありません」
ヴァン 「・・・、ほぉ? 前回の少年か・・・。とても強い魔力の波動を感じるが、僕の知っているものではない。是非とも解き明かしたいが、今はその時ではなさそうだ」
威津那 「仏の顔も三度まで! 死ねい! 降る火柱、『雷炎(らいえん)・綱走(つなばし)り』!」
蓮太郎 「狐が仏の顔なんて聞いた事ありませんよ。・・・っ! この、馬鹿力!」
威津那 「くふふ、妾は蘇るごとに力を増幅する。さて、妾に勝つ事が出来るか? 人の子よ」
蓮太郎 「舐めるな! ・・・? 柳生(やぎゅう)が熱を帯びてる?」
威津那 「なんじゃ、その刀? 嫌な気を撒き散らしおって、不愉快じゃ! 砕いてやる!」
蓮太郎 「この刀が苦手ですか。ならこれで戦います。苦手な気とやらを存分に味わって下、さい!!」
威津那 「またしても足の腱(けん)狙いか! そう何度も同じ手を食らうと思うかうつけが!!」
蓮太郎 「思いませんよ。陽動に、簡単に引っかかるんですね」
威津那 「く・・・っ! この、腰を突くとは!」
蓮太郎 「人でない物を殺すのに躊躇いもありません。何度でも殺しますよ!」
威津那 「ぐぁああ!!」
ヴァン 「・・・少年に問おう。人間でないならと言うが、人を殺した事はないのかい?」
蓮太郎 「答える必要を感じません」
ヴァン 「絡め取りだ、『天に至る気紛れの道(ダストリバー・カンターダ)』。これは、返して貰うよ」
蓮太郎 「尻尾を・・・? 渡さない!!」
ヴァン 「ならば、そこの仲間の女を見殺しにしてしまうかもしれない危険を悟った方が賢明だよ」
蓮太郎 「仲間の・・・?」
椿   「蓮太郎・・・っ!!」
牡丹  「あっ・・・、んぐ・・・、あぁ・・・、顔・・・、が、熱・・・」
蓮太郎 「牡丹・・・、花魁・・・? 椿? それは」
椿   「顔が!! 牡丹姐さんの顔が抉れて・・・っ! どうしよう?!」
蓮太郎 「・・・ぁ」
ヴァン 「早く処置をしないと死んでしまうんじゃないかな。この国の医療が、どれほどのものかは知らないけどね」
牡丹  「あ・・・、あ・・・、あぅっ、あ」
蓮太郎 「椿、置いた手拭はそのままにして、連れて帰る」
椿   「ふ、ぁ・・・」
ヴァン 「君たちが今その目で見た事を口外しないなら、その少女を同じ目に合わせるのはやめておくよ」
椿   「同じ・・・、目・・・? ひ・・・っ!」
ヴァン 「取引だ、どうかな?」
椿   「あ・・・、や・・・っ!」
蓮太郎 「・・・っ! く・・・っ、・・・早く立ち去れ!」
ヴァン
 「これは僕の仲間だ、持ち帰らせて戴くよ。しかし・・・魔法使いでも勇者でも鬼でもなく、何の加護を得ているのか。少し、君にも興味が湧いたよ。また会おう、少年」
蓮太郎 「くそ!!」
椿   「牡丹姐さん! 牡丹姐さん! しっかりして! 牡丹姐さん!!」

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