
ルイは鷹を呼ぶ
一次創作サークル
堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 13話 ~残滓(ざんし)~
男性2 女性5 上演時間:120分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ
〇台本上演の利用規約について
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椿 (♀)(19歳)
大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。
蓮太郎 (♂) (19歳)
華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。
オティス (♀) (23歳)
300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。
アニ (♀) (12歳)
オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。
鬼狽羅 (♀)(22歳)
かつて鬼灯島に棲んでいた鬼一族の首魁。原典の勇者オティスとは300年前からの因縁がある。毒を使う事に長けており、医学にも精通する。ヴァンハーフに協力して九尾狐の威津那を殺生石の封印から解放するのに協力し、威津那の力により若山遊郭へ時空間移動させられた。言葉遣いは京弁。倭の国に鬼灯島の面影を重ねて珠酊院の事などを思い出し郷愁の思いがある。
威津那 (♀)(20歳)
ヴァンハーフの実験により殺生石より封印を解かれて覚醒した九尾狐。ヴァンハーフと協力し何かを企てているが現在その謀略の内容については判らない。性格は不遜で大変な我儘で自己中心的な上に堪え性がない。自身の目的の為ならば人間がどれだけ死のうが関係なく、女性は等しく皆己の餌だと言い張る。口調は古風な話し方で、命令口調が多い。炎系の魔法を使って攻撃する事が多い。
王叉貴(おさき) (♂)(16歳:外見年齢)
ヴァンハーフの実験により椿の胎に巣食い、毒で殺されそうになったところを転移の術で威津那の元へ来た妖狐の少年。生まれ出たばかりだがヴァンハーフの知識や知能などを受け継いでおり、非常に博識。また魔法もかなり高い技術を持っており妖怪を従わせる力をもち気位が高い。妖怪の断りに縛られない嘘や欺く事を覚えている為非常に厄介な性格。元々妖狐の眷属増加の為に生み出された雄の筈だが、本人の目的は不明。
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【配役表】
椿 (♀):
蓮太郎 (♂):
オティス(♀):
アニ (♀):
キバイラ(♀):
威津那 (♀):
王叉貴 (不問):
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威津那 「鳥羽上皇、主上(おかみ)に愛された記憶はもう遠い彼方に消え去った。愛されたなら裏切られても貶められても一途に思い続ける強さがあれば妾は、物の怪ではなく守神として生きる事も可能じゃったのだろうか? じゃが、どうしても拭い去れなかったこの想い、憎悪、怨念。今は亡き主上に向けた怒りの遣り処が判らずに、主上を神として崇め奉る人間共を嫌悪した。この世から駆逐してしまいたい程に。男と女が偽りの恋を綴るなど笑止千万極まりない。まずはこの町、この若山遊郭から蹂躙して人を煉獄の焔にて焼き阿鼻叫喚の地獄へ堕としてやりたいと思ったのじゃ」
威津那 「蜘蛛なんぞを遺して何になるのかと思えば、デカくなった挙句に脱皮するとは驚いた」
王叉貴 「あなたの事は、何と呼べばいい? 母上? それとも姉さん?」
威津那 「どうなるのじゃろうな? 共犯者が生きておればあるいは呼び方が決まっておったかもしれぬが判らぬ。威津那と呼べ」
王叉貴 「どうやら僕は生きて行くのに必要な知識はあるみたいだ」
威津那 「尻尾は一本か。やはり順次成長させねばならぬか。じゃが、男とは思わぬ功績じゃ」
王叉貴 「思わぬ? 違うね、僕は外気に触れた瞬間に転移の術で威津那の所に来る様に設計されていたみたいだ」
威津那 「強靭な肉体に、強靭な生命力、優れた知能に知識。なるほどのぅ・・・、くふふ死に際まで計算を忘れぬ素晴らしい共犯者であった」
王叉貴 「共犯者ってそれ・・・、威津那がさっきから食べてるのその共犯者の肉体でしょう?」
威津那 「いかにも。こやつは完全体ではこの町を支配する事が出来ない旨を予測していたらしい」
王叉貴 「普通そうでしょう?」
威津那 「何ゆえじゃ。王叉貴、そなた随分と知識が濃いの?」
王叉貴 「言ったでしょう? 必要な知識は全て揃っているって」
威津那 「して、完全体の妾がこの町を統べるに何が不足していたと申すか」
王叉貴 「威津那は玉藻の前と呼ばれていた時完全体じゃなかったの?」
威津那 「いや? 妾はその時九本の尻尾に溢れる妖気で戦えたぞ」
王叉貴 「それで負けたんでしょう? 人間に。それなら完全体で不足なのは考えなくても判る事だよね?」
威津那 「・・・、妾が脆弱だと申すか」
王叉貴 「良くも悪くも威津那は物の怪として純粋なんだ。人を欺く事を知らない」
威津那 「嘘や欺きなどは人の生み出した悪習。われら妖の者は欺き嘘を吐く手法を知らぬ」
王叉貴 「僕は「共犯者」から他者を騙し欺く事が可能な因子を組み込まれている」
威津那 「ぬ・・・、そなたよもやあの男の血を受け継いではおらぬであろうな。穢らわしい絡新婦や脆弱な人間の血が入っているとすれば純血ではない。その様な男に用はないぞ」
王叉貴 「それは安心してもいいよ。確かに蜘蛛の外殻を持っていたのはあるけれど成長過程で外敵から身を守る為と、養分補給の為に作った殻の様な物で、僕自身に絡新婦(じょろうぐも)の遺伝子は含まれていない。あくまで受精卵を作る為の過程で必要だっただけだから」
威津那 「それで、そなた脱ぎ捨てた外殻を煎餅(せんべい)の様に食っておるが、それは大丈夫なのか?」
王叉貴 「威津那は人の血を飲んでるけど、それで人との混血種になるの?」
威津那 「そんな筈はなかろう、人間は等しく妾の糧。血が混ざることはない」
王叉貴 「そう、だからこれも僕の餌」
威津那 「・・・、美味いのか?」
王叉貴 「うん、美味しいよ? だってこれは桃夭姫(とうようき)の胎の中で栄養をたっぷり受け継いで出来た外殻だから純度の高い妖力が含まれている」
威津那 「桃夭姫(とうようき)の・・・、栄養・・・? じゃと・・・?」
王叉貴 「あー、興味示してもだめだよ、威津那にはあげない」
威津那 「けち臭い事を抜かすでない。欠片でも良い、よこせ」
王叉貴 「あーげない。ところで、これからどうするのさ。大体威津那は共犯者の肉体食べてるじゃん。自分の分がある癖に目移りするのは行儀が悪い」
威津那 「そうじゃな・・・。では、この肉をそなたにやろう。交換じゃ」
王叉貴 「要らないでーす。 威津那の今後の方針を聞かせてよね」
アニ 「じゃじゃーん」
椿 「ふふ、ご飯?」
アニ 「え? なんで判ったの?」
椿 「だってアニさん、新しいお料理作ったり食膳を運んでくる時いつも『じゃじゃーん』って入ってくるもの」
オティス「確かにそうだな。気付かなかったや」
蓮太郎 「椿の膳は俺が作るって言うのにどうしても聞き入れてくれなくて」
アニ 「でも、キバイラさんが食べる料理だけは絶対に教えてくれないんだよ?」
キバイラ「あぁ、うち結構好き嫌いが激しゅうて下手な料理人の食事は食えへんのよ」
アニ 「下手な料理人?!」
キバイラ「せや、アニちゃんは精々原典と旅する様になってから覚えたくらいやろ? 蓮太郎君は十一年以上の経験がある。
考えんでも判るやろ」
アニ 「キバイラさんちょっと見直してたのに今ので一気に崩れたからね!!」
キバイラ「どの道、元ん世界帰ったら今の信頼関係はあらへんよ。あー、美味し♡」
オティス「あー、元の世界に帰って油断してたら真っ先に背中から奇襲かけるね。精々最後の晩餐と思ってしっかり食っとけよ」
蓮太郎 「椿、無理して食べなくても大丈夫だからな」
椿 「大丈夫だよ、アニさんがとても上手にお料理してくれてるから食べやすいの。半粥のご飯、これお米から炊いてくれたんでしょう?」
アニ 「うん、通常は炊いたご飯から作るんだけどその方が美味しいって聞いたから時間掛けてコトコトしました」
椿 「甘みがあってとても美味しい。それにお魚はすり潰してつみれ汁にしてくれてるから食べやすい。お野菜もとても柔らかく煮込んでくれてるもの」
アニ 「お出汁の基本を蓮太郎さんから聞いたから、お姉ちゃんにもこれからしっかりお野菜のお料理を作ってあげられる」
蓮太郎 「そうか、ならいい」
椿 「体調が万全ならオティスさんのお膳くらいのは食べたいけど。とても美味しそうだもの、『さばの味噌煮』」
オティス「ああこれね、『さばの味噌煮』! 私こっちに来て初めて食べたけどすごく美味しい。何とか向こうでも食べられないかな?」
アニ 「どうかなー? お味噌があれば作れるけどそもそもそもお味噌なんて売ってるかな?」
キバイラ「食文化の違いだけは埋められへんやろな。純米酒も醤油も味噌も手には入らん思うよ」
アニ 「だよね・・・。あ、牡丹さんの食事は間に合わなくて作れなかったよ、残念」
オティス「仕方ないよ、これだけ沢山の種類を作って全員違う料理なんて普通は作れないんだから」
蓮太郎 「牡丹花魁は最初に膳を出さないといけないのでちょっと間に合いませんよ」
キバイラ「格差社会の縮小図やね。しかし昼間はよう寝るよね、牡丹・・・寂しいわ」
椿 「キバイラさんが食べてるその赤身のは? まぐろ?」
キバイラ「馬刺しよ」
アニ 「馬刺し? お馬さん刺したの? へ?」
椿 「いいなぁ・・・、なんか美味しそう」
キバイラ「食べてみる? 椿ちゃん」
椿 「いいの?!」
キバイラ「ええよ? はい、あーん」
椿 「あーん」
蓮太郎 「だーめーだ!! 生の肉なんて消化に悪い。椿今自分の体がどんな状態か判っているのか?」
キバイラ「チッ」
蓮太郎 「キバイラさん・・・?」
キバイラ「あはっ、冗談よ冗談・・・、そない怖い顔せんといてや」
アニ 「お肉生で食べるの?! うわ、やっぱり無理だった!!」
オティス「しかし、元の世界に戻ったらってさっきから言ってるけど帰る方法は一向に見付からないままだな」
アニ 「そうだね。お姉ちゃんが持ってるその童子切っていう刀がなんか向こうの社に掛けてあった刀と似てるから、それがきっかけだと思ったんだけど・・・」
オティス「確か、玉藻御前(たまもごぜん)を討伐した刀なんだよね? だから私は狐を倒したら帰れると思ってたんだけど」
キバイラ「そう上手くできてへんみたいやな。なんやろ、もしくはまだ足りへん「何か」があるんか?」
椿 「『一切法は因縁生なり』。以前オティスさんにお伝えした言葉でありんすが、何か成し得ていない事があるのかも」
オティス「あいつを倒すだけじゃ、だめって?」
アニ 「お姉ちゃんとどめを刺す時に使ったのは七星剣だったよね? それじゃダメだったって事かな?」
オティス「条件厳しくない?血を吸わせなきゃだめとかあるかな?」
蓮太郎 「・・・、済みません。あの、本当に倒せたんでしょうか?」
キバイラ「事切れたんは見届けたよ?」
オティス「いや・・・でもそうだな、ほんとに9回で終わりなのか?」
アニ 「ああーーーーーーーーー!?」
椿 「ひゃああ、・・・き、急に近くで叫ばないで・・・。心臓が口からとび飛び出るかと思った」
アニ 「ごめんなさーい!ってそうじゃなくて!」
蓮太郎 「何か心当たりが?」
アニ 「尻尾!残ってたかどうか見てない!」
オティス「あ」
キバイラ「蓮太郎君は注意深いしな、見とったよな? な??」
蓮太郎 「椿のことで頭一杯で、それどころじゃありませんでした」
キバイラ「頭ん中桜色か! 花咲か爺さんか! 脳ミソとろけて蕩けてしもてるやないの!! こんうつけが!!」
アニ 「蓮太郎さんはおじいさんじゃない!!!!」
キバイラ「沸点どないなっとんねや!」
オティス「い、一旦確認に行こう!もしかしたらもう掃除されてるかもしれないけど!」
蓮太郎 「掃除されて撤去されたなら、掃除屋に聞けば判ります」
アニ 「よし行こう!ごはん終わってから!」
キバイラ「今すぐに決まっとるやろ、阿呆が! うっかりなんて問題やあれへん。うちらとした事がとんでもない失態しでかしたわ!」
オティス「何もないなんて・・・そんなことあるか?」
アニ 「尻尾、ないね」
蓮太郎 「それどころか、戦いがあった痕跡すら一切が消えています」
キバイラ「んな阿呆な。一朝一夕でどうにかできる損傷やあらへんかったぞ?」
王叉貴 「お気に召していただけましたか?」
オティス「っ!?」
王叉貴 「なんちゃって。くす・・・、サプライズ的には上々だったりします? 初めまして、皆々様。僕は王叉貴、と申します」
アニ 「王叉貴・・・? 尻尾がある。狐さん、なの?」
キバイラ「少年、やね・・・、性転換しはったん?」
オティス「尻尾が1本という事はレベル1からやり直しって事か?」
王叉貴 「徒労は嫌いでしょうから先に回答を示しましょうか。君臨勇者はもう九尾の腹の中です」
蓮太郎 「九尾の、腹の中? なるほど、狐は生きていると・・・、そう仰るんですね。倒せたのは仮面の男だけ」
キバイラ「たったそれだけの言葉にそれだけの情報量詰め込むんはそこそこ機転の巡り良さそうやね? 駄狐とは違いそうや」
王叉貴 「ところで、戦闘員勢揃いのようですが、一斉にこちらに来てもよかったんですか?」
蓮太郎 「?! 椿・・・!!」
オティス「蓮太郎!!」
キバイラ「見世の中は頼んだで!! 蓮太郎君!!」
オティス「まだ、倒せてない・・・、どうしてだ? あんなに全員満身創痍で戦って倒せないなんて」
王叉貴 「お甘いことで。ただ体を引き裂き続けるだけが手段じゃありませんよ? 水は切れません、砕くには凍らせる。それくらい捻らないと。腐っても怪異ですよ。人の常識から逸脱しなければ未来永劫のいたちごっこですよ」
オティス「ご高説たれまくりだな。で?お前は誰だ」
王叉貴 「僕に勝ったら教えてあげてもいいですよ。一つ言いますが、威津那と同列で考えないでくださいね」
アニ 「けど、まだ尻尾1本で――っ!? 2人とも構えて!」
王叉貴 「さて、慣らし運転しないと。『輪廻せし刻の観測者(ナイト・スターラインズ)』」
キバイラ「は!? 君臨勇者の技やと!?」
王叉貴 「僕自身限界を知りたいので、遠慮はしません。生きていたら語ることもあるかと思います。十二刻、斉射」
オティス「くそ!『七国滅せし淘汰の吹雪(セブンツアーズ・ポアリフハント)』」
キバイラ「慣らしでこれかいな!駄狐の完全体と同等――いや、むしろ上回っとらんか!?」
アニ 「舐めないでよ!その技ならしってる!アニ式・超弩級バリア!!」
王叉貴 「その防御、いいなぁ。これならどうですか?『主を貶めし画策(ゴルド・ディーテ)』」
アニ 「っぎゃ! うう、さすがに点には弱いんだね!」
キバイラ「どこ見てんねや!『蛇覇羅(じゃばら)・天下落磊(てんげらくらい)』!」
王叉貴 「そちらこそ。『天に至る気紛れの道(ダストリバー・カンターダ)』。その攻撃は貴方にあげます」
オティス「この――うわ掠った!どこ狙ってんだ馬鹿!」
キバイラ「逸(そ)らされた・・・、死角から撃ったんやぞ?どんな感覚してんのや!」
王叉貴 「いいですね、いいですね! 完全体の九尾を仕留めただけはありますね!」
アニ 「まるであやすみたいなやり方! だったら、これならどう!?」
オティス「子供じゃないぞ!! これならどうだ!!『七天穿つ極座の蠍(セブンフィール・アンタレス)』!!」
王叉貴 「正面からなんて芸のない。『主を貶めし画策(ゴルド・ディーテ)』――おや、どこに行きました?」
アニ 「アニ式・挑発ミラージュ!」
オティス「どーこ狙ってんのかなぁ!?『七海轟く武勲詩の剣(セブンブルース・デュランダーナ)』!!」
王叉貴 「だめですよ、そういう小細工は。『終末期を告げる笛(ギャラル・ベル・ゼール)』」
アニ 「あんぎゃーーーー!? ヴァンハーフの蜘蛛ーーーーー!!」
オティス「な、蜘蛛を盾に!?」
王叉貴 「せっかくなので僕が制御下に置きました。手も足も出ていないようですが、それで威津那に勝とうなど片腹痛いですよ。出す手足が足りないなら、僕の蜘蛛になって増やしますか?」
キバイラ「は、お断りやそないなもん」
王叉貴 「蜘蛛ジョークなのに」
オティス「童子切が発動しなかった「やり残し」は、もしかしたらこいつなのかもな」
アニ 「・・・守ろう。全部守って勝って、笑顔で帰ろう!」
王叉貴 「人は強いですね――もう少し見たいな。あなたたちの全力を、見せて戴きたい」
キバイラ「人の未知に対する興味。君臨勇者みたいやね、気持ちの悪い」
王叉貴 「残念ですが、彼とは縁も所縁もない。僕の興味の矛先は残念ながら叡智などという概念の話ではありませんよ」
オティス「はっ! 縁も所縁もないと言いながらヴァンハーフと同じ技を使う。矛盾してんだよ! 『氷の霊帝(アイ・スカージ)』!!」
王叉貴 「僕が産まれた頃には彼は死んでいた。知識として彼が存在した事は知っています。ですがそれだけ、逢った事もないのに何の関係性があるんでしょうか?」
キバイラ「産まれた頃には、死んでいた・・・? まさか・・・」
王叉貴 「桃夭姫(とうようき)の胎の中はとても居心地が良かったのに、あなた方が余計な事をしてくれたお陰で出なければならなくなった」
オティス「逃した蜘蛛か・・・。まさか狐に変貌するなんて思わなかったぞ」
王叉貴 「本当は出て来た筈の兄弟姉妹も無事に育っていれば一緒に楽しく過ごせた筈なんですが」
オティス「恨んでるのか・・・? けどお前達は人に害しか及ぼさない。倒すしかないし何より放って置いたら椿ちゃんが死んでた」
王叉貴 「恨んではいませんよ。これも宿命でしょう。甘んじて受け入れるしかない」
キバイラ「悠長に話しててええの? 『一条(いちじょう)・綱断(つなだ)ちの刃(やいば)』!!」
王叉貴 「おっと・・・、長居し過ぎましたね。これ以上居ると必要のない事まで話してしまいそうだ。そろそろ失礼致します」
オティス「逃がさない、よ!! 『誘惑破りの逆走(アイオロス・ボクス)』!!」
王叉貴 「それでは皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。『伏見(ふしみ)・雲隠(くもがく)れ』」
オティス「消えた・・・、だと・・・? そんな・・・、あの技は・・・」
キバイラ「駄狐と君臨勇者の能力両方を使いこなしてはる・・・。腹括らな倒せへんで」
威津那 「使った事もない癖に妾に刀を向ける。しかも童子切安綱を。その意味が判っておるのか桃娘」
椿 「このからくりがそんなに簡単だなんて思ってないもの・・・。単身で乗り込んで来るなんて有り得ない。だったら使った事がなくても武器を手に取るしかないじゃない」
威津那 「愚か者が。妾を倒せる積もりでおるのか? それとも自害でも謀(はか)るか? ならばその遺体から残らず血を啜るまで」
椿(M)「どうすればいい・・・? どうすれば凌げる? 多分みんな仮面の男と戦ってる。助けは呼べない」
威津那 「思考を巡らせても無駄ぞ? 脆弱なただの人間、しかも箱入りで入念に育てられた非力なおなごなど敵ではない」
椿(M)「この狐は嘘が吐けない、そして今まで見限りでは堪え性がない。それなら」
威津那 「さて、桃夭姫(とうようき)の血頂こうかの?」
椿 「どうぞ?」
威津那 「なん・・・っ! 手首を切って何を・・・っ?! 甘い・・・、血の香り」
椿 「畳に這いつくばって舐めなさいよ。依存性の高いこの血。あなたは数度飲んでる筈ね? この香りに逆らえる?」
威津那 「床に垂らすなど勿体ない事をしおって!!」
椿 「確か傷は幅広の布で圧迫止血! 逃げないと!!」
蓮太郎 「『後刃(こうじん)・氷結槍(ひょうけっそう)』!!」
威津那 「がふっ・・・?! この・・・、出おったな小童(こわっぱ)!!」
椿 「蓮太郎!!」
蓮太郎 「孤高を気取っていた九尾狐が床に這いつくばって血を舐める。誇りや矜持など微塵も感じませんね」
椿 「蓮太郎! 他のみんなは?!」
蓮太郎 「新しい敵と戦ってる! 椿、無事でよかった。左手を出せ、布をしっかり巻くから」
椿 「ありがと。・・・、新しい敵?」
蓮太郎 「少年の、狐だ」
椿 「少年の、狐? ・・・ごめんね、みんなが大変な時に・・・。それに逃げる為とは言え、血を、あげちゃった」
蓮太郎 「大丈夫だ。搦め手がないなら俺一人で勝てる」
威津那 「小童(こわっぱ)一人で勝てる・・・、じゃと? 舐められた物じゃな。妾はたった今桃夭姫(とうようき)の血を体内に取り込んだばかりじゃ。誰とも戦っておらぬ故な。妖力はたっぷりあるぞ」
蓮太郎 「それが何か? りん・・・、ん」(接吻け)
椿 「んん?!」
威津那 「お主が一人で妾に勝てるなどという思い上がりを・・・」
椿 「ぁ・・・、む、ん、ちゅ・・・、え? え?」
威津那 「何をイチャついておるのじゃ愚か者めがーーー!!」
蓮太郎 「魔力供給なら俺の方が問題なく行えますが、何か?」
椿 「ふぁ・・・?? や、あのあの・・・、えと・・・、ふにゅう・・・」
威津那 「おのれ・・・、馬鹿にしおって! 切り裂け!! 『邪炎爪(じゃえんそう)』!!」
蓮太郎 「遠慮でも覚えたんですか? 謙虚な攻撃をしますね。『氷柱(つらら)・卍固(まんじがた)め』」
威津那 「華屋のおなごはみな良い血を持っておるからの! 餌場にするに流れ攻撃で死んで貰っては困るのじゃ」
椿 「蓮太郎・・・、油断しないで」
蓮太郎 「大丈夫だ。『氷壁(ひょうへき)・縦横展開(じゅうおうてんかい)改! 籠目編(かごめあ)み』」
椿 「寒っ!! 一気に部屋が凍り付いたよ?」
蓮太郎 「少し我慢してくれ。建物や他の人に被害が出ない様に防御壁を張ったんだ。駄狐を倒したら解除する」
椿 「うん・・・。・・・? 新しい敵って・・・、あの仮面の男はどうなったの?」
蓮太郎 「この九尾が食べたらしい。おそらく何らかの滋養を体内で生成していたんだと思う」
威津那 「良く頭が回るの? 小童(こわっぱ)。いかにもそうじゃ、くふふ・・・、そうして妾は九度の限界突破をした。それが今じゃ」
蓮太郎 「そうですか。あてずっぽうで言ったら肯定か否定いずれも嘘偽りはないと思っていましたが、思わぬ情報までありがとうございます」
椿 「ホントに、害さえなければ飼いたいくらいには素直な狐ね」
威津那 「悉く妾を馬鹿にしおって・・・、人に飼われるなど屈辱この上ないわ! その様な事を口走ってただで済むと思うな、桃娘」
蓮太郎 「さすがに妖怪を飼うのは趣味が悪い。お勧めはしない」
威津那 「痴れ者が!! 『九尾警鐘(きゅうびけいしょう)・渦潮水竜刃黎明ノ斬撃(うずしおすいりゅうじんれいめいのざんげき)』!!」
椿 「蓮太郎!!」
蓮太郎 「氷壁防御壁に対する配慮感謝しますよ。水属性なら負けません。『柳葉菜居合(あかばないあい)・一閃水流波(いっせんすいりゅうは)真(しん)』!」
威津那 「相殺か! ならばこれでどうじゃ!! 『九尾警鐘(きゅうびけいしょう)・狂瀾土豪陽月ノ射撃(きょうらんどごうようげつのしゃげき)』!! 乱れ討ち!!」
椿 「きゃあぁああぁあぁああ!!」
蓮太郎 「りん!! 『氷塊乱舞(ひょうかいらんぶ)』!! くそ!! 掠った・・・」
威津那 「毎度毎度、守らねばならぬおなごがいるというのは大変な事じゃのう小童(こわっぱ)」
アニ 「サーーーーーーーチ!! こっちだよお姉ちゃん、妖気が濃い!!」
威津那 「ぬ・・・、帰ってきおったか。王叉貴は様子見じゃと申しておったな。妾も撤退するかの」
蓮太郎 「させない!! 『波紋氷結(はもんひょうけつ)・手裏剣(しゅりけん)改(かい)』!!『螺旋誘導(らせんゆうどう)』!!」
椿 「深追いしないで!! 蓮太郎!!」
威津那 「小癪な!! 『誘導焔弾(ゆうどうえんだん)!!』 薙ぎ払え!!」
オティス「結界か! 中で戦ってるな!!」
キバイラ「結界破ったら華屋に影響出るな!! くそ! 大丈夫なんか?」
威津那 「さらばじゃ!! 次は生かしておかぬぞ!! 『伏見(ふしみ)・雲隠(くもがく)れ』」
蓮太郎 「消えた、くそ! 繰り返し繰り返し・・・、一体何度倒せばいい!!」
アニ 「あ、防御壁が消えた」
オティス「蓮太郎大丈夫か!!」
キバイラ「肩、怪我してはるね。椿ちゃんも手首、それ自分で切ったんか」
椿 「今から治します。蓮太郎・・・、台所裏に行こう?」
蓮太郎 「うん」
アニ 「あ・・・、行っちゃった。・・・あたしを頼ってくれてもいいのに・・・」
王叉貴 「一応検証して見る為に戦ってみたけど、ふーん、人間か・・・」
威津那 「様子見はどうじゃった?」
王叉貴 「桃夭姫(とうようき)が見られないのは残念だったけど大体判ったよ。脆弱(ぜいじゃく)でただの寄せ集めのパーティとは言ってたけど中々やるなと思った。あれだけの膂力がある人達ならあるいは」
威津那 「・・・あるいは・・・、なんじゃ?」
王叉貴 「ううん、威津那には関係ない事だから気にしないで? それより口の周りについてる血は桃夭姫(とうようき)の?」
威津那 「いかにもそうじゃ。大した戦闘はしておらぬのでな妖気は戴いた」
王叉貴 「口を汚さずに血を飲む事は出来ないの?」
威津那 「そうじゃ! 王叉貴!! あの桃夭姫(とうようき)腹の立つ事に己の血を床に垂れ流しおったのじゃ」
王叉貴 「床に? どうして・・・? 垂れ流すって」
威津那 「妾が桃夭姫(とうようき)の血の香りに逆らえぬのを知っておったのじゃろう! 逃げる時間稼ぎの為じゃ」
王叉貴 「それで・・・、威津那は床の血を、舐めたの?」
威津那 「貴重なのじゃ、止むを得まい」
王叉貴 「・・・ふーん」
威津那 「何を考えておる」
王叉貴 「これからどうするべきか、かな」
威津那 「考えるまでもなかろう? 知識も知能も受け継いでおるのじゃ。かの人間共を駆逐しここを我らの餌場として保持しつつこの町を統べる。当初から目的は変わっておらぬわ」
王叉貴 「知識は受け継いでるよ。技も問題なく使えるし多分、促進剤のせいでほんの少しの妖力を最大限利用できる体の作りになっている。だからそうそう他種族に引けは取らないと思う」
威津那 「心強い言葉じゃの。命を懸けて行った実験に遺した成果は大きい、まさにやり遂げたとはこの事ぞ」
王叉貴 「でもさ、傷付けたらごめんね。困った事に僕、威津那が余り好みじゃないんだ」
威津那 「限りなく失礼な話じゃの? 好みじゃないからなんじゃ」
王叉貴 「交合うの? 僕、威津那と」
威津那 「ぬぁ?!?!」
王叉貴 「眷属を増やしたいんだよね? 増やす為の算段で男の僕がいるんだから当然そうなるでしょう?」
威津那 「いや、しかし妾は子を産んで居る暇はなくての? それに、その妾にも心構えというものが必要でな?」
王叉貴 「自分が嫌な癖に人任せにし過ぎなんじゃないかな? じゃあ女の子連れて来てよ純血の」
威津那 「その・・・、九尾で残っているのは妾しかおらぬのじゃ・・・」
王叉貴 「それ、やり遂げたって言わなくないかな? 莫大な眷属の増加については未解決だ」
威津那 「そうじゃ・・・、あの抜け作が。志半ばにして力尽き果ておったな」
王叉貴 「っていうか、威津那がその気にならなきゃ僕がいる意味がないよね?」
威津那 「何ゆえ番で遺して逝かなかったのか。全く今更ながら腹の立つ男じゃ」
王叉貴 「うわー、責任転嫁にも程がある」
威津那 「しかし、どうしたものか・・・」
王叉貴 「んー・・・」
威津那 「妾が目を瞑って耐える故早急に終わらせよ。女児が産まれたらその娘と子孫繁栄を志すが良い」
王叉貴 「だから好みじゃないんだってば」
威津那 「あやつは相当な女狂いじゃったぞ? その遺伝子は受け継がれておらぬのか」
王叉貴 「へぇ、そうなんだ。そんな闇雲に盛る性質受け継がなくて良かった」
威津那 「しかし、その様な話が出来るという事は生殖機能はあるという事じゃな?」
王叉貴 「あっても相手がいない。威津那は除外、どうするの?」
威津那 「妾に聞くな! そなたの好みで九尾を絶やすのは許さぬぞ」
王叉貴 「勝手だ事・・・」
蓮太郎 「よく考えれば、俺のこの手の甲にある紋章が鞍馬さんから貰った九尾の抑止力だったとして。消えていないのだから完全に倒せていない事は早急に気付くべきだったんです。済みません」
キバイラ「蓮太郎君の責任やあらへんよ? 戦闘において何をもって終結とするか。それは敵を討つ事に他ならんのや、その確認を怠ったんはうちらも同じや」
オティス「思い込みの失態だな。九尾が完全体だと言い張るからあそこで倒して、終わりだという刷り込み。ヴァンハーフはこれで最後だと言った、奴の口車に乗せられてまんまとそれを信じてしまったんだ」
アニ 「でもね、じゃあ何が完結に繋がるんだろう。最初にあたしは魔物として考えていたから必ず急所がある筈って探ってたんだ。でもいつしか九回倒せばいいって考えになってた」
キバイラ「魔物と妖怪の違い、か」
オティス「切っても死なない、復活する」
アニ 「急所のない敵と戦う方法」
蓮太郎 「生き返る・・・? 切っても死なない・・・、そもそも毎度尻尾が残る時点で死んでいたんでしょうか?」
キバイラ「せやね。今回こそ確認してなかったけど尻尾が急所やとしたら毎度君臨勇者が持ち帰っていた。それを奪って燃やすなりなんなりせなあかんかったちゅうことや」
オティス「あいつは当初から尻尾にこだわっていたってのに私達はいつの間にか9回の縛りに意識をすり替えられていた」
アニ 「人の意識誘導までするなんて・・・ほんと、色々意味わかんないよヴァンハーフって」
蓮太郎 「何にしてももう一度戦うしかない」
キバイラ「簡単には行かへんよ」
オティス「王叉貴と名乗ったあの狐が、九尾とヴァンハーフの技を両方使ってくるんだ」
アニ 「それだけじゃないよ? 蜘蛛の技も使ってくるんだ。せっかくだから支配下に置いたって言ってた」
蓮太郎 「支配下に・・・? それは・・・っ!」
アニ 「ど、どうしたの?! 蓮太郎さん急に突然立ち上がって!」
オティス「何か思い出したのか?! 襖開け放ってどうしたってんだ」
アニ 「な、何か探してるの? 障子も開けて」
蓮太郎 「いた!」
キバイラ「『一条(いちじょう)・綱(つな)断(だ)ちの刃』!!」
オティス「な、なんだなんだ? いったい何があったんだ?」
アニ 「キバイラは何に攻撃したの?!」
蓮太郎 「絡新婦(じょろうぐも)です」
キバイラ「支配下に置いた言うんなら、蜘蛛なんてどこにでも巣張るやろ」
蓮太郎 「俺達が話している内容は全てあちら側に筒抜けという事です」
王叉貴「ふーん、鋭いね。気付くなんて・・・。やられちゃった」
オティス「蜘蛛の巣なんてどこにでもあるじゃん!」
アニ 「それって、これからも全部敵に情報を持ち出される可能性があるって事じゃないの?」
蓮太郎 「室内は男衆がこまめに掃除していますし、押し入れの中や納戸も蜘蛛の巣一つ許さない方針です」
オティス「うわっ、徹底してるね」
アニ 「おうちの掃除とかでも追いつかないのに、凄い」
蓮太郎 「客商売ですからね」
アニ 「あたしも客商売の生まれだよ? 喫茶店」
蓮太郎 「きっさ・・・?」
キバイラ「こっちで言うとこの小料理屋みたいなもんよ」
蓮太郎 「あぁ、そうなんですね。それで料理の嗜みがあったんですか」
アニ 「そうそう、蓮太郎さんに一度でいいからコーヒー飲ませてあげたかったなぁ・・・」
蓮太郎 「コーヒー・・・?」
アニ 「あとサンドイッチ」
蓮太郎 「サンドイッチ? それは? 飲み物?」
オティス「サンドイッチはパンに野菜や肉を挟んだ食べ物だよ。アニちゃんのサンドイッチとコーヒーは最高のごちそうだよ」
蓮太郎 「食文化の違いですね。食べられるなら食べてみたかったです」
アニ 「・・・そだね・・・、へへ。・・・早く、帰らないと、ね」
キバイラ「あらあら残酷な笑顔を振りまくわ、蓮太郎君も」
オティス「え? 蓮太郎の笑顔って中々貴重だよ? 貰えるのって嬉しくない?」
キバイラ「あかんわこの唐変木の未開通(おぼこ)は、まるでわかってへん」
オティス「今ので何を判れっての? え? なんか変な事言った?」
キバイラ「アニちゃんの方が余程か女の子らしゅうて大人やわ。ほんまに融通利かへんおバカやな」
オティス「うるっさいな! お前にアニちゃんの事判った風な口きかれると滅茶苦茶腹立つぞ?」
アニ 「およよ・・・、その二人で喧嘩しないで? そんな大した事じゃないんだから」
キバイラ「大した事ない? 大した事あるやろ、普通なら赤飯炊いてお祝いやからな?」
オティス「お祝い? なんで? 蓮太郎の笑顔がお祝いになるんだ? 意味の判らない事言うんじゃない!」
アニ 「お祝いなんてそんな大袈裟なものじゃないよ!」
蓮太郎 「済みません、一連の事件を少し纏めて、古文書を探して来るので一旦失礼します」
アニ 「はい! 行ってらっしゃいデス!!」
キバイラ「あんさんに聞きたい事あるんやけどな、原典」
オティス「お前の質問に答える義理はない!」
キバイラ「あんさん、黒騎士の事どない思てたん?」
オティス「根性捻くれてちょっとネジ飛んだ変なギャグ飛ばす、腹の立つ師匠でライバルだ」
キバイラ「ホンマにそれだけ? ホンマに? 他なんもあらへんの?」
オティス「それ以外の何があるんだ。勝手に命かけて消えたやつに言うことなんて何もないし」
キバイラ「おかしいおかしいおかしい、あのクソ魔術師がどうしてその機能を付けなかったのか疑問があるわ」
アニ 「何の話になってるの? アンドラさん?」
オティス「何の機能?」
キバイラ「まぁ、無いもんはないでしゃーない。未来永劫判らへん事かもしれへんな。アニちゃんは今女の子なんよ」
オティス「・・・? アニちゃんは出会った時から女の子だ。男になった事は一度もない」
キバイラ「あかん・・・、眠たなって来た。もうええわ、アニちゃんご愁傷様やで」
アニ 「別に、判って貰わなくても大丈夫だよ?」
キバイラ「向こうに戻ってもそない言える?」
アニ 「向こうに帰ったら・・・、忘れなきゃいけない事だもん。大丈夫だよ」
キバイラ「まぁ・・・、せやな。そないなもん知って強くなる心ちゅうんはあるやろな」
オティス「なんだこの仲間外れ感。二人で何を判り合っちゃったの?」
アニ 「お姉ちゃんは戦う事に専念してくれたらそれでいいよ、狐さん倒さないとホントに帰れないんだし」
キバイラ「せやな、とにかく蓮太郎君がなんや調べてくる言うてはるからそれ待ちながらこっちも話詰めよか」
椿 「蓮太郎、ごめんね、勝手に隠し部屋借りてる」
蓮太郎 「いや、構わないけど。どうした? その本・・・」
椿 「妖狐についてはどうしても文献が少なくて。色々貸本屋さんに聞いてみてたんだけど、比較的新しい物の怪異聞録を貸してくれて読んでたの」
蓮太郎 「さすが。本好きは昔から変わらずだな。で、何か判ったか?」
椿 「蓮太郎はオティスさん達と色々話してたんでしょう? 変わった事あった? て、窓開けてどうしたの?」
蓮太郎 「少し、掃除する」
椿 「突然だね? どんな心境の変化?」
蓮太郎 「オティスさん達が戦った新しい敵について一つ判った事があるんだ」
椿 「新しい敵って少年の狐よね? 掃除と何か関係があるの?」
蓮太郎 「蜘蛛を支配下に置いているらしい」
椿 「あ・・・、そっか。お掃除手伝うよ。蜘蛛の巣を払うんでしょう?」
蓮太郎 「蜘蛛、嫌いじゃなかったっけ?」
椿 「んふふ、見付けたら蓮太郎呼ぶね」
蓮太郎 「手伝ってくれるなら助かる」
椿 「物の怪異聞録ではね、近年になって物の怪の考え方が色々変わってるの」
蓮太郎 「というと?」
椿 「物の怪は昔から、妖怪や長く生きた動物の怪異として人に害を成すものって考えられてるじゃない?」
蓮太郎 「まさにあの狐、玉藻御前(たまもごぜん)はその通りだよな」
椿 「でもほとんどの場合肉体はそんなに長くは持たない、という通説が出て来てるの」
蓮太郎 「肉体が・・・、ない?」
椿 「物の怪というより神格化されている可能性、かな」
蓮太郎 「神・・・? けど、明らかに九尾はこちらに害を成してる」
椿 「それが祟りだとしたら?」
蓮太郎 「鳥羽上皇(とばじょうこう)が玉藻御前(たまもごぜん)を受け入れ調伏ではなくきちんと崇め奉って共に執政に取り組んだなら・・・、玉藻御前は人に恵みをもたらしたかもしれないと言う事か」
椿 「恨みだと言っていた。完全体と言って死ぬ前に涙を流して鳥羽上皇に想いを馳せたのをあたしは見てしまったもの」
蓮太郎 「元々人に恵みを与える筈の神が、恨みに変貌し人を駆逐して己の眷属を繁栄させる祟りに変わったのなら。そんなに皮肉な事もないな」
椿 「それでね、例えば元が神としての存在ならそこに肉体なんて当然ある訳ないんだよ」
蓮太郎 「けど、蹴ったり殴ったり切ったりした時はちゃんと手応えあるぞ?」
椿 「・・・、元が神様なら蓮太郎ってとっくに祟られて殺されてそうね」
蓮太郎 「確かに。ただ、人の血を吸い妖力に変えるという過程は肉体を持っていなければ不可能だよな」
椿 「物の怪に堕ちてしまった神様って考えるなら、肉体は物の怪、精神は神様とは考えられないかな?」
蓮太郎 「うーん・・・。あれ? 鞍馬天狗はどうやって生きてるんだ?」
椿 「手の紋章の人?」
蓮太郎 「うん」
椿 「天狗は人間や鬼が神格化した姿でしょう? 仙人に近い人が更に徳を積んだら天狗」
蓮太郎 「・・・、仙人て、霞み食ってなかったっけ?」
椿 「うん。綺麗な水と空気があれば生きて行ける筈」
蓮太郎 「つまり物の怪に堕ちた恨みの心を浄化する事で消える・・・?」
椿 「理屈はそうだよね」
蓮太郎 「でもどうやって? 鳥羽上皇は過去の人だぞ」
椿 「判んない・・・、ひゃああああ、蜘蛛ぉ!! 蓮太郎―!!」
蓮太郎 「『樹氷(じゅひょう)・木立舞(こだちまい)』!!」
王叉貴 「なるほどね。考察は鋭いな。桃夭姫(とうようき)・・・か。興味はあるけど」
威津那 「なんじゃ?桃夭姫(とうようき)を連れてくる算段か? 妾も協力するぞ?」
王叉貴 「ここまで俗物的になっているのはどうしてかな」
威津那 「ふぅ・・・、妾もだいぶ我慢したつもりじゃがのぅ・・・。王叉貴、そろそろそなた一度死んでみるか」
王叉貴 「共犯者とかいう人のせいかな。堪え性がないというのも大問題。育成時に我儘好き放題を容認した結果、か」
威津那 「妾が気に入らぬと申すか。無論じゃがお主が気に入らぬと言った所で妾は主に媚びたりなんぞ死んでもお断りじゃがな」
王叉貴 「変な所に誇りや矜持を持たないで欲しいな。持つなら己自身でしょう?」
威津那 「なんじゃと?!」
王叉貴 「床に這いつくばって血を啜るなんて言語道断。とはいえ眷属の対策も必要だから敵対視はよしてよね」
威津那 「限りなく気分が悪いが、そなたどうやって覚醒の段取りを取る積もりじゃ」
王叉貴 「その内考えるよ。覚醒しなくても威津那より強いから」
威津那 「悉く腹の立つ。主が相方なぞと認めたくはないわ」
オティス「九尾は蘇生回数の問題じゃなかったって事だもんな。どうしたもんか」
アニ 「でもさ、でもヴァンハーフが尻尾を持って帰って蘇生させてたんでしょう? それならもう今は協力してくれる人はいないって事じゃないのかな?」
オティス「それが、あの王叉貴って名乗った少年が何の目的で動いてるのか判らないじゃん?」
アニ 「ヴァンハーフの意思を受け継いでるって言うなら厄介だよね」
キバイラ「せやね。なんにせよ、王叉貴ちゅうガキはうちらん世界の産物と違う。それが傑物と同じ考えならこん世界ぶち壊すで?」
オティス「一番考えたくない結論だ」
キバイラ「ひとまずはあの駄狐やね。どうやったら殺せるか、君臨勇者の力がなくても蘇生するんか、生き返ってはいたけど尻尾の数は別に増えてた訳やない・・・。ん?」
アニ 「どうしたの?」
オティス「何か気付いた事があるなら勿体ぶらずに教えろよ。お前がキバイラでもひとまず聞いてやるから」
キバイラ「そないな言われ方したら死んでも話したないわ」
アニ 「お姉ちゃん、大事な話してるんだから喧嘩腰になるのはやめようよ」
オティス「・・・ごめん、気を付ける。それで? キバイラ何か気になる事があったのか?」
キバイラ「あんさん九尾狐自体は知ってはるん?」
オティス「いや、私は知らない、アニちゃんは?」
アニ 「海を見たこともなかったあたしに聞くのは間違いだと思うよ? 勇者冒険譚は読んだけど九尾狐とは戦ってないでしょう?」
キバイラ「せやろね・・・、基本が鬼灯島に伝わる伝承やからな」
オティス「伝承ね・・・、伝承・・・。待てよ? それつまり」
アニ 「えっとベニオットさんから聞いた説明によると、それって聖遺物って事にならない?」
キバイラ「そういう事や。あんさんら、聖遺物壊す方法なん知ってはる?」
オティス「知らないよ。って言うか聖遺物って言うのは名前の通りで神格化してる産物だから壊そうとなんてする必要ないだろう?」
キバイラ「そうなんよね。で、もう少し詳しく言うと、九尾狐ちゅうのは諸説あってな。玉藻の前や妲己(だっき)ちゅう名前はあるし金毛九尾(きんもうきゅうび)ともいう。名前は固定されてへんのやけど、九尾ちゅう事だけはどの書物にも書いてある」
アニ 「それ、尻尾が本体なんじゃ、ないの?」
キバイラ「大いにある可能性やで」
オティス「試してみる価値はありそうだな」
椿 「こんばんは、夕餉のお時間になったので食膳を運ばせますね」
アニ 「あーーーっ!!お手伝い出来なかった!!」
椿 「大丈夫よ、なんとか颯太さんに代わる副料理長が見付かったから蓮太郎とその人で間に合ってるから」
アニ 「違うよぉ・・・、お料理するとこ見たいんだもん・・・」
椿 「あぁ、そういう事。今日は珍しいお料理もあるから惜しいことしたかもね」
オティス「珍しい料理? 何々? 気になる」
椿 「炊き込みご飯と茶碗蒸し。お魚は生のお魚は苦手だって聞いてたから天ぷら」
キバイラ「肉も魚も生が苦手ちゅうて損してはるわ。生程美味しいもんはあらへん」
椿 「鮮度が悪いとお腹壊す事もあるから気を付けてね?」
キバイラ「あんがとさん。けど、うちは大丈夫よ。蓮太郎君が氷魔法で上手に鮮度保ってくれてるから」
アニ 「お料理・・・、作ってるの・・・、凄いな・・・って」
椿 「・・・? そうね。あたしは作れないから確かに凄いのかも?」
キバイラ「ははーん、そういう事ね。ほんま可愛ええな、アニちゃんは」
椿 「・・・あぁ、そういう・・・。それは残念だったね、ふふ。あたしは見たもん」
アニ 「ずるーい・・・」
オティス「そうだ、椿ちゃん。料理とは別で後で紋章から魔力分けてもらえないかな」
椿 「え? それはいいけど・・・、戦いに行くんですか?」
アニ 「うん、なんとなく試してみようって思った事があるから。あの、あたしも分けて貰えると嬉しいな」
椿 「判りました。キバイラさんは?」
キバイラ「うちは料理で充分足りてるからええよ。あーん♡ 旨ぁ・・・」
椿 「本当に美味しそうに食べるのね、キバイラさん。見てたらお腹すいてきちゃった」
オティス「椿ちゃんも食べよう。なんだろうこれ、茶わん蒸しに入ってるの丸い、はむ・・・、ぅっ!! 苦い!」
アニ 「うわぁ・・・、本当だ苦い!! 梅干しに続いてこれは衝撃だぁ!!」
椿 「あぁ、あたしは銀杏苦手だから抜いて貰ったけどね」
オティス「ずるい! ん、これは? じゃこ? と大根おろしと一緒に入ってる赤と白の・・・、おいしいな、コリコリしてて」
アニ 「はむ、こりこり、あ、本当、歯ごたえあって美味しい」
椿 「たこ」
オティス「おくとぱーーーーーーす?!?!」
アニ 「うわぁうわぁうわぁうわぁ!!! 食べちゃったぁああぁああぁあ!!」
威津那 「この様な深夜に共も付けず、血の匂いを撒き散らして大通りの真ん中に一人、喰ってくれと言わんばかりじゃの?」
椿 「えぇ、あなたをおびき寄せる為の囮だもの」
威津那 「先日から妾に床を舐めさせたりおびき寄せたり、随分な真似をしおるの? 桃娘」
椿 「堪える事も出来ず、考え無しに近付いて来る自分の性を恨んだ方がいいと思うわ」
威津那 「そうじゃの? そろそろ立場を弁えた方が良いのぉ?」
椿 「立場?」
威津那 「妾がそなたの身柄を引き裂かずに済んだは、共犯者の為じゃ」
椿 「あの人も随分欲求に堪え性のない人だったわね」
威津那 「そなたを生かしたまま、凌辱するが褒美と約束したが、あやつはもうおらぬ」
椿 「つまり四肢を引き裂こうが、はらわたをひきずり出そうが止める者はいないって事ね?」
威津那 「いかにも。覚悟せい!! 桃夭姫(とうようき)!!」
アニ 「『高性能超硬質防御壁』!! いいよお姉ちゃん、キバイラさん攻撃しても大丈夫!!」
キバイラ「尻尾の先まで痺れさしたるわ!! 『羅生門(らしょうもん)・暮波刃鬼(くれはばき)』!!」
王叉貴 「それはだめです。『生を掴む竪琴(ドルフィン・ハープーン)』」
蓮太郎 「来ましたね、王叉貴。『柳生飛天・風切衝撃波』!!」
王叉貴 「手合わせは初めてですね。ご挨拶に、『死を見張る番人(ティルティウム・ガルム)』」
威津那 「手を出すでない!妾の手で、こやつらを引き裂かねば気がすまぬ!」
王叉貴 「あ、そう。それならお好きに。僕は手を出しませーん」
キバイラ「舐めた真似してくれるな!」
蓮太郎 「そっちの屋根で高みの見物ですか! いい御身分ですね!」
アニ 「こっちが熱くなってどうするの!蓮太郎さん、炎は使わないでね!対火フィールド、展開!」
威津那 「ええい、小癪な!『九尾襲撃・火炎竜神蒼天柱斜陽ノ槍(かえんりゅうじんそうてんばしらしゃようのやり)』!!」
オティス「『七生滅せし第三の暴風(セブンシヴァーダ・トリシューラ)』!!軽減してもこれか、バカみたいな火力だこと!」
椿 「キバイラさんたち! 魔力なら任せて! 今晩はいっぱい食べたからまだまだいける!!」
蓮太郎 「椿、俺の後ろから離れるんじゃないぞ」
椿 「うん、大丈夫」
王叉貴 「間合いの内に丁寧に抱えちゃって。大好きなんだなぁ・・・、あれが愛かな」
オティス「なんにせよ、一回殺さないことには始まらない!全力でも足りるかどうかわかんないけど!この童子切の錆にしてやろう!」
蓮太郎 「王叉貴が手を出してこないのは好都合です。あの男のような小細工がないのであれば、力のぶつけ合いです」
威津那 「それで妾に勝つ気で居るとは言語道断!力の差を思い知るがよいわ!『九尾断崖(きゅうびだんがい)・泥流岩漿(でいりゅうがんしょう)』!!」
オティス「ぶっぱで済まそうとしてる気楽さも笑止千万だけどね!『七国滅せし淘汰の吹雪(セブンツアーズ・ポアリフハント)』!」
アニ 「っ、すごい土煙。椿さんの魔力吸い尽くしちゃわないよね!?」
キバイラ「煙に紛れた斬撃なんてどうや!?『四天(してん)・雷光大江ノ演武(らいこうおおえのえんぶ)』!」
威津那 「ぐ、効かぬ・・・効かぬわ!薄皮切り裂く程度の斬撃で、妾を貫けると思うな!」
蓮太郎 「椿、そこから動くな、すぐに戻る」
椿 「うん」
蓮太郎 「貫くのを諦めた場合こうなりますが。『柳葉菜居合(あかばないあい)・落葉一重切(らくようひとえきり)』!! 尻尾を1本! アニさん燃やして下さい!」
アニ 「え、え!? 燃やすの!? 炎軽減フィールド展開してるのに!?」
オティス「圧倒的火力ううううう!!!!」
アニ 「すごい! 炭になった! どんな火力してるのお姉ちゃん!!」
椿 「そっか、長丁場になっても、一つ一つ確実に切り落としていく方が確実なんだ」
キバイラ「なるほどな!! 『一条(いちじょう)・綱断(つなだ)ちの刃(やいば)』!! そらもう1本行ったで!!」
威津那 「がは!? 小癪(こしゃく)な、小癪(こしゃく)な!!人間風情が往生際の悪い!」
蓮太郎 「九尾が窮地に立たされているというのに身じろぎ一つせずに見守っている? 何を考えている」
王叉貴 「・・・手を出すなと言われましたので。それ以外に理由、いりますか」
威津那 「許さぬ、・・・許さぬぞ、この様な恥辱屈辱を・・・」
オティス「私も手柄を頂こうか!! 『血吸・首断ちの刃(ボーンド・ザンネック)』!! 3本目!!」
威津那 「ぐぁ・・・、妖力が・・・、弱まって」
アニ 「私だって尻尾の1本くらい!! 取れるもん!! しなる魔法弾、三日月弾!! いえーい、4本目!!」
キバイラ「まとめて行くで!! 『時雨居合・奥義 「凪」』!!」
蓮太郎 「残り二本!! 『柳葉菜居合(あかばないあい)・樹氷結華舞(じゅひょうけっかまい)改! 花弁堕(はなびらお)とし』!!」
王叉貴 「残り一本・・・あれがそうか。『天に至る気紛れの道(ダストリバー・カンターダ)』、これは戴きますよ」
オティス「っ!? 今手出ししてくるのかよ!」
威津那 「王・・・、叉貴・・・っ! そなた・・・。何ゆえ・・・妾の、尾を引き千切った・・・」
王叉貴 「僕があなたの味方だと、いつ言いましたか? あなたも相方はごめんだと。その時点で協力体制は破綻していた筈ですよ?」
キバイラ「ああくそ、最後の一本取られたら意味あらへんやんけ! 傍観決め込んでたくせに鬱陶しい!」
威津那 「そなた、最初から・・・、尻尾の原理の解を持っておったな・・・?」
王叉貴 「言ったでしょう、共犯者の知識を持っている、と。この尻尾は、こう先端だけ戴きます」
威津那 「あぐぁあああああああ?!」
王叉貴 「他は要りません。この先端にのみ集結する純血の九尾狐。ここから新たな眷属を生み出せる」
オティス「お前・・・、王叉貴!! お前!! 威津那を裏切ったのか!!」
威津那 「なぜじゃ!其方は妾のため生み出された、最適化された狐! 妾に、牙をむくなどッ・・・」
王叉貴 「そうですか、つまらないですね。『螺旋鋼鞭(スパイラル・スモーカ)』」
威津那 「が・・・ふ?」
オティス「んな!?」
王叉貴 「人に裏切られて封印されたというのに、こうも簡単に僕を信用するんだから。何も学んでいない、浅慮なんですよね」
キバイラ「狐が、狐を貫いた?」
威津那 「あが、ぎぅぐ・・・貴様、貴様ぁ!」
王叉貴 「皆様、僕ではとどめを刺せません。同族なので。どうかよろしくお願いします」
キバイラ「・・・原典」
威津那 「く・・・何ゆえじゃ、何ゆえ・・・っ! 妾は・・・、妾を裏切った人間共に天誅を喰らわせたかっただけなのに・・・、人を欺き裏切りのうのうと繁栄を我物顔で鼓舞する人間共を駆逐したかったのに・・・」
オティス「お前には同情しない。けど、恨みもしないことにするよ。人に、物の怪に、時代に振り回された一つとして、ここで眠りな」
威津那 「覚えておれ、妾はただでは死なぬぞ! ここでこの命潰えようとも、お主ら人間を呪ってやる!」
椿 「きゃあああ!!」
蓮太郎 「椿!!」
オティス「・・・っう、っく・・・! なんだ? 今の波動・・・? 椿ちゃん、大丈夫?」
椿 「・・・、う? うん・・・、なんとも、ないよ?」
オティス「出来ればもう会いたくないけどね。『血吸・葬送(ボーンド・フェアウェル)』」
王叉貴 「おめでとうございます。もしかしたら僕は、これを見届けるためにこの世に生まれたのかもしれませんね」
アニ 「どうして、狐さんを裏切ったの?」
王叉貴 「あ、それ聞いちゃいます?」
アニ 「仲間なんじゃ、なかったの?そうなんでしょ?」
王叉貴 「やめてください。妖力欲しさに床の血を舐める様な下賤(げせん)な狐と同じにされたくありません」
アニ 「たしかに、ひどい化け物だったよ? けど! 仲間だった人をそんないい方しなくたって!」
オティス「それとも・・・初めからこうする予定だったのかな」
王叉貴 「もっと高潔な九尾ならあるいは・・・。ですがこれでは低俗な妖怪どもと変わらない。土蜘蛛以下です」
キバイラ「は、鞍馬みたいなこと言いよる」
王叉貴 「この尾の先端は純血の欠片。育て直します。ご安心ください。もう、九尾の脅威は人を襲いません。僕は人を食べる下世話な性質ではありませんから」
蓮太郎 「信じられると思っていますか? 俺の手の甲から紋章は消えていない」
王叉貴 「ご自由に。鞍馬さんとは一度話してみたかったんです」
オティス「ん・・・? 童子切が脈動して・・・」
アニ 「うわ!! 光ってる!!」
キバイラ「九尾の脅威が去った。それはホンマなんやろね・・・。次元超える鍵が証明してるわ」
オティス「いや、光ってるけど、これはどうすれば帰れるんだ?」
王叉貴 「魔力を込めれば発動します」
アニ 「お手軽」
王叉貴 「逆に言えば、魔力を込めなければ発動しません。発動したら速やかにお帰り頂くことを推奨します。一回ぽっきり出血大サービス、二度目はありませんので。それでは僕はこの辺で失礼します」
キバイラ「ようやく帰れそうやね・・・。場所はおそらくあんさんらが次元超えてここに着地した場所や」
オティス「アニちゃん! 『高性能超硬質防御壁』の範囲ってここまでだっけ?」
アニ 「うん。そこら辺まで張ってあれば攻撃の邪魔にはならないかなって思って」
キバイラ「尻尾らしきもんはもう見付からんな?」
蓮太郎 「こっちの方はそれらしきものは見当たりません」
椿 「うひゃああ!! 尻尾ぉ!!」
オティス「なんだって?! 椿ちゃん触っちゃダメだよ?!」
椿 「あ、ごめんなさい、イタチが死んでた・・・」
キバイラ「紛らわしわ!!」
椿 「ごめんなさい、だって色とか形とかそっくりだったんだもん」
蓮太郎 「辺り一体確認しましたが大丈夫そうですね」
アニ 「童子切? だっけ? が光っててあの狐さんがもう大丈夫って言ってたから余程大丈夫だと思う」
オティス「用心に用心を重ねて過ぎる事はないからね。とはいえ見える範疇で全体のチェックが終わったからいいかな」
キバイラ「ほな、見世戻ろか。あ~昨夜の客さっさと放り出して牡丹と寝たいわ」
オティス「お、お、お、お前! ふしだらだぞ! 戦いが終わったばかりで」
アニ 「何も聞いてない何も聞いてない何も聞いてない」
キバイラ「戦いが終わったからやないの」
オティス「は?」
キバイラ「遺伝子ちゅうもんは己の体に起こった変化をよう知ってはる。命の危機に晒された事もな」
アニ 「真面目なお話なんだ」
蓮太郎 「多分・・・、違うかな、と思う・・・、んです、けど」
キバイラ「せやから生殖本能が疼くんよ。己の子孫残さなあかんちゅうて♡ 牡丹~、今いくさかいな~♡」
椿 「不埒な気持ちがそうだとは思うけど、根本的な所が間違ってるよね?」
アニ 「ど、ど、どういう事?」
蓮太郎 「海外文書で読んだ事はあるんです。戦などの命の危険に晒された場合、自分の子孫を残す為に本能的な生殖活動が活発になる、と」
オティス「あながち間違ってない・・・?」
椿 「牡丹姐さんもキバイラさんも女だよ? どうやって子孫繁栄に繋げるの?」
アニ 「あっ」
オティス「うーん、この場合蓮太郎が椿ちゃんに盛るのは正しいって事か・・・、どふぉおぅう!! なんで腹殴った?!」
蓮太郎 「あぁ、済みません、つい」
アニ 「笑顔が怖い」
椿 「みんなお疲れ様。あたし達も見世に戻って寝よう」
オティス「寝よう寝よう」
アニ 「ふわぁ~、つーかれた!!」
椿 「・・・、蓮太郎? どうしたの?」
蓮太郎 「・・・りん、少し」
椿 「なぁに? どうしたの抱き締めたりして。疲れた? 頑張ったもんね。お疲れ様、いっぱい守ってくれてありがとう」
蓮太郎 「なんでだろうな、多分本当に終わった筈なのに、終わった気がしない。この不安はきっと拭えない」
椿 「終わったんだよ、蓮太郎。もう、本当に・・・。きっと、大丈夫だよ、大丈夫・・・、ね」
アニ 「蓮太郎さん達来ないね、どうし・・・、・・・」
オティス「呼んで来ようか」
アニ 「ううん? 今はそっとしておこう? 明日お別れも言わなくちゃいけないもん」
一次創作サークル ルイは鷹を呼ぶでは「花魁道中いろは唄」
のゲーム制作にあたり皆様からの支援を募っております。
台本をご利用し、ご支援をいただければ幸いです。