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堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 11話 盈月~(えいげつ)~
男性2 女性5  上演時間:120分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ

〇台本上演の利用規約について

 下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。

 https://call-of-ruitaka.fanbox.cc/posts/1761504

椿 (♀)(19歳)

 

大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。

 

蓮太郎 (♂) (19歳)

 

華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。

 

オティス (♀) (23歳)

 

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。

 

アニ (♀) (12歳)

 

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。

 

鬼狽羅 (♀)(22歳)

 

かつて鬼灯島に棲んでいた鬼一族の首魁。原典の勇者オティスとは300年前からの因縁がある。毒を使う事に長けており、医学にも精通する。ヴァンハーフに協力して九尾狐の威津那を殺生石の封印から解放するのに協力し、威津那の力により若山遊郭へ時空間移動させられた。言葉遣いは京弁。倭の国に鬼灯島の面影を重ねて珠酊院の事などを思い出し郷愁の思いがある。

 

 

ヴァンハーフ (♂) (30歳)

 

君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。

 

威津那 (♀)(20歳)

 

ヴァンハーフの実験により殺生石より封印を解かれて覚醒した九尾狐。ヴァンハーフと協力し何かを企てているが現在その謀略の内容については判らない。性格は不遜で大変な我儘で自己中心的な上に堪え性がない。自身の目的の為ならば人間がどれだけ死のうが関係なく、女性は等しく皆己の餌だと言い張る。口調は古風な話し方で、命令口調が多い。炎系の魔法を使って攻撃する事が多い。

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【配役表】

椿   (♀):

蓮太郎 (♂):

オティス(♀):

アニ  (♀):

キバイラ(♀):

ヴァン (♂):

威津那 (♀):


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椿  「女郎達も寝静まる丑三つ刻、人目を忍ぶ様にそっと見世を抜け出す姿はまるで心の臓を鷲掴みにされる程苦しくて。明け方に帰って来ているのを確認しないと眠る事は出来なかった。抱き締めてくれる腕は子供の頃と比べると力強くなって私の安心する掛け替えのない場所になった。そして今、私を守る為に化け物の群れの中へ刀を携えて駆け込んでいく背中を泣きたくなる思いで見詰める。守ると言ったけれどもう、あなたが私の為に傷だらけで倒れ込む姿は見たくないの。若山遊郭、男と女が偽りの恋を綴るこの町に突如湧いて出た化け物達は今日も、町で暴れ続けるーーー」

 

 

 

オティス「『七国滅せし淘汰の吹雪(セブンツアーズ・ポアリフハント)』!!」

アニ  「魔法弾の雨!!」

キバイラ「『四天(してん)・雷光大江ノ演武(らいこうおおえのえんぶ)』!!」

蓮太郎 「『烈火(れっか)・円陣(えんじん)展開(てんかい)・螺旋(らせん)舞(まい)』!!」

オティス「ふう・・・これで、あらかた退治したか?」

アニ  「ここの所毎日毎日蜘蛛さん退治でキリがないよ」

キバイラ「仕方ないやろ、桔梗ちゃんの腹から出て来た蜘蛛の数は数え切れん」

蓮太郎 「毒蜘蛛ですから接触は勿論接近戦は危険です。魔法で焼き続けるしかない」

アニ  「けど、本当に何の為にこんな事してくるんだろう?」

オティス「あいつの考えている事が判る訳ないだろう? 判ったとしたらそれはそれで嫌だ」

蓮太郎 「時間稼ぎでは?」

キバイラ「まぁ、多分せやろな。駄狐を完全復活させるのに時間が必要やったんや」

オティス「だから置き土産に蜘蛛をバラまいて行ったと。本当に悪趣味、嫌がらせの才能は天下一品だこと」

アニ  「蜘蛛嫌いになりそう」

蓮太郎 「通常の家蜘蛛は害虫を食べてくれるので、有難かったりはするんですが」

キバイラ「害虫どころか人喰らい尽くす勢いやで?」

オティス「まったく、また増えたりしないよな?」

キバイラ「それより原典、あんさんには治療用の酒をわざわざあげたんよ?うちより活躍出来てへんてなんやの」

オティス「はぁ?私はこれで215匹目だ、お前は精々180匹がいいところだろ?」

キバイラ「はー、これやから頭でっかちは。あんさんが毒喰らって寝とる間に五十は狩ったわ」

オティス「明確な数字も示せないくせに張り合ってくんな」

キバイラ「わざわざお互いの討伐数数えとるみみっちさは貧乏性故か?」

オティス「んだと?」

キバイラ「あんさん討伐数に加えたろか?」

アニ  「ちょっと、変な理由で喧嘩しないでよ」

蓮太郎 「そうですよ。ちなみに俺は253体討伐しました」

キバイラ「うっわ」

蓮太郎 「なんですかその顔」

アニ  「細かいよ! ずっと数を数えてたの?」

蓮太郎 「そうですね。自分の視界と攻撃範囲、威力を把握したかったので」

アニ  「真面目過ぎる」

蓮太郎 「炎で焼き損ねた、もしくは致命傷を負いながら死ななかった蜘蛛は雌雄で番となって土の中に雌が逃げ込んでいます。おそらく卵か子供を産んでいます」

オティス「げっ! キリがなくない?!」

キバイラ「それはうちも見えてたよ。とにかく繁殖だけを主眼に設計されたようやわ。孵化するのは大体翌日、母体を食べて這い出てくるんやろね」

アニ  「なんかもう凄い嫌がらせを超えて気持ち悪さだけが残ってる」

キバイラ「ひとまず気になるんは・・・、こん蜘蛛や新たに湧いて出る蜘蛛は単独で動くんか君臨勇者倒したら消滅するもんなのか調べなあかんって事や」

アニ  「さらっとすごい怖い事言ってるよ?!」

オティス「・・・キャリコの時と同じか。あいつが神経伝達や生命力の総括になってる可能性は大きいな」

蓮太郎 「そうですね、消滅しなかったとしても人に害を及ぼさないのであれば退治の必要はありません」

キバイラ「これだけ大量発生してると人に害を成さんくても生態系が崩壊するわ」

オティス「今までのあいつのやり口からして、操られて狂暴化したり繁殖したり攻撃的になっている方が濃いけど」

アニ  「そうしたらヴァンハーフを倒せば全部解決するね」

蓮太郎 「ひとまず今回はあらかた倒したのと、この蜘蛛達が夜行性で昼間は活動しないという特性は確認しました。ですのでもう見世に戻って休んでも差し支えないでしょう」

キバイラ「せやね、部屋戻ってあったかい布団で寝よか」

オティス「お前、また牡丹さんの布団に潜り込む気じゃないだろうな?」

キバイラ「こないな事になってても牡丹の客は途切れへん。仕事中はさすがに潜れへんわ」

蓮太郎 「っ、う・・・」

アニ  「っ! 蓮太郎さん大丈夫?! 足元っていうかふらついてるよ?!」

キバイラ「寝た方がええよ、と言いたい所やけど料理番の仕事もあるんやもんな」

アニ  「あの、あの、あたしお料理変わるよ? いつもちゃんと寝かせて貰ってるしそろそろ蓮太郎さん倒れちゃうよ」

蓮太郎 「ありがたいお申し出ですが、説明が難しいので頼む訳には行きません」

アニ  「判った! じゃあ、手伝いする! そしたら早く片付くし、少しでも寝た方がいい」

キバイラ「我慢せんと椿ちゃんから熱~いキスして貰たらええんよ。桃夭姫(とうようき)と恋人から貰える何よりの英気やないの」

アニ  「・・・。そういう事を恥ずかし気もなく言うのってどうかと思う」

キバイラ「アニちゃんもしてもろたら?」

アニ  「ふぇあ!?」

キバイラ「気持ちええもんよ?何より心持ちが変わるわな、心持ちが」

アニ  「えあう、え、ええと、ええと!ふゆゆゆぅ・・・」

オティス「アニちゃんの唇は私が守る!!『狼王失墜(バスタード・フェンリル)』!!」

キバイラ「うわ本気で攻撃してきよった!やっぱり討伐数あんさんで増やしたろか!!」

蓮太郎 「・・・さすがに、俺以外に唇を許す気はないと思いますが? 桃夭姫(とうようき)だのなんだのと、椿を強化素材にするなら怒りますよ」

キバイラ「え?なんでそうなるん?」

蓮太郎 「え?そうなりますよね?」

キバイラ「アニちゃんの英気は蓮太ろ・・・」

アニ  「うわあうわあうわあうわあうわあああああああ!!」

 

 

 

ヴァン 「原典たちの手で刈り取られた個体がこれで877匹。残存個体が147匹、増やした個体が1024匹・・・、ふむ、順調に増加は出来ているね。収束する頃にはこちらの準備も終わっているはずだ」

威津那 「まだ、時間がかかるか」

ヴァン 「君自身が強化されていくに伴って、構成し直す手間も大きいんだ。精巧な料理は、粗末な粥に比べて作るのにも時間がかかる」

威津那 「成程のう?しかし、そろそろ配線まみれにも飽いたぞ。生娘を連れてこい」

ヴァン 「その必要はない。点滴で桃夭姫(とうようき)の血を400ccほど打ち込んでいる。君を成すには充分なほどだよ」

威津那 「妖力はな、あればあるほど良いのじゃ」

ヴァン 「そうだね――ああ、長かった。これは僕にとって偉大なる一歩、万物を覆す大きな一歩だ」

威津那 「おい、聞いておるか?」

ヴァン 「この世界の僕が辿り着いた解はこれだ。この世界の僕が選択した道はこれだ。間違いかもしれない。それでもこの「君」を作り上げた。これ以上は僕には存在しない」

威津那 「抜かせ戯け者。お主に預けたもう一つの使命、よもや忘れたとは言わせぬぞ」

ヴァン 「ああ、そうだったね。そちらも問題なく検証中だ。今回の件も含めて命に関わる大切でとてもデリケートな物なんだ。結論を急いではいけない」

威津那 「急くなとそればかり。口先だけの虚言はもう飽き飽きしておる。時間を掛ければなどと悠長な事を抜かすではお主に任せた意味がないわ」

ヴァン 「僕でなければ数年単位で時間がかかるよ。それをこの数か月に押し込め、且つ最適解をたたき出すのが僕だ」

威津那 「結局妾は待たされるのみぞ?つまらぬつまらぬ!」

ヴァン 「そう悲観したものじゃないよ。これが成功すれば他の種族と比較できない数の眷属を手にすることができるよ」

威津那 「・・・なんじゃと? 他より・・・?」

ヴァン 「ああ。そのために、桃源郷に手をかけた。楽園すらも焼き払い、その果てに君という白を築き上げようじゃないか」

威津那 「土蜘蛛の数も凌駕出来ると申すか」

ヴァン 「あぁ、勿論だよ。絡新婦(じょろうぐも)の増殖能力を遺伝子に組み込んでいるのだからね。数々の女達の実験はこの実験の成功率や強度計測の為に行っていたのだから」

威津那 「絡新婦(じょろうぐも)の遺伝子・・・、九尾と絡新婦(じょろうぐも)の妙な奇形が産まれたりはせぬか」

ヴァン 「実験α(アルファ)はその問題を解決する為に行った大切な因子だよ」

威津那 「実験α(アルファ)・・・?」

ヴァン 「最初の実験を覚えているかい?」

威津那 「最初・・・、妾が知っておるのは桃娘の実験ではないか?」

ヴァン 「その通りだよ」

威津那 「しかし、それにこそ絡新婦(じょろうぐも)の血が混ざっているのではないのか?」

ヴァン 「幸い遺伝子操作は僕にとってそれほど難しいテーマではなくてね。どちらかというと量産の方が難関だった」

威津那 「だった・・・。つまりそれも完成したという事か?」

ヴァン 「理論上は完成している。だが、検証値に耐えられる器がないんだよ。それが残念だ」

威津那 「なんじゃ、では完成しておらぬのと同義ではないか」

ヴァン 「いいや? 威津那、数々の失敗を重ねた結果論を弾き出せてはいるんだ」

威津那 「失敗のか? その様な愚策聞きたくもないわ」

ヴァン 「短慮を起こしてはいけない。どうにも気が短いのが君の弱点だ。事象を観察する為の慧眼(けいがん)を持つべきだよ」

威津那 「妾に説教を垂れるでない」

ヴァン 「君は己の血族に絡新婦(じょろうぐも)の血を混ぜたくはないだろう?」

威津那 「当り前じゃ」

ヴァン 「では事実上雑種でない眷属を生み出す為には何が必要かな?」

威津那 「純血種じゃ。・・・、答えが堂々巡りしておるぞ? ん? もしや」

ヴァン 「よく気付いたね。純粋な眷属を増やすには血の濃い純血種に近い存在が必要。その為にまず雄の九尾を作る必要がある」

威津那 「現状、存在せぬものを、どうやって作るというのじゃ」

ヴァン 「言っただろう? 遺伝子操作は僕にとって赤子の課題だ。現在までの経過観察では間違いなく存在しているよ」

威津那 「くふ・・・、くふふっ! くふはははは!! やってのけたのか! 雄の九尾を作り上げたのじゃな?!」

ヴァン 「条件付きにはなるけれどね、確実だ」

威津那 「妾の眷属、雄がおれば純血種を繋げる、それに繁殖能力を身に着けたとは、なんという。予想以上の功績じゃ!

褒めて遣わすぞ!!」

ヴァン 「昔読んだ異聞録の一説、論理パラドクスにおける引用だ。『最強の敵は自分の中にいるのにもかかわらず、遺伝子は自分の子孫を多く残す事のみを考える』興味深いとは思わないかな?」

威津那 「そこから妾の望みを読み解いたという訳じゃな?」

ヴァン 「つまり、生物は己の純粋な血を持って最高血種を望む傾向にある。君が今から至るのは、その頂点だ」

 

 

 

椿   「蓮太郎お疲れ様。はい、お茶、あったかいよ」

蓮太郎 「・・・ありがとう。眠れないか? 顔色が悪い」

椿   「みんな一生懸命戦って疲れてるのに、自分だけ何も出来ないって凄くもどかしい・・・、仕事も出来ないんだよ?」

蓮太郎 「椿は敵に狙われてるんだから何もして欲しくない。出来ればいつでも傍にいさせて常に安全を確保しておきたい」

椿   「そういうのって過保護って言うんだよ」

蓮太郎 「どう言われてもいい・・・、椿には辛い境遇でも俺は正直言うとゆっくりした休息と安心出来る環境の中で生きていて欲しい」

椿   「甘やかしたがりなんだから。・・・、蓮太郎、かすり傷」

蓮太郎 「ん? どこ?」

椿   「ここ、頬のとこ。痛くないの?」

蓮太郎 「なんていうか、激痛慣れしたというか、これくらいの掠り傷程度だと痛みを感じなくなって来ているというか」

椿   「もうっ! もっと自分を大事にしてよ! こっち向いて」

蓮太郎 「ん?」

椿   「あ、む・・・、ちゅ・・・」

蓮太郎 「・・・っ?! な、何?! なんで頬舐めた?!」

椿   「んーと、アニさんみたいな回復の力みたいなのはないけど、桃夭姫(とうようき)の血とか体液? とかでなんか力があるなら治るかなって思っただけ」

蓮太郎 「そ・・・、そっか・・・、びっくりした・・・」

椿   「でね」

蓮太郎 「ん?」

椿   「治ったね」

蓮太郎 「うっそ?! え、あれ、あ、本当だ。・・・、りん」

椿   「ん? ・・・っ?! 何? なんで抱き締めるの?!」

蓮太郎 「そういう迂闊な事をするな。敵に見られてたらそれこそ狙われる材料を増やすだけだ。誰にも攫(さら)わせたくないのに、どうして自分からそういう材料を追加する?」

椿   「あたしは・・・、単純に蓮太郎の傷を治したかっただけ。その・・・、アニさんに治して貰えるのは知ってるけど、でも・・・、でもね?」

蓮太郎 「もしかして、妬いてる」

椿   「うにゅう・・・、蓮太郎はあたしのなの。あたしが治せるんなら治したいんだもん」

蓮太郎 「それでもダメだ。くだらない嫉妬で敵に情報を与えるな」

椿   「くだらない? くだらない? くだらないって言った?! ねぇ、人の気持ちをくだらないって言った?!」

蓮太郎 「いひゃい、つばひ、頬っぺた引っ張らない」

椿   「勝手な心配だって知ってるよ! でも蓮太郎が化け物退治に行ってる間待ってるの辛いよ! もう一つのお仕事だけでも辛かったのに、なんで蓮太郎が戦いに出なくちゃいけないの?」

蓮太郎 「俺は、この痣から流れ込んでくる力に感謝してる。これがあれば椿を守れる。単純に力の強化だけの為に椿を食い物にしようとする化け物から守れるこの力は、今の俺にとって何より必要なものだから」

椿   「・・・、依存性って言った・・・。欲しく、ならないの?」

蓮太郎 「我慢してますけど何か?」

椿   「んもーぅ!! 蓮太郎!!」

蓮太郎 「はい・・・、んっ、・・・ん」

椿   「ん・・・、ちゅ・・・。・・・、これで、足りる?」

蓮太郎 「・・・寝る」

椿   「えぇえ?! なんで?! どうして? 今のどこに眠たくなる要素があったの? え、嘘・・・、本当に寝ちゃった」

キバイラ「あー、寝る体力も無かったんやね? 眠れるんなら寝かしてやったらええよ」

椿   「キバイラさん?! 見てたの?! や、あの・・・、ん? 寝る体力?」

キバイラ「睡眠って体力使うんよ? ほら冬眠前の熊とか狂暴やろ? 英気養ってからでないと寝れへんから」

椿   「そんなに・・・、疲れてたんだ・・・。お休み・・・、蓮太郎」

キバイラ「愛しい女の膝枕と昼下がりの陽気と心地いい風、最高やね」

 

 

 

オティス「はーーー・・・」

アニ  「お姉ちゃんがため息ついてる。珍しい」

オティス「私を何だと思ってるの?なんか、椿ちゃんと蓮太郎みてると、ベニオットとヴラドニアのこと思い出して」

アニ  「あの二人、別にそういう関係じゃなくない?」

オティス「いやまあそうだけど・・・なんだろう、近しいものがあるよね」

アニ  「・・・無事、かな」

オティス「こっちと向こうの時間の流れが同じだとしたら――心配、かけてるだろうな」

アニ  「けど、『境界のない医師団(ノーフラッグ・ドラッグ)』の依頼もあるから、待ち続けることは出来ないよね」

オティス「はやく、帰りたいなぁ。こっちも一大事だけど、向こうをほったらかしにするわけにもいかない」

アニ  「こっちに来ちゃったのは・・・何か使命があるんじゃないか、って話だったよね」

オティス「察しはついてるよ、私達は九尾への抑止力だ。だから、次で最後にする」

アニ  「うん。ちゃんと倒そう。もうこれ以上、この町の人を食い物にさせるわけにはいかないもん」

オティス「けどさ。倒しましたおめでとうございます、それじゃあはい帰ってね、って都合よく行くもんかな?」

アニ  「・・・戻れるよ。信じようよ。お姉ちゃんが疑っちゃったら、もう何もわからないよ」

オティス「そう、だね。うん。難しいこと考えんのは後だ後だ!」

アニ  「最近は蜘蛛狩りばっかりで狐も君臨勇者も出てこない。黙って消えるタイプじゃないもんね」

オティス「町中探しても出てこないし、どこに身を隠してるんだか・・・」

アニ  「大きな建物の中も調べたのにね。前に拠点にしてたところは誰もいなかったし」

オティス「あと探してない場所は・・・あ、地下とか?」

アニ  「さすがにそれはないんじゃないかな」

オティス「よし!いろいろ当たってみようか!」

アニ  「しらみつぶしに行くしかないよもう。女将さんに行って地図もらって、一軒一軒探していこう」

 

 

 

ヴァン 「信仰力を魔力に転ずるのが魔力炉という装置の大まかな理論だ。つまり信仰が集いやすい場所は魔力が満ちやすい・・・、まさか向こうも、神社の中で工房を構えているとは考えないだろうね」

威津那 「恩恵はでかいが嫌悪感も大きいわ。なぜ妾が人間どもの社なんぞに・・・」

ヴァン 「そこはもう少しの辛抱だよ」

威津那 「そう言えば、問うなというならば今の所不都合はない故、答えずとも構わぬが」

ヴァン 「珍しく謙虚な物言いだね? 桃夭姫(とうようき)の血が強すぎたのかな?」

威津那 「やかましい、少し気になっただけじゃ。そなたずっと首に布を巻いて居るが何か理由があるのか?」

ヴァン 「ああ、これかい?」

威津那 「寒いというならば判るが、今時期はそうでもなかろう?」

ヴァン 「空気に晒すと古傷がね、じくじくと痛みを訴えるんだ」

威津那 「古傷? それを隠しているのか。男ならば傷は晒しても問題なかろう?」

ヴァン 「僕は己の身ならば臆することもなく使える大切な切り札だと思っているからね、大切に温存しているんだ」

威津那 「切り札を温存とは気持ち悪いの」

ヴァン 「この傷は僕・・・、いや『俺』にとって大切な勲章だ」

威津那 「・・・ぬ? お主纏う空気が変わったぞ」

ヴァン 「そうだね。僕は僕と同期をして僕を作ったがその過程で出来る塵芥は処理出来なかった。同期というパイプラインが切れてしまった今、散らばっていた筈の塵芥が整合性を持って僕をたまに凌駕する」

威津那 「訳の分からぬ事をつらつらと、何が言いたい。僕僕うるさいわ朴念仁めが」

ヴァン 「皆は僕を、君臨勇者、ヴァンハーフ、共犯者、様々な名称で呼んでいるが・・・、そのどれにも属さない人格が存在するという事だよ」

威津那 「呼び名などどうでも良かろう?」

ヴァン 「それもそうだね。お互いに利用しあうのみ、君は君の願いをかなえる時だ。全シークエンス完了。妖力に異常なし、バイタルも誤差範囲内だ」

威津那 「くふふははは、力が漲(みなぎ)る。疾く彼奴等の首を狩り、邪魔な人間共を始末して新しい眷属の住処を作らねば」

ヴァン 「気が逸(はや)るのは君の悪い癖だね。とはいえ、時期が時期だ。そろそろ仕上げと行こうか」

 

 

 

キバイラ「うちら、今戦って化け物倒してるけどね。これ程無駄な事はないんよ」

椿   「無駄なんですか? けど毒蜘蛛は放置したら人を食べるし害を成すしいいことないって」

キバイラ「せやからよ。置き土産ちゅうて残してった化け物退治でうちら疲弊させて彼奴らはどこにおるんか知らんけど、じっくりゆっくり英気を養ってはる。腹立つことこの上ないわ」

椿   「それって、こちら側がただ力を浪費して、向こうは蓄えてって、じゃ・・・、今まともに対面したら」

キバイラ「ボロボロよ? やから蓮太郎君は休める時に休んで貰わなあかんの。都合よく今椿ちゃんのちゅーで眠気が来るくらいには回復したからゆっくり寝かしたったらええけど」

椿   「オティスさんやアニさんは大丈夫なんですか? その、キバイラさんも」

キバイラ「うちは大丈夫よ。蓮太郎君が作ってくれる特別製の『食事』と牡丹の愛情で常に満タンよ」

椿   「そですか」

キバイラ「オティスは元々が戦う為の体の作りしてはるし、アニちゃんもオティスと一緒に旅してそれに慣れてる。せやから一番気懸(きがか)りなんは蓮太郎君なんよ」

椿   「やっぱり、そうですよね。蓮太郎は・・・、敵と戦えるこの力に感謝してるって言うけど体は付いて行ってないんですよね?」

キバイラ「元々戦い慣れとるとは言え所詮対人やからな。化物相手にした付け焼刃の異能力、瞬発的な馬力はキチガイじみてるけど・・・、魔法使う為には鍛えてへんから体は悲鳴上げてる」

椿   「あたし、何が出来ますか?」

キバイラ「同衾が赦されてへんなら、なるべく沢山傍にいる事やな。今椿ちゃん蓮太郎君の事で頭いっぱいやろ」

椿   「・・・はい。情けないけど」

キバイラ「ええのよ、それで。桃夭姫(とうようき)ちゅうんがどんなもんかは知らへんかったけど、凄い力やわ。傍にいて力の流れが判る。椿ちゃんの呼吸や鼓動が気流となって蓮太郎君に力流れ込んではる」

椿   「傍にいるだけで・・・? いいんですか?」

キバイラ「そうみたいよ? 蓮太郎君が戦いに出てる間はなるべく沢山食べて、寝て、帰ってきたら傍にいる。うちも桃夭姫(とうようき)の英気欲しいけど、うちの方には頑として流れ込んで来いへん。全部蓮太郎君に流れ込んでるわ」

椿   「それはそれで、恥ずかしい・・・」

キバイラ「みぃんなそうやけど、特別な力使うちゅうのには等価対価がいる。今回の術やら魔法やらの対価は命の鼓動そのものや」

椿   「・・・っ」

キバイラ「あは、青褪めてしもてかわええな。つまり命の対価に釣り合わん魔力を使えば死ぬ。からくりは理解出来る?」

椿   「なんとなくだけど・・・、理解できてると思います」

キバイラ「椿ちゃんの桃夭姫(とうようき)の力ちゅうんはどうやら底なし、無尽蔵や。不足気味の睡眠でも関係あらへん」

椿   「でも、確か手の甲の痣から魔力供給が出来るんじゃないんですか?」

キバイラ「天狗やろ? 鞍馬かて生きてるんやから全部が全部蓮太郎君に流し込む訳にはいかんのよ。ついでに虬(みづち)や五位鷺(ごいさぎ)と協力して、低級妖怪を抑え込むんに奔走してはるから、尻尾増えた九尾に太刀打ちする程の妖力傾けるんは出来ひん。あくまで術式展開が本命の、魔力供給は補助支援や」

椿   「んぬーーー!!」

キバイラ「なんしてはるの?」

椿   「もっと沢山魔力供給できないかと思って念じてるの! ぬーーん!!」

キバイラ「ぷはっ! おもろい子やね。継続やで? 需要と供給は均衡保ってこそや。水瓶に水注いでも溢れた分は受け取れへんやろ?」

椿   「それでも・・・、あたしが戦闘について行けば足手纏いになる。離れたら魔力供給が途切れちゃうならどうしたって蓮太郎には限界があるって事でしょう?」

キバイラ「あんな椿ちゃん、生あるもの皆有限よ? 自分が無尽蔵やと聞いたからて他にそれ求めなや。それかて期間限定の有限やないの」

椿   「キバイラさん、なんとか蓮太郎にずっと魔力を注ぎ続ける方法ってないんですか?」

キバイラ「ない事はないよ? 勇者特権の方法使こたらええんやけどお勧めはせんよ」

椿   「あるんですか?! お勧めしないってどうして!」

キバイラ「椿ちゃん、肌の綺麗さは花魁の必須条件やろ。刺青なん入れられんやろ?」

椿   「刺青・・・。で、でも・・・、その、指を落として渡す妓もおりんす、だから」

キバイラ「そら客に対しての法螺(ほら)やろ。新粉(しんこ)の指くらい知っとうよ? 間夫に使こてええもんちゃうやろ」

椿   「・・・、それってあたしが蓮太郎と同じ模様を刺青したらいいって事ですか?」

キバイラ「頭回りすぎるんよあんさんはぁ!!」

椿   「やあああああ、頭振らないでぇ、目が回るぅ!!」

キバイラ「目ぇ回して今考えた事忘れるんよ! その方がえぇ!」

椿   「ヤメテェ・・・っ! ホントに、キバ・・・っ、お、おえぇええぇええぇええぇええ」

キバイラ「吐いたーーーー!?!?!ちょ、蓮太郎君にかかっとらん!?ああ平気やった!!」

椿   「ぎぼぢわるい・・・」

キバイラ「三半器官弱すぎちゃう?!」

椿   「キバイラさんが強いだけじゃないんですか・・・うえ」

キバイラ「なんにせよ、勧められたもんやあらへんよ。花の花魁に刺青なん聞いたことあらへんし、椿ちゃん自身の負荷も大きいよ」

椿   「私だけ助けてもらうのを待つのはもう嫌なの」

キバイラ「そないなことしたら、蓮太郎君や牡丹に何言われるか」

椿   「蓮太郎を強くするということは、牡丹姐さんを守ることにも繋がりんすよ」

キバイラ「そないなことせんでも、うちが居る」

椿   「わっちも、力になりたい。皆を守らせてくんなんし?」

キバイラ「はぁ~・・・。頑固やな。花魁で、肌一番目立たん部位ってどこやっけ」

椿   「キバイラさん!」

キバイラ「勘違いすなや!うちは勝算高い方を取ったまでや!うちは鬼やさかいな!」

椿   「急に鬼であることを鼓舞してきた」

 

キバイラ「しかし、後手に回り続けんのも癪に触るな。蜘蛛といえば、土蜘蛛に絡新婦(じょろうぐも)に・・・こっちの世界の物の怪は何が居るんや?ちょいと女将さんに本借りるか」

 

 

 

キバイラ「ふぅん・・・、今昔御伽草紙(こんじゃくおとぎそうし)、風土記(ふどき)、倭の国霊異記(くにれいいき)、古事記(こじき)・・・、なんぼ読んでも九尾については比較的詳しくても絡新婦(じょろうぐも)については詳しく書かれた文献はない。土蜘蛛はいても絡新婦(じょろうぐも)は居らん。人間において蜘蛛はそれ程脅威やないちゅうことかいな?」

オティス「なんだ? キバイラお前本読むのか? 丸眼鏡全然似合ってないぞ」

アニ  「お姉ちゃん目線で語るとみんな勉強家だよね」

オティス「え、そんなでもないよ?! 私だって少しくらいは読むよ?!」

キバイラ「脳ミソ筋肉仕様の原典は、なんも思わんの? 傑物、君臨勇者の妙な能力と性質について」

オティス「要るか? 脳ミソ筋肉仕様今要るか? 要らない会話だよな?!」

アニ  「お姉ちゃん、話逸らさない。大事な話だよ。珍しくキバイラさんがお姉ちゃんに相談してるんだよ?」

キバイラ「相談ちゅうか・・・、うちん知識と整合性が取れんから外部の頓智気な意見も大事っちゅうか」

アニ  「相談、という事にしようよ・・・、そこは。キバイラさん」

オティス「腹立つな!! ヴァンハーフの気持ち悪さは今に始まったことじゃないだろ?! 拍車かかってるけど!」

キバイラ「それや」

オティス「はぁ?」

キバイラ「拍車かかってんのや、気味の悪さに」

オティス「いや、まぁ、うん・・・、あり得ないくらい気持ち悪いってか――えぇ?! それだけでいいの?!」

キバイラ「転移の際に妙な絡新婦(じょろうぐも)の妖怪でも喰ろたんやろうとは思てた。けどそれだけやない気持ちの悪さ、悪臭」

アニ  「お風呂、入ってない、とか・・・?」

オティス「シンプルに汚い」

キバイラ「彼奴の入浴事情に興味あらへん。見目麗しい花魁の風呂は桃源郷やけど」

アニ  「・・・覗いたの?」

キバイラ「覗いてない、一緒に入った。問題あらへんやろ、うちかておなごやし」

オティス「お前は考えが不埒なんだよ! 問題ありありだ!」

キバイラ「彼奴の悪臭はあんさんの仲間のクソ魔術師思い出すんよ。女を蹂躙する事に愉悦(ゆえつ)見出したクソが」

オティス「アンドラに・・・? ヴァンハーフがか? 何かの関連性があるって事?」

キバイラ「根本的には違うよ。300年前の生きてる遺物なんうちと原典くらいや思てる。そうやなくて似てはるんは「クソ男」の方や」

アニ  「稀代の魔術師の夢を打ち砕かないでぇ~~・・・、アンドラさーん・・・」

オティス「魔術師としては純粋にすごいと思う、けどアニちゃん、あいつがすごいの魔法だけ。それ以外は最悪なんだよね」

アニ  「しくしくしく。あたしはこれから誰を目指したらいいの?」

オティス「私とか?」

アニ  「明確だね?」

キバイラ「それとな、奇天烈な君臨勇者が駄狐を復活させるだけに奔走してるなんあり得へんのよ」

アニ  「狐さんの復活が楽しくて援助してるんじゃないの?」

オティス「確かに、尻尾の数だけ強くはなっていっているだろうけど・・・、単純にその性質を経過観察するだけってのは地味すぎる気がするな」

キバイラ「せやろ? 駄狐は妖怪、嘘は付けん習性やから自分の復活の為に尽力を注いでると勘違いしてはる。けど、絶対にそれだけやない。駄狐の復活に乗じてとんでもない実験やら研究やら噛ませてる筈や」

アニ  「なんか、あの人のとんでもないっていつでも人の命がかかってるからあたしやだな」

オティス「あいつの好きにはさせないよ。研究をしてるってならそいつをぶっ潰す」

キバイラ「それと、女を狙うのは、まぁ性欲処理もあるけどそれだけやない何か」

オティス「女好きのヴァンハーフって最悪と最悪をかけたら結果論災厄でしかないじゃないか」

キバイラ「こんだけ何度も対立して全くその片鱗を見せへんのには感心するけど、それ故にデカい研究の筈や」

アニ  「心してかからないとね」

オティス「私はこの町の人達を守るって牡丹さんと約束をしたんだ」

キバイラ「望まれんくてもそうしたくせに。お人好しの災害やで」

オティス「私はお前みたいに簡単に心変わりしないの。まあ今回は都合よかったから見てみないふりしてるけど」

キバイラ「・・・うちはあんさんを赦さん。珠酊院(しゅていいん)のことも、鬼灯島(ほおずきじま)のことも」

オティス「そりゃお互い様だ。私もお前を赦さないよ」

 

 

 

アニ  「じゃじゃーん! 椿さんみてみて! 蓮太郎さんに教えて貰って花魁さん用の御膳を作ってみたのです!」

椿   「うわぁ・・・、美味しそう・・・。アジの三杯酢でありんすね。汁物はハマグリと三つ葉のお吸い物、お煮しめも美味しそう」

蓮太郎 「元々料理が得意だって聞いたから簡単に教えただけなんだけど、丁寧に作ってた」

アニ  「こっちはきんぴらごぼう、ササガキがすごく難しくてホントはちょっと指を削っちゃった」

椿   「痛そう、ていうか良く指落とさなかったね、蓮太郎の包丁よく切れるでしょう?」

アニ  「へへーん、実はあたし専用の包丁をプレゼントで貰ったのです! すごく嬉しい。砥石(といし)も貰っちゃったんだ」

蓮太郎 「丁度水菓子で美味しい梨も手に入ったから皮むき競争させられたよ」

椿   「で? どっちが勝ったの?」

アニ  「さすがに早いっていうか、足元にも及びませんでしたー・・・」

椿   「それはそうよね。ていうか蓮太郎真剣にやるなんて大人げないよ?」

蓮太郎 「つい熱くなった。手加減すればよかったんだけど」

アニ  「それで勝っても全然嬉しくないよ」

椿   「じゃあ、ちゃんと持って行ってあげて? こんな美味しそうな御膳、目の前に出されてるとお腹空いてきちゃう」

アニ  「これ、椿さんに作ったんだよ?」

椿   「え? でもあたしお金は」

蓮太郎 「アニさんが自分の賃金で用意したんだ。俺が出すって言ったけど聞かない」

椿   「じゃあ、オティスさんに食べて貰ったらいいのに」

アニ  「椿さんちょっとお耳貸して?」

椿   「え・・・?」

アニ  「お姉ちゃんはー、お肉が食べたいって言ったからー、猪肉でー牡丹鍋を作りました(小声)」

椿   「ふぇ?!」

蓮太郎 「しー・・・」

椿   「じゃあ、有難く戴きます」

アニ  「へへっ! 実食!」

蓮太郎 「アニさんは実際の客に出す料理や花魁用は任せられないけど、洗い物や後片付けと、集合用の料理を全般的にやってくれるんでしっかり働いて賃金を稼いでる」

椿   「あ、アジ美味しい・・・、ご飯が進む。お野菜も一緒に三杯酢に漬けこんであるから歯ごたえもあって食べやすい」

アニ  「ホント? ホント? これはあたしが自分で考えたの! 良かった!」

蓮太郎 「・・・ん・・・、・・・そうだな」

椿   「アニさんは食べないんでありんすか? ん、ん・・・、味は美味しい・・・、けど」

アニ  「え? なんか問題あった? 骨も毛抜きで全部抜いた筈なんだけど、残ってる?」

椿   「青魚の、臭みが・・・、んっ」

アニ  「え? え? そ、そうなの? しっかり焼いてから三杯酢に浸すので消えるって聞いたから、あの」

蓮太郎 「アニさん、違いますよ」

アニ  「何か工程間違えた? あの、えっと」

蓮太郎「済みません、アニさん。椿は元々酢の物が苦手なので三杯酢でも酢の分量を減らして調節するんですが今回少し多めにしました」

アニ  「へ? え、な、なんで? そんな嫌がらせみたいなことしたの? 喧嘩とかしてるの?」

蓮太郎 「逆にアジは椿の大好物で、この程度なら臭みなんて気にならない筈なんです。鮮度も良かったので」

アニ  「え? え? ごめんなさい・・・」

椿   「んっ、んぅ・・・、お・・・、ぅえ・・・、うっ」

アニ  「ええ?! そんな吐き気を催す程不味かった?! ご、ごめんなさい! すぐ下げるから」

蓮太郎 「・・・椿、お前、孕んでるんじゃないのか?」

アニ  「へあ?! は? はらんでる? って? なに?」

蓮太郎 「妊娠です。胎に子供がいる可能性です。食事で影響が出やすいのでアニさんの御膳、少し調節しました。済みません」

アニ  「赤ちゃん・・・? お腹に赤ちゃんがいるの?! え、うそ、お、お、お、おめでとう!」

椿   「そんな筈、ないよ・・・」

蓮太郎 「ここ二日程、食事の度に厠に駆け込んで、そんな筈ないが通用すると思っているのか?」

椿   「だって! 今月の司波先生の診察で孕んでなかったはずなんだもん! それからまだひと月も経ってないんだよ?!」

蓮太郎 「司波先生が誤診した可能性はないのか?」

椿   「司波先生が? 誤診? タカが妊娠の可能性を? 誤診? そんな筈ないでしょう?!」

アニ  「ああの、あのあの、喧嘩は良くないよ! っていうか・・・、椿さん、嬉しく・・・、ないの? 赤ちゃん・・・、だよ?」

蓮太郎 「もしも妊娠しているなら、堕胎しないといけません。女郎は、子供を産んではいけない」

アニ  「・・・え、それって・・・。赤ちゃん・・・、殺すの?」

蓮太郎 「はい」

アニ  「そんな! お、おかしいよ! なんで? やっぱりいろいろおかしいよこの町!! 椿さん達女の人をなんだと思ってるの?!」

蓮太郎 「妊娠すれば仕事に支障が出る。女性としての価値も下がる。ですから堕胎しないといけません、早急に」

椿   「妊娠なんてしてない、する筈がない! 絶対に、ない!」

アニ  「・・・、ごめんなさい、あたし、良く判らなくて、頭ん中ぐちゃぐちゃだよ・・・。ごめんなさい! お姉ちゃんとこ行く」

椿   「アニさん!! ぅ・・・っ! ぅえ・・・。・・・、食事は、とても美味しかったの・・・、・・・、ごめんなさい」

 

オティス「そっか、椿ちゃんが・・・まぁ、そういうこともあるとは思ってたよ」

アニ  「赤ちゃんを殺しちゃうなんて。なんで、そんなことになるんだろう?」

オティス「いろんな人から話を聞いてね、なんとなくこの世界について知れたんだ。人の価値が、あまり高くないのかもね」

アニ  「この世界がそう、ってこと?」

オティス「うん。子供を産んだとして、育てられるお金がないからこういうところに売ったり、他の家の子にしちゃったりする」

アニ  「え・・・な、なんで?家族なんでしょ!?」

オティス「私達の世界でもあった話じゃないよ、現にフラウは親に売られてフォルレに来たんだ。けど、ここはもっと顕著だね。家を継いでくれる長男以外は大切な家族どころか、端金(はしたがね)になる果実かお金を食いつぶす虫と同じようなものだって」

アニ  「でも、それじゃあ・・・・なんのために?」

オティス「生まれながら、人の価値が決められた世界。価値がないと定められた人たちも、それでもなんとかして生きていくしかないんだ」

アニ  「家族で一緒に居られないくらいには、みんな大変なんだね」

オティス「あと、娯楽的なものが少ない気はしてる。だから、その、なんだ・・・こういうところに来るしか楽しみがない人もいるのかも」

アニ  「赤ちゃんができたら殺しちゃったりもするのに、そんなことを続けなきゃ生きていけないんだね」

ヴァン 「そうだね。君は鳥かごの中の青い鳥、愛でられ慈しまれて生きてこられたことを当たり前と思ってはいけないよ」

オティス「・・・ようやく出たな。てっきり拾い食いした団子で食中毒でも起こしたのかと思ってた」

ヴァン 「この赤い檻に囚われ、気付いたはずだろう。世界がどのように動いているか。命を食いつぶし金と愛欲を生む構造に」

オティス「そうだね。ろくでもないとは思うよ」

ヴァン 「変わらなくてはいけない。そうは思わないかな?」

オティス「なんだ、宣戦布告にきたわけじゃないんだな」

ヴァン 「ああ、宣戦布告さ。まずはこの若山からひっくり返す。だが・・・君とは志を共にできるんじゃないかと、改めて意思を確認したくてね」

オティス「・・・はぁ?」

ヴァン 「僕たちがこの町に来た理由はなんだろうか。原典の勇者、その随伴者。君たちが縁も所縁(ゆかり)もない世界の一部となったのはどうしてだろうか」

オティス「そりゃ、お前を止めるためだ。九尾を殺すためだ。椿ちゃんや蓮太郎、皆を守るためだ!」

ヴァン 「そう、救うために君たちは呼ばれた。ここの住人では成しえない、枠組みを壊すためにね」

アニ  「枠組み・・・それって」

ヴァン 「目の前の命を拾い続ける、それも結構なことだ。けどね、それが本当に救いになるのかな? 手で掬(すく)い切れない、零れ落ちる命は救えない。躑躅や桔梗、鈴蘭のようにね」

オティス「だから、お前に協力しろと?命を奪い、欲のままに食いつぶすだけのお前たちに協力しろと!?」

ヴァン 「視野を広く持つんだ。臓器くじという思考実験を聞いたことは?多のために小を殺すことは正義か?」

オティス「命はおもちゃじゃないんだぞ!」

ヴァン 「改めて問おう。僕とともに来てくれないか。この世界を転覆させ、囚われた人々を救い出す。協力してはくれないかな」

オティス「ふざけるな!」

ヴァン 「そうか、残念だ。一応教えておくと、この『僕』は君に伝言を伝えるためだけに用意した端末だ。ただの人間だ――よ」

アニ  「あ!倒れちゃった!」

オティス「これは・・・うん、知らない人だ。華屋の紋入りの服・・・若衆の人かな。連れて行こう」

アニ  「わかった!こっち持つよ・・・お姉ちゃんは、何が正解だと思う?」

オティス「・・・そりゃ、全てを救えるならどれだけいいんだって話だよ。それが出来ないからこそ、この町を守り通すって決めたんだ」

 

 

 

椿   「刀の手入れ? 好きなんだね、刀・・・」

蓮太郎 「椿、寝てなくて大丈夫なのか? ・・・、体調優れないんだろう?」

椿   「休んでばかり、借金も今月は返せないかな・・・? ダメだね、あたし」

蓮太郎 「仕方ないだろう? 状況が状況なんだ。今年に入ってから滅茶苦茶だな」

椿   「その刀、不思議ね。刀身は普通青光りする筈なのに、なんとなく緑の光彩が入っててとても綺麗」

蓮太郎 「だから柳の名前がついているんだと思うけど。大小拵(だいしょうこしら)えの打ち刀、俺にとって縁のある人、か・・・」

椿   「お父さんは色々と秘密を抱え込んだまま逝ってしまったものね」

蓮太郎 「判らない事は今更どうしようもないから考えても無駄だけど。・・・っ?! りん? どうしたいきなり抱き着いて」

椿   「死なないで」

蓮太郎 「死ぬものか。そんな事を言いに来たのか? 例え完全覚醒をした狐でも俺はりんを守る為に戦う。死んだりしない」

椿   「戦って欲しくない。いっそオティスさんとキバイラさんに任せて蓮太郎は・・・」

蓮太郎 「馬鹿な事を言うな」

椿   「いつだって、蓮太郎はあたしの心配なんてそっちのけで戦いに行っちゃう。その度に心臓が潰れそうなくらい不安なのに」

蓮太郎 「心配は判る。だけど俺にりんを守る力があるのには理由がある。ちゃんと守らせてくれ」

椿   「やだって言ったら聞いてくれるの?」

蓮太郎 「・・・、無理だけど」

椿   「じゃあ聞かないでよ」

蓮太郎 「キバイラさんやオティスさんに戦う力があるのは判ってるしとても強い事も知ってる。だけど心の底から信用なんて出来ない。いつだってあの人達には別の本懐があってその為に油断したり手を抜く事もあるだろうと思ってる」

椿   「アニさんが聞いたら怒るよ?」

蓮太郎 「そうだな。でも例えばアニさんを人質に取られたらオティスさんは動けなくなる。その時に躊躇わずに戦えるのは俺しかいないんだ」

椿   「でもね・・・、でも、あたしは蓮太郎が傷だらけで倒れこむ姿はもう見たくないの」

蓮太郎 「もう、そんな風にはならない」

椿   「そんなの判らないでしょう? 蓮太郎がもう戦わずに済むならいっそあたしをさっさと妖怪に渡してしまえばいいじゃない」

蓮太郎 「・・・何を、言っているんだ?」

椿   「妖怪の餌、滋養。あたしをあいつらに渡して、そうしたら妖怪達が争うだけで人間に被害は及ばないでしょう? そうしたら誰ももう傷付かない。蓮太郎も戦う事ないじゃない」

蓮太郎 「もう一度言ったら怒るぞ」

椿   「蓮太郎が傷だらけになるの嫌だよ、見てるのが辛い。もう投げ出してしまってもいいから、戦いに行かないで」

蓮太郎 「何を投げ出す? りんをか、いい加減にしろ。連中にりんを渡して俺が安穏(あんのん)として生きて行けると思うか。少なくとも俺は今までりんが傍にいるから心が折れそうになっても生きて来られた。その生き甲斐や心の支えを無くして俺に生きる意味があると思うのか? ずっと傍にいると約束した、傍に居てと言った。その約束をりんが破るのか。自ら俺から離れようとする気か? 正気で言っているのか?」

椿   「死ぬかもしれないんだよ?! それをあたしに見続けろって言うの?」

蓮太郎 「俺は死なない」

椿   「そんなの判らないじゃない!!」

蓮太郎 「俺が死んだらりんを奪われる。どんな卑怯な手を使っても決して死なない。約束するから、もう二度と離れようとするな」

椿   「じゃあ・・・、せめて。あたしを『食べて』よ」

蓮太郎 「・・・っ」

椿   「蓮太郎が滋養としての道具にしない為に我慢してる事くらい知ってる。でもそれじゃ万全じゃないでしょう? あたしの力が蓮太郎の力になるなら万全で望んで欲しいの」

蓮太郎 「けど」

椿   「それに、最近蓮太郎から接吻けして貰ってない。単純に寂しい」

蓮太郎 「・・・歯止めが利かなくなっても、知らないからな」

椿   「うん・・・。蓮太郎になら、何されても平気だもの」

 

 

 

ヴァン 「完全体とはかくも美しく整合性の取れた形になるのだね。魔力強度が桁違いだ」

威津那 「爪の先まで力が流れ込む。髪の一本一本までが妾の意思に従う。あぁ、この感覚久し振りじゃのぉ」

ヴァン 「審判の日は来たれり。さぁ、威津那共に行こう」

威津那 「くふふふふ・・・、さて、どの順番で血祭りにあげてくれようか」

ヴァン 「猛り狂うその力の全てを彼らに注ぎ込むといい」

威津那 「そうじゃ、まずはあの忌々しい力を持った小童じゃ」

ヴァン 「随分と辛酸を舐めさせられたのだから存分に返せばいいよ」

威津那 「あぁ、いや、あの小童は最後じゃ。最後の楽しみに取っておきたい。ならば妾をタカが木の棒で叩き潰した原典じゃ」

ヴァン 「あぁ、済まないね。彼女は僕の検証がまだ終わっていないんだ。だから虫の息でもいいほんの少し生を留めてはくれないか」

威津那 「聞かぬわ、その様な戯言(ざれごと)。何ゆえ妾がそなたの検証とやらに付き合わねばならぬ」

ヴァン 「利かん気が強い。なら僕はギリギリの所で原典を確保するとしよう」

威津那 「勝手にするがよい。そなたが原典を確保するというならばそれも良かろう。弱って手足の利かぬ原典の目の前であの少女の血を啜り妾の糧としてくれようぞ」

ヴァン 「それはいいね。仮にも魔法使い、魔力の運び方は体がよく知っている。その血は他を凌駕するだろう」

威津那 「青褪めて冷たくなった四肢を引き裂いて爪痕を遺して原典に掻き抱かせてやろうではないか」

ヴァン 「残酷な真似をするね。嫌いではないよ」

威津那 「そしてあの腸の煮え繰り返る鬼よ。鬼の分際で天狗と手を結ぶなど笑止千万、矜持もあったものではないな」

ヴァン 「キバイラか・・・。ふむ、女性としては魅力的だとは思うが少々狂暴すぎるね」

威津那 「ならば妾が弱らせてやろうか? 弱らせてあの美貌を保ったまま身体の自由を奪いそなたが凌辱するといい」

ヴァン 「考えた事もなかったが、悪くない」

威津那 「くふふ、自由を奪われか弱いおなごの様に泣き喚く鬼をそなたが辱める、良い宴になりそうじゃ。酒の用意をせねばならぬな? 全ての矜持を失った鬼を屠(ほふ)る為の」

ヴァン 「あぁ、ダメだその様な甘い誘惑はあまり口にしないでくれないか。戦略に身が入らなくなる」

威津那 「ほざけ、好き者が」

ヴァン 「君という個体の完全体を作り上げたんだ。満足しているよ」

威津那 「じゃが、忘れておらぬじゃろうな?」

ヴァン 「勿論だよ。僕の目的は君の眷属を増やす事、それに乗じて可能な実験を試みてはいるが本懐を忘れてはいないよ」

威津那 「くふふ、そろそろ参ろうかの」

ヴァン 「この町を掌握する為に必要なのは僕達の研究と悲願を邪魔する者達の排除だ。それを忘れないで欲しい」

威津那 「無論じゃ。妾の眷属で溢れたこの町で妖怪の頂点に立ち虬(みづち)や五位(ごい)鷺(さぎ)までも従わせる」

ヴァン 「その為に必要なのは『桃夭姫(とうようき)』と、なるべく健康で若い女――あぁ出来るなら従順な子が好ましいね。男は要らないよ、全て排除でいい」

威津那 「良い天気じゃ。この夜空に血の雨を降らせに参ろう」

 

 

 

威津那 「今宵は、月が綺麗じゃのう?」

蓮太郎 「・・・これで、最期ですよ」

威津那 「転がるは妾の骸か其方らの骸か。くは、その面を見るのも最期か、少々惜しいのぅ?」

キバイラ「そうやねぇ。間抜けな死に顔拝んで、それ肴に酒でも飲むわ」

オティス「お前の首は私が獲る、邪魔するなよキバイラ」

キバイラ「駄狐はうちが狩る、原典こそ邪魔せんといて」

蓮太郎 「協力しましょう。せめて今だけでも」

ヴァン 「相変わらず玉石混交のパーティだね。救国の英雄に鬼の首魁、魔法使い見習いに料理番か」」

威津那 「ひとまず検討の余地は与えよう。桃夭姫(とうようき)を妾に差し出せ、したらば楽に殺してやろう」

オティス「は、飲むとでも思ったのか?」

キバイラ「あんさんには油揚げすら勿体ないわ。口寂しいなら泥水でも飲んだらどうや」

蓮太郎 「油揚げは女郎の貴重な朝ご飯のおかずですから」

アニ  「お姉ちゃん! 後方支援は任せて! 突貫バリア超絶分厚いの作るから!!」

キバイラ「・・・、待って、アニちゃんそれ小っさい!」

アニ  「凝縮して厚みを出したの! だから小さいけどちゃんと移動しながら守るよ!」

ヴァン 「だから君はまだ未熟なんだ。最小限で最大の守り、実に効率的だが風情がない。魔法陣展開」

アニ  「風情?! 風情って言った?! 気持ち悪っ?!」

ヴァン 「それを言いたいだけじゃないのかい?」

威津那 「そうか――いやはや、安心したわ。これで心置きなく、貴様らを切り裂けるというものじゃ!」

キバイラ「せや! 忘れてた! 原典、アニちゃん!! 喰らえ!」

オティス「・・・は?! なんで?!」

アニ  「あ痛ぁあああああ!! 何するの?! って・・・、これ、蓮太郎さんの紋章と同じ形・・・?」 

ヴァン 「・・・成程ね。その理論には見覚えがある」 

キバイラ「うちらには魔力炉があるんよ。忘れんといて」

蓮太郎 「その言い方、やめてください」

キバイラ「本人の希望や。あんさんが尊重せんで何が間夫よ」

蓮太郎 「椿が・・・?」

キバイラ「戦いに出るあんさんの背中をただ見てるだけは辛い。同じ場所に立てなくても共にありたい、その願いをあんさんに否定されたら誰が椿ちゃんの味方になれるんよ」

オティス「何はともあれ助かった!キバイラの癖にたまにはいいことするな!」

椿   「オティスさーん!! 思いっきり使っていいからねーぇ!! はむ、もぐもぐ、んっくん」

アニ  「なんか食べてるーー!?」

蓮太郎 「それで、おにぎり20個も作らされたんだ?」

ヴァン 「そうか、そうか。ますます興味深いな。桃夭姫(とうようき)、彼女さえ手に入れば確かめられる。聖遺物の創造、完全なる生命体の設計。まだ僕が成しえていない奇跡を手に掴むために――」

威津那 「文言などどうでもよいわ!くはは、捕らぬ狸の皮算用なぞ言語道断!我はかつてこの日本を支配せんとした九尾狐!」

アニ  「じゃあ、支配できなかったんだね!また失敗させてあげるよ!」

キバイラ「誰やったかな、陰陽師の『安部泰成(あべのやすなり)』に封印されたんよな? 殺生石に。獲らぬ狸の皮算用はどっちかいな?」

蓮太郎 「全て、終わりにしますよ。この夜に」

ヴァン 「終わらせないさ。君臨せし僕が、新たな玉座を用意するからね。さあ、天秤にかけようか。『裁定の黄金と剣(アストラ・イヤーグラム)』」

威津那 「くふふ、そちらに桃夭姫(とうようき)がいるからとタカを括って討ち損ねるがいいわ。この共犯者は傑物、妖怪共から無限に妖力を吸い取るとかいう自家製の魔力炉とかいうのを作りおったのじゃ! 無限の魔力そなたらだけだと思うまいぞ!」

オティス「へぇ、じゃあお互いの地力のぶつけ合いか!そりゃあいい!」

ヴァン 「天秤が傾けば、片方が沈み片方が浮く。それが理(ことわり)――暴れるといい。裁定者はこの僕だ。『金の重し(アストラ・ユースティティア)』」

蓮太郎 「椿、無茶して食べ過ぎるな。お前・・・」

椿   「大丈夫だよ、加減してる」

ヴァン 「・・・そうか・・・、そうか。僕の実験は無駄じゃなかった。無事に成果が出ている、僥倖だ。斯くも命とは美しいものだ。もっと知りたい、見たいな。ああ、死ねないな。死ぬわけにはいかないようだ」

オティス「お生憎様!ここがお前の終幕だよ!」

ヴァン 「行っただろう、この戦場の天秤を握るのは僕だよ。『黒の意思(ヘカテー・ツァー)』」

オティス「逃がすか!っと・・・あれ」

ヴァン 「魔力で強化されるならば、君に集まる魔力を制限すればいい。簡単な話だ、ろう!」

オティス「っ!?て・・・珍しい。お前が「殴る」なんてな」

ヴァン 「かかる灰くらい払うさ。僕をただの魔法使いと思わないほうがいい」

蓮太郎 「部屋から出るんじゃないぞ。必ず守る」

椿   「・・・うん。気を付けて。怪我したらちゃんと後衛に入ってアニさんの治療を受けてね。本当は、傍にいたいけど」

キバイラ「イチャイチャ・・・、すんなぼけぇ!!『一条(いちじょう)・綱断(つなだ)ちの刃』!」

威津那 「それは散々見たわ!楽しいのう楽しいのう!殺生石の下では味わえぬ愉悦、悦楽!貴様の腸は何色じゃ!」

蓮太郎 「まずは小手試しですね。『烈千氷刃(れつせんひょうじん)・弧光陣(ここうじん)』!!」

威津那 「その様な小手先の技が妾に届くと思うな! 『九尾・螺旋円陣(らせんえんじん)源氏車、乱れ討ち』!!」

蓮太郎 「・・・っく! 粉砕?!」

アニ  「あっさり相殺した!?気を付けて!今までと比較にならないよ!」

威津那 「人も町も纏めて焼き払ってくれるわ!『竜頭炎神(りゅうとうえんじん)・八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』!!」

蓮太郎 「くそ・・・っ!『氷塊乱舞(ひょうかいらんぶ)』!!『氷壁(ひょうへき)・縦横展開』!!」

威津那 「くふぁはははは!! 守りが手一杯か!! 狂い舞い踊れ!!『深淵火炎(しんえんかえん)・獅子舞(ししまい)』!!」

キバイラ「半歩退きや!『八塩折華(やしおりばな)・天叢雲(あまのむらくも)』!!」

威津那 「くふぁはははは!! 鬼が消火活動に手いっぱいか! 滑稽じゃのぉ?!」

キバイラ「言うたやろ!! なんもかんも壊し尽くす! 物の価値の判らん駄狐が! 町を焼かせたりせぇへん!!」

威津那 「所詮人間とは相容れぬ鬼が!! いっぱしに英雄にでもなった積もりか!」

蓮太郎 「キバイラさん展開範囲に入ってしまう! 飛んで下さい!! 『後刃(こうじん)・氷結槍(ひょうけっそう)』!!」

キバイラ「詠唱時間短縮、明らかに膂力上がってはる。いい傾向や」

威津那 「その技も見たわ! 『九尾・火炎竜、渦巻き』!!」

蓮太郎 「この程度では文字通り焼け石に水ですね」

アニ  「お姉ちゃん!!」

オティス「・・・くっ!!」

ヴァン 「威津那の戦闘だからね、僕は後衛をやろうとは思ったがさすがに前衛部隊が3対1ではハンデが有り過ぎだろう?」

オティス「蹴りで七星剣を飛ばされた・・・。なんだ、この脚力・・・、腕にビリビリと振動が・・・」

アニ  「どういう事? ヴァンハーフが魔法じゃなくて格闘で戦うだなんて!!」

オティス「徒手空拳で戦うお前なんて聞いたことないぞ! どういう事だ」

ヴァン 「謎解きは後程付き合ってあげよう。『魔の鎖』。さぁ、七星剣はこちらに預かった、その心許ない剣で戦うといい」

アニ  「お姉ちゃん、大丈夫?! 腕!」

オティス「大丈夫だよ、直接腕を攻撃された訳じゃない」

アニ  「良かった、打撲とかって目に見えにくいから痛覚のないお姉ちゃんだと怪我の具合が判らないんだよ」

オティス「だけど、これだけの攻撃力を持っていながら後衛だと?! 馬鹿にするな!」

ヴァン 「何かな? 僕が素手で攻撃するのがそんなに気に入らないのかな?」

キバイラ「元の体の性質や。次元違うから同期するラインが細くなって元の人間が浮上しとるんや!」

オティス「なるほど? 元の体の持ち主は武闘家という訳か」

アニ  「・・・? え、でも・・・、プリメロにそんな人・・・、居なかったけど?」

オティス「は? なんでプリメロ?」

ヴァン 「気に入らないというなら元に戻してあげよう。『終末期を告げる笛(ギャラル・ベル・ゼール)』」

アニ  「うわぁあああぁああああ!! この技嫌いだよ!! ぃいやぁあぁあああぁああ!!」

オティス「おっふ、蜘蛛と糸がぐるぐる巻き! 転ぶって!! お前!! ホント嫌がらせの才能が爆上がりしてるぞ!!」

威津那 「蜘蛛が苦手ときゃーきゃー喚き立てるなどまるで力の及ばぬ少女よ。喰らえ『蒼炎(そうえん)・竜牙(りゅうが)、饗宴(きょうえん)の舞(まい)』!!」

キバイラ「ぐぁ!!」

アニ  「きゃあぁあぁああ!!」

蓮太郎 「ぅぐっ!!」

オティス「がっ!!」

椿   「蓮太郎!! オティスさん!! アニさん・・・、キバイラさん!! そんな・・・、蒼い炎を一度に四本も操るなんて・・・。どれだけ成長したの・・・?」

威津那 「くはははは!! 地力のぶつけ合いなどと戯言を抜かしおったな? 完全覚醒した妾に太刀打ち出来ると思うたか!」

オティス「くそ・・・っ! まともに横っ腹喰らった。蓮太郎、キバイラ・・・、アニちゃん?」

アニ  「あたしは防御壁で抑えたから大丈夫!! 蓮太郎さんとキバイラさんは?!」

蓮太郎 「氷壁が・・・、一瞬で溶けて・・・、くそ・・・っ!」

キバイラ「駄狐が・・・、舐めた真似しくさって・・・!」

威津那 「お主は出会いから散々馬鹿にしてくれたの? 鬼風情が、妾になんと申した? もう一度聞いてやる! 申してみよ!」

キバイラ「ぐぁあぁあぁあ!!」

蓮太郎 「キバイラさん、手を・・・っ!」

キバイラ「手ぇ踏みつけて・・・、馬鹿にされたんがそない癪に障ったん? ざまぁないわ! 駄狐は明け方の残飯でも漁ってればええんよ! 人の力もなしに復活一つできひん癖に偉そうに喚き散らしてみっともない事この上あれへん」

威津那 「そうじゃったな? 確かお主の酒が殺生石の解呪をしたのじゃったな? 妾復活への貢献褒めて遣わそう。もう、用無しじゃ。消えてたもれ? 『焔神(えんじん)・柱落とし』」

キバイラ「ぐわぁあああぁああああ!?」

蓮太郎 「キバイラさん!! 『波紋氷結(はもんひょうけつ)・手裏剣(しゅりけん)』!!」

威津那 「小僧!! 小賢しい邪魔をするでない!! 『螺旋炎神(らせんえんじん)・千枚葉(せんまいば)』!!」

ヴァン 「威津那一人に二人がかりとは、底力も知れるというものだね。だが、見過ごす訳にはいかない。少し、大人しくしていてくれないか『神を貶めし旗(アラクネー・シュラウド)』!!」

蓮太郎 「また蜘蛛の糸で拘束ですか、避けますよ。何度も引っ掛かったりしない。『凍氷蓮華(とうひょうれんげ)・飛苦無(ひくない)』」

ヴァン 「いいね、その身軽さは君特有のモノらしい。どうして君が力を出し渋っているのか読めないのもまた興味深い」

オティス「お前の相手は私だ! ヴァンハーフ!!」

アニ  「お姉ちゃん! ダメだよ、先陣に立ってたお姉ちゃんが一番抉られてるんだから!!」

ヴァン 「いいだろう、相手してあげるよ」

オティス「なんだよ、ファイティングポーズなんて取って! また徒手で来る積もりか!」

ヴァン 「いいや? それでは面白くないだろう? 下段蹴りからの中段返しというのはどうだい?」

オティス「がはっ! ぐぁ!! やっぱりお前嫌いだ!! なんだよ! いったい何者なんだ!」

ヴァン 「さぁ? ネタばらしはもう少し後だと言っただろう? そう、人体というのは複雑な様で実はそれほど難しい作りをしている訳ではないんだ」

アニ  「お姉ちゃん!! 足を退けてよ!! 踏み付けるなんて最低!!」

ヴァン 「邪魔は良くないよ、ほら君だって遠慮なく蹴り飛ばす」

アニ  「んきゃあああ!!」

オティス「アニちゃん!! お前!! 子供蹴り飛ばすなんてどういう積もりだ!!」

蓮太郎 「アニさん!! ・・・っ!」

アニ  「蓮太郎さん、あ、ありがとう。う・・・っ、ぁ、クラってし・・・、気持ち悪・・・」

蓮太郎 「動かないで下さい! 蹴りで脳が揺れたんです」

ヴァン 「ここは戦場だよ? 子供だから遠慮しろなんて通用しない。そうだ、人体の続きだね? こうして肩甲骨を踏み付け逆手を取れば腕は肩ごと簡単に砕ける」

オティス「あっ、ちっくしょ・・・、嫌な音したな・・・」

ヴァン 「更に肘を手刀で垂直に打てば、右腕は使い物にならなくなる」

オティス「人の体ボキボキと・・・!! 腕を・・・、使えなくして、どういう積もりだ・・・、アニ・・・ちゃん」

ヴァン 「君は剣の使い手だ。怖ろしいから封じたんだ。単純明快だろう?」

蓮太郎 「魔法も格闘も両方抑えてるとは存じ上げませんでしたよ」

ヴァン 「調査不足は敗因の最たるものだよ? 僕は何度も君を調査した。君が怖いからさ、未知数というのはいつでも恐怖を植え付ける。どうして小手先の技で逃げ回っているのかな? 仲間は全員重症だよ?」

蓮太郎 「どうして、それだけの能力を持ちながら九尾狐の共犯などなさっているんですか。あなたがこの町を落とすというならまだしも、どうしてその権利をただの妖怪に渡す」

ヴァン 「ここは威津那の眷属が棲(す)む予定だった地だそうだからね。彼女に返してあげようと思ったんだ」

蓮太郎 「慈善事業の筈はないだろう、何の為だ」

ヴァン 「あぁそうか・・・。所詮は結束のない集まりだったね。君は桃夭姫(とうようき)を守る為に他がどれだけ犠牲になっても倒れる訳には行かない。戦場で勝利を抑えるのは卑怯者と臆病者と相場が決まっていた」

アニ  「え・・・」

ヴァン 「彼はね、例え君の大切なお姉ちゃんが死んでも、桃夭姫(とうようき)を守れればいいと思っているんだよ。命を懸けてこの価値のない町を守ろうとする君のお姉ちゃんは戦争の前座に差し出したんだ」

アニ  「・・・、蓮太郎さん・・・、そうなの?」

蓮太郎 「そうです」

アニ  「・・・どうして?」

オティス「それでいいよ、蓮太郎・・・。椿ちゃんを最後まで守り切れるのは蓮太郎しかいないんだから」

蓮太郎 「敵が無尽蔵の妖力を開発しているならこちらも同じ条件、先に疲弊した方の負けです。ですが椿と最も繋がりの深い俺が大きな技を使えばそれだけ椿に負荷が掛かる。それなら細い繋がりのオティスさんやキバイラさんで敵の膂力を削減した方が効率がいい。アニさんは回復と防御を担っているから倒れられては困る」

アニ  「・・・そんなの!! ・・・お姉ちゃんは使い捨ての駒じゃないよ!!」

キバイラ「これだから幼稚な感情論持つ子は役立たずや・・・」

アニ  「キバイラさんだって使い捨てにされたって事だよ?! それでいいの?!」

キバイラ「使い捨て言う考えが既に幼稚や言うてんのや! 蓮太郎君の考えは兵法や! そないな事も判らへんのかいな!」

アニ  「兵法って・・・! 人を犠牲にして戦法を立てる事なの?! 違うでしょう?!」

オティス「アニちゃん、蓮太郎は私達を信頼してくれてるんだよ? 耐えられると知ってるから。それを判ってるから私もキバイラも前に出た。それは判る・・・?」

アニ  「お姉ちゃん達は知ってたの?」

ヴァン 「絆の確かめ合いは済んだかな? そろそろ終わりにしてもいいだろうか」

キバイラ「あぁ、そん前に・・・、聞き捨てならん事聞いた気がするわ」

ヴァン 「何かな?」

キバイラ「ここが駄狐の地やて・・・? そないな事吠えてたんは聞き違いやあらへんな?」

ヴァン 「相違があるのかい?」

キバイラ「阿保抜かしなや! ここは昔鬼灯島だった島や!! 人ん島やないならうちの島や!! 駄狐には砂一粒落ち葉一枚渡さへん!」

威津那 「いい加減、潰れてしまえ! クソ鬼が!」

キバイラ「珠酊院が命懸けて守ったこん島を駄狐に渡す積もりは毛頭あらへん! 『蛇覇羅(じゃばら)・天下落磊(てんげらくらい)』!」

威津那 「なんじゃ?! その腕は」

キバイラ「駄狐が聖遺物や言うんならうちの腕も聖遺物や。えぇ塩梅の戦いやろ?」

威津那 「う、ぐ・・・? 何をした、足が動かぬ・・・」

ヴァン 「厄介な事をするね。手足が痺れる――神経毒の一種かな」

キバイラ「うちが毒使いやって事忘れてた筈はないやろ? 高濃度の毒や、噛みしめや」

ヴァン 「いや? 残念だが敵になった君の情報は余り残っていない。それ程脅威でもなかったのでね」

キバイラ「なんやて」

ヴァン 「気に障ったかな。済まない。随分な勉強家らしいが武力が追い付かないから頭脳戦に持ち込むのだろう?」

キバイラ「知った風な事言わんといてくらはる?」

ヴァン 「図星なんだね、いずれにしろ頭の片隅にはあったから対処法はあるさ」

キバイラ「うちの毒に対しての対処法かいな。やれるもんならやってみたらどない?」

ヴァン 「それはそうと忘れているのは君の方だね? 僕が何と共存したか知っているだろう。僕のばら撒いた蜘蛛達と戦ってきたのだから」

キバイラ「まさか・・・。あんさん・・・」

ヴァン 「毒使い同士、仲良くしようとは今更言えなくなってしまったね。『秩序を乱す蛇杖(キアリー・ア・ピオス)』」

キバイラ「毒消しの能力?! そないな技を・・・、獲得してはったんか!!」

ヴァン 「無論さ。毒の研究は下手をすれば町を町を滅ぼす。味方さえも滅ぼす可能性のある諸刃の剣、解毒の方法を構築しておくのは大前提ではないかな?」

アニ  「解毒の技・・・。それは」

ヴァン 「おや、脳の揺れは収まったかな? この戦いが終わってもこの地に立っている事が出来たら毒に関する僕の研究論文を君にあげよう」

アニ  「本気で、言っているの?」

ヴァン 「全ての人を救いたいという野望を持っている君には喉から手が出る程欲しいものだろう?」

アニ  「嘘だらけを書いたりしていない?」

ヴァン 「研究に嘘はつかないよ。信用するかしないかは君の自由だ。試しに、キバイラへ渾身の毒を注入してあげよう。この論文を読めば助けられるよ」

キバイラ「な・・・」

ヴァン 「死は罰ではなく救済である。永命を曇らせる鏃を掲げろ。『師殺しの矢(リバース・アンディホース)』」

キバイラ「ひぐ!?あが・・・、ひ、く・・・か、は、あ・・・ああああああああああ!」

威津那 「よいのぉ、よいのぉ? 毒なんぞ喰らいおって悶絶するのは楽しいか? 愉快か? 妾は非常に愉快じゃ、くははは」

オティス「右腕を折って戦力を封じた積もりか?! 馬鹿ハーフ!!」

威津那 「立ち上がらねば良いものを。愚か者め」

オティス「そうさ、だからこそ立ち上がる!それが私だ、九尾狐!」

威津那 「そこの小童の盾となり死ぬがいい。本気を出せぬで少々飽いておったところじゃ。覚悟は良いか」

オティス「そっちこそ!冥土の土産をくれてやる! 知ってるか、ふつう人間には腕が2本有るんだ!」

威津那 「何を当り前の事を言うておる?」

オティス「まだ剣を振れるってことさ、左腕とこの童子切があるからね!九本も尻尾いらないだろ?削ぎ落す!!」

威津那 「その刀は嫌いじゃ。妾を封じた陰陽師が使っておったわ。共犯者、あの剣も奪ってしまえ、妾は触れられぬ!」

ヴァン 「曰くつきか、ならば警戒するべきだね。『魔の鎖』」

オティス「そう来ると思った!切り裂け!『血吸・首断ちの刃(ボーンド・ザンネック)』!!」

威津那 「その程度防げぬと思うてか! 『九尾・壱ノ枝(いちのえ)、籠目御簾枝垂(かごめみすしだ)れ』!!」

オティス「っ、くそ!肩やられた!ああもうそういう鬱陶しい技ばっかり使うな!腹立つ!」

威津那 「そうかそうか、腹が立つか? 苛つくか? 愉快じゃの?」

オティス「はは、そこで思考止まるほど馬鹿じゃないんでね!」

威津那 「さて、特に技でもないが喰らえ! 『九尾・竜の如き舞え』!!」

オティス「世界を揺るがす鉄靴の如く!お生憎様、まだ終わんないさ!『黒き王を砕く双脚(マーシャ・ヴィザール)』」

威津那 「たかが蹴り飛ばすのに仰々しい名前を付けるな、鬱陶しい!」

オティス「ただの蹴りじゃあないんでね!自慢じゃないが全身兵器だぞ!」

威津那 「ほほぅ? 鬼が出るか蛇が出るか、あぁ鬼は毒を喰ろうて瀕死じゃったの? 『九尾・二重衣桁御簾(ふたえいこうみす)の舞(まい)」

オティス「あは、いっそ蛇にでも噛まれた方がまだ苦しいね!もう一発、『狼王失墜(バスタード・フェンリル)』!!」

ヴァン 「させないよ、『死を見張る番人(ティルティウム・ガルム)』。氷でも砕いておいてくれたまえ」

オティス「お前! 鬱陶しいぞさっきから!! 人の戦いに茶々ばかり入れて! 嫌がらせか? だったら逸ったな!」

蓮太郎 「『疾風迅雷(しっぷうじんらい)・凍氷刀剣五芒展開(とうひょうとうけんごぼうてんかい)』!! 穿て!!」

威津那 「あがっ!! この・・・、後衛に下がっておきながら」

オティス「視界が塞がる大規模攻撃は下策だ! 蓮太郎の存在を忘れてたね! さあ、年貢の納め時だ!」

威津那 「そこになおれぃ!! やはり生かしておけぬわ!! 小童!!」

アニ  「アニ式・挑発ミラージュ!残念だけどそっちじゃないよ!」

蓮太郎 「変なとこ攻撃してますね? 助かりました」

アニ  「いっけえええええええ!お姉ちゃああああああん!!」

ヴァン 「なら、辺りを吹き飛ばせば問題ないね。『邪竜を討ちし勇猛の剣(イミテーション・セブンカラーズ・レイヴンダガー)』、装填」

蓮太郎 「・・・っ?!」

アニ  「うきゃあああああ!! またお姉ちゃんの技真似したー!!パクリだーー!?」

椿   「蓮太郎!!」

蓮太郎 「椿!! 出て来るな!!」

椿   「蓮太郎は攻撃させない!!

オティス「椿ちゃん!! 危ない!!」

威津那 「共犯者!! 止めよ!! 立ち塞がる等!!」

ヴァン 「――と、これでは殺してしまうな。射角修正」

威津那 「おお、隣の家が吹き飛んだな。殺してはおらぬだろうな!?」

ヴァン 「魔力の波長に変化はない。死人は出ていないと思うよ」

威津那 「愛しい男を守る為とは言え我が身を盾にするとは愚か者の所業ぞ!」

椿   「だって、あなたたちにとって私は貴重なんでしょ? だから、殺したくないはず」

威津那 「殺す訳に参らぬ、それを逆手に取るとは小賢しい真似をしおって」

椿   「この場においてこれ以上の盾がある?私にだって、できることはあるもの!」

威津那 「この場を一旦収めた積もりの奸計なんともつまらぬ展開じゃ」

椿   「蓮太郎は殺させない! オティスさんも、キバイラさんも、アニさんも! 私の為に命懸けてくれた人を見殺しになんてしない」

威津那 「己の立場を理解しておらぬようじゃ。後々知ることとなろうがの」

椿   「あなたたちになんて絶対に負けない! オティスさん! やっちゃって!」

威津那 「な、原典めがまだ動くか! しかし素人よな! わざわざこちらに来ることを妾に教えてどうする!」

オティス「ああ、感謝するよ椿ちゃん! ナイス誘導だ!」

威津那 「んな!?後ろ!?土煙に紛れておったのか!」

椿   「そんなに馬鹿じゃないもの!見くびってくれてありがとう!」

威津那 「くそ、埃塗れで妾に歯向かうな! 『九尾・焔羅王尾螺旋舞(えんらおうびらせんまい)』」

オティス「さあ、三界を支配せし邪を払おうか!『狼王失墜・改(リオ・バスタード・フェンリル)』!!」

威津那 「この威力――猪の様じゃの!脳ミソまで筋肉で出来てると見えるわ!!」

蓮太郎 「アニさん!! 周囲に防御を!! 町が壊れる!! 『氷壁(ひょうへき)!! 縦横展開』!!」

アニ  「うわわわわわわ!!防御壁四重に張ったのにまだ衝撃が来るううううう!!」

オティス「か、は・・・ははは。漸く大人しくなった。じゃじゃ馬が」

威津那 「己・・・、おのれ! おのれおのれおのれぇえぇえぇえ!!」

オティス「蓮太郎動ける?ごめん、筋肉やった。動けそうにない」

蓮太郎 「・・・っ!!」

ヴァン 「桃夭姫(とうようき)はこちらに頂こうか。威津那、君は少し休憩したまえ。治癒の妖力を流し込む」

威津那 「まだ・・・、妾は負ける参らぬのじゃ・・・。眷属の夢、果たすまで・・・、次代を担うまで・・・」

アニ  「また一人で全部持ち逃げしようとして!させないんだから!」

ヴァン 「いいや? 逃げないよ? 最期だと言っただろう? 威津那も。この僕が戦ってあげよう」

アニ  「え・・・っ!お姉ちゃん!蓮太郎さん!退いて!」

ヴァン 「さぁ、予(かね)てからの疑問の答え合わせの時間と行こうか」

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