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堕ちて鬼灯、毒華喰んで燃ゆ -鬼妖異聞録- 10話 ~断罪(だんざい)~
男性2 女性8  上演時間:150分 作者:白鷹 / 嵩音ルイ

〇台本上演の利用規約について

 下記ページの利用規約を一読したうえで、規約を守れる方のみご利用ください。

 https://call-of-ruitaka.fanbox.cc/posts/1761504

牡丹 (♀)(25歳)

 

若山随一の大見世、華屋のお職であり椿の姐女郎。華やかな色気と優しさと雅さで道中を歩けば大輪の花の様だと男達を沸かせる。しなやかな色気の反面気風の良さを併せ持っており、自身の見世に害が及ぶと怒鳴り込む事もある。正義感が強く心根も優しいので汚濁したものを見ると非常に驚き、気分を害するところもある。

 

鬼狽羅 (♀)(22歳)

 

かつて鬼灯島に棲んでいた鬼一族の首魁。原典の勇者オティスとは300年前からの因縁がある。毒を使う事に長けており、医学にも精通する。ヴァンハーフに協力して九尾狐の威津那を殺生石の封印から解放するのに協力し、威津那の力により若山遊郭へ時空間移動させられた。言葉遣いは京弁。倭の国に鬼灯島の面影を重ねて珠酊院の事などを思い出し郷愁の思いがある。

 

椿 (♀)(19歳)

 

大見世華屋の花魁。牡丹に次ぐ花魁であり次代お職の肩書を持つ。八歳の時に若山に売られて以来引っ込み禿として外部は勿論、見世の内部の者達にも隠してお育てられた。元来の美しさと見た感じの可愛らしさで男の気を引く。芯の通ったしっかり者で、頭の回転が早く根付く性格は非常に厳しい。蓮太郎と恋仲にある。時々廓言葉遣いを忘れる。

 

蓮太郎 (♂) (19歳)

 

華屋の若衆で料理番。生真面目で自他共に厳しく真面目な性格だが椿に関してはかなり緩い。華屋の元お職でもあった石楠花花魁の産んだ青年で大変な美形であり、よく陰間と間違われる。正義感が強く、冷たい表面とは裏腹にとても優しい。が、感情表現が苦手。怪異が起こった際に手の甲に刻まれた紋章から特殊能力を手に入れ、妖怪相手に戦う事が出来る。

 

オティス (♀) (23歳)

 

300年の封印から目覚めた「原典の勇者」。アンドラにより生み出された人造人間。顔も知らぬ誰かの幸せのため、そして他ならぬ大切なアニを護るために戦うことを選んだ。旅の途中立ち寄った原典世界の社に納刀されていた刀に触れて次元を超えた。そして若山遊郭に来てからもその志は変わらず悪質な実験を繰り返すヴァンハーフを止める為剣を取った。

 

アニ (♀) (12歳)

 

オティスの仲間。魔法使い兼料理担当。明るく好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。思ったことをすぐに行動に移そうとし、周りを焦らせることも。オティスのためになることは何かを常に考えている。若山遊郭の和風の料理にも非常に興味津々。回復と少々の攻撃魔法が使えるが直接の剣術等は持っていない。年齢の割にはしっかりした女の子。

 

桔梗 (♀)(17歳)

 

牡丹の妹として育てられた振袖新造。美貌、芸事、所作などどれをとっても非の打ち所がなく椿に次ぐ娘として期待を集めている。華屋料理長蓮太郎の副料理長として働く颯太と想いを交わしており、椿と蓮太郎の関係に自分達を重ねている。非常に真面目な性格。

 

ヴァンハーフ (♂)(30歳)

 

君臨勇者と呼ばれる傑物。仮面で顔を隠しており、その素性は謎に満ちている。人間とは思えぬほどの規格外な魔力を持ち、あらゆる魔法を使役、開発する多彩な人物。勇者同盟の総締めであり、王家ともつながりがある。何やら巨大な計画がある為あらゆる事に興味を示し、どんなに些細な事象も実験の検証結果として記録する。若山でも何かの実験を行っているようだがその内容は計り知れない。

 

女将 (♀)(32歳)

 

華屋の楼主兼美人女将。見世の経営を遣り手任せにはせず自らもせわしなく働く。自分の見世の女郎たちをとても可愛がっており、何か女郎が失敗した時なども身体に傷を付けない為に折檻はせず、仕置き部屋に閉じ込める程度で済ませるなど、大切にしている。突如現れた怪異の者達に驚愕しながらもオティス達に協力する。

 

威津那 (♀)(20歳)

 

ヴァンハーフの実験により殺生石より封印を解かれて覚醒した九尾狐。ヴァンハーフと協力し何かを企てているが現在その謀略の内容については判らない。性格は不遜で大変な我儘で自己中心的な上に堪え性がない。自身の目的の為ならば人間がどれだけ死のうが関係なく、女性は等しく皆己の餌だと言い張る。口調は古風な話し方で、命令口調が多い。炎系の魔法を使って攻撃する事が多い。

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【配役表】

椿   (♀):

蓮太郎 (♂):

牡丹  (♀):

女将  (♀):

桔梗+小梅(♀):

オティス+たんぽぽ(♀):

アニ  (♀):

キバイラ(♀):

ヴァン (♂):

​威津那 (♀)


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~第十話:断罪~

 

桔梗「若山遊郭、わっちはこの町に来た時、夜とはこんなにも明るいものなのか、人はこんなにも活発なのかと感動しんした。

そして美しい娘だと言われた事が何よりも嬉しくて。ご奉公させて戴けるという姐さんはこの若山遊郭の頂点を飾るかぐや姫もかくやと言われる程の美しい方でありんした。いつかこの美しい姐さんに恥じない様自らの研鑽を怠ったりしてはおりんせんかった。この男女が一夜の恋を紡ぐ場所で、誠の恋を知ってしまったのが過ちだったのかもしれんせん」

 

 

 

桔梗  「ん・・・、う、ん・・・、まだ、眠たい・・・、姐さん・・・」

威津那 「あながち美しいおなごなだけに勿体ない。あの腐った男の精と毒に侵されておらねば良い滋養じゃというに」

桔梗  「ねぇ・・・、あなたはだぁれ?」

威津那 「妾を覚えておらぬのか」

桔梗  「ここはどこ? きれいなお部屋、こんなお部屋華屋にありんしたか?」

威津那 「ここはおぬしの楼閣(ろうかく)ではない。なんと言うたかの? 確か蔵光茶屋(くらみつぢゃや)という裏茶屋(うらぢゃや)とか言っておったわ」

桔梗  「裏茶屋? 裏茶屋って・・・、そんな、あたし・・・」

威津那 「余計な記憶を呼び覚ましてはかなわぬのう」

桔梗  「眠たいの・・・、どうして・・・? わっちは普段こんなに眠たくはなくて・・・」

威津那 「成長促進剤とか言うておったかの? その副作用じゃろうて」

桔梗  「牡丹姐さんは・・・、どこ? 帰らないと、怒られんす」

威津那 「いずれ帰れよう・・・、しばし待て」

桔梗  「あぁ・・・、眠い、眠たい・・・ね・・・む」

威津那 「寝たか・・・。このおなごでどのような検証結果が出るか、さて楽しみじゃ」

 

 

 

オティス「牡丹さん・・・ごめんなさい」

牡丹  「わっちにはそさまを赦す事も拒む事も出来んせん。謝罪を聞いたとて鈴蘭が帰ってくるわけじゃありんせん」

オティス「わかっています。けど、こうするしか私は知らない」

牡丹  「顔を、あげてくんなんし。事情は、蓮太郎やお母さんから聞きんしたがわっちはこの胸に燻(くゆ)る怒りを鎮める事が出来んせん」

オティス「私が相応しいのかどうか・・・わからない、けど。この町を守りたいんだ」

牡丹  「守る為に殺す。わっちはその判断を正しいとは思えんせん。けんど、戦わねば死ぬという世界をわっちは知りんせん」

オティス「鈴蘭さんを誤認で殺してしまった私の罪は一生消えない」

牡丹  「鈴蘭だけじゃありんせん。あの男・・・、わっちの顔を潰したあの化け物は、おそらくああやって様々な人間に乗り移っていたのでありんしょう」

オティス「多分・・・そう、だと」

牡丹  「オティス様があの男だと思って殺したのは、ただの一般人だったかもしれんせん」

オティス「っ・・・あ」

牡丹  「徳川の幕府は平和に胡坐(あぐら)を掻いていると言われる程安寧な御世。それ故にわっちにはオティス様や蓮太郎の生きる世界の厳しさを知らん。わっちらが平和を貪(むさぼ)るから、そうして影で汚れる人間がいるという事なのでありんしょう」

オティス「そう・・・なのかな」

牡丹  「わっちらを・・・、若山を守ってくださるんでござんしょ?」

オティス「守り、ます。守らせてください。牡丹さんたちが・・・それを、赦してくれるなら」

牡丹  「赦すも赦さんもないと言いんした。オティス様が果たす使命をわっちは見届けるだけでござんす」

オティス「・・・」

牡丹  「どなんしんした」

オティス「いや、すごい貫禄だなと思って」

牡丹  「貫録・・・?」

オティス「戦いを知らないと言ったけど、牡丹さんも女将さんも椿ちゃんも・・・、蓮太郎は特に肝が据わっているというか。それに、私が知ってる世界の中で多分牡丹さん、あなたは五本の指に入る程美しい人だ、と」

牡丹  「そうあれるのは、アニ様やオティス様が潰れた顔を治して下すったお蔭(かげ)でござんす。そしてその悲劇は巡り巡って鈴蘭に降りかかった」

オティス「・・・っ!ごめん、なさい!私は、私は!今まで考えてこなかったんだ。ただ、人に仇名すものを殺せばそれでいいと思ってた。けど、デュラハンだって、鈴蘭さんだって・・・私は」

牡丹  「人を救うというのは、誰かの幸せを奪う、という事なのかもしれんせんなぁ・・・」

オティス「もう、そんな人は作らない! 必ず、守ります!鈴蘭さんの分も力になる、絶対・・・絶対、守るから」

牡丹  「二度も助けられんした。これ以上望むんはおこがましいのかもしれんせん。けんど、華屋頂点のお職としてお頼み申しんす。どんぞ、この若山をあの悪辣な狐と不気味な男から守ってくだしゃんせ」

オティス「はい。必ず、守ってみせます。誰も、殺させないように――あの狐と君臨勇者は、私が倒します」

牡丹  「感謝はしんしょう。けんど鈴蘭の件はわっちの中の燻(くすぶ)りは決して消えぬしこりとなって残りんす」

オティス「鈴蘭さんを殺してしまった罪が消える訳じゃない。だけどそれに固執して戦意を喪失したら私の存在する意義がない」

牡丹  「その正義の中におそらく殺されてしまった犠牲者もおりんしょう」

オティス「目の前で救えなかった命が一人いるなら残りの百人を救います。守れない人が二人いるなら残りの千人を護ります」

牡丹  「その覚悟の末を、わっちは見届ける義務がありんすな」

オティス「助けられる命を取りこぼしてしまったのなら、より多くの人を助ける以外に自分を赦す方法を知らないんです」

牡丹  「ひとつ・・・、何ゆえ己を犠牲にして心を殺して人を救いたいと願いんすか?」

オティス「私は、勇なる者。原典の勇者なんです」

牡丹  「そう、あれかしと生まれついた、という事でありんすか・・・。、華屋での生活の費用についてはわっちと椿でご用意致しんしょう」

オティス「いいえ、お金は若衆の手伝いをして自分で稼ぎます」

牡丹  「けんど」

オティス「いつまでも甘えてるわけにはいかないので。今まで散々甘えといてなんだ、って感じですけど」

牡丹  「決めたのなら、止めんせんよ」

 

 

 

アニ  「どうしてお姉ちゃんが謝らないといけないの?」

キバイラ「確かにうちらも鈴蘭ちゃんをヴァンハーフと認識阻害が掛かってた。人を殺す手段を持つ者に対してのみ見せる認識阻害てメチャメチャいやらしいな」

蓮太郎 「止め立て出来なかった件に付いて言い逃れをする積もりはないんです。ですが」

椿   「ごめんなんし。アニさん、牡丹姐さんは己の大切な物とそうでない物は白と黒と同じくらいの差がありんす」

アニ  「白と黒? ・・・ってどういう?」

蓮太郎 「両極端なんです。身内か否か」

椿   「蓮太郎は若衆として愛着がある。そして・・・、何故かキバイラさんには特別な想いがありんす」

アニ  「特別な想いって何?」

キバイラ「それはアニちゃんに勝手に教えたら原典が怒らはるわ」

椿   「そもそもオティスさんてそう言う微妙な想いって判りんすかぁ?」

キバイラ「あー・・・、どやろ。脳みそも筋骨逞しからなぁ・・・」

蓮太郎 「・・・? 椿、どういう事だ? 牡丹花魁がキバイラさんに特別な想い?」

キバイラ「あかんよ椿ちゃん、蓮太郎君も結構鈍感やから、判れへんと思うよ?」

椿   「蓮太郎、耳貸して」

蓮太郎 「ん・・・? うん」

アニ  「なーんで!! あたしは教えてくれないの?!」

椿   「あのねー、キバイラさんと牡丹姐さんは褥(しとね)入りして交合ったの(小声)」

蓮太郎 「んん?! えぇえぇえぇえぇえええ?! え?! ・・・、えぇ?!」

キバイラ「珍獣見る様な目ぇで見るのやめてくらはる?」

アニ  「鬼だって獣みたいなものでしょ」

キバイラ「差別はあかんよ、差別は」

アニ  「スレイヴでの件、あたしは絶対に忘れないからね」

キバイラ「あかん言い逃れ出来ひんわ」

椿   「アニさん、オティスさんが悪いとはわっちは思っておりんせん。当然お母さんも状況を話したら納得しんした。それに今回の端末の成敗は大きな成果、あとは牡丹姐さんとオティスさんの確執さえ無くなればまた戻って」

アニ  「ふざけないでよ!!」

椿   「そうなりんしょうな、見世に都合が悪いから出て行け。やっぱり怖いから守ってくれ、余りに都合が良すぎんすな」

アニ  「お姉ちゃんがあなた達を助ける為にどれだけ一生懸命だったか! お姉ちゃんの正直でまっすぐな心を踏みにじっておいてなにが戻って来ていいなの? 戻って来てもいいってどういうことなの?! どうしてお姉ちゃんが謝らなきゃいけないの!」

蓮太郎 「理に適っていますよ、アニさんが仰る事は間違っていません。俺だって認識阻害を見抜けなかった人間の一人です」

アニ  「れ、蓮太郎さんは、お姉ちゃんをお役人さんに通報しない為に奔走してくれた事は知ってる、から、別に怒っていない」

キバイラ「ほんまに、それだけ?」

アニ  「・・・そうだよ!」

キバイラ「それ以外の感情、一切あらへんの?」

アニ  「え、う・・・・・・そ、そういう話は今はいいでしょ! 肝心なのはそこじゃない!」

椿   「身勝手な話だとは思いんす。けんど長い物には巻かれなければならん事もありんす」

蓮太郎 「悪くなかったとしても、一言謝罪の言葉があれば納まる事がある」

アニ  「そうやって、みんな言い訳ばっかりして! お姉ちゃんがやったことの、何が間違ってたのよ!」

キバイラ「結果的に見れば正解やったかもな? せやけど、今回はそれだけやない」

椿   「その術が掛かってなかったわっちから見れば、事実確認なしの殺害だったんでありんす」

キバイラ「もしあんさんに術がかかってなかったとしたら、おんなじこと言える?もし化かされたんがオティスだけやったとしたら?」

アニ  「信じるに、決まってるよ」

キバイラ「じゃ、殺されたんが蓮太郎くんやとしたら?」

蓮太郎 「そこでどうして俺なんですか」

キバイラ「蓮太郎君、ちょい黙っててくらはる?」

アニ  「それ、は」

キバイラ「ほら即答出来へんやないの。まともな支持も得られへんのに正義? 阿呆抜かしなや」

蓮太郎 「感情任せの怒りをぶつけても解決出来ない事の方が多い。悪化させる事もあるんです」

アニ  「けど、それじゃあ・・・どう、すればいいの?お姉ちゃんのあんな顔もう見たくない。このもやもやは、どこにやればいいの?」

椿   「オティスさんの謝罪に対してわっちらは今後出来る限りの恩をお返し致しんす。清濁を合わせて飲んで、それでもわっちらを護って下さるオティスさんの為に、全力で協力致しんす。食事も風呂も布団も、何もかも全部わっちがお世話致しんす。極端な話、オティスさんの足を舐めろと言われれば舐めんしょう。わっちらを助けてくんなんし、この町を救ってくんなんし。お願い致しんす」

アニ  「命は・・・買うものじゃないよ。そんなこと言わないで・・・わかった。みんなのこと、絶対に守る」

キバイラ「初めからそう言うたらええのに。まだまだお子さんやな」

蓮太郎 「それに、俺はアニさんと料理の話もしたいと思っていますし、ね」

アニ  「え、いいの?あたしも嬉しい!やっぱり文化は違っても食事って食べる人のことを考えるでしょ? だからこっちの料理も楽しくって!それからね――」

キバイラ「鶴の一声やな」

椿   「ふーん・・・」

キバイラ「椿ちゃんにとっては、あんな小さいお子さんでも餅焼いてまうもんなん?」

椿   「ここでは十二・・・、十四は子供じゃありんせんよ」

キバイラ「そうやったね。あは、可愛らしいな椿ちゃん」

椿   「牡丹姐さんに「キバイラさんがわっちに色目を使った」と告げ口しんすよ?」

キバイラ「卑怯やあらへんか、それ」

蓮太郎 「ひとまず、ご納得して戴けたようで良かったです。では、アニさん、敵が来た時に備えて、腹ごしらえしましょう。皆さんに料理を作りに行きませんか」

アニ  「うん!行く!よろしくおねがいしまーす!」

 

 

 

桔梗  「体が、痛い・・・あ、うぅ・・・たす、けて」

ヴァン 「どのように痛むかな?刺さるような痛みか、ぶつけたような痛みか」

桔梗  「う、う。引き裂かれる、みたいな・・・あっ、あ!?ああああああああああ!」

ヴァン 「ふむ、浸透と細胞変化が問題なく起こっているようだ。なにか食べたいものは?」

桔梗  「おなか、すいた・・・けど、なにもたべられない」

ヴァン 「この時代の少女なら・・・余らせている甘味がある。食べるかい」

桔梗  「いらない、いらない!う、ぐぅ!そんなことよりも、この痛みをなんとかして!」

ヴァン 「それは出来ないんだ。後天的に痛覚を取り除くのはかなり大変でね」

桔梗  「おねがいっ・・・なんでも、するから!御開帳しろと言われたらするから!こんなの、こんなのもう、耐えられない!」

ヴァン 「もう少しで終わるよ。全て置き換われば、今までの君とは一線を画す」

桔梗  「はぁっ、が、あ、ぅぐ! そんなの、いらない。颯太も居ない! 花魁にも成れんせん! こんなわっちが、生きたところで!」

ヴァン 「この世に必要のない人間などいないよ。君には君の役割がある。僕が、君の価値を見出してあげよう」

桔梗  「ふぅー、ふぅー・・・はが、う」

ヴァン 「食いしばりすぎて歯が割れたようだね。布を噛ませておこう。苦痛のあまり舌を噛まれて死なれても後味が悪い」

桔梗  「んむぐ・・・む、む、ううううー!」

ヴァン 「さてさて、ひとまずは・・・おや? 威津那はどこかな? また勝手に何処かへ行ったんだね、全く・・・世話がかかる」

 

 

 

女将  「意味が、判らないんだけどねぇ」

威津那 「聞いておらなんだか? 妾のために協力しろ、といったのじゃ。二度も言わせるでない、しかと聞いておけ」

女将  「ふーーー(煙管吸って吐く)、何の為に? あたしが、そんなに暇人に見えたかい?」

威津那 「この町はそなたが仕切っていると聞いた。であれば、そなたを手中に収めれば動きやすいじゃろうて」

女将  「妖狐・・・、だっけねぇ? 流石妖怪、魑魅魍魎(ちみもうりょう)とは言え獣だねぇ? 頭が悪い」

威津那 「なあに、そなたほどではない。頼みたいことは単純よ――妾への供物を探してくれればいい。要らぬ女郎の一人や二人、お主ならば簡単に探せるじゃろう?」

女将  「要らぬ女郎・・・、ふんふん。あんたを女郎に仕立てて要らん女郎とする程度しか思い付かないよ。この遊郭に要らない妓(おんな)なんて一人としていないさ。妓は金を生む。例えそれが一文でも二文でもね!」

威津那 「羅生門河岸(らしょうもんがし)の女子(おなご)も、必要であると。ほほう、女郎は人に非ずというが、そうか。見せしめということか?」

女将  「羅生門河岸の妓(おんな)こそ必要なんでね? 知らないのかい? 金のない男は羅生門河岸に通うしかないんだよ」

威津那 「ふむ、意固地であるな・・・では、こういう条件はどうじゃ」

女将  「条件なんざ聞いてやる謂(いわ)れがないんだけどねぇ・・・。あたしを籠絡したいなら千両箱持ってきな」

威津那 「そなたにくれてやる金を持ち合わせておらん。そうさな・・・妾に力を貸した暁には、お主を幕府の呪縛から解き放とうぞ」

女将  「・・・、は・・・っ 無茶な事を平然と言う。そんなに簡単ならあたしはとっくに逃げ出してるさ」

威津那 「なあ、『律』。お主は望んで此処に居るのか?進んで傀儡(くぐつ)となったのか?自らの意思でこの若山を苦界にしたのか? ・・・違うであろう? そなたの身を縛り付けるのはどの様な痛みじゃ? 生涯それに耐えるのか? 死を考えた事はないか? そなたの恐れる物を妾は知っておるぞ? あの竹田頭巾を被った男」

女将  「判った風な口を利くんじゃないよ!!」

威津那 「くふふ、声を荒げるとは。傷に障れば痛むもの。当然であろうな」

女将  「あんたがあたしに何を望んでいるのか知らないけどね! 何か企むなら勝手にやんな! どうせ竹田に殺される」

威津那 「宣言しよう。妾はこの若山を起点として、この世を傾かせよう。ひいては、幕府なんぞくだらぬ制度も噛み壊そうぞ。妾にはその力がある。そうなれば・・・お主はもう、彼奴等の目におびえなくてもよいのじゃ」

女将  「随分とデカい夢を語るねぇ? あんたに力がある? それなら実力を見せてからにしな。ただ、ここに来て妓を殺しまくってたあんたのどこに信憑性があると思ってるんだい」

威津那 「・・・実力を見せろ、とな。ならば示せばよいか?なあ共犯者、そなたはどう思う」

ヴァン 「たしかに華屋の有用性を示したのは僕だ、けどもう少し考えて動いてはくれないかな。追う僕の身もなってほしい」

威津那 「知らぬよ。ともかく、信憑性を示せとのことだ」

女将  「仲間割れしてんじゃ話にならないね。帰んな」

威津那 「ふむ、妾の条件は気に入らず金で解決を望むが妾にその金はない。懐柔(かいじゅう)は不可能と言う事じゃな? 成程、して共犯者。この場合どうするが良いか妾に変わって策を弄せ」

ヴァン 「威津那。君の目的が判らない訳ではないが、些か自由すぎるね」

威津那 「この国はいずれ妾の手中に堕ちるのよ。即ち妾のもの。己の国にて自由を満喫して何が悪い」

ヴァン 「捕らぬ狸の皮算用という諺(ことわざ)を知っているかい」

威津那 「妾は狐じゃ、狸の話をするでないわ」

ヴァン 「そうだったね、済まない。この話はよそう」

威津那 「で、この女ただ殺すでは勿体ない。妾の手足にしたいのだが良き案を申せと言っておる」

ヴァン 「利害の一致でも靡(なび)かない。金――即ち欲望にも屈しない。ふむ、それならば残された手段は少ないだろうね」

威津那 「ほほう、恐怖による支配か」

ヴァン 「人が知性を持ち合わせる以上、怖れるものがある筈だよ。それが何かは、今から知ればいいことだ」

女将  「私かい?私の怖いものは羊羹さ。特に栗羊羹なんかが怖いねぇ?」

威津那 「変わったおなごじゃの?羊羹が怖い?」

ヴァン 「東洋の逸話にある物語だね」

女将  「この顛末で律義に怖いものを教えると思うのかい」

威津那 「わらわを謀(たばか)っているのか、利用価値があるなどと思ったが間違いか?」

ヴァン 「待つんだ、威津那。この問いに関するヒントは既にこの女が話しているではないか」

女将  「井戸端会議なら他所の茶屋でやってくれないかね?そこそこ忙しいんでね?」

ヴァン 「それ程時間は掛けないよ。手繰り寄せるは合縁奇縁(あいえんきえん)、人に情有り涙なし。『絡新婦・連枝乱舞(アラク・ネットパッチ)』」

威津那 「なんじゃ?糸で女郎達を引き寄せたのか?そこそこ美しいがそれ程でもないの?しかも使い古しじゃ」

ヴァン 「威津那の興味は得られなかったとみえる、残念だが――君はどうだい?」

女将  「小梅?!」

小梅  「え?あれ、女将さん? あたしなんで内証にいるの?」

女将  「たんぽぽ! 昼顔まで! あんた何やってるんだい! 妓達を放しな!!」

威津那 「共犯者が犯すのか?浅ましいものじゃて」

ヴァン 「僕も流石にこの程度では情欲の念は浮かばないよ」

女将  「浮かぼうが浮かぶまいがそんなもん知ったこっちゃないよ!妓を放しな!っ?!山菊!」

ヴァン 「妓楼(ぎろう)の女達を娘同然に可愛がっていると言っていたね?ならばこうするのはどうだろうか」

威津那 「なんじゃ?その洋梨の様な鉄の器具は」

女将  「・・・なんだい・・・、それは」

ヴァン 「女性の強度を図る為として作ったのだよ。世間では苦悶の梨と言われる拷問器具の一種に見做(みな)される様だが」

女将  「・・・っ?! ご、拷問だって?何する積もりだい!!」

ヴァン 「この梨の様な先端、6枚の花弁に分かれているのが判るかい?開くと形状は傘の様になる」

女将  「は・・・?」

威津那 「なんぞ奇妙な物を作ったのじゃな?手遊びか」

ヴァン 「整合性のある形とは美しいと思わないかい?ふむ、麩海苔(ふのり)はないね。どこにでもあるものとは違うようだ」

威津那 「麩海苔とは交合いに使うものではないか。やはりそなた」

ヴァン 「ふむ、無かったところで苦悶の比率にさして影響はないだろう」

女将  「何、を・・・」

ヴァン 「この苦悶の梨を女淫(にょいん)から突っ込み」

小梅  「うああああああ!」

女将  「何してんだいあんた!!小梅!」

ヴァン 「手元のグリップをひねって開く」

小梅  「ぎゃあああああああ!?」

女将  「な・・・、ん・・・?」

威津那 「何を遊んでおるのじゃ。内側から腹が避けてしまったではないか。畳が血だらけじゃ、穢らわしい」

女将  「あ・・・、あ」

ヴァン 「ふむ、妊娠した女は腹が膨らむからそれだけの伸縮性があると思ったが、段階を追って伸縮できるようなものなのかな?」

女将  「何を・・・! 何をしてんだい! あんた達さっさと逃げな!! 殺されちまうよ!!」

威津那 「こやつの放った絡新婦(じょろうぐも)の糸で縫い付けてあるからの、逃げられぬじゃろうて」

女将  「やめ・・・、やめとくれ!」

ヴァン 「ぬ・・・、このままでは抜けないね。仕方ない一度閉じて、抜こう。ああ・・・、内臓を丸ごと掴んで引きずり出してしまったようだね」

女将  「ひ・・・っ、こ、小梅・・・、小梅!!」

威津那 「流石に生きてはおるまいよ、共犯者に問うが、お主に美的感覚というものはないのか」

ヴァン 「反論の言葉はないよ。予想外に大振りな器具になってしまった。今度はもう少し控えめに操作する事にするよ。さて、順番だ。たんぽぽといったね、良い名前だ。太陽に向けて咲く花、光を追い求める希望の象徴」

威津那 「それ、向日葵(ひまわり)ではないか?」

ヴァン 「そうだったかな?まあ、細かい話は置いておこう。君はどこまで耐えられるか見せてくれないか。女性の身体の適合性と言う叡智を、僕に教えてくれないか」

たんぽぽ「い、いや・・・、いや・・・」

威津那 「ふむぅ・・・、成程のぉ。なあ共犯者よ、その実験はそこの女が我らの謀(はかりごと)に与(くみ)するというならやめるのか?」

ヴァン 「僕としては限界点を探りたいが、後日でも構わないよ」

威津那 「と言う事じゃ。律、どうじゃ?我らに従え」

女将  「たんぽぽ・・・!」

たんぽぽ「女将さん・・・、助けて」

女将  「やめな!その子達は何もあんた達にとって不都合はないだろう!やめとくれ!」

たんぽぽ「いやああああ!!あが・・・っ!」

ヴァン 「ああ、そんなに暴れないでくれ。器具が思わぬ方向に傾いてしまう。まだ開いてはいないからそれほど苦痛ではない筈だよ? さあ、力を抜いて、ゆっくりと呼吸をして、僕に全て委ねてしまいなさい」

たんぽぽ「ぎ、あ・・・」

女将  「女の強度だって?何を調べてるんだか知らないけど女を玩具の様に消費するんじゃないよ!!やめな!」

ヴァン 「玩具だなどと思ってはいないよ。男女も老若も命は等しく平等だ。貴賤(きせん)など更に愚問さ」

女将  「だったらなんでこんな無惨に殺す!」

たんぽぽ「いや!痛い、ぐあっ!助けて!!助けて!」

女将  「たんぽぽを放しな」

威津那 「判らぬおなごじゃ。我らに従え、断るならこの女も次の女も共犯者の実験道具ぞ」

女将  「何の為にそんな事をするんだい!」

ヴァン 「僕の研究に興味があるのかい?議題は常に変わらないよ。僕が目指すのは人類の繁栄さ」

威津那 「疾く答えよ!我らに従うか、歯向かうか!」

ヴァン 「さあ、苦悶の梨はこれ以上開かないが、もう少し力を入れてもいいかな?」

たんぽぽ「ぐ・・・、ぎあ」

女将  「やめとくれ!なんでも!!あたしに出来る事ならなんでも――」

蓮太郎 「そこまでです!」

威津那 「くっ?! 何奴?!」

蓮太郎 「その人達に与従(くみしたが)えば助けて貰えるなどと大間違いです」

威津那 「小童(こわっぱ)が!!またのこのこと妾の目の前に現れおって!!」

蓮太郎 「ふ・・・っ、のこのこと現れているのはあなたの方ですよね? 能力を覚醒させるのは自分だけだと思っていますか」

女将  「蓮太郎!馬鹿!煽るんじゃないよ!!」

威津那 「その女、殺してしまえ」

たんぽぽ「うぎあああああ!!」

蓮太郎 「・・・っ?!」

ヴァン 「ふむ、苦悶の梨はもっと微調整が出来るように調整しないといけないね。それともう少し小さめがいいか? 完成を急ぎ過ぎたようだ」

女将  「たんぽぽ....っ!小梅・・・っ!!」

威津那 「『火炎礫展開(かえんつぶててんかい)・飛天翔(ひてんしょう)』!燃え尽きよ!!」

蓮太郎 「避けますよ。当たり前でしょう」

威津那 「んな?!避けるだと?!」

蓮太郎 「蜘蛛の糸は炎に弱いでしょう? あなたの炎が彼の糸に当たれば糸は切れます」

威津那 「小賢しい真似をしおってからに!

蓮太郎 「共犯者と呼んでいるようですが、お二人の技の相性は最悪ですね」

威津那 「共犯者!妾は外にこいつを引きずり出す!そなたはその女を懐柔しておけ!」

ヴァン 「君の名は、昼顔と言ったかな?君はどれだけの強度があるか、見ものだね」

威津那 「来い!小童(こわっぱ)!相手をしてやろうぞ!」

蓮太郎 「これ以上殺すな! 『柳生(やぎゅう)旋風(せんぷう)・火車(ひぐるま)』!!」

ヴァン 「俺の――僕の邪魔をするのかい? それはそれは・・・、興味深い」

蓮太郎 「俺は狐と決闘したい訳ではありません」

ヴァン 「ならば君も大人しくしているんだね。『絡新婦・螺旋糸車(アラクネット・クロートー)』」

キバイラ「そぅら、満開や!『源氏車(げんじぐるま)・乱れ裂き』!!」

ヴァン 「糸を・・・また邪魔をするのかい?キバイラ」

キバイラ「何度も言わせんといて、うちのもんに触るな言うてるやろ」

威津那 「妾を棄て置くとは、己! 小童(こわっぱ)!舐めた真似をしおってからに!!許さぬ!!『羅焔群生破(らえんぐんじょうは)』!!」

蓮太郎 「鬱陶しい。『凍氷雪華(とうひょうせっか)・乱舞咲(らんぶざき)』!!」

威津那 「共犯者の糸車の一部が生きておるに避けられまい! 下手に避ければ糸に絡め取られるぞ、そぉーれ! 追加の炎じゃ! 喰らえ! 『火炎礫展開(かえんつぶててんかい)・飛天翔(ひてんしょう)』」

蓮太郎 「厄介ですね。尻尾の数は八本、以前よりも力を付けている、礫(つぶて)の火力も一つ一つが強い」

威津那 「ちょこまかとすばしっこいやつじゃな小僧!」

蓮太郎 「余程倒されたいようですね。ここで倒さないというのが最大の嫌がらせに思えるんですが」

威津那 「は・・・? なんじゃと?」

蓮太郎 「冗談ですよ、あなたを見掛けて倒さない道理はありません」

女将  「もうやめな蓮太郎!! 昼顔が殺されちまう!!あんた達もやめとくれ! あたしに何が出来る! 何をすればいい」

ヴァン 「僕達に協力して欲しいんだ」

女将  「あたしに出来る限りだよ! あんた達が思ってる程法外な権力なんて持っちゃいない!」

ヴァン 「結構だとも。君個人の矮小な権力など捻り潰せるからね」

キバイラ「彼奴らに従うなんぞとふざけた事抜かすんはうちが赦さへんよ!! 蓮太郎君、駄狐は任せた!! こん変態はうちが倒す!」

女将  「昼顔を助けとくれ!!」

キバイラ「そん子はうちが貰うわ! 唸れ黒切!!『太刀綱(たちづな)・逆手返(さかてがえ)し』!! 女将はん取り返したで! 受け取りや!!」

女将  「昼顔! 良かった、昼顔!!」

威津那 「妾を倒すと言うたな! 出来るものならやってみせい!!」

蓮太郎 「水無月の恩恵を我が手に! 『柳葉菜居合(あかばないあい)・一閃水流波(いっせんしりゅうは)』!!」

威津那 「『炎綾錦(ほのおあやにしき)・御簾舞(みすまい)』!! 居合! 破れたり!!」

蓮太郎 「な・・・っ?!」

ヴァン 「威津那! 籠絡は難しい、一旦退去だ。新しい敵がいつ来るかも判らぬ状況ではこれ以上の戦闘は無用」

威津那 「小僧の力、見破ったり! 成果は上々じゃ。退去を許そう!」

蓮太郎 「・・・、小梅さんとたんぽぽさんの弔いをしないといけませんね」

キバイラ「可哀想な事したわ」

 

 

 

アニ  「許せない・・・っ! ヴァンハーフ・・・、あんな無惨な殺し方するなんて」

牡丹  「アニさんは遺体をご覧になったのでござんすか?」

アニ  「見たよ。お腹の部分が真っ赤に染まってぐちゃぐちゃになってた」

椿   「ん・・・」

アニ  「椿さん? どうかしたの?」

牡丹  「椿、おんしも見たんでありんしょう? わっちは恐ろしゅうて見れなんだ」

アニ  「そりゃ、普通の人なら遺体なんてあんまり見ないよね。牡丹さんが怖がるのは判るよ」

牡丹  「椿・・・? 何をそんなに深く考え込んでいるんでありんしょう?」

アニ  「何か、気になる事があるなら教えて欲しい。こんな犠牲、もう出したくないんだ」

椿   「ごめんなんし・・・、確信のない事を無責任に口にして見当違いだったら責任が取れんせん」

アニ  「少しの情報でもいいの、今はヴァンハーフが攻め込んで来たら迎え撃つしか出来てないから。そんな後手後手に回ってたら犠牲者が増えるばっかりなの」

牡丹  「アニさん、焦る気持ちが判らない訳ではありんせん。けんど、急いては事を仕損じる。少し落ち着きなんし」

椿   「実験、とは以前蓮太郎が言っていた『予め予想する理論や仮説を実施して結果を確認する』・・・と、いうことなんでありんしょう?」

アニ  「え・・・、あ、うん」

椿   「それなら、あのヴァンハーフという男は何の仮説を立てているんでありんしょうか?」

アニ  「え、あ・・・、そう言えば考えた事なかった」

椿   「あの男が狙うのは主に女が多い」

アニ  「そう言われればそうかも?」

牡丹  「颯太は男でありんすよ」

アニ  「颯太さんも・・・、そう言えば・・・、あの・・・」

牡丹  「最終的に手を下したのはオティスさんでありんすね?」

アニ  「・・・っ」

牡丹  「見届けるとお約束しんした。二言はありんせんよ。安心しなんせ」

椿   「んー・・・、それが判らないと攻撃を待つ以外の対策が取れん。なんでありんしょう? モヤっとする」

アニ  「何の実験をしているか、だよね? 颯太さんは男」

牡丹  「その、実験の被害者となる方々の共通点、でありんすか?」

椿   「・・・うん。颯太さんを弾けば他は全部女だという事でありんす」

アニ  「例えばさ・・・、例えば颯太さんは実験じゃなかったとしたら?」

椿   「けんど、明らかに様子は違っておりんした。どうでもいいからよく覚えてないんだけど」

アニ  「覚えてないんだ・・・」

椿   「よく蓮太郎と食事の献立を立ててる人って以外は余り知らん。けんど、あんな攻撃的ではありんせんかった」

アニ  「牡丹さんは、どう感じたの?」

牡丹  「わっちはその颯太が悶着を起こした所を見た訳じゃありんせんからな」

アニ  「ヴァンハーフの目的ってなんかいっつも良く判らないんだよね。なんか嫌がらせみたいなことはしてくるけど、でもそれが討伐されても全然平気っていうか」

椿   「嫌がらせで人を殺す。悪趣味にも程がありんす」

アニ  「イカ人間を作ったり、お姉ちゃんの大切な人を蘇らせて戦わせたりしたけど、その目的は判らないままでね」

牡丹  「大切なお方を敵になすったんでござんすか?」

アニ  「うん・・・、お姉ちゃんはその傷があるから、鈴蘭さんを助けられなかった事をすごく悔やんでると思う」

牡丹  「・・・、それは、・・・わっちはオティスさんを責め過ぎんしたな」

アニ  「あ、あ、牡丹さんを責めてる訳じゃないんだ。ただ本当に目的が判らないの」

椿   「そういう難しい事は蓮太郎に聞いた方が判るかもしれない。ちょっと蓮太郎の所に行ってくるね」

アニ  「あ、それならあたしも行く」

牡丹  「アニさん・・・。そっとしておいてやってくんなんし」

アニ  「へ?」

牡丹  「何かと理由を付けて蓮太郎と二人で話したい。そういう思いもありんすから・・・」

アニ  「え、あ・・・、えと・・・、あ、あは・・・、そう、そ、だよね・・・、恋人、だっけ・・・。えへへ・・・」

牡丹  「アニさん?」

アニ  「う、ううん、何でもないよ!」

牡丹  「アニさん、もしかして」

アニ  「何でもない!!」

牡丹  「隠しんすな・・・。誰かに話さねば辛いだけでありんしょう? 蓮太郎の事が気にかかっておりんすな」

アニ  「・・・そう、なのかな? 判らないよ? ただ蓮太郎さんと椿さんが仲良くしてるとモヤっとしたり胸のこの辺りがね? チクって痛いの。二人の事は好きだよ」

牡丹  「蓮太郎と料理を料理をするのは楽しいでありんすか?」

アニ  「うん! それは勿論! 色々な料理を沢山教えて貰えるし、知らない事が沢山あって」

牡丹  「アニさん、蓮太郎に恋しておりんすな?」

アニ  「え・・・?」

牡丹  「蓮太郎の事を話すとき時の顔が輝いておりんす」

アニ  「でも、蓮太郎さんは椿さんを好きで、命懸けで守ろうとしてて、恋人で、だから・・・、ふ・・・」

牡丹  「大好きでありんしょう」

アニ  「でも! あたしはここの世界の人間じゃないから! いつか別れなきゃならないから・・・」

牡丹  「うんうん。それでも気が付いたら蓮太郎を見てしまう」

アニ  「だから、好きになったら・・・、ダメなんだ・・・」

牡丹  「ダメでありんすよ」

アニ  「けど」

牡丹  「ダメだと言われてその気持ち棄てられんすか?」

アニ  「やだ」

牡丹  「沢山、我慢しんしたな。えらいでありんす」

アニ  「ふえ・・・、ぅ・・・、あ」

牡丹  「よしよし、強い子。今まで良く頑張りんした。素晴らしい事でありんす」

アニ  「ぅ、ふうぇぇええぇええぇええん」

 

 

椿   「蓮太郎、あのね、えと実験がばらばらで纏まりがないのにもしもとんでもないこと考えてて町がなくなるっていうか、世界が全部消滅しちゃうような事ってどんな利点があって行動するんだろう?」

蓮太郎 「椿・・・。・・・、話を纏めようか・・・。まず誰の事を言ってる? あの仮面の蜘蛛男?」

椿   「うん。アニさんから色々実験はするけどその目的っていうのは判らなくて嫌がらせみたいだって聞いたの」

蓮太郎 「目的の判らない実験か。それはあり得ないと思うよ。予め予測する最終結論を検証する為に実験を行うんだから・・・、多分細部の検証結果があって最終目的に繋がるんじゃないか?」

椿   「じゃあ、今回の実験もそうなの?」

蓮太郎 「実際俺を攻撃して来た時も、力を計測すると言っていた」

椿   「躑躅の件も実験の一部?」

蓮太郎 「蜘蛛を大量生産する? いや、そんな事して何の利点があるんだ?」

椿   「あと、実験に使われるのって女の人が多いのも気になってるんだ」

蓮太郎 「苦悶の梨で強度を測るとか言っていたな」

椿   「苦悶の梨? 強度?」

蓮太郎 「体内に器具を入れて内側から破裂させたんだ。その結果があの無惨な遺体」

椿   「・・・っ?! 体内に、入れて・・・? どんな道具?」

蓮太郎 「・・・、椿?」

椿   「どんな道具だった?」

蓮太郎 「6枚の薄い鉄の板を組み合わせた茄子の様な形で、手元のネジを回すと板が開く」

椿   「・・・そ・・・、か。茄子・・・」

蓮太郎 「・・・椿」

椿   「な、何・・・? 抱き締めたりして、今そういうんじゃ」

蓮太郎 「もう隠すな。最初に拉致された時、何された」

椿   「・・・っ、そ、れは・・・、その」

蓮太郎 「何かの器具を使われたんだな?」

椿   「あ・・・、でも、その、茄子みたいな形じゃなくて、その、カラスの口みたいな、もので、すごく小さくて」

蓮太郎 「そうか・・・」

椿   「でも、今何ともなくて、だから・・・、その実験は失敗したんじゃないかって・・・」

蓮太郎 「必ず聞き出すから。何があっても守るから」

椿   「そんな強く抱き締めたら苦しいよ?」

蓮太郎 「あいつは・・・、あいつも狐も絶対に赦さない。椿をこんな目に合わせた奴を絶対に赦さない」

椿   「うん・・・、それがあたしの為だけじゃなくても、あの人達の事を止められるなら、それでいい」

 

 

 

キバイラ「そんでな、うちは鈴華にこう言うたんよ。あんさん、刀の才能あらへんから炎極めたほうがええで、って」

牡丹  「それは、厳しさとは少し違うのではありんせんか?」

キバイラ「むしろ、得意を伸ばしたほうがええやろ?武器にしても格闘の延長線上にある鉤爪与えたんよ。それから鈴華はめきめき強うなって、それはもう文字通り羅刹のような――」

オティス「おいキバイラ!!」

キバイラ「なんや五月蠅(うるさ)いのが来たわ。なんよ?うち今牡丹と楽しく座敷でお酒飲んどるところなんやけど」

牡丹  「オティスさんも混じりんすか?」

オティス「ああ、いいなお酒・・・じゃなくて!つ、椿ちゃんから聞いたぞ!」

キバイラ「何を?」

オティス「お前と、牡丹さんが・・・えっと、そ、そのなんだ。あれだ!」

キバイラ「ああ、寝た言う話聞いたん?」

オティス「お、おま!そんな恥じらいもなく」

キバイラ「愛し合うとるもんなー?」

牡丹  「ふふ、そうでありんすな」

オティス「牡丹さん!?幻惑とかされてないよね!?」

牡丹  「わっちの心に嘘偽りはござんせんよ」

オティス「え、まじなやつなの?って・・・ん?あれ?でも、お前も牡丹さんも・・・女の子同士でどうやって、その、あれを?」

キバイラ「気になる?女同士でもできるんよ?おぼこい勇者様は知らんやろうけど」

オティス「ふぁ!?え、いやいやいやそんなことはなくて」

キバイラ「ふーん・・・牡丹、ちょいこっちおいで」

牡丹  「なんでありんすか?キバイラさ・・・ん、む?あ・・・」

キバイラ「ほら、委ねて。ちゅ、ん・・・」

オティス「お、おあ、え、へぇ!?」

キバイラ「たまらんなぁ、この色香。綺麗な紅・・・数多の人間が夢中になるわけや。ここを許されるんは、この世界でうちだけやけど」

牡丹  「ちょ、オティス様が見て・・・あ、む・・・ん、ちょっと・・・んむ、う!」

キバイラ「見せつけてんの。ほら、舌出しや牡丹。知っとるか原典?大人の接吻けはこう、ん・・・するもんよ。ちゅ・・・ん、む」

牡丹  「あ、ん、ちゅ・・・む、んあ・・・れ、う・・・んっ、は・・・」

オティス「は、わわわわ・・・い、い、意味がわかんない!何がしたいんだお前!?」

キバイラ「あは、人の接吻け見ただけで顔真っ赤にして。実際に褥入り見たら鼻血流して斃(たお)れるんちゃう?」

牡丹  「キバイラ様!?って、きゃ!ちょ、何でいきなり胸を触って・・・んっ!」

キバイラ「んふふ、いつもの仕返し♡普段から衿元開けて谷間見せつけとるんは、こうやって手突っ込んで揉んでほしいからやろ? 諸人は触るんも赦されへん双丘を好きに出来るんは若山ではうちだけ。何回揉んでも飽きへんわぁ、牡丹の胸は」

牡丹  「やっ・・・ちょ!キバイラ様!好きにしていいなんて一言も・・・こらぁ!」

キバイラ「はああ。しっとり指が沈み込むような柔らかさに、押し返す確かなハリと感触・・・うんうん。気持ちええよ牡丹」

牡丹  「あ、ちょ・・・んっ、だめ。そんなにして・・・オティス様が、見ておりんす・・・」

キバイラ「だからこそよ?英雄様が気になるんやて、人がどうやって交合うか。ええか原典、まずはこうして――」

オティス「わ、わかった!わかったから!もうお前のやることに口挟まないからあああああ!」

キバイラ「あら、逃げたわ・・・いたっ!ひ、額に手刀を・・・」

牡丹  「き、キバイラさん!何も、急にこんなことせんでも」

キバイラ「あんさんも禿(かむろ)やあるまいに、そない赤くなって」

牡丹  「く、接吻けや身体を触られるところを人に見せるなん・・・そんなことありんせんかった」

キバイラ「うちはともかく、牡丹が本気やとわかったら原典は余計な口出しはせんよ。もしかしたら喜(き)助(すけ)として油くれるかもな?」

牡丹  「他に方法はありんせんかったのでありんすか?」

キバイラ「言葉で納得するタマかいな」

牡丹  「もう。あんな触り方して・・・体が火照って・・・、ん・・・、火が、ついてしまいんした」

キバイラ「ええやろ別に。なんなら、今からでも」

牡丹  「キバイラ様・・・ん、む・・・」

アニ  「ごめん!牡丹さんいる!?」

牡丹  「はわああああ!?」

アニ  「にゃああああ!? 牡丹さんとキバイラがちゅーしてる!?大人の世界だー!!」

牡丹  「あ、アニさんにまで見られッ・・・」

キバイラ「何よ、そないに慌てて」

アニ  「ああそうだ、それどころじゃないんだった!女将さんが!蓮太郎さんが牡丹さんを呼んで来いって!」

牡丹  「何か、ありんしたか」

アニ  「ヴァンハーフが来たの!桔梗さんを、返すって・・・」

 

 

 

ヴァン 「さて、華屋の皆々様。相も変らぬご調子で何よりだ」

キバイラ「・・・どの面下げて出てきたんや、君臨勇者」

ヴァン 「そう警戒しなくともいい。預かっていた君の妹を返しに来たんだ」

牡丹  「妹――まさか本当に?」

ヴァン 「さあ、行っておいで。桔梗」

牡丹  「生きておったでありんすか!?よかった、桔梗・・・え?」

椿   「何? あれ・・・」

女将  「なんだい?あの、巨大な繭の様なものは」

椿   「上の方が・・・、割れて・・・」

女将  「何か・・・、出てくる?」

椿   「黒い・・・、棒・・・? 動いてる」

女将  「桔梗を返すと言っただろう!! どういう事なんだいこれは!」

ヴァン 「言ったよ、そこに嘘はない。さあ、ご対面だ。これが新しき、桔梗の姿だ」

桔梗  「ふぁーあ・・・、あふ・・・(欠伸)」

蓮太郎 「桔梗・・・、さん・・・?」

桔梗  「あはっ、あひっ、よぉーく寝たぁ・・・。牡丹姐さんの新造になってから真面目に頑張り過ぎて余り眠れなかったのよね」

牡丹  「き・・・、桔梗・・・?」

椿   「あの黒いのは・・・、足・・・? なの?」

牡丹  「ひっ?! 蜘蛛・・・っ?! や・・・!!」

椿   「蜘蛛・・・、いや・・・、なんで? あんな、大きい・・・」

桔梗  「え? く、蜘蛛?! 嫌!! どこに?! や、やだ! 蜘蛛嫌い!!」

蓮太郎 「桔梗、さん」

桔梗  「なに? 蜘蛛なんてどこにも・・・? 何これ、なに、私の手、こんな形? なんで・・・?」

椿   「き・・・、きょう・・・。ど、して・・・」

ヴァン 「絡新婦(じょろうぐも)の遺伝子を組み込んで促進剤を投与してみたんだ。整合性のある対照的な身体は叡智の結晶の産物だ」

キバイラ「何が叡智や、悪趣味な事しよってから!」

女将  「桔梗・・・、お前・・・。あ・・・、こんな」

椿   「なんて・・・、なんて酷い事を!!」

牡丹  「おんしが・・・、こんな事をしでかしたんでありんすか?!」

桔梗  「なんで? なんであたしの手がこんな風になってるの?! ねぇ、なんで手足が八本もあるの?! これじゃ・・・、これじゃあ、わっちが蜘蛛じゃありんせんか!!」

ヴァン 「そうとも。長い手足、警戒色を伴う黄色と黒の肢体、美しいその身体は君のモノだよ」

椿   「人をこんな形に変えるなんて! おんしに人の心はありんすか!!」

桔梗  「なんで?! どうして?! わっちは・・・なんでこんな身体になってるでありんすかあああああ!?」

威津那 「人の心、か。そんなものが共犯者にあれば、妾に与したりせんわ」

桔梗  「やだ・・・、こんな、こんな体、・・・こんな体はいやああぁああぁああぁああ!!」

威津那 「人間の眷属化・・・ようやくじゃ、ようやく妾は退屈せずに済む」

桔梗  「あはは、あはは・・・、あーーっはっはっはっは!! 見ぃ~て~、手足が八本。ねぇねぇ牡丹姐さん、お世話かけて申し訳ありんせん。高下駄をあと3足貰えんせんか? これじゃ残りの足は裸足で八文字を踏む事になりんす~」

牡丹  「桔梗・・・」

威津那 「さて、あとは妾に従順な駒とせねば――」

キバイラ「それを!黙って見過ごすと思うたか!」

威津那 「餓鬼が、邪魔するでないわ!」

キバイラ「早よ桔梗ちゃん連れて帰れ!こいつはうちが抑える!」

女将  「桔梗・・・、お帰り」

牡丹  「お母さん・・・?」

椿   「・・・っ、そう、でありんすな。桔梗、よう帰ってきんした」

桔梗  「た・・・、だいま・・・」

牡丹  「・・・、桔梗の初見世の仕掛けは届いておりんすよ。躑躅が、まんだ桔梗は帰ってこんのかと待ち侘びておりんす」

女将  「若山の頂点花魁が二人の妹を一度に突き出す、そりゃあ後々まで語り草になるだろうってね」

椿   「おんしは外八文字、躑躅は内八文字、覚えておりんすな?」

桔梗  「あい・・・、覚えておりんす。躑躅は? どこにおりんすか?」

女将  「拗(す)ねて部屋に籠ってるよ。お前が帰ってこんと・・・。だから、早く元に、戻っておくれ・・・」

ヴァン 「素晴らしい。そうか、連れてきたのは正解だった。澱(よど)みなき親子の絆。姿形に囚われない思い・・・これが、愛か」

蓮太郎 「・・・お前」

ヴァン 「間もなく幕が開く。その果ての終局だ」

蓮太郎 「元に戻す事は事はおそらく出来ません」

女将  「判っているよ、判っているさ!! お前!! そこのお前!! どうして女をこんな目に合わせる!!」

椿   「お母さん!! 落ち着いて! 激高したらダメ!! 付け入られる」

女将  「桔梗がお前に何をした!! 躑躅がお前に何をした!!」

椿   「お母さん!! 抑えて!!」

女将  「小梅が!! たんぽぽが!! 他の女たちがお前にどんな仇をなした!!」

オティス「・・・理解なんて、できないよ。君臨勇者はもう、あまりにも逸脱してるんだから」

アニ  「あれが、桔梗さんなの?そんな、ことって・・・」

女将  「なんで・・・! なんでこんな事をする!!」

オティス「今は、桔梗ちゃんだ。みんな、退いて」

女将  「女をまだ女としてなら判る、人としての尊厳を失わせてまであんたは!! あんたって男は!!」

アニ  「女将さん、落ち着いて!」

女将  「桔梗を返せ!! 躑躅を返せぇーー!!」

ヴァン 「だから、こうして返しに来た。失った命は、僕でも取り戻せないからね」

女将  「どこまで腐ってるんだ! 許さないよ! あたしはあんたという男を絶対に赦さない!!」

蓮太郎 「・・・オティスさん。女将を、桔梗さんを、頼みます」

アニ  「蓮太郎さんは!?」

蓮太郎 「この男とは、話さなくてはいけないことがある」

オティス「わかった、任せる。アニちゃん、桔梗ちゃんを見る準備をして」

椿   「蓮太郎!」

蓮太郎 「これ以上華屋を荒らさせるわけにはいかない!」

 

 

 

威津那 「げふ・・・随分遠くまで飛ばされたのう?蹴り飛ばすなど、足癖の悪い」

キバイラ「悪趣味な駄狐に言われとうあらへんわ」

威津那 「誇りも忘れ、人間への劣情に縋(すが)り続ける哀れな鬼に何を言われようと刺さらんな」

キバイラ「桔梗ちゃんが何をした」

威津那 「おうおう、目が血走っておるわ。自由に生娘を食えぬのも気が参るであろう?」

キバイラ「何度も言わすな。うちと貴様を一緒にするんやないわ」

威津那 「誇りとやらは大変であるな? 積もりに積もれば醜きもの。掃いて捨てるは簡単であるが――、ああ、これは『埃』じゃのう。失敬失敬」

キバイラ「躑躅ちゃんも・・・牡丹も!全部あんさんらが!」

威津那 「惚れた女にいい顔をしたいのか?まるで人間のような浅ましさよ」

キバイラ「鬼灯島を今度こそ守る!そう決めた以上、耳障りな羽虫はつぶさな気がすまへんのや!」

威津那 「ならばやってみるがよいわ!」

キバイラ「両断せぇや!『一条(いちじょう)・綱(つな)断(だ)ちの刃(やいば)』!!」

威津那 「二度も通用すると思うてか!『焔羅切(えんらせつ)・手甲爪(てこうそう)』!!」

キバイラ「な!押し負け――っが!?」

威津那 「咄嗟に躱したのう?身のこなしはいいが、それだけではな!」

キバイラ「くそ、流石に完全体に近づいてるだけあるわ。舐めてたわけやない・・・ごぶ。ちいと見誤ったな。これ、深いわ」

威津那 「は、吐血して苦しそうじゃの?正義の味方ごっことやらも大変であるな!」

キバイラ「壊すだけのあんさんらよりは幾倍も爽快やわ!『羅生門(らしょうもん)・暮波刃鬼(くれはばき)』!!」

威津那 「おかしな事を申しおる! 御伽(おとぎ)草紙(そうし)では鬼なぞ常に人間に忌み嫌われる存在じゃ!」

キバイラ「御伽(おとぎ)噺(ばなし)読んではる稚児が、大人しゅう家に往んだらどやの? あぁ、帰る家もないか!」

威津那 「この町は妾の物、鬼風情が土足で入り込むでないわ!!」

キバイラ「膂力だけやない――速度や。見られてからやと遅い。見てからやと間に合わん」

威津那 「鬼灯印の首魁もそこが知れるというもの!もう動けぬか?妾がとどめを刺してやろう」

キバイラ「そうやね。もう、これで最後や」

威津那 「うん?なんじゃ、刀を収めよった」

キバイラ「うちでは到底敵わん。けど、あんさんの技を一番近くで見てきたんは、うちや」

威津那 「観念したか?それともまだ他の一手があるか?なんにせよ、上からねじ伏せてやろう!」

キバイラ「血流しすぎたな、目が霞む――ならいっそ、視覚もいらんか」

威津那 「覚悟はできたようじゃな!さらばじゃ鬼よ! 雷の如く貫け! 『迅雷(じんらい)火(か)』!!」

キバイラ「水面を打つ飛沫の如く、静謐(せいひつ)を穿つは点睛(てんせい)の光!『時雨(しぐれ)居合(いあい)・奥義(おうぎ)』!!」

威津那 「・・・?な、妾の炎が消えた?」

キバイラ「速度が足らんな、もうちょっと珠酊院は速かった。黒切短かったから、辛うじて出来た」

威津那 「だが、その程度の小細工では妾には勝てんぞ――がう、は!?」

キバイラ「ああ、やっと気が付いた?」

威津那 「斬られておる・・・な、きさま・・・いつの間に、刀を抜いて」

キバイラ「あいつなら、斬られたことすら悟らせずに倒すわ。付け焼刃の居合じゃこの程度。駄狐一匹が限度っちゅうことやな」

威津那 「あ、う――がふぁ、ぅえ・・・」

キバイラ「天衣無縫(てんいむほう)に揺蕩(たゆた)う風よ、これがうちの『凪』や」

 

 

 

桔梗  「お母さん・・・、牡丹姐さん・・・、あ・・・、足が大きくて」

女将  「あう・・・!」

椿   「お母さん!! 桔梗!! お願い暴れないで!」

桔梗  「わっちは・・・、殺されるのでありんすか? こんな姿になったから、化け物だから・・・!!」

椿   「そうじゃないの!! 早まらないで! 暴れたらみんなを怪我させてしまう!!」

桔梗  「死にたくない。助けて、こんな風になったのはわっちが恋をしたから? 女郎が誠の恋をするはこれ程の業(ごう)を背負わねばなりんせんのか?」

椿   「そうじゃありんせん。恋をしたって生きていける、桔梗に何の非もありんせんかった!! そこの男が・・・っ!」

桔梗  「この手足があると戻れないというなら引き千切ってもいいから、他六つの目がいけないというなら抉(えぐ)り取ってもいいから! わっちを元に戻してくんなんし! 死にたくない! 助けて!! 姐さん!!」

女将  「桔梗は・・・もう、元には戻れないのかい?」

オティス「そう、ですね。水と土を混ぜて泥にした後、もう一回綺麗な水と土に分解できますか?」

女将  「変化は不可逆、ってことかい」

オティス「出来る奴はいるかもしれない。けど――私には、アニちゃんには無理だ」

牡丹  「それなら・・・、それならもう、これ以上苦しませんでくんなんし」

桔梗  「牡丹姐さん・・・?」

オティス「わかった」

桔梗  「いや・・・」

オティス「守ってあげられなくて、ごめんね」

桔梗  「いや、いやぁ!」

女将  「わぶっ!?糸を吐いた!?」

桔梗  「牡丹姐さん!助けて!どうしてでありんすか!」

牡丹  「そんな姿になってしまって・・・もう、戻せないというのなら!」

桔梗  「死にたくない。助けて・・・いや、いやぁ・・・」

女将  「違うよ、桔梗。あんたはただ――」

牡丹  「っ・・・オティスさん!」

オティス「目を、閉じて。二人とも」

桔梗  「来ないで!来ないでよぉ!なんで、なんでわっちが殺されなくちゃならんのでありんすか!?」

オティス「ごめんね、本当にごめんね!もう誰も失わせない、泣かせないって決めたのに!」

桔梗  「いやあああああああ!!!」

オティス「ぶへ!?しま、毒蜘蛛なのか!毒液吐けるなんて」

桔梗  「わっちのことを助けてもくれんくせに、なにが・・・なにが!」

オティス「・・・そうだね。どうしようもなかったという気はない。だから、これはけじめだ。せめて苦しませたくないから!」

桔梗  「ならもうほっといてくんなんせ!わっちは、わっちは!」

 

 

 

ヴァン 「ふむ・・・、威津那はまた落とされたか・・・8回目、いよいよだね威津那」

蓮太郎 「いい加減、椿を付け狙うのはやめて戴きたいのですが」

ヴァン 「そういうわけにもいかないんだ。最後の一手は確実なものにしたいからね」

アニ  「最後ってなんの最後?!」

蓮太郎 「そうですか・・・、九尾狐。蘇生回数はこれで尽きた、という事ですね。ですが、そんな厄介な物を呼び覚ます程愚かじゃありません。あなたが居なければ蘇生できない。あなたをここで殺します」

ヴァン 「さて、どうだろうか。運命とは決まったものだという考えがある。この世界には、神に値するものがいるだろう?」

蓮太郎 「神に、値する者・・・? 京の都にいる天皇様の事を仰っていますか? それとも江戸の公方様」

アニ  「違うと思う・・・もっと、「上」のことを言ってるんだよね」

ヴァン 「その通りだよ。この世すべてを司るもの、人ならざる視点で世界の歯車を創るものだ。いないのかな?」

蓮太郎 「訳の判らない理論で煙に巻こうというならそれでも構いません」

ヴァン 「そうか、そういう見方はまだ根付いていないのか・・・僕が今もなお生存している。それはつまり、世界が僕を許容しているということだ。威津那の復活を、世界が望んでいるということだ」

蓮太郎 「神仏を騙(かた)る僭称者(せんしょうしゃ)という訳ですね? あなたは生かしてはおけない。その大義の下に悪逆非道な罪を重ねる」

ヴァン 「ならば、天なる狗の力を借りた君が、僕を測ってくれるということでいいのかな?」

蓮太郎 「そんな面倒臭い事はお断りします。『柳葉菜居合(あかばないあい)』・・・」

アニ  「蓮太郎さん!! ダメ!!」

ヴァン 「それはもう見たよ。『魔の鎖』」

蓮太郎 「・・・っ、俺もその鎖は見ましたよ。刀と腕を鎖で拘束するとは、居合が苦手なんですね。万物の源母なる大地に根付く水の恩恵を。『凍(とう)氷(ひょう)蓮華(れんげ)・飛(ひ)苦(く)無(ない)』!」

ヴァン 「なるほどね、とても興味深い応用力だ。技の読み合い勝負といこうか」

アニ  「どうして、そうやっていつもいつも人の裏をかいて遊ぶの?!」

蓮太郎 「人を人とも思わない非道なあなたと遊ぶ積もりはありません。『火炎刃(かえんじん)・手裏剣(しゅりけん)』!!」

ヴァン 「その認識は些か間違っているよ。さて、絡め取りだ、『天に至る気紛れの道(ダストリバー・カンターダ)』」

蓮太郎 「どこに向かって技を展開しているんですか、焦点の合わない攻撃は非合理的ですよ」

ヴァン 「いいのかな、僕だけ見ていて」

アニ  「後ろは大丈夫!華屋は狙わせない!蓮太郎さんは、ヴァンハーフを!」

蓮太郎 「椿は狙わせない!! 『飛天(ひてん)・風切波(かざきりば)』!! 糸程度、切ればいいだけの話だ!」

ヴァン 「いきなり本丸は落とせないさ。そちらの少女は、なんという名だったか・・・、菜花(なばな)・・・だったかな」

アニ  「危ないっ!また周りの人を狙うなんて!卑怯だよ!」

蓮太郎 「え・・・? ・・・っ! また他の女郎を人質や犠牲にするのか!! お前に任侠(にんきょう)はないのか!!」

ヴァン 「興味深い言葉だね。しかし、その感情は僕にとっては不合理だ。特定の誰かを優遇する積もりはないよ」

蓮太郎 「何が実験だ、何が世界の許容だ!! お前の行為はただの虐殺だ!!」

ヴァン 「世界を変えるという事象を、何の犠牲もなしに為せるとでも?」

蓮太郎 「世界を変えるだと? その為に命を失う者の犠牲が当たり前だと?! ただの暴論だ!」

ヴァン 「君だって、その手を血で汚してきたのは何のためだい」

アニ  「血で汚した、って・・・え?」

蓮太郎 「・・・っ! 好きで・・・殺した訳じゃない!」

ヴァン 「選んだのは、君だ。そして殺したのも君だ。目を背けてはいけないよ」

蓮太郎 「・・・っ、うるさい、うるさい! うるさい!! もう、黙れ!! お前の狂気を俺と同じにするな!」

ヴァン 「君の世界を守るために、君は世界を変えることを選んだ。現状を飲み下すことしかできない者たちの中で、その選択はとても誇らしいことだ」

蓮太郎 「奪った命の尊さを、重さを、かけがえのなさを忘れた事など一度もない!」

ヴァン 「掃いて捨ててもいい命など、この世にはいないよ」

蓮太郎 「口先だけの弁論を振るうな!! そう思うなら何故女郎達を巻き込む!!」

ヴァン 「掃いて捨ててもいい命は存在しない。だが、誰しもが尊ぶべき命も存在しない。人類はみな平等だ、特別だなんてものはどこにもないよ」

蓮太郎 「犠牲にした人達を! お前の独り善がりな実験の材料にされた人達を、お前が尊んでいるとでもいうのか!」

ヴァン 「勿論だよ。ここにきて最初に実験に協力してくれたのは颯太だったね。それから桔梗もようやく成果を出せた。僕が魔力の調子を見るために顔を抉ってしまったのは牡丹、その日からずっと様子を観察しているのは椿。それから眷属の生成に使ったのは、鏑木(かぶらぎ)、躑躅(つつじ)、夕霧(ゆうぎり)。あとは――」

蓮太郎 「お前が・・・、椿の名前を口にするな!! 『柳生(やぎゅう)・樹氷風舞散華(じゅひょうかぜまいさんげ)』!!」

ヴァン 「おっと、それはいけないよ。『真理を刻む傀儡(ヘブライア・エベイビ)』」

アニ  「早く逃げて!皆――って、きゃ!?」

蓮太郎 「・・・っ!! な・・・っ?!」

アニ  「い、がっ!?あ・・・肩、を・・・」

ヴァン 「ほら、アニに当たってしまった」

蓮太郎 「お前・・・アニさんを、女郎たちを盾にする気か!!」

アニ  「糸が、解けな・・・気にしないで蓮太郎さん!あたしは、回復使えるから!」

蓮太郎 「そういう訳には行きません、これ以上あなたを傷付けたりはしません。アニさん」

ヴァン 「こちらの世界では、「外堀を埋める」というのだったかな。確実に攻め落とすために策を弄する。悪いね、僕には躊躇う理由がないんだ。ほら、まだあるよ」

アニ  「卑怯なことばかりして!! 蓮太郎さん! あたしにかまわず討って!!」

蓮太郎 「いいえ。周りの女郎やアニさんを盾に使っておきながら平等だと?! お前のは単なる自己弁護の詭弁(きべん)だ」

ヴァン 「守るものが多いというのは大変だね。君の弱点は把握している、そこを突かない僕じゃない」

蓮太郎 「貴様・・・っ! どこまで腐っている!」

アニ  「また、役に立てない・・・なにか、なにかしないと」

ヴァン「ナンセンスだよ。戦いに卑怯という言葉は相応しくない」

蓮太郎 「・・・、戦う積もりはないのか・・・?!」

ヴァン 「そうだね、威津那が落とされた以上はそう時間はかけられない。今は、せめてこれだけでいいか」

椿   「きゃあ!?」

蓮太郎 「椿!?」

ヴァン 「今、彼女に投げたのは特殊な器具でね。刺さった対象から血を吸い取る」

椿   「あ・・・、痛ぅ・・・!!」

蓮太郎 「こんな物! 抜いてしまえば!!」

アニ  「待って!それ、たぶん危ないものだよ!」

ヴァン 「一定量の血を抜くまで、抜け防止の刃が出る仕組みなんだ。今抜けば傷を広げてしまうよ。足に刺した、うっかり動脈を切ってしまいたくはないだろう?」

椿   「だ、大丈夫・・・、蓮太郎、そんなに沢山採られてない」

蓮太郎 「くそ!! 奴に滋養を持って行かれるなんて!」

ヴァン 「感情に身を任せれば視野も狭まる。僕への憎悪が、椿への注意を上回ったね。いつもの君なら弾けたろうに」

蓮太郎 「その血を返せ!! お前達に渡す道理はない」

ヴァン 「おかしなことを言うね。それは、誰のものでもないはずだ。しかし、成程・・・妖が欲しがるというのもよくわかる。絡新婦(じょろうぐも)の鼓動が止まない、血だけでこれか・・・とても興味深い」

椿   「蓮太郎! あたしは大丈夫だから、変に深追いしないで」

蓮太郎 「けど」

椿   「傍に居て・・・、お願い」

ヴァン 「さて、あくまでこれは前座だ。君の二段階目の出力も概ね把握できた、血も入手した。成果としては悪くはないね・・・魔法使いも返そう。備えは万全なほうがいいだろう?」

アニ  「べふっ!?あいたた・・・」

蓮太郎 「くそっ・・・! みすみす椿の血を奪われるなんて」

アニ  「また攫(さら)われたり、殺されなかっただけよかったよ!蓮太郎さんも椿さんも、無事でよかった」

蓮太郎 「すみません。肩を斬りましたよね」

アニ  「あたしは後!そんなに深くないし、巻き込まれちゃった人のほうが優先だよ。椿さん、足見せて」

椿   「きゃああああああああああ!! 蓮太郎見ないでぇええええ!!」(平手打ち)

蓮太郎 「嘘・・・、見てないのに?!」

 

 

 

桔梗  「逃げないと、逃げないと!死にたくない、いやだ! 誰か・・・、助けて」

椿   「っ!?今の、って」

蓮太郎 「大きな蜘蛛、だった。まさか」

オティス「ちょっとそこどいて!危ないよ――って、アニちゃん!! 椿ちゃんに蓮太郎か!」

蓮太郎 「オティスさん・・・大丈夫ですか?」

オティス「平気!ちょっと毒もらっただけだから!それよりも、私は桔梗ちゃんを追うから二人は華屋に戻って!」

椿   「毒!?って」

アニ  「毒?! え、そんな! あたしまだ毒消しの方法覚えてないよ」

オティス「キバイラのせいで多少は慣れてるから大丈夫! 今は桔梗ちゃんの意識を保ってるけど、どんどん魔物に引っ張られてる。手遅れになる前に止めないと」

蓮太郎 「手伝います」

オティス「椿ちゃん、足怪我してるみたいだけど。一人で残すつもり?」

アニ  「外じゃ椿さんが悲鳴上げて嫌がったから、中で治療できるよ!! そんなに大きな怪我じゃない」

蓮太郎 「・・・すみません、オティスさん。見世に戻って治療させて戴きます!」

オティス「ヴァンハーフ、任せちゃってごめんね!アニちゃんと一緒に美味しいご飯でも拵えておいてよ!」

蓮太郎 「中に戻るぞ、椿。アニさん、治療頼みます」

椿  「オティスさん、毒を貰ってるって・・・、大丈夫なの・・・?」

アニ 「大丈夫な訳ないよ! 椿さんと自分の怪我治したらお姉ちゃんの方に行く」

 

 

 

 

オティス「『狼王進撃(ヴィザーブレイカブル)』!さあ、追いついたよ桔梗ちゃん!」

桔梗  「いや・・・、いやぁ! 追いついてきた! こっちなら・・・」

オティス「くそ、路地裏に逃げ込んだな?なかなかにすばしっこい!」

桔梗  「来ないで、こんな姿になってもわっちは――わっちは・・・? ああ、そうだ。蜘蛛は、巣を張りんすな?」

オティス「また見失った。気配はこのあたりだけど・・・流石に周りの建物ごと吹き飛ばすわけにもいかないし」

桔梗  「いやあああああああ!!!来ないで!!!」

オティス「そこで、叫んじゃうんだ。そういうところ普通の子なのに、なのに・・・桔梗ちゃん!」

桔梗  「殺さないで!いやああああ‼ ・・・ふふ、必死っぽいでありんしたか?」

オティス「は・・・っ!?しま、巣に捕まった!そういうことか!」

桔梗  「蜘蛛は自ずから獲物を追わん!巣を張って、飛び込んでくる蝶を食らうでありんすよ!」

オティス「く、そ!まんまと飛び込んじゃった!」

桔梗  「オティス様は力が強いと聞きんした。けど、捕まえてしまえば関係ない!」

オティス「桔梗ちゃん・・・そっか、そこまで蜘蛛に慣れちゃったんだね」

桔梗  「こんなところで死ぬわけには行きんせん!いつか、躑躅と二人で道中を踏む!そのために、今は!」

オティス「ごめんね――ああ、何してんだろうな、私」

桔梗  「血を、肉を寄越せ!わっちが生きるために、死んでくんなんし!」

オティス「っ・・・噛まれたくらい、なんだ!むしろ近付いてきてくれてありがとう!『七色覆いし蒼天の剣(セブンカラーズ・レイヴンダガー)』!」

桔梗  「ぎゃああああああ!?あ、ぎぐ・・・そん、な。自分ごと、わっちを焼くなんて」

オティス「よし、糸も焼けた」

桔梗  「人でなし!そうまでして、わっちを殺したいでありんすか!?」

オティス「騙す力、人を蹴落としてまで目的を叶えようとする胆力、野望・・・君は本当に、花魁にもなれたかもしれないね」

桔梗  「これからなるんでありんす!!」

オティス「無理だよ、無理なんだ。私だってそうできるならそうさせてあげたかった。躑躅ちゃんばかりでなく、桔梗ちゃんも守れなかった!」

桔梗  「・・・躑躅、が?」

オティス「もういない、君と同じように巻き込まれて死んでしまった!」

桔梗  「あ、あ・・・躑躅、躑躅?」

オティス「この世界に、死後の概念があるかは知らないけど――せめて君が桔梗ちゃんであるうちに!」

桔梗  「確かに噛みついた。毒だって、回ってるはずなのに!」

オティス「この程度で、私は君を諦めない!」

桔梗  「霧を、毒霧を!」

オティス「いいよ、何をしてくれたって。救えもしなかった口ばっかりの私を、君の毒で裁けるのなら!」

桔梗  「なら、また噛みついてやる!貴方だって、大量の毒液を注ぎ込まれたら!」

オティス「彼方へと馳せる夢の末路を夢想しろ!もう、眠って!『七国滅せし淘汰の吹雪(セブンツアーズ・ポアリフハント)』!」

桔梗  「ぎゃああああああ!あ、が・・・いや、だ・・・」

オティス「くそ・・・くそぉ!またか!また私は死なせるしかないのか!くそおおおおおおお!!!」

桔梗  「もう・・・、歩けんせん・・・、足もばらばらで・・・、でも、不思議と痛みはないんでありんす」

牡丹  「桔梗・・・、桔梗? わっちが、判りんすか?」

桔梗  「牡丹・・・、姐さん・・・?」

女将  「あたしもいるよ・・・。桔梗」

桔梗  「わっちは・・・、もう死ぬんでありんすな」

女将  「そうだね・・・、あたしももう何人死ぬ妓を送り出して来たか判らない。けど、お前という女がいた事は絶対に忘れない」

桔梗  「思い出の中にしか残れないわっちの命は意味があったんでありんしょうか?」

女将  「あるに決まっているさね。お前の明るさ、真面目さ、頭の良さ。そういう物を見て育った禿達にお前という存在は残る」

桔梗  「こんなわっちにも意味をくれる・・・、お母さん、親不孝な娘でごめんなんし」

女将  「いいや? よく生きて、よく頑張った。『桔梗』という女をあたしは絶対に忘れない」

桔梗  「忘れてもいいでありんすよ。こんな辛い仕打ちをした娘の事は」

女将  「誰一人忘れない。どの女も、決して忘れない。だからあたしの代で同じ源氏名は決して使い回したりしない。これはあたしに架した戒めなんだよ。『桔梗』はあたしの中であんた一人だけだ」

桔梗  「目が・・・、霞んで・・・、もう・・・」

女将  「声は聞こえるかい? 桔梗・・・。あんたが売られてきた日の事をあたしはしっかり覚えているよ」

桔梗  「わっちは・・・、幼過ぎて覚えておりんせん」

女将  「お前はね・・・、自分は死んだのかと聞いた」

桔梗  「今日のこの日を予言していたんでありんしょうか?」

女将  「いいや? お前は綺麗だったけどね、随分と汚れて、顔にも体にも痣があった」

桔梗  「あぁ・・・、思い出した。そういえば・・・、酒乱のお父さんに良く殴られてたんだ」

女将  「そうだろうね。だから、綾錦で身を着飾る花魁見て天女だと思ったんだろう?」

桔梗  「そう・・・、綺麗な姐さん達が綺麗な声で談笑して歌を歌ってた」

女将  「お前もああなるんだよと言ったら嬉しそうにニコリと微笑んだんだ」

桔梗  「幸せでありんした、わっちは今までほんに大切にされてきんしたのに仇を返して逝く」

女将  「桔梗・・・、教えとくれ? お前はここに来て良かったと思ってくれたかい?」

桔梗  「お母さんと過ごした日々を忘れやせん。姐さんに習った日々を忘れんせん、ほんに果報者でござんした」

女将  「あんたに出会えた事を神さんに感謝しないとね」

桔梗  「わっちも・・・、伝えておりんせんかった。今までお世話になりんした・・・。ありがとうございんす」

女将  「オティスさん、いいよ、もう」

オティス「・・・女将さん」

女将  「とどめをさしてやってくれ」

オティス「いいん、ですね?牡丹さんも」

牡丹  「彼岸で、逢いんしょう、桔梗」

オティス「そっか。死後の世界があるんだね・・・なら、寂しくないね、桔梗ちゃん・・・さようなら」

桔梗  「ぅぐぁ!! ・・・あ・・・」

女将  「オティスさん・・・、これは何の罰だろうね?」

オティス「人生すべてが罰だって言う考えは、好きじゃないです。きっと―――これで桔梗ちゃんは救われて、眠ることができる。そう、思いたいです」

女将  「帰るよ、牡丹」

牡丹  「待ってくんなんし・・・? 桔梗の、腹の部分が動いて・・・」

アニ  「お姉ちゃん!みんな!そっちは・・・あぴゃあああああ!?」

オティス「っ、産卵した!?」

牡丹  「桔梗、桔梗!躑躅だけでなく、桔梗まで!行かんで、行かんでくんなんせ!」

アニ  「お姉ちゃん・・・ヴァンハーフ、戦いの時に蜘蛛を操ってたんだ」

オティス「戦闘で?じゃあ・・・そのために?」

アニ  「蜘蛛にキーワードがあるのかな? 実験って」

オティス「いわれてみれば、糸だの毒だの蜘蛛っぽい攻撃多かったな。ヴァンハーフはきっと・・・きっ、と?」

女将  「オティスさん?どうしたんだい、ふらついてるが」

オティス「あ、そっか。桔梗ちゃんの毒が・・・今、更・・・まわって」

牡丹  「オティスさん!?そんな、大丈夫でありんすか!?オティスさん!」

アニ  「下手に動かさないで!まずは治療が先だよ!」

オティス「アニちゃ・・・ごめ、ね?」

アニ  「謝るくらいなら最初から無茶しないでよね!もう!」

 

 

 

椿   「キバイラさん、傷は大丈夫でありんすか?」

キバイラ「牡丹に血ィ貰たから、だいぶましよ。そっちこそ、もう足の傷はええの?」

椿   「アニさんに治してもらいんした。魔法というのは、便利でありんすな」

キバイラ「無茶は利かんよ。体力前借りで治してるだけやしな」

椿   「桔梗も、躑躅も居らんくなってしまいんした。それに、オティスさんも」

キバイラ「解毒の術がないんが痛いな。アニちゃんも解毒は出来へんし、この世界の医療がどれくらい通じるか」

椿   「キバイラさんじゃ、治せんでありんすか?あの時の酒のように」

キバイラ「たしかにもう一本都合よくあるけどうちをこういう時に頼りなや。隙だらけの原典見たら、うっかり猛毒盛ってまう」

椿   「もう、あの狐は九回目なんでありんしょう?」

キバイラ「次が山場や。万全にしときたいけど・・・なんよ椿ちゃん、着物はだけさせて」

椿   「・・・わっちの血を飲んだら、キバイラさんはもっと強く成りんすか」

キバイラ「うちを堕落させたいんか、あんさんは」

椿   「オティスさんが動けなくなるなら、キバイラさんに勝ってもらわないと困りんす。でないと蓮太郎が一人で抱える事になりんす」

キバイラ「うちが心変わりして、あんさんを食い尽くすかもしれへんよ?」

椿   「そこは心配しておりんせん。牡丹姐さんに、顔向けができんすか?」

キバイラ「・・・ずるいわ」

椿   「どうしんすか?わっちの血を飲んで強くなるか、それともオティスさんを助けてくんなんすか」

キバイラ「ああ、もう!今は妄執も何も見んふりするわ!うちが余計な事せんよう、見といてくれる?」

椿   「そういうのは蓮太郎の方が・・・」

キバイラ「ああ、せや。蓮太郎君も強くしといて」

椿   「へ?」

キバイラ「椿ちゃんの熱烈な口吸いで、身も心も逞しくなるで?」

椿   「ふぇ? えう・・・牡丹姐さーーん!キバイラさんに辱しめられんしたーー!!!」

キバイラ「なんでそうなるん!? ちょ、違う違う違う! 牡丹! 待って違うんよ!」

牡丹  「何を、待てばよろしんすか?」

蓮太郎 「聞き捨てならない事を聞いた気がしますが・・・」

キバイラ「うちはなんもしとらんよーーーーー!?」

 

 

 

ヴァン 「セット完了。さあ、威津那。存分に味わうといい」

威津那 「うむ・・・、は、あ・・・美味い、実に美味じゃ。濃い妖力の塊、一滴(ひとしずく)、身体に力が漲る。二滴(ふたしずく)指先まで浸透するこの強さ」

ヴァン 「強い香り、馨(かぐわ)しさ、独り占めさせるのは些か勿体ない気もするが、致し方ないね」

威津那 「ん・・・、ふぅ・・・。なんと心地よい。力が満ちるようじゃ」

ヴァン 「時は満ちた。完全体となり――九尾として、この毒華の世界を喰らい尽くすんだ」

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